判決を読む。


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判決を読む。

債権者の権利侵害(交雑のおそれ)はあったのか

今まで紹介した申立書により、裁判の口火は切られました。
その後、互いの主張のやり取りがあった(主張内容については、債権者側の資料しかネット上にないので、債務者からどのような反論がなされたかは不明。債権者の答弁から類推することは可能と考えられるが、正確には把握できないので判断は保留)後、先に示したとおり、この申立については、第1審(地裁)申立却下、抗告(高裁)棄却、許可抗告(高裁)不許可及び特別抗告(最高裁)棄却ということで、原
告の主張は認められず結審しています。
第一審(地裁)決定(仮処分棄却)
第二審(高裁)決定(抗告棄却)
第三審(最高裁)決定(抗告棄却)
(参考)北陸研究センターのプレスリリース 遺伝子組換えイネ作付け禁止仮処分申立て訴訟に対する最高裁決定について
ネット上において、債務者の主張内容がわかるのは上記決定文及びプレスリリースのみなので、両者の主張内容及び裁判所の判断を読み取るには、これらの文にあたる必要があります。
決定文のボリュームは膨大であり、両者の主張を反復する部分が大半ですが、決定に係る裁判所の判断を要約すると、概ね下記のとおりとなります。(正確な内容については本文に当たってください)
  • 本件GMイネ開発計画の趣旨・目的、その有用性や必要性については一応肯認することができる。
  • 手続的には何ら違法の点は認められない。
  • 本件GMイネの花粉が、周辺農家の農地に生育するイネと自然交雑する可能性は極めて低くなっている。
  • 実験が今後更に2か月余り継続することにより、その間、ディフェンシン耐性菌が飛躍的に増大し、それが周辺農家の農地等に流入するなどして多大の損害を与えるおそれがあると認めるに足りる疎明はない。</li>
特に、債権者の利害に直接関わる3が重要です。
債権者の圃場は、最も近いところでも試験圃場とは3.2km(高裁審においては2.7kmに訂正)離れているとのことです。
もし、日本においてこの距離でも「交雑が起こり得る」という判断がなさるのであれば、現在多くの地域で行われている近接圃場での異品種の作付けは、交雑により品種の同一性が失われることを避けられず、事実上不可能になることを意味します。(でも現実にはそんなことはあり得ません)
よって、「GM作物が危険であるかどうかに関わらず、試験圃場から離れすぎているから、交雑することはまずない、従って交雑するおそれがあるという主張は不当」という裁判所の判断は、妥当といえると思います。
ちなみに、北陸研究センターのその後の試験により、試験圃場と近接した圃場の種子を採取し、DNA鑑定を行ったところ、交雑が認められた種子は0(ゼロ)だったという報告がなされています。
北陸研究センタープレスリリース → 遺伝子組換えイネ栽培実験における交雑に関するモニタリングの結果について
また、4についても、自然条件を考慮しない実験室内の特殊条件で耐性菌の発現を認めたという報告があるのみなので、そもそもGMのもととなったカラシナ(後にコマツナ)が自然条件にあって、自然界での発生事例報告がないことから、債権者の主張は根拠が薄いとされています。

GMイネは安全なのか

債権者は「GM技術の危険性」を争点としていましたが、提出された証拠においては、具体的な危険性が示されなかったり、実験室内のごく限定的な条件で認められた作用(言い換えれば、既に野外においてリスクに暴露しているにも関わらず、具体的な害作用が認められない作用)だったりということで、いずれも「GM技術が危険である」ことを立証するに足るとは認められておりません。
ただし、「GM技術は無条件に安全」ということを示したわけでもありません。裁判所は判決に付記事項として、下記のように債務者(北陸研究センター)の説明が不十分であったこと、GM技術の持つ未知のリスクについては、今後の研究により明らかにする必要があることを述べています。
  • 現段階では、債務者が本件野外実験に供している本件GMイネに関しては、いまだ未解明な部分もあり、その安全性が科学的に完全に立証されているとまではいえず(その点は、今後更に実験や研究を続けていくなかで更に解明していく必要があることはいうまでもない。)
  • 関係各団体等から、多くの反対意見や実験中止の要請がなされていることに対し(略)これまでの債務者側の対応には、適切さを欠いていたと思われる点が全くなかったとはいえず、(略)規定の趣旨に沿った行動としては多少不十分であったことは否めない。
  • 国民のなかには、いまだ遺伝子組換えに対する根強い反対や拒否反応を示す人が多くいるということにつき、十分配慮した上で適切な対応をすることが要請されている。
特に、今回の対象作目が「コメ」であることから、風評被害が起こりやすく、一旦被害が発生すれば農家が大打撃を受けることから、農業者や消費者に対する不安感や不信感等を払拭するよう努めていく責任があることを明言し、そのうえで、
 仮にも、上記の情報公開等が円滑に行われず、いたずらに生産者や消費者の不安感等を助長するような事態を招き、その結果、農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったときには、本件野外実験の差止めを求められてもやむを得ないものというべきである。
というように、「きちんと説明しないで風評被害が起きたら、責任を取ってね」と将来の差し止めの可能性まで言及されています。
そういった意味では、GM技術の取り扱いについて、今まで以上に慎重に取り扱うことが求められたものであり、債権者にとっても一定の成果はあったものと考えます。
(言い換えれば、「説明不十分なので風評被害のおそれ」を主たる争点としていれば、また違った判決が得られたかもしれません)

