801 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/15(土) 01:57:38 ID:R0aqh+w20
習作 題:<寒い日の過ごし方>
注意事項:キャラ妄想(すれ違い・桐乃視点)・切ない系
目標事項:逆に兄貴の行間を匂わせる話を作る。



「うわ、何これ、サム・・・。」

その日の朝はとても寒かった。
目を覚ましたあたしは、屋内なのに吐く息が白いのに気付いた。
昨夜は遅くまで新作のエロゲーをやっていて寝不足だったけど、あんまり寒いから目は覚めてしまった。

階段を降りてリビングの扉を開けてもやっぱり寒かった。
京介がストーブの前にうずくまっていた。

「おう、おはよう。」
「ちょっと、あんた何ストーブ独占しちゃってんの。」

京介がおはようって挨拶してくれた。事務的だけど最近はあたしの顔を見て言ってくれるようになった。
仲良くなれたのかなって思うけど、返事はしない。
だってほら、その、なんか恥ずかしいっていうか……よく分かんないケド、くすぐったいし。

「おはようも言えねーのかお前は。」
「はいはい、あたしにもストーブあたらせてよね。」

そう言って京介にピッタリくっついてストーブの前に座る。肩から京介のぬくもりを感じた。

「……あったかい。」
「お、おいイキナリなんだよお前!?」

そう言って京介はすぐに立ち上がってしまった。……なによ。そんなにあたしとくっつくの嫌なの?
いいじゃんちょっとくらい。それともやっぱあたしのこと…いなの?
……なんで朝からこんな悲しくなんなきゃいけないんだろ。

「は〜、極楽って感じ。冬の朝あたるストーブってなんでこんな気持ちいいのかな〜。」
「おい、そんな露出高い服着て、やけどしないようにしろよ。」
「うっさいなあ。あたしの勝手でしょ?なんでそんなこと言われなきゃなんないわけ?」

何それ心配してくれてんの?それともただのイヤミ?なんであたしがこんな寒いのに足出したカッコしてると
思ってるのよ。そう思うとだんだんイライラしてきた。なんなのよバカ兄貴。

「おい桐乃。」
「……今度は何?」

苛立ちながら振り向くと、京介はあたしのマグカップを持っていた。

「ほら飲めよ。温まるからさ。」
「ぁ、……………ありがと。」

京介からマグカップを受け取る。その時にちょっと手が触れた。触れた手は冷たかった。
……手が冷たい人って、心が温かいっていうよね。受け取ったマグカップから、温かさが伝わって来る気がした。
受け取ったマグカップに口をつけると、お気に入りのココアの味がした。ほう、と息をつく。

「おいしいじゃん。」
「そっか。」
「あれ?自分は飲まないの?」
「あー、いや、その、俺はいーよ。」

何それ。あんただって寒いんじゃないの?手だって冷たかったし。
もしかしてと思って冷蔵庫を開けると、やっぱり牛乳が無かった。京介はバツが悪そうにそっぽを向いてしまった。

……優しいんだから、このバカ。
あたしは内心とても嬉しかったけど、顔には出さずにマグカップを差し出した。

「な、何だよ。」
「いいから。あんたも飲みなさいよ。」
「い、いいって、俺は―――。」
「はあ?このままじゃあたしの気が済まないし。いいから、飲みなさいよ。」
「………分かったよ。」

マグカップを手渡す時にまた手が触れた。やっぱり京介の手は冷たかった。京介はマグカップを受け取って、
気まずそうにしている。どうしたんだろ?

「……なあ、ほんとにいいのか?」
「何が?飲んでいいって、言ってるじゃん。」
「いや、その、何だ……………間接キス、とか。」

かぁぁぁぁああああぁぁぁあぁ。顔が爆発するかと思った。

「ああああ、あんた!何そーいうの意識しちゃってんの!?」
「いやほら、だってお前、……分かるだろ?」
「ぜ、ぜんぜんわかんないし!キモいから早く飲んじゃってよ!冷めるでしょ。言っとくけど、一口だけだかんね!
 感謝しなさいよ!」

やばいやばいやばい。ぜ、ぜんぜん考えてなかった。か、間接キスとか……。そ、そういうこと意識するなんて、
どういうつもりなんだろ。あたしの唇意識しちゃったりするの!?
京介は覚悟を決めた顔をしてマグカップを口に運んで行く。あたしの口付けた方と反対側に。
………………何よバカ。ヘタレ。あたしと間接キスしたい男の人なんてきっといっぱいいるよ?あたしはあんたに
しかさせてあげたくないのに。ひどいじゃん。

「………ふう。おら、飲んだぞ。」
「ふん、さっさと返してよね。あたしまだ飲みたいんだから。」

マグカップを受け取るときにまた手が触れた。今度は京介の手は熱かった。
こんな仕打ちを受けたのに、あたしはどうしても京介が口をつけた個所が気になった。胸が苦しい。
あたしは自分の気持ちを精いっぱい主張するように、京介の口をつけた方に―――。

「お、おい!」
「ん…………ん………ぷはっ。」

一気に飲み干してしまった。今まで飲んだどのココアより甘かった。むしろ味は分からなかったかもしれない。
ていうか熱かった。喉が熱い。顔はもっと熱い。心臓からすごい大きな音がする。
や、やっちゃった。やっちゃった…………間接キス。間接キス。間接キ、ス……………!!
京介の方をちらっと見ると、顔を赤くして驚愕している。

「おぉおおお、お前、そっちは俺の――――!!」
「は、はぁ?だから言ってんじゃん。そーいうの意識するとかキモいってば。べ、別に?あたしは平気だし。」
「平気って………お、お前まさか、誰にでもそんなことしてんのか?」

………今のは聞き捨てならない。あんたあたしをどういう目で見てるわけ!?こんなこと、他の人相手にするわけ
ないでしょ!?あやせや黒いのや沙織とだって、こんなことしないっつ―――の!!

