997 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/09(木) 15:22:07 ID:zkoS4BCH0
埋めがてらに。

夜中、足音を忍ばせて隣りの部屋のドアを開ける。
「―京介、ちゃんと寝てるよね・・・?」
何の返事も無い、寝ているようだ。あたしはドアの隙間に体を滑り込ませ、後ろ手にドアを閉めた。
ベッドの横に立ち、黒猫と付き合うとか言い出したバカ兄貴を見降ろす。ホントによく寝ている。人の気も知らないで。
いつかのように馬乗りになって叩いてやろうと思ったけど、今回は勘弁してあげる。
その代わりと言っては何だけど、布団の中にお邪魔させてもらう。こうして一緒な布団に入るのはいつ以来だろうか・・・京介の背中からは懐かしい温もりと、京介の匂いがする。
「ねぇ、京介…あたしじゃ駄目なの?あたしより、あの黒いのがいいの?
あたしはずっと頑張って来たんだよ。あの日から。京介の彼女に相応しい女の子になるために。」
自分の独白に涙が零れ、京介の布団を濡らす。寝ている相手にいくら言ったって届きはしないのに。
「ねぇ、自分の好きな相手の彼女になるのって、なんでこんなに難しいの? 勉強だって、陸上だって、モデルだって、小説だってこなせるのに、なんで?」
こんなに大好きなのに…ずっと大好きなのに…それでも神様はあたしに微笑んではくれないらしい。
「こんなに近くにいるくせに、鈍すぎるよ。バカ…。」
昔そうしていたように、大好きな人の背中に額を付ける。 こうすると、なんだかちょっと安心する。


― 少し眠ってしまったみたい…。ふと気がつくと、京介は寝返りをうって、あたしと向かい合う形になっていた。
「ちょっとくらい…いいよね。」
京介に背を向けて、その腕の中に潜り込む。
「えへへ…彼女気分。」
幸せだけど切なくて、涙が出てくる。どこの少女マンガのヒロインだか…。
「桐乃…」
いきなり頭に声が降ってきて、京介が私を抱きしめてきた。
「―お前が可愛くないわけがないだろ…。」
起きた!ヤバい!…と思ったが寝言のようだ。
「…・・・ばか。」
京介の腕をぎゅっと抱き寄せ、不覚にもしばらく泣き止む事が出来なかった。
このまま、夜が明けなければいいのに・・・・・・。
そうすれば、あたしは京介の彼女を気取っていられるのに・・・。
この腕の中で、あの黒猫はどんな顔をするんだろう・・・・・・。
きっと、照れながらも幸せそうに微笑むんだろうな・・・みやびちゃんみたいに。
・・・羨ましいな。悔しいな。ずっと隣に居たかったな。

もうすぐ、あたしはこの場所を、背中に感じる温もりを、・・・大好きな人を失う。
その前にあたしは京介の方に向き直り、『最後のお願い』をする。
「ねぇ、京介。2番目でもいいから・・・1番じゃなくていいから・・・あたしをひとりにしないで。」
―このお願いを聞いてくれるなら、あたしは『おにいちゃん』の可愛い『妹』で居てあげるから。
ずっとずっと―。


―翌朝。俺が目覚ましを止めると、頭の上から声が聞こえた。
「起きないと遅刻するよ。」
その声の主は、そう言いながら部屋のカーテンを開ける。
あれ?これって桐乃の声だよな・・・。違和感を覚えて目を開ける。
そこにいたのは・・・甲斐甲斐しい妹だった。
「おはよう、兄貴。」
可愛く首を傾げながら、満面の笑み。
なんだ、この違和感・・・。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない・・・。



-------------

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年12月30日 17:18