143 名前:アニメディア販促妄想【SS】[sage] 投稿日:2011/02/09(水) 22:39:59 ID:VTr7hbev0 [12/13]

あたしの少し後ろを兄貴が歩く。
数日後に大イベントを控え、あたしは居ても立ってもいられない気持ちになっていた。

あたしなりにだいぶ練習して、かなり綺麗に作れるようになってきた。
そういえば試作品は全部お父さんにあげたけど、完食してくれてたし、味もきっと大丈夫なはず!
ただ、それを渡したとき、兄貴がどんな反応をするのか……。
間近に迫ったそのときを想像するだけで、あたしは期待と焦燥でいっぱいになる。

わかってる。本当は不安ばかり大きい。あたしらしくない。高坂桐乃らしくない。
だから、その前に、確認しておきたかった。
取り返しのつかない失態を犯さないために。あたしたちの関係を壊してしまわないために。

「早く来なさいよ! なんでそんなにノロマなワケ?」

「お前こそ、やたらテンション高すぎなんじゃねーか?」

「ううっさい! せっかく買い物つきあってやってるんだから文句いわな――ひゃっ!?」

「おいっ!?」

世界が倒れる。あれ、あたし転ぶの?
格好悪いなあたし。浮き足立ってるって自分でも分かってた。だって兄貴はずっと、なんだかハラハラしてるみたいな表情だったし、
あたしと居ること楽しんでないなんて、ありえないけど、もしそうならって思ったら……。

色んなことを諦めかけた、スローモーションな世界の中、兄貴だけが吃驚するくらいのスピードで、あたしに駆け寄ってきた。
ばふっ。

兄貴の腕が、あたしと地面との衝突を防ぐ。抱きかかえられるようにして、あたしは兄貴の胸に顔をうずめる格好になる。

「……あっぶねぇな! お前の運動神経で転ぶなんて、そんな高いヒール履いてるからだろ!」

うっさい。これくらい履かないと、身長だけは平均値あるあんたと並べないでしょうが。
あたしは目一杯文句を言ってやろうと思ったけれど、鼻腔にいっぱい入り込んでくる兄貴の胸の匂いに、頭がぼうっとなってしまう。

「……おい? まさか、どっか痛めたのか? ……ちょっと待ってろ」

「なっ! おもむろにコート脱いで何す……って何でフードさらあたしにかけるのよ――きゃあっ!?」

「よっ……と」

あたしはあっという間に、兄貴のコートをかけられ、兄貴におんぶされていた。
何が起こったのかちゃんと理解しようとしても、コートのフードに包まれて感じる匂いと、兄貴の背中の温かさに頭が働かない。
信じられないくらい近くにある兄貴の耳と首筋はいつもより赤くて、あたしの顔はきっともっと赤くて、息をするたびもっといっぱいになってしまって。

「……めちゃくちゃ、恥ずかしいんだけど」

「だからって降ろすわけにはいかねぇよ。家に着くまでそのコートで我慢してくれ」

「……ばかじゃん。普通ここまでする?」

「うっせ。黙って背負われてろ」

わかった。ううん、きっと最初からわかってた。
兄貴の気持ちを確認したかったんじゃない。あたしは自分の気持ちに向き合いたかったんだ。
怖くても、不安でも、あたしがどうしてもしたいことなんだ。

もう迷わない。2月14日、あたしたち兄妹の関係はどうやったって変化してしまうと思う。でも、もう抑えられない。
あたしの気持ちの全部を込めて作ろう。兄貴が昇天しちゃうくらいのすごいのを作れるって自信がみなぎっていく。

そうだ、撮影で気に入って貰ってきた、とっておきの赤い水着も着てみよう。
家で着て見せるなんて頭がフットーしそうだけど、兄貴のことだから動揺して、渡すためのカモフラージュになるかも知んないし!
今日のお礼、ちゃんとするから。

「楽しみにしててね……兄貴」

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最終更新:2011年02月13日 23:00