859 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/02/08(火) 03:09:57 ID:FVldqoS00 [2/3]

「…(ゲホッ…うっ………ゲホッ…)…」

その日家に帰り着くと、誰かが…いや、桐乃が何かを吐いている声が聞こえてきた。

「桐乃っ!?どうした?大丈夫なのか!?」
「大丈夫じゃ…ない…」
「と、とりあえず、落ち着け。今、コップもってくるからな」

幸い洗面所だったので、片付けは簡単だったんだが…
こんなに不安そうな桐乃を見たのはいつ以来だろうか…

「とりあえず、落ち着いたか…?」
「…うん………」
「おなか痛かったりするのか?病院に連れて行こうか?」
「…ううん………たぶん、違うから………」
「うん?」
「………今月、まだ、生理きてないの…」
「だ、誰だっ!相手はっ!誰なんだよっ!」

頭の中がパニックになる。俺の妹を傷つけやがったやつが居ると思うと、居ても立ってもいられない。
すぐさま、そいつをぶちのめして、土下座させてやらないと気がすまねぇ。
いや、それだけで気が済む訳が無い、この場に連れてきて―――

「あ、あんたっ!」
「………は?」

俺は、最高に間抜けな面をしていただろう。
え?桐乃は、生理来てなくって、吐いて…。妊娠…したんだよ…な?
で…妊娠させた相手が問題で………………俺?

「な、な、何…何言ってやがるっ!?おまえっ!?」
「だ、だって、他に思い当たる人いないし…」
「その、お………だ、だって、おまえ!…お、お、お、俺と…せ、せ、セックスとかしてねぇだろ…!?」
「だ、誰ともした事ないよっ!?」
「じゃあっ…なんで…妊娠すんだよっ!?」
「あ、あたしは、誰にもエッチな事させてないけどっ!
 あんたシスコンだから、あたしの寝てる間に襲ったりしてるんでしょっ!?」
「それ、なんてエロゲー!?」

わ、わけがわかんねー…!?
どうしたらこんな結論になるんだよっ?こいつは…

「…(それ…も、…パン…直接……こすり……いけない………かなぁ…)」

何かぶつくさ言っている気もするが、なんとしても、この危機を乗り越えなくては。

「そ、そうだ!単純に遅れてるだけ…じゃないのか?」
「ううん。基礎体温の高温期がずっと、1ヵ月以上続いてるし…」
「…あの…よく分からんのですが…?」
「はぁ?あんた何も知らないの?」
「…そりゃ…そんなことまでは、知らねーぞ?」
「あんだけエロゲやってるのに、全然知らないとか、マジありえないし。」
「いや、ゲームの中では全然そんな描写ないが…?」
「ゲームの背景までちゃんと調べるっ!これ常識だからね。」

…あまりに無茶苦茶言われてる気もするが…
でも、少し元気が出てきたのか、俺を罵る口調が生き生きしている。

「仕方ないから教えてあげる。あんたちゃんと聞いてなさいよね。」
「はい…」

いつのまに、桐乃先生の保健体育講座になってしまったんだ?

「女の子の基礎体温ってね、低温期と高温期に分かれてて、ぶっちゃけ、低温期は排卵前、高温期は排卵後ってコト。」
「はあ」
「で、生理が伸びる場合ってのは、低温期が伸びるだけで、高温期は2週間って決まってんの。」
「う…む」
「その高温期が伸びる場合ってのが………妊娠した時だけなの………」
「…そ、そうか…」

理論的に説明され、全く反論の出来なくなる俺。

「だ、だが…しかし…」
「それに、なんか、最近お腹が張ってきたような感じがするし…」
「そ、そうは見えないが?」
「あたしはモデルしてるから、ちょっとした体の変化にも敏感なのっ!」

もう、どうしたらいいんだか、これじゃ俺、殺されるぞ?…色んな人に?

「そ、それでも…その…『事実』が無ければ、出来ねーだろ?」
「………」
「だ、黙られても困るんだが…」

桐乃は真っ赤になって黙ってしまった。

「とりあえず―――」
「そのっ…」

上目遣いで俺を見る桐乃の目尻には、少し光るものが見えた気がした。
俺が妊娠させた…なんてことはありえないだろうが、きちんと話を聞いてやらないとな…

「言いたい事があるなら、ちゃんと聞いてやるから。」
「………実は、あたし…最近、兄貴のベッドに潜り込んだりしてたのっ!」
「………なん………だと………?」
「それで、寝てるときの兄貴、寝ぼけてあたしの胸をまさぐったりっ!」
「………………」
「あ…あたしの…だ、大事なとこ触ってきたりっ!」

俺は、死んだ方がいいかもしれないと、今、すごく思った。

「と、時にはっ、朝起きたとき、あたしのパジャマが脱がされていたりっ!」
「どんだけ変態なんだよっ!?俺っ!?」
「ひ、ひどいときにはっ、し、白いベトベトのものがあたしの体に付いてたりっ!」
「ごめんなさいっ、マジごめんなさいっ!」
「マジキモかったしっ!…死んでよ…もう…」

俺、寝てるとはいえなんつー事をっ!だ、だがっ―――

「だ、だけどっ、お、おまえが入り込んでくんのがそもそも―――」
「うっさい、しゃべんなこのシスコン」
「シスコンって、おまっ…」
「そんなんだから、あたしを妊娠させちゃうんでしょっ!」

は、反論したいがっ…できねーよっ!
つか、ほんと?ホントに俺が桐乃を妊娠させちゃったの!?こんな生意気で、可愛くねー妹様を!?
…真っ赤になって、涙を溢して、素直じゃない言葉しか口に出来ない妹を…。
誰かの言うように、変態鬼畜兄貴確定かよっ!?

