75 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/30(日) 18:34:15 ID:7ukgWbOS0 [1/2]

黒猫から告白されて、数日後。
俺は、こんなメールを受け取っていた。


『明日、秋葉原に、デートに行きませんか?』


あれから今まで、俺の中では結論が出てなくて、未だに答えを出せていなかったのだが―――
これも、いい機会なのかもしれない。明日のデートの間に、答えを出そう。
すぐに、『了解した、楽しみにしてる。』とのメールを送った。


黒猫・・・いや、五更瑠璃は、俺の後輩で、元々は妹のオタ友達だった。
それが、何故か告白されて・・・

いや、別に嫌なわけじゃない。むしろ、たぶん、嬉しい。
妹とは違うタイプの美人で、オタクなところもあるが、妹よりはマシだ。
性格は控えめだが友達思い。見かけによらず、根性もある。
最近は服装のセンスが変わって、黒猫というより白猫と言った感じになって、可愛らしさも増している。
実際・・・そう、全体的に見ると、猫というより、兎みたいな感じだろうか。

どちらかというなら、わがままで、自分勝手、わが道をひたすらに突き進む、俺の妹―――
桐乃のほうが、『黒猫』という言葉が似合ってるかもしれない。

桐乃は確かに、見た目だけなら黒猫以上の美人で、すっぴんでも目をひくような端整な顔に、
中学生離れした、体のライン―――背がすらっと高く、出る所はしっかり出ている―――を持ち、
さらに、入念なメイクで磨き上げ、髪もライトブラウンに鮮やかに染め、
マニュキュアも艶やかに、しかも良い匂いのする香水までつけやがって、
兄である俺ですら、近くにいるとドキドキしてしまうほどなんだが・・・

そうだ、性格はこれ以上ないくらいに最悪だ。
1年ちょっと前までは、俺の事、完全に無視していやがったし、
久しぶりに話しかけるきっかけは、妹モノのエロゲというくらいの重症オタクだし、
それ以後も、取材だとか言って、クリスマスイブに俺を連れまわしたり、
勝手にアメリカに行って、俺を・・・みんなを心配させたり。
挙句の果てに、俺に彼氏のふりをしろとのたまったり、偽彼氏まで連れてくる始末だ。
それらの面倒な・・・実に面倒なイベントの数々で、俺が今までどれだけ恥ずかしい思いをしてきたかっ!

こんな、猫みたいに勝手気ままで、頭の中が真っ黒な桐乃こそが『黒猫』の名にふさわしいだろう?

・・・いや、今は妹の事はどうでもよかったな。
明日のデートに期待をしつつ、俺は早めに寝る事にした。
寝る前に、隣の部屋でごそごそと音がしていたが・・・まあ、気にする事もないだろう。




翌日は雲ひとつ無い晴天。絶好のデート日和だぜ。
アキバでデートするのに天気はあまり関係ないかもしれないが、それでもやはり気分がいい。
今日は黒猫に、告白の返事をするんだ。


電車に乗って約一時間。
ホコ天が再開された秋葉原の町並みは、やっぱり以前と変わらず雑然としている。
今日の待ち合わせ場所は、いつぞやのメイド喫茶だったな。
今は午前10時27分。
少し時間には早いのだが―――何故か分からないが、少し遅れる位に来て欲しいとメールがあったんだ―――
まあ、数分早いくらいなら大丈夫だろう。
喫茶店の扉をあけると―――

「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」

以前の俺なら、ここで思考停止してしまっていただろう。
だが、今日の俺は一味違うぜ?黒猫の前で無様な格好は見せられないぜ!

