「第3、被保全権利」

申立書 「第3、被保全権利」

今回の差止請求においては、生産者と消費者という2種類の債権者が存在します。
この章では、それぞれの立場にある者が守りたい権利、言い換えれば債務者(北陸研究センター)によって侵害されようとしている権利が説明されています。
まず、生産者に関しては、
  • 試験圃場において「いもち菌」を噴霧する試験が行われ、周辺に拡散されるおそれがある。拡散すれば環境を汚染し、新たに農薬を散布しなければならず、農薬残留量が増加する。
  • 生産者の栽培するコメと、試験圃場のコメが交雑するおそれがある。
  • ディフェンシン耐性菌が出現するおそれがあり、耐性菌が出現すると周囲に拡散するので将来コストが増加する。
(交雑するしないに関わらず)遺伝子組み換えに否定的な消費者は、当該生産者のコメを買い控える。新潟でGMイネが栽培されているという事実は、新潟米ブランドの低下を招く。
という説明により、「生産者の生産基盤」が失われると結論付けています。
また、消費者に関しては、
  • GMイネが周辺のイネと交雑すると、知らぬ間にGMコメを食するおそれがある。
  • 仮に交雑しなくても、いもち菌や白葉枯れ菌が拡散するおそれがあり、その場合には農薬殺菌剤が使用され、高濃度の農薬が残留するコメを食べることにもなりかねない。
という説明により、「未知の健康被害を蒙る恐れ」、「交雑しているコメを食しているのではないかという不安」からくる人格権の侵害があると結論付けています。

私の見解

この説明を読んで疑問に感じるのは、請求を起こした生産者(あるいはその代理人)は、農薬の使用方法・作用機構をきちんと理解しているのか、ということです。
というのも、上記の説明の趣旨は、
  • 病原菌がたくさん蔓延すると、その分だけ農薬(殺菌剤)を多回数、高濃度で散布しなければならない。
  • その結果、より多くの農薬が残留するはずである。
という考え方に基づいているように見受けられるからです。
しかし、そもそも農薬の使用に当たっては、それぞれの剤について、使用基準(使用時期及び使用倍率、総使用回数等)が定められており、使
用基準を守っている限りにおいては、残留農薬量は問題にならないはずです。そうでないと、慣行農法そのものが成り立ちません。
(慣行農法には好き嫌いもあるでしょうが、好き嫌いと安全性とは別の議論と考えられます)
もちろん、自然界における負荷以上の病原菌が故意に蔓延させられれば、防除「回数」は増加するおそれがあります。
このため、試験によってどの程度病原菌が拡散するのか、債権者の圃場が汚染されるリスクがどの程度あるのかを争うことは意味があるかもしれません。
しかし、「残留農薬量が増加する」という懸念は明らかに誤認と言え、少なくとも生産者においてこのような認識を持っていることは問題だと思います。
従って、この時点で被保全権利としては「交雑リスクの排除」「耐性菌発現リスクの排除」「風評被害の事前防止」に絞られると思います。
最終更新:2010年12月14日 22:21
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