「第6~第7 GM作物野外実験の正当性」

申立書 「第6、GM作物野外実験が正当化されるための条件」「第7、本GMイネ野外実験の検討」

債務者(北陸研究センター)は、自身のサイトにおいて「栽培実験計画書」を提示しています。
これに対して、債権者は下記の条件を提示し、実験計画の内容が正当かどうか議論しています。
 こうしたGM技術特有の危険性・問題点を踏まえた「予防的な取組方法」の原則に立脚したとき、本来的に危険な野外のGM作物実験が正当化されるためには、少なくとも次の3つの条件が満たされていることが必要であることについて、誰しも異論ないであろう。
  1. 実験の目的の正当性
  GM作物栽培の有用性が十分に認められること。
  1. 危険防止手段の正当性
  実験において予想される危険の発生に対して十分な防止手段が取られていること。
  1. 実験の方法の正当性
  より安全な実験室内からより危険な野外実験に移行することを正当化するだけの十分な根拠が認められること。
その結果、「上記全ての項目において正当性は認められないので、リスクが高くベネフィットのない実験を、債権者は受忍することは出来ない」と説明しています。
本文中、『次の3つの条件…異論ないであろう』と述べられていますが、概念的には異論がなくても、実際の中身については、「十分かどうか」について個々の見解が分かれるところであり、個別にどちらの言い分が正しいか検証する必要があろうかと思います。

