879 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 12:35:51 ID:/CM4I6ga0 [2/2]
「ただいまーっ」
急いで玄関に駆け込む。
今日は帰りに雨に降られて、少し濡れてしまったのだ。

「おう、おかえり」

トクン、と心拍数が上がる。
ちょうど目の前にはアイツが――京介が居た。

「ん? 濡れてるじゃねえか」
気遣うような声音と視線。
そんな優しくされても、どんな顔すれば良いか分からない。

「あ、あんたに関係ないでしょ」
つい、いつもの癖で悪態をついて目をそらす。
……目をそらしたせいで、アイツの顔が見えなくなってしまった。
あたしの言葉に気を悪くしたのか、アイツはどこかへ行ってしまう。

「はぁ……」
思わず溜息が漏れる。
どうしてあたしはいつもこうなんだろう。

アイツとの距離は、ここ最近でほんの少し近くなったとは思う。
でも、まだ上手く接する事が出来ない。あとちょっとで、あたしは……。

「ほらよ」
目の前にあたしのタオルが差し出される。
どこへ行ったのかと思ったら、これを取りに行ってくれたらしい。
「か、勝手にあたしのタオルに触らないでよ」
「んだよ、せっかく持ってきてやったってのに」
「余計な事しないで!」
またやっちゃった。
あたしの反応に呆れたのか、アイツは部屋に戻ってしまった。

どうしてこんな、心にもない嘘を言ってしまうんだろう。
ほんとは、すぐにでも部屋に行ってアイツに会いたい。
でもさっきあんな事があったのに、なんて言えば良いんだろう。
かけるべき言葉が見つからない。


結局ろくに話も出来ないまま、夜になってしまった。
寝る前に歯を磨こうと洗面所に向かっていると、ちょうどアイツと出くわす。
「ん……おやすみ」
無視されるのかと思ったら、声をかけてくれた。
きっと今日はこれが最後だ。
最後は、最後くらいは……。

「お、おやすみっ!」

急いで洗面所に駆け込む。
良かった。言えた……。
鏡を見ると、顔をほころばせた自分の姿が映っている。

アイツにもいつか、こんな笑顔を見せたい。



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最終更新:2010年12月30日 18:35