437 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/08(土) 05:15:16 ID:Ha9+hSRn0 [4/10]
もしあや(もしも、スイーツショップにいたのがあやせだったら)

桐乃が選んだのは、落ち着いたたたずまいのケーキショップだった。
「いい雰囲気のお店でしょ?よくあやせたちと一緒に来るんだ」
「へえ・・・。ま、いい店なんだろうけどさ」
俺が周囲を見回そうとした、そのとき―
「あ、あれっ?桐乃?」
「「!?」」
俺たちは二人揃って硬直し、おそるおそる声のした方をみると―
「あはっ、やっぱり桐乃だ。どうしたの?それに、おに―」
「ちょっ、ちょっと待って、あやせ。こ、こいつ、あたしの彼氏だからっ!」
一瞬にして、あやせの表情が凍りつき、目から光彩が消えうせる。
これは、おまえのミスだな、桐乃。それと、いくらなんでも、こいつ、テンパリ過ぎだろ?
い、いやまて!『あの件』の事を思い出すに、これは全殺し確定っすか?
「・・・彼氏・・・さん・・・ウソ・・・」
「ちょ、ちょっとまてごk―」
「そ、そうなのっ、ちょっと前から付き合い始めて・・・」
俺に肘鉄を入れつつ、桐乃はテンパって答え続けている。
痛てーよ、でもそれ以上に、『ウソ、ウソ、ウソ・・・』とつぶやき続けてるあやせたん、マジ怖えぇぇぇぇぇぇ。
「そ、それでねっ、これからはっ、京介って呼んでくれるとあたしも嬉しい・・・かな?」
「桐乃・・・ウソ・・・だよね?これは冗談で、私を驚かせてるだけなんだよね・・・?」
「違うのあやせ、あたしたち、本当に付き合ってるの。」
さっきまでと違い、桐乃は臆する事も、焦ることも無く、落ち着いて、あやせに言い聞かせている。
「桐乃・・・本当に、本当なの・・・?」
「うん、本当。あたし、こいつのこと・・・好きなの。」
ま・・・マジかよ!?こいつ、本当に俺の事好きなの!?
「い、いや・・・まーな」
照れまくりながら後頭部に手をやると、桐乃が無言で肘鉄を入れてきた。
つ、つまり、調子に乗るな、演技だって事ですねっ・・・。
「桐乃の気持ちは・・・分かった・・・。」
やれやれ、とりあえずは何とか落ち着いてくれたようだ。

438 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/08(土) 05:16:42 ID:Ha9+hSRn0 [5/10]
「あやせ、それでね、今あたしたちデート中で―」
「ウソっ!・・・ダメっ!そんなの認められないっ!」
「な、何言ってんのアンタ?さっき、分かったって・・・。」
「桐乃の、桐乃の気持ちは分かったの、分かったつもり・・・。でも、相手が、こんな変態なんて嫌っ!」
ちょ、変態って、いくらなんでも酷くね!?
「あ、あやせ、落ち着いてっ。それに、あたしはこいつが変態でも好きなんだし。」
こいつも、俺が変態だって言ってね?いくらなんでも『彼氏』にそれって酷くね?
「桐乃には絶対につりあわないっ!それにっ、全っ然デートっぽくないっ!」
「そ、そんなことないよ。いまだって―」
と、桐乃の視線がメニューに落ちる。
「こ、このパフェを、ふ、二人で食べようか~って、言ってたトコだし。」
マ・・・マジかよ、このパフェってカップル専用の、無茶苦茶恥ずかしい奴じゃないか!
「き、桐―」
目が笑ってない、目が笑ってないよ。ここで否定すれば俺は死ぬ。
「そ、そうとも、俺たち二人は愛し合ってるからなっ!」
もう、やけくそだ。隣で桐乃が息を飲んだ気がするが、気にするものかっ!
「すみません、このカップルパフェってやつ一つ・・・と、あやせは?」
「結構です。『京介』、さん。じっくり、カップルぶりを、拝見させて、頂きますね。」
・・・こ、殺される!、こっちのルートもバッドエンドかよっ。何でこんな時にクイックロードできないんだ!?。

カップルパフェが運ばれてくるまでの短い時間、俺たちは牢獄に囚われていた。無論、看守はマイエンジェルあやせたん。
桐乃はたまに、「き、今日はどうしたの?」とか話のきっかけを作ろうとしていたが、
あやせは「別に。」「私の勝手です。」などと、とても会話の出来る状態じゃない。
しかし、おまえ、人の彼女になんつー態度だよ?いや、妹に。

「おまたせしました~。カップルパフェお一つですね。ええと・・・」
「あ、あたしとっ!、そのっ、彼氏とで食べますっ!」
おまえっ、なんて声出しやがる。店員さんびっくりしてるじゃねーか!?
「こ、こちらですね。それではこちら伝票になりますね。」
店員さんがそそくさと立ち去った後、残されたのは、巨大な悪魔だった。
「き、京介っ、それじゃ、たべっ、一緒にっ、食べよっ!?」
桐乃が目をひくつかせながら睨んでくる。拒否権は・・・無いっすよね。
「あ、ああ、そ、それじゃ食べるぞっ!」

