565 名前:Kirino’s English Lesson【SS】[sage] 投稿日:2011/02/13(日) 22:48:57 ID:6zIc+/cf0

6巻、7巻くらいの頃を想定しています。


「うーん」
他は悪くないんだがなー。
これだけがどうしてもよくならんなー。
「うーん」
「ねぇ、なに玄関で唸っているのよ。邪魔なんですケド」
「うーん」
「ねぇってば」
「うーん」
「ねぇって、話聞けっ……つーの!」
ガスッ!
「ぐはっ! ――ッてーな! 何しやがる?」
「何度も声かけているのに、あんたが人の話を聞かないのが悪いんでしょうが! なんか文句ある?」
「いや、そうか、悪かった。……で、なんだ?」
「だからさっきから何唸ってんの。」
「お、お、お前には関係ねえよ!」
「この流れで関係ねえよはないでしょ。……ん? 何それ?」
「チッ、模試の結果だよ」
「なるほどねー。ふーん、それで結果が悪くて悩んでいたわけー?」
ほらな。バカにするモードになってきやがった。
「……ま、そうなんだが」
「ちょっと見せなさいよ」
「お、おい、勝手に取るな! 見るんじゃねぇよ!」
「どれどれ。……そういえばこの大学とか受けるんだよね。うえ~、考えてみたら私が受けようとしている学校に全部近いじゃん、チョー最悪。やっぱ留学しようかな~」
マジかよ。留学されるのは勘弁だが、こんなに言われるんだったらどっか行っちまえと思わず言いたくなっちまいそうだ。
「ふむふむ、……ん? 何よ、あんたにしてはやるじゃん、ってか成績が全部右上がりじゃん」
幼馴染の誰かさんと目の前にいる誰かさんとかのおかげでな。
「この調子なら十分合格範囲に入って問題ないように見えるけど、なに? 全国100位以内とかいまさら狙っているわけ? 天地がひっくり返ってもあんたにはムリだけどね。ぷぷぷ」
狙ってすらいないっつーの。くそ、イチイチいらつかせてくれるぜ。
「で、何が不満なわけ?」
「……英語のリスニングだよ。どうしてもこれがうまくいかねー」
「なるほどぉ、確かにねえ、英語だけなんか高止まりっぽくなっていると」
「CDとかの教材で何度もやっているんだけどよー。なかなか身につかねえんだよな~。どうしたもんかなと」
「――どうしてもと言うなら、あたしが教えてやってもいいけど?」
「はぁ?」
「リスニングとかって普段から使ってたり、しゃべったりしていないと身につかないと思う。CDとかでやってもあんまり効果ないってのはあたしも強化合宿の留学する前までは思っていたことだし」
「いやいや、お前にも予定があるんだろ? それに俺はそうでなくても合格圏内だし、英語もこのリスニングだけが良くないだけだし、そのうちなんとかなるって」
「そんな心構えじゃいつまでたっても上達しない。甘い! 甘くみすぎ! あんたほんとに分かっている? 今や受験では英語はほとんど必須でしょ?」
「ぐっ……」
「それに、あんたニュースとか新聞読んでる? 最近の就職は英語が重要視されているんだからしゃべるのはともかく、今から聞き取りくらいはできないとヤバイでしょ? でないとあんた、すでに大学出ても就職浪人決定」
「今から決定かよ!?」
やけに現実過ぎるネタだな、おい。しかも否定できない俺が悲しすぎる。
「あと、あんたが万が一この英語のせいで受験落ちて浪人されるとうちの家計も厳しくなると思うし?」
「家計を心配してくれるのはいいけどよ、お前にも予定があるんだろ?」
「ふん、あたしを誰だと思っているの?」
そうですね。県内指折りの桐乃様でしたよね。
「というわけで、英会話ができるあたしが付き合ってあげる。感謝しなさい」
「……さいですか。よろしくお願いします」
妹に勉強を見てもらう兄貴って……、ただでさえない自尊心がもうスッカラカンですよ。


で、妹の部屋で正座で英語講座。桐乃はベッドで腕組んで、足組んでふんぞり返っている。
……目の前にちろっと見える白いのは気にしない。気にしない。気にしない。
「じゃ、やるわよ。最初は難しい言葉をしゃべる必要はない。あと、ムリして早口でしゃべる必要もないから」
「……ん? いや俺はリスニングだけを鍛えたいだけなんだけど」
「ばかじゃん? なにあんた? 聞くだけでリスニングって身につくと思う? 会話のほうがぜんぜん身につくんだから。ったくもうちょっと頭働かしたら?」
なんでここまで言われないといけないんですか?
「ともかく分かった? 相手の話を聞いて、それに対してできるだけ正しく返すということが重要。簡単で、ゆっくりで、片言でも良いから」
「分かった。頑張ってみるぜ」
「OK! Kyo, Kyosuke! Let's start an English lesson.」
「イ、イエス!」
うお、突然外人のようなしゃべり方になりやがった。やっぱこいつすごいな。
で、なんで顔を真赤にしているんだ?
「How are you?」
うえ、うぇ? なん、なんて言葉で返せばいいんだっけ? Fine だけでいいんだっけ、I からはじめないといけないんだっけ?
すっかりテンパる俺。
「Just relax.」
「……すまん、どう返せば分からない!」
「あー、もう! Fine とか Good とかで十分じゃない。中学一年生から英語やり直せば?」
「そっか。それでいいんだっけ。いや、そのキーワードは思いついていたんだが、I feel とかからはじめないといけないんだっけとかいろいろ考えちまってさ」
「だから、言ったでしょ。最初は片言でかまわないって。変にかっこつける必要はないっつーの」
「そ、それはそうなんだけどさ」
「むしろ最初は思いついた言葉をしゃべってみるだけでいいっつーの。そうやって繰り返していくと、聞き取りもできて、言いたいことも少しずつ言えて、そのうち無意識に英語っぽい流れみたいでしゃべれるからさ」
なんか説得力あるな。なるほど。信じてやってみよう。


