70 :【SS】:2011/04/01(金) 14:09:31.07 ID:wPd3dMpq0

春休みのとある一日、俺は朝早く目を覚ます。
以前から考えていたとある計画を実行する為に――

「おはよう」
「あら、早かったわね」
「そんなに珍しいかよ、桐乃だってもう起きてるじゃんか」
「あたしは部活があるから。それよりあんたが早起きするなんて雨が降ったらどうしてくれんのよ」
「それは俺も困るな」
「なんで?」
「昼から出かけるつもりなんだよ。それで桐乃、お前にちょっと付き合って欲しいんだけど…」
「ええ~めんどくさ!!何であたしがわざわざあんたに付き合ってやらないといけないわけ?」
「そこを何とか頼むよ」
「……仕方ないなぁ」

案外、あっさりOKしてくれたな。これで第一段階クリアだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

そして昼頃――、俺は桐乃の学校の校門前にあいつを迎えに来ていた。
向こう側から歩いてくる集団の中でひときわ目立つ美少女――
改めて見ると美人だな…なんだか気恥ずかしくなってきた。
だがここで気後れしていたら今日の計画は上手くいかない。意を決して話しかける。

「よっ!お疲れ!」
「え?ちょっとなんであんたがここにいるの!?」
「お前に早く会いたかったからに決まってるだろ?」
「んなっ―!?」

おうおう、顔を真っ赤にして動揺しておるわ。
いいかげんこいつ相手にペースを掴む方法もわかってきた。
ようするにこいつは想定外の事態にめっぽう弱いのだ。

「悪いな、今日は午後からデートの予定なんだ。もうこいつ借りていって良いかな?」
キャーキャー騒いでいる部活仲間と思われる女子集団に一言断りを入れて桐乃の手を引いていく―

「ちょ、ちょっとちょっと!どういうつもりなのよ!もう!!」
「何がだよ、約束してただろ?今日の午後は俺に付き合うって」
「だからってみんなに変な誤解されたらどうすんのよ!?」
「別にいいだろ。それより飯食いに行こうぜ、話はそれからだ」

――――――――――――――――――――――――――――――

ちょっと小洒落た個人経営の小さな喫茶店。美味しいランチがけっこう評判。
実は桐乃がこの店に来たがっていた事はリサーチ済みだ。
あやせ発~麻奈実経由~京介行きの情報。まだ来たことは無いという情報も入手済み。

「あんたもけっこう気が利いてるじゃん!」
「へっ、本気を出せばこんなもんだ」

上機嫌でサーモンマリネのサンドウィッチを食べる桐乃。出だしは上々ってところか。

「んで、あんたは今日どこに行くつもりだったの?」
「ん~?まぁ色々だ。つってもお前もその格好じゃちょっとアレだな。まずは服買いに行くか」
「制服じゃマズイって、あんた変なところに連れて行く気じゃないでしょうね?」
「………そう思うならこのまま帰っても良いぜ?」

いつもの俺なら「んなワケねーだろ!」と力いっぱい否定するところだが今日は違う。
どれだけ桐乃に冷静さを失わせることが出来るか、それが第二段階だ。

――――――――――――――――――――――――――――――

「これも似合いそうだな」
「もういいかげんに着せ替え人形みたいにするのやめない?こっちが恥ずかしいんですけど」
「そう言うなって。今日付き合ってもらうお礼も兼ねてるんだからさ」
「むう~」
「一着くらいプレゼントさせろよ、どれを買うかは桐乃が決めていいからさ」


「ありがとうございましたー」
今まで来ていた制服はお店から貰った袋に入れることにして、
そのまま着て行きますと伝え、買った服に着替えた桐乃と店を出る。

「似合ってるぜ」
「うっさい、読モなめんな!」

テレながらボスボスと小突いてきやがるが、今日の俺はまだまだ押すぜ。

「なあ知ってたか?」
「何を?」
「男が女に服を贈るのは着せたいからじゃなく脱がせたいかららしいぜ?」
「――――――――っっ!!!!」

顔を真っ赤にして口をパクパクさせてやがる。お前は鯉かっての。

「バカッ!変態っ!もうサイアク!!」
「イテテ、やめろって!そんな怒るな、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」

おいおい、どこまで赤くなるんだこいつの顔は。
やべぇ、なんか物凄く楽しくなってきた――

――――――――――――――――――――――――――――――

「ほら、ご注文のミルクティ」
「ん、アリガト」

もう日が沈もうかという時間だ、今日一日さんざ遊び倒して今は近所の公園――

「今日のデートは楽しかったか?」
「―――――」
しゃがみ込んで膝の隙間に埋めるようにして顔を隠す。
今日は思いつく限りのデートプランを実行して、その度に桐乃に揺さぶりをかけてきた。

「楽しくなかったのか?今日のデート」
もう一度顔を覗き込むようにして尋ねてみる。

「……………やっぱり今日のコレってデート?」
「デートじゃなきゃなんだと言うんだ」
「―――もう。なんか今日のあんた変だよ」
「素直になっただけさ―――自分の気持ちに」

桐乃の顔が耳どころか首筋まで赤く見えるのは夕焼けのせいだけではない。
よーし、この調子なら第二段階の出来は最高と言っていいだろう。
こいつの今の様子なら今日の日付なんて完全に頭から消えているはずだ。







「自分の気持ちに素直になったってさ、どういう意味なの?」
ひとしきりの沈黙の後、意を決したように聞いてきた。
答えにくい質問に対して質問で切り返すのは常套手段だ、ゆえにこの展開も想定内。