「え、えーと、連れが、先に来ているはずなのですが・・・」
「ご主人様のお名前は?」
「こ、高坂京介です。」
「高坂さまですねー。黒猫さまがお待ちです。こちらのテーブルへどうぞ~」

ど、どうだっ?かっこよく決まっただろ?
いや、わかってる、でも突っ込まないでくれ。悲しくなるから。

メイドさんに案内されつつ、店内を見渡すが、黒猫は見あたらない。奥まった所にいるのだろうか―――
と、俺の視界に、妙なものが映る。
黒く長い髪、黒いゴスロリ服を着て、ネコミミを着けてるんだが?・・・黒猫じゃあ・・・ないな。
背中側からしか見えないんだが、背格好が大分違う。そして―――あれ?なんか既視感が・・・?
まあ、世の中には、似たような服を着てるやつもいるんだろう。
マスケラは結構人気のあるアニメだったようだしな。

そんな事を考えつつ、メイドさんに付いていく俺なのだが―――
おいおい、あの、『偽』黒猫の所に向かってないか?

「おまたせしましたっ!黒猫さま。お連れ様がお越しになりましたよ~」

って、やっぱりかよっ!
人違いだと口にしようとしたその時、『偽』黒猫が振り向いて―――

「桐乃っ!?」
「なっ!?・・・・・・わ、我はチバの堕天聖、黒猫・・・よ?き、桐乃って人じゃない・・・わよ?」
「・・・・・・」
「な、何とか言いなさいよ!・・・じ、じゃなくって、な、何か言う事は、ないのかしら?」

どうみても桐乃です。本当にありがとうございました。
そうじゃなくって!?何?何でお前がいるの!?わけがわからねーよっ!?
脳が事態を理解できず、俺はどうでも良いことを口走っていた。

「セ、センヨウの堕天聖・・・?」
「・・・・・・」

うわっ、空気最悪っ・・・!
と、とりあえずっ、話題っ、話題っ!

「そ、その服・・・似合ってるなっ?・・・」
「ふんっ!と、当然じゃない・・・当然よっ、どこに目を、つけているのかしらっ?」

つたなくしゃべる桐乃は、明らかに無理をして、妙な口調をしている。
・・・つーか、これはあれか。黒猫のマネをしているつもりか?
ようやく、俺も落ち着いてきて、頭も働いてきたようだ。

「その・・・桐乃?どうしてお前がここにいるんだ?」
「あた・・・私は黒猫よ?兄さん?」

うおぉぉぉぉっ!なんだ、このキモイ妹はっ!?さっ、寒気がしてくる。
おまえが『私』とかありえねーしっ!?それ以上に『兄さん』ってなんだそりゃっ!?

「『兄さん』じゃダメなのかしら?これからは『お兄ちゃん』って呼んだほうがいいのかしら?」

普段の様子とは違い、上目遣いで、頬を赤くしながら見つめてくる桐乃に、俺の脳は再びショート寸前に追いやられてしまう。
ど、どうしちまったんだよ、ほんとに、こいつは・・・

「そ、それはともかくっ!お、おまえ、なんでここにいるんだ・・・?」
「そ、それはっ・・・あん・・・あなたを、デートに誘ったんだから居て当然でしょ?」
「ちょっ、ちょっと待て!?俺にメール出してきたのは黒猫・・・だぞ?」
「そ、そう・・・よ。だから、あた・・・よ、宵闇の女王であるこの私が来てあげたのよっ!」

こいつ、どこまで黒猫のふりをし続けるつもりなんだろうか?
そう考えたその時―――俺の尻の携帯に着信が入り、ぶるぶる震えだした。

「ちょっと待て、メールだ」

とりあえず、『黒猫』をなだめて、メールをチェックする。
こんな状況を作り出すとしたら・・・沙織あたりが、ネタでやってんのかっ!?

