―ドンドルマ西地区、未明。
普段は昼の喧騒とは打って変わって静寂を保つこの街は混乱の渦に巻き込まれていた。

「ちくしょうっ!!バリスタがまた一基使いものにならなくなったッ!!」
「アパーーーーム!!弾ァ持って来い!!」
「早くこいつの手当てをっ!!死んじまうっ!!!」
「誰かぁっ!!もっと薬草をもってきてくれっ!!」
「まさか…俺達ザザミーズイレブンが…」
「一箇所に固まるなぁッ!!なるべくばらけて戦うんだ!!」
「バールもってこい!バールゥう!!!」
「死にたくない…死にたくない…」
「ザザミブルマ…ザザミブルマ…ガクッ…」
「ぐわぁぁァぁぁあああ俺の腕がぁぁああああ!!!!」


ザザミンは破壊しつくされた広場を呆然と眺めていた。
普段は露天で賑わうこの場所は一転して死体と瓦礫の山と化している。
その死体の中には彼が猟団長を務める「ザザミーズイレブン」の猟団員達も多く混じっていた。

「ザザミーズイレブン」はハンターズギルドからランク10の認定を受けた大型猟団である。
彼らはダイミョウザザミの素材を使った防具を好んで着ており、その防御力の高さから真っ向勝負の狩りに定評のある猟団である。
今回のドンドルマ襲撃は、一週間前から古龍観測所の報告で予想されていた。
王国は今回のドンドルマ襲撃の防衛をハンターズギルドに一任しており、自らは王国直属の兵士100人を送るに留めていた。
ギルドはこれを受け、古龍撃退の経験もある「ザザミーズイレブン」にドンドルマ防衛を依頼した。


襲撃してきたガブラスはその数30。小型の飛竜とはいえ、狩りを生業としているハンターでも倒すのに手間取る相手だ。
しかし「ザザミーズイレブン」は着実にガブラスの数を減らしていた、ヤツが来るまでは…。

「…おい、なにか胸騒ぎがしないか?」
ガブラスの頭に弾を打ち込みながらザザミンは副団長のマイケルにそう言った。
「たしかに数は多いが……それよりさっきから風がどんどん強くなっていないか?」
いつのまにか嵐とも言えるほどに激しい風がドンドルマを包んでいた。
ガブラスも飛んでいることも困難になったの動きが鈍くなっている。
「天も我が猟団を祝福しているようだ…。全員武器をランスに持ち替えろっ!高度が落ちてきたガブラスを一気に狩るぞ!!」
団長が命じる前にほとんどの団員はランスに持ち替えて、ガブラスの高度が落ちてくるを待っていた。流石ランク10猟団である。
「だ、団長!!あれを……」
前方を警戒していた団員が震える声でそう言った。
彼が指をさす方向には一際大きな龍が上空を飛んでいた。
「あれは…クシャルダオラか?」
ザザミンはまだ新米だった頃に一度、古龍迎撃を経験していた。その時はクシャルダオラの角を折り、討伐まであと一歩というところで逃げられたのだった。

「よし、バリスタ装填準備!」
各所に備え付けられた巨大な弩に次々と矢が装填されていく。
「撃てーーーーー!!!」
号令すると同時に強風をものともせずにバリスタの矢が唸りを上げてクシャルダオラに迫っていく。

ガキンッキンッガガッツキンッ!!

「なっ…!弾き返されただと!!」
クシャルダオラは矢を物ともせず、風を纏い悠々と接近してくる。
「ガンナー部隊、前に出ろ!徹甲榴弾をたっぷりとおみまいしてやれッ!!」
ガンを持った団員が次々と武器を構えた。
「よし、撃てぇーー!!」
クシャルダオラが射程距離まで近づく頃を見計らって徹甲榴弾を撃ち込もうとしたその瞬間。
■■■■■■■■■■■ーーー!
クシャルダオラが咆えた。その大気を震わす轟音に思わず団員達は武器を落とし耳を塞いだ。
「!? しまった!!」
気づいた時にはクシャルダオラは上空から巨大なブレスを放っていた。
その一撃でバリスタ2基と3人の団員が跡形もなく吹き飛ぶ。

「ハンター共ッ!どけいっ!!全軍、防壁をつくれっ!!」
ハンター達に代わって重厚な鎧に身を包んだ兵士が盾による壁を組み上げて行く。
「お、おいっ!やめろッ!!クシャルダオラのブレスはっ!!」
ザザミンが言い終わる前にクシャルダオラの放ったブレスによって盾の防壁ごと兵士達は吹き飛ばされていた。
「団長っ!あのクシャルダオラ…こちらの攻撃を一切受け付けませんッッ!!」
クシャルダオラが兵士達を相手にしている隙に横から攻撃を仕掛けていた団員達の武器を見ると、ランス、大剣、片手剣、団員の持つ自慢の武器はどれも使い物にならなくなっている。
「なんだあの殻の厚さは…!!」
まるで金属が錆びたようにクシャルダオラの殻は変色していた。


為す術もなく時間だけが過ぎていき、団員達は一人、また一人と倒れていく。
その光景を呆然と眺めていたザザミンは我に返って言い放った。
「っ……くっ!俺が活路を開く!!」
そう言い放つとザザミンは上空の敵に向かって渾身の矢を撃ち込んだ。

キンッ!

なんとクシャルダオラは風圧で矢の軌道を曲げ、勢いを倍増させてザザミンに弾き返した。
「っ…!?」
すんでのところで致命傷を避けるが矢は腹を貫通していた。
「だ、団長ぉぉおおおおお!!!!!!」
副団長が血相を変えてこちらに向かって何か叫んでいる。
振り向くと、視覚できるほどに大気を捻じ曲げたブレスがせまっていた。
「…ここまでか」
今までの団員達との思い出が次々と頭を過ぎ去っていく。
(ああ、これが走馬灯か…)
ザザミンが死を覚悟したその瞬間。

ガシンッ!!

死は訪れなかった。変わりに大きな盾を構えたハンターが立っていた。

「―――――待たせたな」

ザザミンが最後の力を振り絞って後ろを見ると、そこには赤褐色の防具に身を包んだ4人のハンターが立っていた。
ザザミンはそれを見て確信した。
(…助かった………)
そしてそのまま意識を暗い谷底へと落としていった。

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最終更新:2011年04月13日 12:20