552 名前:二人の時間【SS】[sage] 投稿日:2011/02/20(日) 20:35:09.10 ID:+1GJG/ZkO [2/3]
※※※
とある家電量販店。日曜日も遅い時間になると、店内もさすがに閑散としてくる。
テレビ売場を歩きながら見ていたあたしは、ふとかわいらしい女の子に目をやった。
幼稚園児くらいの女の子は、アニメ映画の宣伝映像を一心に見つめている。
その表情はとても楽しそうでにこやかだ。
すると女の子に、3~4才位年上のお兄ちゃんらしき男の子が近づいてきて
(あれ?……これは……)

お兄ちゃんは背後から妹ちゃんを抱きしめると、妹ちゃんの頭の上に自分の顔をちょこんと載せた。
妹ちゃんはじっと画面を見つめたまま。お兄ちゃんはそんな妹ちゃんを抱きしめたまま…
そんな状態が数分は続いてただろうか、親御さんが迎えに来て二人は売場を離れて行った。
特に親御さんがその光景に驚いたとかの様子は見うけられなかった。
この兄妹や家族にとっては、ごくごく自然のスキンシップなんだろうな。
見せつけてくれちゃって、このシアワセ兄貴と妹ちゃんめが
…なんて思いながら、あたしはまた歩きだした。


大画面テレビのところに行くと、3Dのデモ映像が流れていた。
(メルルの映像が流れてたらいいんだけどなあ)
なんて思いながら、あたしはスタンドにセットされた3D視聴用眼鏡を覗き込む。

こつん、と頭に何か当たったような気がした。
そして背後に誰かが立った感覚が…
「ちょっ、何やってんの!」
「ほら、前見てろよ。遼くんが丁度打つところだぞ」
背後の主、そう、あたしの兄貴はこともなげにつぶやく。
画面を見ると、バンカーに立つ石川遼くんがこっちに向かってショットする。
凄い、球や砂が飛び出して見える……って、それどころじゃないシチュエーションじゃん!!

「ど、どうして……」
あたしはそう言うのが精一杯だった。
「これとおんなじことやってる小さな兄妹がいてな、
近くに、その姿をうらやましそうに見ている誰かさんがいたわけだ」
「あたし、うらやましいそうとか、違うし……」
「そんな誰かさんを見てたら、ふとおんなじことをしてみたくなった、それだけだ」
「バカ、単純にも程ってもんがあるでしょ……」
そう返す間にも、あたしにどんどん兄貴の温もりが伝わってくる気がした。
直に伝わる体温だけじゃない。こういうことをやらかしてくる、兄貴の気持ちの温かさだ。
「正直、今の俺には、これくらいしかお前にやってやれないからな」
「何かっこつけようとしてんの!」
「ん、マズかったか?」
「……いいの。ごめん、もうちょっとだけ、このままでいて……」
「わかった」

画面を見つめてるあたしの心臓が、どきどき飛び出しそうなのが、
きっと兄貴にも伝わってるにちがいない………

※※※
「店長、お呼びですか」
「あちらのお客様に、もう閉店だからとお伝えして。くれぐれも失礼のないように」
「……わかりました。」
俺の視線の先には、二人だけの時間に浸ってるカップルがいる。
(なんだよ見せつけてくれちゃって。こうなったら販促品の
ハート型の赤い風船でも差し上げてやるかw)
そんなことを思いながら、店員の俺は二人に向かって歩きだした。



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最終更新:2011年02月21日 00:26