債権者は被害を受けたのか

上記のとおり、債権者の申立は却下されました。
しかし、栽培あるいは食の安全について、何か具体的な被害を受けたかというと、「交雑のおそれはまずなく、ディフェンシン遺伝子が流出することによる耐性菌発現の可能性も低い」とすれば、具体的な被害が発生するおそれはなくなったことになります。
(説明が不足したことにより、「風評被害防止のため、余計な対応を強いられた」とか「不安が増大し、精神的な苦痛を受けた」ということはあり得るかも知れませんが)
また、結果としてみても、実際に交雑した種子や耐性菌が債権者の圃場において見つかっていない以上(誰も見つかったとは言っていませんが、債権者が証拠提出しない以上、見つかっていないと見るのが妥当)、現時点でも被害は発生していないことになります。
※当該地域や県全体のコメの販売が、「風評被害によって」影響を受けた事実があれば、上記裁判官の指摘どおり、栽培差止請求なり損害賠償請求を、別途訴えることは出来ると思いますが、その視点での訴えは未だなされていないようです。

今後の方向性(私見)

既に仮処分申立事件は結審しており、GMイネに関して現在進行している訴訟は、「GMイネの危険性」を主たる争点としているようなので、全く別のものと考える必要があります。
なお、繰り返しになりますが、GM技術そのものの是非については、私はケースバイケースと考えております。
またその危険性については、未知のリスクについてはその評価方法を明らかにした上で判断するべきであり、既知のリスクは従来の評価方法を踏襲して判断するべきであると考えております。
そして、「未知のリスク」については、「リスクがある」という証明はその主張をする側に第一義的な立証責任があるものと考えています。
一方で、GM技術に関するリスクコミュニケーションはいまだ十分とは言えません。
もちろん、今まであらゆるメディアによって「GM技術=良くわからない≒怪しい≒危険」という刷り込みがなされている人々の誤解を解くのが容易ではないことは理解しますが、不十分なまま今回のように実験を強行することは、たとえ正式な手続きに則っていても好ましくないと考えます。
今後は、債務者である研究者側には、たとえ時間がかかっても理解を得るための努力を怠ることなく説明に取り組んでほしいものです。
また、世の中にはびこる誤解については、その誤りを積極的に正していく活動も求められると思います。
他方、生産者や消費者の立場としては、GM作物に関しては「交雑」が最も憂慮すべき事項であることには変わりなく、巷で行われる試験によって、自らのリスクが高まらないか、常に監視する必要があります。
その意味で、自分の近隣で試験が行われることに反対する行動や、生じる負担について研究側に請求することは、合理的な内容であれば支持します。
しかし、農業や科学に関する初歩的な誤解(結果的に採用はされませんでしたが)に基づく請求が行われた場合には、当事者の負担が増すだけでなく、裁判の経過や判決から「国の機関に反対は出来ない」とか「GM技術が認められたので、バイオハザードが起きる」といった、さらなる誤解を招くおそれがあります。
GM技術に限らず、わからないもの、難しいものについては安易な情報に流されず、自分自身の判断力を高めたうえで必要な判断を行うことと、権利侵害については消極的、積極的(時には訴訟も辞さず)を問わず、自分に不利益とならない解決を目指すことが、今後ますます求められていくものと考えますので、より情報を積極的に消化していきたいと考えております。(了)

※本編と全く関係ありませんが、誤解が元で笑える裁判になった事例です。参考までに↓
【実録】ネコ裁判「ネコが訴えられました。」(個人のブログサイトなので、リンク切れする可能性があります)
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