私の見解

債権者の個別の主張と、それに対する私の見解を付記しておきます。(いずれも量が多いので、文意を損ねない範囲で抜粋及び一部改変していますが、正しい内容については元記事に当たってください)
1) 従来の品種改良により同一の目的を達成したイネ(たとえば新潟県の開発品種「コシヒカリBL」疎甲6)が存在しており、わざわざ危険性のあるGM技術を用いる必要など全くない。
→GM技術が危険かどうかは別に、コシヒカリBLとGMイネの栽培コスト・ベネフィットに差がなければ、必要性が薄いという主張には同意します。
2) 現在のいもち病の被害の程度は、イネ収穫量全体のわずか1.8パーセント(2001年から2003年の3年間の平均)にすぎない。
→通常のいもち病防除剤が適正に使用されていることを前提にしており、防除剤を使用しないことを前提としたGMイネ栽培実験の比較対照としては不適当と考えられます。
3) ディフェンシン遺伝子を導入した形質転換イネのイネいもち病および白葉枯病に対する単独および複合抵抗性を検証したデータの提示が十分でなく、したがって、本実験の有用性も明らかでなく、それゆえ、本実験の目的の正当性も証明されていない。
→債権者に示されたデータがネット上で見つけられないので、正当性の証明がなされているかについては判断を保留します。
4) 一般に、野外実験の最大の目的とは、近傍の植物との交雑可能性の検証であり…(中略)…本実験のように植える時期を近隣のイネとずらしたりしては、肝心の検証すらできない。
「近隣」という言葉を見ると、試験圃場と債権者の圃場が隣接しているかのような印象を受けますが、栽培実験計画書においては、試験圃場の周囲に研究センター敷地内の圃場があり、さらにその周囲に債権者圃場があるという立地です。
つまり、「近傍の植物との交雑の検証」とは、「敷地内で完結する試験」と考えられますので、この指摘は不適当と考えられます。
ちなみに、試験圃場から民間の圃場までの最低距離は220mとのことです。
5) 債務者は今後、何度も抵抗実験をすることになるが、その際、債務者は野外の実験場にイネの病原菌を大量に噴霧することになる。そして、それが実験場の外に拡散し、近隣の田畑に広範囲に汚染されるおそれがある。
「大量に噴霧」とありますが、そもそも広範囲に拡散するような接種方法をとるのかどうかは不明です。
一方で、申立書の脚注として「一般的には接種や塗布といった手法を使う」と記されていますので、既に近隣圃場に存在する病原菌の密度を増加させる影響は小さいと考えられます。
また、病原菌が繁殖し、病気の発生につながるかどうかは、初期の菌密度もさることながら、気象その他の条件によって大きな影響を受けます。
債権者の主張は、化学物質の汚染や化学兵器のように、単純に菌をばら撒いたら病気が増えるという考えに基づいている印象を受けますが、もしそうだとするならば、病気の発生メカニズムについて誤解をしている可能性があります。
6) 自然界のディフェンシンは、病原菌によって修飾をうけ無力化することが多い。そのため、そのような事態を避けるために、通常は自然食品から抽出した同遺伝子の一部に人為的に手を加えている(モディファイという)。したがって、本実験でも、モディファイされたディフェンシン遺伝子を使用している可能性が大であるが、もしそうならば、このモディファイド・ディフェンシン遺伝子の安全性はまだ確認されておらず、そのような安全未確認のものを使用することは大問題である。或いは、もし自然食物から取られたままの何も手を加えていないディフェンシン遺伝子を使用しているというのであれば、そんなものでは、いもち病・白葉枯病対策に有効ではなく、本実験をやる意味が全くない。
「自然食物から取り出したままなら効果がないはず、手を加えたものなら安全性が確認されていないので問題」という主張ですが、3)と同様データが確認できないので、判断を保留します。(モディファイド遺伝子ではなく、なおかつ病気に有効であるというデータが示されれば、上記の主張は不適当ということになります)
7) 債務者は、本GMイネについて、未だ「食品安全性の審査は受けていない」ことを認めている。…(中略)…手順として、まず食品安全性の審査を先に受けてから、その上で野外実験に進むべきである。その意味でも、本実験は失当というほかない。
この点には同意します。なぜ主たる争点にしなかったのかは疑問ですが。(←判決文における債務者の主張から、「そもそも食品の用に供する段階にないので、食品安全性の審査を受けるべき理由がない。」ということが読み取れました。手続きとしてどうあるべきかという議論はともかく、現在認められた手続きに則っていることは間違いないようです)
8) ディフェンシンの作用機構が解明されていない。すなわち、ディフェンシンはカビの細胞に穴を開けて細胞を破壊するたんぱく質とされているが、これが果してヒトの細胞に害が及ばないかどうかなど、その作用機構が解明されていない。
「細胞破壊」という言葉だけを捉えると、「カビに効くから人間にも効くはず」と考えますが、カビの細胞と人間細胞とはそもそも構造が違うので、カビに効いても人の細胞に害が及ぶかどうかはわかりません。
(疎明資料の中で、作用機構についての説明がありましたが、まだ理解が及ばないので害があるかどうかは判断を保留します)
なお、債務者は「イネの実などの食用部分では遺伝子が発現しないようにしているから心配ない」という説明をしているので、債権者が争点を「食用部分で発現するかどうか」にシフトしてしまいましたが、作用機構に絞った追求が欲しかったところです。
9) ディフェンシンが存在しないもみの部分はいわば無防備の状態にある。そして、自然界にはちゃんと、もみに好んで取りつくタイプのいもち病菌(もみいもち)が存在するのである。したがって、本GMイネが広範囲で使用されれば、葉や茎に取り付くタイプのいもち病菌にとっては繁殖しにくい環境といえるが、もみいもちタイプにとっては天国である。
8)の債務者の説明を肯定して「籾で遺伝子が発現しない」という前提の話ですが、籾いもちが発生すれば確かにその懸念はあります。
最も、上記で債務者が説明している「実」が、籾の事を指している(中の玄米の事ではない)という前提の話ですが。
10) 自然界には、既にディフェンシンが効かない病原菌が存在するが、本GMイネの誕生によって、さらに耐性の強い病原菌が誕生することが予測される。そうなると、さらに、この耐性菌を倒すことができる農薬またはGMイネを莫大な金と時間をかけて作らなければならず、完全ないたちごっこになるだけである。
耐性菌の出現→「強力な」農薬(またはGMイネ)の開発→さらに耐性菌の出現→さらに「強力な」…
この論理は農薬批判に良く使われますが、農薬(またはGMイネ)の作用機構は、単なる量的な加重効果によって強力になるわけではありません。
そもそも、病害虫の体の仕組みは結構複雑であり、いろいろな作用点に作用することで生育を阻害させるのが農薬です。
その意味では、農薬開発は「強力」にするのではなく、「多様に」するのが基本的な方向です。
※「細菌」であれば、構成が単純なので作用方法が限られるため、いわゆる「抗生物質」により防除することが多いので、耐性菌の発生は問題になります。
しかし、今回の対象は「いもち病」「白羽枯れ病」で、いずれも細菌よりよっぽど高等な「カビ(糸状菌)」の類ですから、上記の指摘は不当と考えられます。
参考記事はこちら↓
「農薬のお話(●農薬を使えば害虫も抵抗性を身につけるからどんどん強い農薬が必要になってくる。)」
「農薬ネット(薬剤抵抗性)」
前のページでも感じたのですが、そもそも野外実験を差し止めるという目的に関して言えば、GM技術そのものが問題であるという主張を広範囲に展開しすぎたため、かえって債権者の本来の権利主張(交雑による権利侵害)をぼやけさせてしまったのではないかと思います。
最終更新:2010年12月31日 10:10
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