461 名前:【SS】ばれんたいんねた[sage] 投稿日:2011/02/13(日) 02:39:36 ID:cX294mxD0 [2/5]
「兄貴、チョコ出来たよ!。食べて!」
ドアをノックもせずに桐乃が俺の部屋に飛び込んで来た。

「ぐっ!」
家に帰った時から甘い匂いが漂っていたので、何を作っていたのかは分かっているはずなのだが
心の悲鳴が漏れる。

「なによ!?そんなにあたしの作ったチョコが食べたくないわけぇ~?(語尾↑)
よほど不審そうな顔をしていたのだろう、あいつは頬を膨らまして問い詰めてくる。

「お、おい、去年のことを忘れたわけじゃないだろう?」
俺の妹は勉強もスポーツも万能でモデルまでやっているスーパー超人だが、料理の腕については
全く駄目だ。そもそもちゃんと「食べられる」ものを作ったためしがない。
しかも桐乃が持ってきたものを見ると、よくあるハート型のそれではなく二本の色違いの
スティック状のものをひねった凝ったものだ。あいつがこんなもんを作ってくるときは
ろくなことにならない。あの親父が倒れた記憶がよみがえる。

「ちゃんと味見したし!今度は大丈夫だから!!」
あいつも思い出したのか、一瞬焦った様子になり、顔が赤くなった。


疑惑を顔に貼り付けた俺とチョコを手に持ったままの桐乃の間に沈黙が立ち込める。

「ほんとにおいしいんだから、えっと、あたしも半分食べるから・・・
 ・・・食べない?」

「お、おう。食べるに決まっているだろ!」
めずらしく余裕がなくなり懇願するようなあいつの表情に、俺は胡座をかいて座り込み覚悟を決めた。

「そう!?よかった!」
桐乃の顔がパッと明るくなる。

・・・ちくしょう、反則だろ。かわいいじゃねぇか・・・


「お、おい!?」
胡座をかいた俺の足の上に、屈みこんできて膝を下ろされ、俺は動けなくなった。

「えーと桐乃さん?別に逃げたりしないから・・・」
「いいからちゃんと食べてよね。」
桐乃の息が顔にかかる。チョコの匂いとは異なるあまい香りがくすぐったい。
あいつはなぜか一瞬戸惑ったのち、ムスッとした表情になって微妙に視線を逸らしながら
爆弾を投げつけてきた。

「はい、あーん」


462 名前:【SS】ばれんたいんねた[sage] 投稿日:2011/02/13(日) 02:43:28 ID:cX294mxD0 [3/5]
俺は固まった。
エロゲのやり過ぎで俺の頭がおかしくなっちまったのか?
しかし現実にはチョコを持ったあいつの手が差し出されている。

「くっ、人に見られたら死ねるな。」
食べると言ってしまったからには前言撤回はできない。恐る恐るチョコの先っぽをかじると
ビターなコーヒーの香り、そしてミルクの味わいが口の中に溶けて広がってゆく。
お!?おいしいじゃないか!?

「どう??」
不安げな顔で尋ねる桐乃。
「うまいじゃんこれ、ほんとにお前がつくったの?」
まぎれもない称賛の声に
「当たり前でしょ!ま、あたしが本気をだせばこれくらいは余裕よ!」
はいはい、これだよ。まったくうちの妹様は・・・

「じゃ、あたしも食べるかんね」
「おう、半分か」
こんなに上手く作れるんだったら1個ちゃんと食べてやればよかったかな?と思った瞬間、
俺は再び固まった。

「ん!!」
チョコの端を俺の口に押し付けてくわえさせ、桐乃は反対側から食べ始めた。

半分に折ることしか考えていなかったところに、まさかの恋人ポッキーシチュ。
お、おい、また何かの悪い冗談だよな!?

「あ、あのね・・・」
桐乃は真っ赤に顔を染めて瞼を閉じた。こ、これって・・・
戸惑う間にも桐乃の顔が近づいてくる。

まさか本気のはずがない、あの、あいつが、桐乃が、俺の妹が・・・

やわらかい唇が重ねられ、雷が落ちたような衝撃におそわれた俺は何も考えられなくなった。


464 名前:【SS】ばれんたいんねた[sage] 投稿日:2011/02/13(日) 02:45:45 ID:cX294mxD0 [4/5]
呆然と硬直したまま口の中でチョコが溶けてゆく感覚に、別のなにかが潜り込んでくる。
「ん、・・・」
必死に何かを求めるような、願いを込めた舌が絡み合い、桐乃の匂いがチョコの香りとまざって
俺の感覚を埋め尽くしてゆく。何も分からないまま、俺はそれをむさぼった。

どれだけ時間が経ったのだろうか。数秒なのか数分なのかすら分からないまま、
俺はそっと桐乃を離して向かい合う。

「・・・」
何を言えばいいのか、俺は言葉が出なかった。

「・・・から」
あいつは消えそうな声で何かを言った。
「え?なんだって?」
あせって聞き返す。

「・・・ちゃんと言わないと絶対に分かってもらえない、気づいてくれない、って言われたから・・・
「・・・でも、どうしても、言えなかった。こうすることしか出来なかったの・・・
「・・・あのチョコね、他の、その、義理とかで友達分含めていくつも作るやつとは違うの・・・


俺の頭のなかで理性と常識がわめきだした。
やばい、マジでやばい。親父に殺される。あやせに埋められる。
さっきのあれは一時の気の迷いだ、そうに違いない。とにかく突き放すしかない。

桐乃の肩になれなれしく手を掛けてどや顔で決めてやる。
「ああ、あのチョコうまかったぜ。でもお前のほうがもっと旨そうだな!?」

よし、間違いない。これでドン引きキモキモフルコースだぜ!(泣


桐乃は胡座をかいた俺の上に足を引いて縮こまるように身を寄せてもたれ掛かる。
「・・・いいよ」
俺「えっ」
桐「えっ」


465 名前:【SS】ばれんたいんねた End[sage] 投稿日:2011/02/13(日) 02:49:09 ID:cX294mxD0 [5/5]
「じょ、冗談だからな、ほ、本気にするなよ!?」
俺はあわてて取り付くろう。
不安げに訴えるようなこいつの顔を見ていると、なぜかあやせの顔が重ってくる。

・・・そうか、あやせはこいつに似ているんだ・・・
俺は本当に望んでいたものの代わりに、あやせのことを・・・

あやせの顔が薄れて消えていき、俺は桐乃の肩に掛けていた手をそのまま背中にまわして
そっと抱きしめた。不思議なことに、こいつを離してはいけない気持ちが沸いて来る。

「お前が一番かわいいよ。お前が笑ってくれるだけで俺は幸せな気持ちになれる。」
「本当に?」
聞き返す桐乃の声は小さく、いつものあいつからは考えられないほど弱いものだった。
「ああ、本当だ。」
「ばか・・・」
泣きそうな声であいつが返す。
「おれは馬鹿でかまわないから、な、お前が一番好きだ。」
言っちまった。

「ばか・・・」
いつもは豊富な罵詈雑言で罵ってくるあいつが、さっきと変わらぬ台詞を返してくる。
って、泣いているじゃないか!?
なぜか俺の視界が曇ってくる。お、俺も泣いているのか!?

「ずっと、ずっとあんたのことしか見てなかったんだからね。」
桐乃は俺の胸に頭をくっつけて言ったので、その表情は見えない。
「ごめんな。」
俺はもう一度やさしく桐乃を抱きしめた。



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最終更新:2011年02月13日 23:33