意外にも、メールの差出人は、黒猫本人だった。

『夜の眷属である私は忙しいのよ。代わりに我が魂のカケラをそちらにやったわ。
 あなたのようなヘタレには、我が身の一欠で十分でしょう?』

・・・マジっすか?
俺はがっくりと肩を落とし、世界の絶望を一身に引き受けたかのように膝をつく。

「あ、あんた、いきなり何してんのよ?」
「いや、もういいんだ、俺の事なんて・・・デートにすら値しなかったらしいから・・・」
「だっ、だからっ、あたしが来てあげてるでしょっ!」
「・・・・・・」
「ちゃんと、デ、デートに誘った本人が来てるんだからっ、そんな悲惨な顔しないでちょうだいっ」

こいつは・・・もしかして、黒猫が来れない事を知って、俺を慰めようとしてくれているのか・・・?
あらためて、桐乃を見てみる。
黒いゴスロリ服。黒猫がいつも着ていたマスケラのキャラの衣装だ。
それに、何故かネコミミ。確かに黒猫はネコミミを着けている事もあったな・・・
前に見たときと違って、あまりにも似合っていてかわいい・・・だが、何か・・・違和感が・・・
そうだ、いつものこいつと違って、髪が黒い。
わざわざ染めたっていうのか?この衣装・・・いや、黒猫に合わせる為に。

・・・俺の・・・為に・・・なのか・・・

「なっ・・・いきなり泣かないでよっ!」
「そ、そうだな・・・すまん、今日はデートだったんだな・・・」
「わ・・・わかればいいのよ・・・」

周りからは奇異の目で見られていただろうが・・・もう、気にしていてもしょうがない。
今日は『黒猫』とのデートを楽しもう。

「それじゃあ、さっそく注文するかっ!」
「い、いきなりびっくりするじ・・・わ」

相手が妹とはいえ、『デート』だと思うと何故か元気が出てくるな。
だが―――元気がでてくると逆に、ちょっとしたいたずら心が芽生えてくるものである。
そうだ、さっきの『お兄ちゃん』に反撃するくらい、バチは当たらないだろう?

「それじゃ・・・店員さーん。このベリーベリータルトってのを2つと、アイスティー1つ。ストローは2本で。」
「は~い。オーダー入りましたぁ♪ベリーベリータルト2つと、アイスティー1つ。ストローは2本でよろしくでぇっす♪」
「あ・・・なた、何を勝手に、注文して、るのかしら?」
「いや、すまん。せっかくだし、ここは俺のおごりにしてくれよ。」
「へえ・・・まあいいわ。・・・ん?ストロー2本・・・?」

と、しかめっ面で考え込む桐乃。
意外と気がつかないもんだな?
まあ、気がついた後の、顔が楽しみだ。

「・・・って!?あ、あ、あ、あ、あんたっ!?な、な、何考えてっ!?」

ようやく気がついて、顔を真っ赤にしている桐乃に、俺は至極当然のように答えてやる。

「ん?今日はおまえとデートだしな、せっかくだし『定番』ってやつをやってみようぜ?」
「だ、だからってっ!そんなことっ!」
「いや、デートなら当然だろ?それとも、そんなに恥ずかしいのか?顔が真っ赤になってかわいいぞ?」

我ながらちょっと言い過ぎたか?
桐乃は首まで真っ赤になって、いまにも湯気が出てきそうな感じだ。

「くっ・・・あ、あんた・・・それで、あたしをやりこめたつもりっ?」

桐乃、地が出てるぞ?

「・・・あ・・・私も楽しみだなー・・・」
「そうか?棒読みに聞こえるぞ?」
「・・・それじゃあ、一緒にちゅーちゅーしようねっ、おにいちゃん!」
「○×□△!?」

こ、このっ?それは、反撃のつもりかっ!?

「そのー・・・いい雰囲気のところごめんなさいっ。ご注文のお品物になりますね~♪」

み、見られてたっ!?
いやっ、よくよく周りを見れば、お客さん、みんな注目してるじゃねーかっ!?

「あ、あんたっ・・・この始末っ・・・どう着けてくれるのかしらっ!」
「ま、待て、落ち着けきり・・・『黒猫』っ・・・」
「・・・・・・し、仕方ないからっ・・・やるわよっ!」

あれ?俺はある程度のところで冗談にするつもりだったんだが・・・?
完全にマジになってねーか?

