本剤はHPV-16型及び18型の組換えL1カプシドたん白質抗原を含有する。L1たん白質は、型別に組換えバキュロウイルス発現系を用い、無血清培地を使用して製造する。
イラクサギンウワバ由来細胞内でL1をコードする組換えバキュロウイルスが増殖すると、細胞質中にL1たん白質が発現する。
細胞を破壊してL1たん白質を遊離させ、一連の
クロマトグラフィー - Wikipedia
及びろ過によって精製する。精製工程の最後に、L1たん白質は会合してウイルス様粒子(VLP)を形成する。
次いで、精製された非感染性のVLPを水酸化アルミニウムに吸着させる。
AS04アジュバント複合体はグラム陰性菌Salmonella minnesota R595株のリポ多糖の非毒性型誘導体である3-脱アシル化-4′-モノホスホリルリピッドA(MPL)と水酸化アルミニウムからなる。本剤は各HPV型の吸着VLPをAS04アジュバント複合体及び賦形剤と配合して調製する。
また本剤は製造工程で、ウシの乳由来成分(カザミノ酸)を使用している。
この内容を読めば分かると思いますが、蛾の遺伝子は使用されていません。蛾で使用されているのは細胞だけです。その細胞にL1タンパク質を生成する遺伝子を付加されたバキュロウイルスを増殖させてL1タンパク質を生成しています。どちらかと言えば蛾の組み換え遺伝子ではなくバキュロウイルスの組み換え遺伝子です。しかもウイルスが増殖した細胞を破壊してサーバリックスに必要なL1タンパク質だけをろ過・精製しているので蛾の遺伝子及びその関連物質は含まれていません。
バキュロウイルスは節足動物に感染し、宿主に対する種特異性が高い。大部分はチョウ目の幼虫に感染するが、ハチ、カ、エビに感染するものも知られている。脊椎動物には感染・増殖しない。特定の宿主にしか感染しないが致死性が高く、他の動物には安全なので、生物農薬として利用されるものもある。
このウイルスの影響を受けるのは,節足動物のみで人間を含む脊椎動物には無害どころか感染・増殖すらしないようです。
膜タンパク質の発現は難しいが、
- バキュロタンパク質発現系は発現量で他を凌駕する。
- 温度管理(37℃)もCO2も必要ない昆虫細胞の扱いは簡単。
- 細胞膜タンパク質発現では細胞体or 虫体にて発現されるため細胞膜タンパク特有の
翻訳後修飾 - Wikipedia
もされる。
発現素材としての蚕は、
- 年間を通していつでも飼育できる。
- 探餌行動と蛾の飛翔能力が無いため、飼育設備が簡単である。
- 発育ステージが良くそろい、計画通りに飼育できる。
- 大量飼育も少量飼育もコントロール自在であり、飼育コストが安い。
- 多くの原種が存在し、自由に品種改良できる。
- 遺伝的性質が均一で、個体差が小さい。
- 蚕血中のアミノ酸量は、ヒトの約500倍存在し、外来蛋白生産に適している。
- 孵化幼虫から5齢幼虫まで、約1ヶ月で体重が1万倍になる(驚異的な成長速度)
などの理由から低価格で効率のよい素材として多くの生物の中からカイコ(蛾)が選ばれているようです。
さらに、7ページ目の表を見てもらえれば分かりますが、L1細胞膜タンパク質の発現率が高いのは「カイコバキュロウイルス発現系」と「哺乳類細胞での発現系」の二種類だけであり、サーバリックスの有効成分「ヒトパピローマウイルス16型L1たん白質ウイルス様粒子」「ヒトパピローマウイルス18型L1たん白質ウイルス様粒子」を生成するためには、前述の通り人間を含む脊椎動物には全く影響のない「カイコバキュロウイルス発現系」を選択するのは自然だと思います。
バキュロウイルス発現系は知恵蔵2011にも載っており有名なタンパク質精製方法のようです。kotobankに次のような記述がありました。
カイコバキュロウイルス発現系
知恵蔵2011の解説
遺伝子組み換え技術を用いて、医療用たんぱく質などの有用たんぱく質を製造する際には、その製造基盤となる細胞として、大腸菌、酵母、哺乳(ほにゅう)類培養細胞、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが利用される。カイコの昆虫細胞と、バキュロウイルス(核多角体病ウイルス)を組み合わせたたんぱく質発現系(たんぱく質生産システム)では、遺伝子組換え技術によって導入した遺伝子によるたんぱく質が大量に得られる。これらのたんぱく質は細胞内で糖分子の結合などの変化を受けるので、天然型のたんぱく質と同等の活性を示す。カイコバキュロウイルス発現系では、バキュロウイルスのDNAに、目的とする遺伝子を組み込み、この遺伝子組み換えバキュロウイルスをカイコの幼虫あるいは蛹(さなぎ)に注入して感染させ、目的たんぱく質の生産を行わせる。細胞内に微量しか存在しないたんぱく質を大量に作りだすことができるので、医療用たんぱく質の製造だけでなく、特定の重要なたんぱく質の立体構造や機能の研究のためにも、この系が利用されている。
( 川口啓明 科学ジャーナリスト / 菊地昌子 科学ジャーナリスト )
以上のことから、サーバリックスは蛾の遺伝子を操作して作られた薬剤ではなく、節足動物にしか感染・増殖しないバキュロウイルスを利用したワクチンであり、HPV感染予防に必要なタンパク質だけ抽出されたものであり、「蛾の遺伝子組換えにより作られた」などというのは悪意を持ったデマであると断言します。
最終更新:2011年09月19日 06:27