「Let's continue it. Well, let me ask one easy question.
(続けるよ。じゃ、簡単な質問からする)
  How do you think of me? Even a simple answer is good.」
(あんたあたしのことどう思ってる? 簡単でいいからさ)

えーと、あなたは私のことをどう思っている、だっけ?
後ろのなんとか simple とかは良く分からなかったけど、片言でも良いってことだろ。
……えーと、なんか適切な言葉が思いつかないな。
むかつくとか、いらっとするとかいう英単語が思いつかない。
むしろ、良い言葉しか思いつかない。ま、仕方がない。
教えてもらっているわけだし、今くらい誉めてもいいだろう。
「グ、グッド!」
「Ah? Anything else?」
えと、他にはないかということだよな、これ。
「アンド、ビューティフル!」
なんか顔真赤にしているな。
英語だとベタぼめになってしまうということと、変にこいつが英語が通じてしまうからか。
しかし、ふと不満そうな顔になって、
「Hmm, it's too simple.」
えーと、簡単すぎってことか?

「Should you say anything else, with a simple sentence?」
(他にない? 簡単な言い回しでね)

えとえと、センテンスってことは文章だっけ?
うーん、いきなりハードル上げてきやがったな。日本語でも難しいなこれは。
えーと、えーと……!そうだ、今、こいつは俺の勉強のために頑張ってくれていると伝えればいいんだ!
「アイ シンク ユー アー マイ ス、『スタディ』!」
お、これはすらっと言えたかも!と思ったら


「You think I am your 『steady』? 」
(あんた、あたしのこと恋人と思っているわけ!?)


うぉ!? 突然反応が! しかもさっきよりも真赤だし?
「イ、イエス!」
「Really?」
「イエス!」

「No way.... How dare you.... but....」
(そんな……。何いってんの……。でも……)

桐乃が顔をそむけ、ぼそぼそといっている、しかも英語で。
あれ、俺、なにかへんなこと言った?
「……桐乃、おーい、桐乃さん、ここは日本ですよ」
「え、え、何?」
何テンぱっているんだよ、おい。
「なんかまずい表現言ったか、俺?」
「い、いや、そ、そんなことないけどさ。ところで、さっきのこと本当?」
あー、あの英語でのやりとりね。
「あー、そうだけど」
「……ふーん、……そっか、……ふーん」
また顔そむけるし。やっぱ俺変なこといったのかな?
「おい、桐乃、お前、さっきの俺の言葉どういう解しゃ、」
「ちょ、ちょっと、あたし用事思い出したから今日のレッスンはもう終了! とっと出てってよね!」
「オ、オッケー!」
なんだか中途半端に英語の頭になっているのか返事が英語になっちまった。
少しは効果が出たってかな? ……んなわけないか。たった一日で。



――次の日
俺は麦茶を飲んでいたところ、リビングのソファから桐乃に声をかけられた。
「あんたの本気は分かった。これからも付き合ってあげる」
「? 本気ってなに?」
「はあ!? 英会話に決まってんでしょ?」
「ああ、そうか」
でも俺そんな本気の姿勢だったっけ? 慌てふためきっぱなしでよく覚えていないんだが。
そして、妹は顔を真赤にしてこう切り出した。
「こ、こ、こ、これからはあんたのベッドで英会話教えるから。わ、分かった?」
「ブフーーー!!」
俺は盛大に麦茶をふいてしまった。
「ごほごほっ……、な、な、な、何言っているんだ、お前!」
「ベ、べ、ベッドの上が一番学習効率が良いっての知らないの、あんた?」
「で、で、で、でも、それってお前……」
「な、な、な、なに妹相手に想像しているの、キモっ! このシスコン、変態! んなわけないでしょ?」
そりゃ、真赤な顔であんなことを切り出されたら想像しちまうわ!
「あたしの場合、リアと夜一緒に寝るまでその日のことをしゃべってたから英語上達したんだから、それと同じふうにすればいいだけだって」
「だけどよー、そこまでしなくていいじゃんか」
「だーーかーーらーー、あんたが大学受験失敗したらいろいろと迷惑かかるでしょ? これは仕方がなくやっているの? わかった?」
「まじかよ。はぁ」
「あと、一ヶ月くらいはやらないと効果がないから。繰り返しと継続が重要だしね」
「い、一ヶ月だと? おい、親父とかお袋が目撃したらどうするんだ!」
「あらかじめ英語の学習って言っておけば大丈夫でしょ」
「俺がそんなこと言っても絶対に却下されるに決まっているだろう! つか殺されるわ!」
「仕方がない、あたしからお父さんたちに言っておく。あたしのリアの例を挙げて」
だからなんでそんなにノリノリなんだ?
だめだ。もう止めることができねえな、この妹様を。
「徹底的にみっちりと仕込んでやるから、覚悟しなさい」
英語のリスニングだけだってのに何を仕込むってんだ。
ってか、なに、真赤にしながらその自信と笑みの顔は。

一ヶ月か――、いろいろキツい夜になりそうだぜ。


「『steady』のためなんだからこれくらいは当然っしょ? ばかじゃん? /////」



終わり



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最終更新:2011年02月13日 23:35