「だ、だったら何よ!?」
「や、やめろよそーいうコトすんのは!!!!」
「な、何よ…………あんたに関係ないでしょ!?そーいうの、マジウザいから。」
「う、うるせ―よ!!妹の心配して何が悪い!!男ってのはな、こういうことされると勘違いしちまうんだよ!!!」
「―――――っ。な、何よそれ。あ、あああ、あんた、その…………えと、勘違い、しちゃった、の……?」
「んななっ!!??ばば、ばか、おおお俺のことじゃねぇぇえええええええよ!!!!」

ど、動揺してる……?勘違いしちゃってくれたの?あたしはよっぽど勘違いじゃないよと告白したかったが、
そんな勇気はなかった。だって、京介はきっと、兄妹なのにキモチワルイって思うから。それに、それに本当は、
本音ではあたしのこと、…いかもしれないし。きっと自分が兄で、あたしが妹だから心配してくれてるだけ。
それはそれで嬉しいけど、だからこそあたしはいつも通り返すしかなかった。

「い、妹と間接キスして勘違いしちゃうとか、マジありえないし。キモいっての、このシスコン!」
「う、うるせーよ。……で、ど、どうなんだよ?いつもそーいうこと、してんのか………?」
「………………………………し、してない。」

本当はもっと心配してほしい、とか、あたしのコト気にしてほしい、とか、色んな気持ちが湧いてきたけど。
京介の顔を見て、そんな気持ちを持ったことも申し訳なく感じた。………真剣な顔しちゃってさ。
あんたがそんなだから、あたしはどうしていいか分かんないのに。ばかばかばか、と心の中で呟く。

「そ、そーかよ。……はあ…ったくよ…………。」
「うっさいなー。もう分かったでしょ?いいから出てってくんない?」
「へーへー。」

パタン。バタバタバタ。京介は階段を上がって行った。
あたしはソファにどさっと座りこむ。…………………なんか、疲れたな。
しばらくボーっとしていると、寝不足だし、リビングはだんだん暖かくなってきてて、とても眠かった。

「………ース飲み………だけ…………桐乃?」

「しょう………な。待って……毛布…って…………。」







あれ?………通学路?
おっかしいなー。今日部活の日だっけ?あたし、今日は休みの日だと思ってたんだけど。
ボーっとしながら学校へ歩いていく。なんだか景色がもやもやっていうか、ぐにゃぐにゃ?何コレ?
あたしついに二次元に降臨しちゃった?ここに詩織ちゃんがいるの?みやびちゃんも?りんこりんも?
えへへへへへ……………。えへへ…………。ぅへへへへ……………。

あ、京介だ。むっ。女の子と歩いてる。あれ、あの娘は…………そうだ、黒猫だ。いつものゴスロリじゃないから
分からなかった。やっぱさー、普通の服着てたらふつーに可愛いじゃん。てか美人だよね―。ちっちゃいけど、
モデルでもやっていけそう。そしたらもっと一緒に遊べるじゃん。沙織も誘ってさ。恥ずかしがられるだろうけど、
沙織ってあたしよりスタイルいいじゃん。背もすごく高いし。そしたらみんな、あやせとも仲良くなってもらって、
すごく楽しそう――――――――――――――――――――なんであいつと二人で歩いてんの?

黒猫のあんな顔、初めて見る。何て言うか、とにかく楽しそうな顔。いつものアニメキャラみたいな雰囲気無くて、
ほんと、オタクじゃない普通の女の子って感じ。それにあいつ、京介も。………あたしにはあんな顔しない。絶対。

ダメ。ダメだよそんなの。そんなのって。とにかくダメ。
あたしは走って追いつこうとした。でも追いつけない。二人の背中とか、見たこともないくらい楽しそうな
顔ばかり見える。追いつけない。なんで、どうして―――――――。



置いていかないで、と叫ぼうとした時、あたしはリビングのソファに座っていた。

「え?あれ………。夢?」

そっか、あたし寝ちゃったんだ。あれ、毛布が………これあたしのじゃないよね。むしろ―――――。
あたしは毛布の中で、あたしの手が何か握りしめているのに気付いた。すぐ傍に京介が座っていた。。

「あ…………………、にき。」

涙が出てきた。夢の中で置いて行かれたのが悲しかったのかもしれない。あたしの友達と、二人でどっか
行っちゃって、もうあたしのことなんか見てくれなくなるって、そんな気がしてとても怖くて悲しかった。
だから、目を覚まして京介が傍にいてくれて、すごく安心した。それこそ優しい夢を見ているみたいに。

「おう。起きたか。」

くしゃりとあたしの頭をなでてくれて、指で涙を拭ってくれた。冷たい手。でもとても暖かくなった。
あたしは無性に甘えたくて、京介の胸に頭を押し付けた。

「こ、怖い夢でも見たのか。」
「うん。すごく怖かった。」
「そっか。……もう平気か?」
「………まだ、ダメ。もうちょっと、このまま。」
「そ、そっか。ま、まあ俺でよければここにいてやるからさ。」
「うん。ずっといて。」
「……………お、おう。」

なんだろ。すごく自然に言葉が出てくる。自然に、こいつがあたしを心から大事に思ってくれてるって信じられる。
…………きっと今日は寒いから。こんな寒い日は暖かいものが心地いいから。
だから今日はずっとこうしていよう。







―――数時間後、お母さんに見られてあたしは爆発した。



END



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最終更新:2011年01月15日 21:47