俺たちは、あやせの目を気にしつつ、巨大な悪魔に挑んでいった。
だが、この悪魔、かなりの難敵だった。だって、しょうがないじゃん?
元々パフェとか食べないし、こいつの食べるペースと違うものだから、つい、スプーンが触れそうになってしまう。
「そ、そのプリン、なんであんたが食べるのっ!」
「まだ半分しか食べてないじゃねーか!」
「あ、あんたの食べかけとかっ、食べられるわけないじゃないっ!」
「こ、このパフェの意義を否定してんじゃねー!」
「い、意義とか、マジキモッ!。」
「おまっ、そもそも、食べるっていいだしたのは―」
「あ、それっ、そのさくらんぼ!あたしが食べようとしてたのにっ!」
「待て!そんな事分かるわけねーだろうがよ!」
「やっぱり・・・不自然・・・(ボソッ)」
挙句にこの有様だもんな!やっぱ、彼女とでもこんなもん注文すべきじゃなかったな!・・・妹となら、言うまでも無いな!

439 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/08(土) 05:17:38 ID:Ha9+hSRn0 [6/10]
あの巨大な悪魔をなんとか打ち倒し(しおり並みの強敵だったぜ!)、俺たちは一息ついている。
「桐乃、『京介さん』と仲の良い所は見せてもらったよ・・・」
「そ、それじゃあ―」
「でもね、仲良しなだけ。カップルらしくないよ?」
訂正。『俺と桐乃は』一息ついてい『た』。
「そ、そんな事言われたって、ただの食事じゃん・・・」
「『ただの』?ううん、その前から二人とも、全然カップルらしいとこが見えないよ?ウソ、ウソでしょっ、ウソなんだよね!」
ひぃっ・・・おっかねぇ・・・よく、こんなヤツと友達でいられるもんだよな、桐乃は・・・。
「ウソじゃないっ!・・・どうすれば、どうすれば認めてくれるっていうのよっ!」
俺は無意識のうちに、桐乃の手を握り締めていた。
表面上、気丈に振舞うこいつだが、本当は守ってやらないといけない、か弱い部分があることを、俺は知っている。
「カップルなら・・・本当に好きなら、言えるよね?ほんとの事。どんなに相手の事が好きかって。」
このクソアマ、ここまで俺の彼女を追い詰めるか?ここは俺が―

「言えるよ。あたしが京介を好きな理由、好きな所、どれくらい好きかって。」
お、おま・・・何を言うつもり―
「あたしは子供の頃ブラコンで、大好きなお兄ちゃんの後ばかり追っていて・・・、
でも、兄貴が大きくなって、あたしの事ほとんど見てくれなくなって、こんなやつ大嫌いって思ったの。
でも、大嫌いなのに気になって、嫌いなら無視しないとって、すごく苦しかったんだもん。
苦しい理由も全然わかんなくて、でも、エロゲーやってるときは苦しさを忘れられて、そのうち、兄貴に相談する機会が出来て・・・
そしたら気づいたのっ・・・
ああ、この人は、あたしの事必死に守ろうとしてくれてるんだって。これまでも、見守ってくれてたんだってっ!
世間体も、趣味も、友達も、あたしの小説も、あたしの気持ちもっ!。
見返りも無いのに、体張って・・・
親には殴られて、友達には罵倒されて、大人相手にも立ち向かって、『たかが』ゲームのためでも秋葉から自転車で帰ってきてっ!」

・・・支離滅裂な言葉の全てから、桐乃の気持ちが痛いほど伝わってくる。
違うんだ、桐乃、俺、そんな大層な人間じゃないよ・・・

「あたしのわがままにも、いつも付き合ってくれてっ!
アニメも、エロゲもっ、取材もっ、オフ会だって付いてきてくれたっ!今日のデートだってっ・・・
それに、あたらしいものも、たくさんくれた。
あたらしい友達も、限定フィギュアもっ、たくさんの楽しい思いでもっ、少しの苦い思いでもっ・・・
それにっ、こんなにも人を好きになる気持ちもっ!・・・(ック)・・・」

ごめんな、桐乃・・・俺は、『兄貴』失格みたいだ・・・

「それに・・・(グスッ)・・・それにっ・・・!
あたしの事、こんなにも必要としてくれて・・・っ!
あたしがいないと・・・死ぬかもしれないなんて・・・(ヒック)・・・
・・・反則じゃん・・・(グスッ)・・・
こんなこと言われたら、『兄貴』って分かっていても、好きに・・・大好きになっちゃうよぉ・・・ぅ・・・ぅっ・・・」
桐乃の顔は、涙が溢れてグシャグシャで、とても人様に見せられたもんじゃない。
そう、俺の―――俺が見てやらないといけないんだ。

440 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/08(土) 05:18:47 ID:Ha9+hSRn0 [7/10]
「桐乃・・・お兄さんの事、そんなに・・・でも―」
「『でも』じゃねえ」