「そうだなぁ……、俺からも聞くが何で俺ってお前の為に色々してやれるんだろうな?」
「…………意味わかんない」
「お前の趣味が親父にばれた時もそうだし、オタク友達を作る時もそうだったし――
 お前があやせと喧嘩した時も色々奔走してたよな…」
「……うん、感謝してる」
「はは、お前の人生相談は大変だったけど楽しかったんだぜ。何でだと思う?」
「………」
「お前と一緒に何かすることが楽しかったし、お前のために何か出来る事が嬉しかったんだ」
「………」
「なぁ、何でだと思う?」

普段なら通じないようなもったいぶった演技じみた言い回し――
だが今のこいつになら逆に絶大な効果を発揮できるだろう。


「お前が……好きだからだよ……」


・・・・・決まった!!最高の出来じゃねーかこれ!?
見ろよこの桐乃の様子!完璧に呆けてやがる!!
普段だと『シスコン!キモ!』とか言われるような場面だが、
今日一日かけて積み上げたフラグは飾りじゃねえ!
いつも散々からかわれてばっかりだからな!
今日こそ逆にあたふたさせてやることに成功したぜ!

「なぁ、返事を聞かせてくれないか?」

めいいっぱいのイケメンボイスとまじめな表情を意識しながら桐乃に語りかける。
そう簡単にネタばらししてたまるかよ。せめて今日一日はからかい続けてやる!

こみ上げてくる笑いを必死で抑えながらそんなことを考えていたら
急に俺の上半身が桐乃に引き寄せられた―――――

「!!!???」

この唇に感じる暖かく柔らかい感触はなんだ!?
離れようと思っても桐乃の両手が俺の頭を抱きかかえるように押さえ込んでいて抜けられない。
それどころか俺の口をこじ開けるようにして柔らかいモノが入ってきた。

――んっ――ちゅっ――ちゅぷ――

どちらの口から洩れている音なのか判断がつかない。
だって俺たちの口は今重なっているから――

脳髄が痺れる様な感覚に襲われていると、やがて桐乃がそっと手の力を緩め顔を離す。
何がなんだかわからず思考停止している俺に満面の笑みを浮かべて桐乃が言う――


「これが……あたしからの返事だよ」


なぁ一体何が起こったんだ?
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。
俺は妹をからかおうと冗談で告白したら妹からキスされた。
挨拶代わりだとか、触れるだけのような軽いものとも違う。
もっとディープなキスの感触を味わったぜ。

「ねえ、なに呆けてるの?」
「あ、ああ…」
「あはっ♪ひょっとしてOKしてもらえると思ってなかった?」
今まで見たこともないような可愛らしい顔で笑いかけてくる。

つーか俺のファーストキス……相手は桐乃ってことになるのか!?
別に乙女ってワケじゃないけどさぁ!!
冗談で告白した妹に奪われるって!しかも濃厚なディープキスって!!

「あのね、あたしもずっと言えなかったんだけどサ、あたしね、あたしもね、
 ずっと前から兄貴のこと好きだったんだよ?」

照れるように俺の周りをくるくると歩き回りながら言ってくる。

「あたしね!自信なかったから!その……兄貴には嫌われてるってばっかり思ってたから!
 変にキツイことばっかり言っちゃってたっていうか、嫌い返してやろうとか……」

いま俺の頭に浮かぶのは“お前は何を言っているんだ?”のAAだ

「でもね!やっぱり好きだったから!何か兄貴と接点が欲しくて無茶なお願いしたりとか…」

もしくは審議を放棄して踊りだしてる審議中…

「ごめんね、でも嬉しい……これからはあたしももっと素直になるね」

……まて、これは何かの罠じゃないのか?
俺の知っている桐乃はこんな可愛い生き物じゃねぇ、これは桐乃の皮をかぶった何かだ!
もしかすると俺が仕掛けてきたドッキリをそのまま返されてるんじゃないのか?

「なぁ、ちょ、ちょっと待ってくれ!ひょっとして気付いていたのか?」
「なんのこと?」
「今日、4月1日………」

どこまでも続くかのような沈黙の後、思いっっっっきり力のこもったビンタをされた―

「あ、当たり前じゃん!?あたしが気付いてなかったとでも思ってるわけ!?
 冗談でしょ!!あんたのバレバレの嘘に乗ってやっただけだからね!!?
 これ以上変な勘違いしたら承知しないから――!!――!!――!!」



口が痛い、頬が痛い、上手く噛めない。お陰で晩御飯が美味しくない。
「京介、そのほっぺたどうしたの?」
「桐乃にビンタされた」
「フンッ!!あんたが性質の悪い冗談言うからでしょ!?」
「あんまり妹をからかっちゃダメよ」
「…ふぁい」
やっぱり桐乃に対して優位に立とうなんて無駄な努力なのか?


あ~あ、もうすぐ日付も変わる。一ヶ月以上前から計画を立てていたのに散々な出来だった。
途中までは上手くいってると思ったんだが、どこで気付かれたんだろう……
思案にふけってるとノックが聞こえてきた、珍しい。入ってきたのは当の桐乃だ。

「あのさ、あたしの返事って嘘じゃなかったんだからね、それだけ言いに来たの!」

どういうこと?嘘じゃない?それともこれが嘘なのか?
時計を見ると12時ちょうど
俺はやはりこの妹には一生敵わないみたいだ―――――



181 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/02(土) 23:08:17.03 ID:ACWnvVXZ0 [5/5]




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最終更新:2011年05月01日 22:47