「おまっ・・・マジ・・・か?」
「マジよ」

そう言ってる間にも、桐乃はグラスにストローを2本とも挿し、
テーブルに身を乗り出して、そのうち片方を口にくわえた。
ほ、本気かよ・・・?
俺自身がやりだした事なので、全て俺のせいなのだが・・・

「は、早くしなさいよねっ」
「あ、ああ・・・」

桐乃にせかされて、考えがまとまらないまま、俺はストローに口を近づけていく。
このストロー、先が曲がってなくって、桐乃の顔がやけに近い・・・
周りからはヒューヒューとはやし立てる声も聞こえてきて、
でも、それ以上に、桐乃からいい匂いがしてきて、真っ赤な顔が本当にかわいらしくって、
頭の中が白くなってきて・・・な、なんで目を閉じるんだよ?
桐乃の赤い唇が、とても魅力的で、目から離れなくって・・・

「あっ・・・」

テーブルから身を乗り出す無理な体勢だったから、バランスを崩したのは俺だったのか、桐乃だったのか、
いや、そんなふり、しただけで・・・
俺たちの唇は、永遠にも思える一瞬の間・・・触れ合っていた・・・



「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

その・・・口づけ・・・の後、俺たちは互いに目をそらし、一言もしゃべらないでいた。
桐乃はチラチラとこっちを見てきているんだが・・・一体何を話せばいいんだよ・・・

「「あのっ・・・」」

ふと、話しかけようとしたのだが、どこかで見たような安い恋愛小説(いや、エロゲか?)のように、
俺たちは、見事にタイミングが合ってしまう。

だが・・・ここは、俺が―――

「その・・・すまんっ。途中で何も考えられなく―――」
「はじめて・・・」
「えっ?」
「あ、あたしの、ファーストキスっ!」

な、なん・・・だと?
あんな、遊んでそうな格好してて・・・はじめて・・・だと?

「そ、それは、知らなかった・・・じゃなくて、俺も初めて・・・
 いや、そうでもなくって・・・その、すまん、なんというか―――」
「セキニン・・・」
「なっ?」
「このっ・・・責任・・・とってよ・・・ね・・・。」

そんな、泣きそうな顔で、お願いするなよ。
大っ嫌いな妹のお願いでも、聞いてやらないといけない気分になってきてしまう。
そうだよ、俺は、妹の事が大っ嫌いなんだっ!
それに、今日は、黒猫に・・・そうか、『黒猫』に・・・だったんだな。

「『黒猫』・・・」
「えっ・・・あ、うん・・・」
「今日は、『おまえ』にデートに誘われたんだったよな。」
「う、うん・・・?」
「そして、この前『おまえ』が、告白して来たのに、俺はまだ、答えていなかったよな。」
「えっ・・・」
「だから、ここで、俺の答えを言うぜ。」
「・・・うん・・・」

俺の前の女の子は、不安に震えて、まるで子猫のようだ。
そう、この目の前にいる『黒猫』に答えを出してあげないといけないんだな。
そうだよな?黒猫?

「『黒猫』・・・俺と・・・つきあってくれ。
 俺は、おまえのこと大っ嫌いだけどっ・・・おまえの事が必要なんだ・・・」

桐乃の顔から不安が消え、かわりに、泣き笑いのような表情があらわれる。

「なによっ、それっ・・・わけ・・・わかんないじゃん・・・」

そうか、この表情・・・色々な感情に隠されて、でも、嬉しさがにじみ出ている。
こんな表情が見たくって、俺は今までこいつの事、見てきたんだな・・・

「あんたが・・・あたしの彼氏なんて・・・気に食わないけどっ!でもっ・・・一生・・・だからねっ!」

お互いに、素直になれない俺達・・・
こんなに気持ちをぶつけ合っていても、口から出るのは気持ちとまるで正反対の言葉ばかり。
でも・・・これまで生まれてからずっと一緒だったんだ。
俺達は、言葉以外のものでも、言葉がなくても、気持ちが通じ合えたんだな。
そうだろ?桐乃。



そして、俺と『黒猫』は、恋人になった。



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最終更新:2011年02月02日 00:53