「俺はここ最近まで、妹のことが大嫌れーだった。生意気で、俺の事馬鹿にして、ってゆーか完璧に無視してっ!
ガキのくせに髪染めるわ、化粧をするわ、ギャルみたいな口調をするわ、ピアスまでしてるわ、
その上、成績優秀、運動神経万能、スタイル抜群。どんだけ完璧なんだよ!?
妹の人生相談が始まってからもな、この妹様は、俺の事を殴るわ蹴るわ、暴言を吐くわ、エロゲーやらせるわ、
挙句の果てに、俺をシスコン扱いしたり、あまつさえ、ロリコン扱いまでしたりな!全く可愛いところがねーんだよ!」
「お、お兄さん、何を―」
「でもな・・・これも、こんなところも全部含めて、桐乃なんだっ!俺が好きになってしまった女なんだっ!」
ついに、言ってしまったな・・・。本当に『兄貴』失格だ。
「あ・・・兄貴・・・」
「桐乃、おまえが『人生相談』してくるまで、俺、地味に、平凡に生きていこうって、思ってたんだ」
「うん・・・知ってる・・・」
「でもな、おまえの『人生相談』を受けて、『兄を慕ってくる妹』じゃない、本当のおまえを知れば知るほど、
平凡じゃなくてもいいんだ、いや、もっとドラマチックな人生でいいんじゃないかって、考える事が出来るようになったんだ。
「うん・・・」
「でも、それはオマケみたいなもんで、本当は、そんなドラマチックな人生を、いつも一生懸命に生きて、色んなもんに興味持って、好きになって、
それぞれに全力を尽くしてさ、そんなおまえの事をだんだん好きになってしまったんだ。
本当に、感謝してるんだぜ、おまえのおかげで、俺の人生には、楽しい事がふえたからよ・・・」
「うん・・・」
「それでな・・・俺はおまえとつりあう様な人間じゃないし、おまえの夢の邪魔をしたり、おまえの気持ちに今の今まで気が付かないくらい鈍感だったり、
おまえを傷つけても気がつかなかったり、おまえの都合も考えない、自分勝手な人間なんだ。」
「うん・・・鈍感・・・シスコン・・・」
「だからっ!自分勝手ついでに言わせてもらうぞっ!
俺は、この先も、おまえと一緒に、人生に楽しい事を積み重ねていきたいんだ。
桐乃。俺の・・・彼女になってくれないか?
おまえと―」

急に目の前が桐乃の顔でさえぎられる。唇に暖かく、甘く、柔らかいものが触れている・・・
自分の目と唇の感触を盛大に疑いながら、俺はこう想ったのさ。

俺の妹が、こんなに可愛いわけがない―――ってな。


441 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/08(土) 05:20:41 ID:Ha9+hSRn0 [8/10]
「はあ・・・もう、こんな多くの人たちの前で見せ付けるなんて・・・お兄さん達は本当に変態ですね!」
そして今、少し冷静になった俺達は、衆人観衆の中、最大限の羞恥心と戦っている所だ。
「ここまでされて、桐乃の気持ちを認めないとか、とても言えなくなっちゃいましたよ♪」
そ、そんなに嬉しそうに言わないでくれ・・・俺は今、恥ずかしさで死にそうなんだ・・・
「まったくよ、こんな破廉恥な行為、あなたたち兄妹以外不可能でしょうね。」
「「黒猫っ!?」」
「拙者も聞いておりましたぞー、いやぁ~お熱いお熱い!」
黒猫の携帯から聞こえる声は・・・沙織っ!?
「な・・・なんでアンタたちがいるのよっ!」
全くだ。
「このビッチがあんな大声で騒いでいれば、誰だって気がつくでしょう?」
「それは分かった、だが、その携帯はなんだ・・・」
「いや、黒猫氏から、面白いものが聞こえるわよ、と、お誘いを受けた次第でござるよ?」
「他にも、ほら、周りを見なさい?これだけ多くの人が集まってくれたわよ。」
まわりを見渡せば、何故か知り合いばっかりがいる、麻奈美にロック・・・買い物の途中か?赤城兄妹・・・あいつらは・・・まぁ深くは追求するまい。
近くの席には、加奈子とブリジットちゃん・・・こいつらもいたのか・・・。・・・いつぞやのメイドさんまでいるな・・・。それに、桐乃の友達・・・か?
「も・・・もう、あたし、外歩けないよぅ・・・」

俺たちの恋人としての第一歩は、早速、黒歴史に封印したくなるほど惨憺たる物になってしまった。
だけど、これが俺たちの選択なのだろう。
ドラマチックに、一瞬一瞬を一生懸命生きて、失敗することもあるだろうけど、楽しい人生。
この人生を、二人で歩んでいける。
こんな可愛い彼女と一緒に。
「最悪っ、マジ最悪っ、アンタ、責任とりなさいよねっ!この先一生責任あるんだからねっ!」
訂正、やっぱり―――


俺の妹が、こんなに可愛いわけがない

End.



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最終更新:2011年01月09日 21:00