ふと、妹の親友の言葉を思い出す。
『桐乃にいかがわしいことしたらブチ殺しますからね。』
マイラブリーエンジェル…ほんとに殺される日がきたようだ…

「ど、どうしようか…?」
「うん…どうしよう…」

いや、本当は桐乃の事がとても大事で、妹としてではなく、女の子として愛してるんだ。
だけど、妊娠とか子供とか、そんなことは考えてなくて、
いや、そもそも結婚も出来るわけが無いし、遠い世界の事のように感じていた。
でも、今、目の前の桐乃は、たとえ無意識であろうと、俺が妊娠させてしまっている。
桐乃を守るために、何ができるのだろうか…
今…何をすべきだろうか…

「桐乃………」
「…うん」
「すまなかった。」
「…ううん。あたしが…悪かったの…ごめんなさい…。」
「それでな、考えたんだけど。…今、まだ、俺はおまえを守ってやれない。」
「…うん」
「俺はただの学生だし、おまえもまだ中学生だ。仕事もないし、雇ってももらえない。
 法律の上でも、未成年としてしか扱われないし、全てを親父やお袋に依存している状態だ。」
「………」
「だから、今は…堕ろそう…」
「………」
「俺が、仕事に就いて、独り立ちできるようになったら―――」
「………うん」
「その時、俺がおまえを妊娠させてやるっ!」
「ちょ、ちょっと―――」
「兄妹とか関係ーねえっ!俺にとって、おまえは世界で一番大切な人なんだっ!」
「も、もうっ…妹を妊娠させるとか…マジ…キモいし…でも…うん。わかった…。
 そうだよね…今は、まだ…無理だもんね…・」
「本当に…ごめんな。」
「うん。…そもそもあたしが悪かったんだし、本当は、兄貴の子供欲しいけど…
 今でなくたって大丈夫だって…そう、思えるようになったから…」
「ありがとうな…それじゃあ、親父達にバレないよう…隣町の産婦人科に…行くか…」
「うん…」



産婦人科の病院には、結構若い女の子も居たが、男女のカップル姿は少なく、
高校生と中学生の組み合わせの俺達は、少し気恥ずかしい思いもした。

桐乃は…今、検査を受けている所だ…
かなり時間がかかっている…心配だ…

「204番の方のお連れ様、診察室にお入りください。」

俺は、意を決して、部屋に入った。

部屋には、40前後の女医さんと…
なんだか複雑な表情の桐乃が居た。…何か…問題でもあったんだろうか…

「それじゃあ最初に、彼女さんにはもう話してるけど検査の結果からね。」
「は、はいっ」

緊張で、声が上ずる。

「まず、あなたの彼女さんは、妊娠していません。」
「へっ…?」

つい、素っ頓狂な声をあげてしまう。

「簡単に言うと、『想像妊娠』って言うの。」
「は、はあ…」
「そもそも…あなたたち、セックス自体してないわね」
「え、ええと…?」
「彼氏さん。あなた、彼女を大切に思って、性行為をしないでいるのは立派よ。」
「な、何が…?」
「でもね、あなたの彼女にもっと触れ合ってあげないといけないわ。
 例えば、抱きしめてあげるとか、キスしてあげるとかくらいはね。」
「は、話がみえないんですが…」
「つまり、あなたの彼女はね。あなたの事が大好きすぎて、でも、あなたが構ってくれないから、
 あなたの子供さえ出来れば…って思いつめちゃったのよ。」
「は、はい。」
「簡単には考えないでね。あまりに思いつめすぎて、体のバランスが崩れてしまって、
 それで、一見妊娠しているような、体の状態になっちゃったのだからね。」
「はい…わかりました。」
「よろしい。」

そ…想像妊娠…だとぉっ!?…いや、エロゲーでは何度か見た事あったけどねっ!
…こ、ここまで恥ずかしい思いしてっ…
あ、挙句っ、お、俺っ『おまえを妊娠させてやるっ』(キリッ…とかっ!?
うぉぉぉぉ…ま、マジで死にてーーー

「それじゃあ、お大事にね。ちゃんと、独り立ちできるまでは、妊娠しないよう気をつけなさいね。
 次は、あなたたちが大人になって、ちゃんと子供をつくる決心が出来たときに、また、おいでなさい。」
「あ、ありがとうございました。」
「そのっ…お話聞いていただいて…ありがとう…ございました…」
「いいのよ、これが私たちの仕事なのだから。それと、あまり思いつめないようにね。」
「はいっ!」



結局、幸いにして、俺は妹を襲った事実も無ければ、妹が妊娠していたということもなかったわけだが…

「…兄貴…その…怒ってる…?」
「…少し…な。」
「ごめんなさい…あんな…馬鹿なことして…兄貴に迷惑かけて…」
「…俺が怒ってるのはな、おまえの気持ちに全然気がつかなかった、俺自身に対してだよ。」
「えっ…?」
「改めて、こんな、変なシチュエーションで何だが…」

鼓動が高まる…





「桐乃、俺の…恋人になってくれ」



End.



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最終更新:2011年02月08日 21:59