301 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/20(月) 19:54:23 ID:0Pkk4eIx0 [2/3]
「何やってるんだろ、あたし……」

 感情に任せてのヘッドバット。
 結果として、鼻を打ったのか鼻血を流して気を失う兄貴を部屋のベッドへと連れて行き、治療をしていた。
 さっきまで割とすごい量を流していた鼻血も、今は落ち着いてるようだ。

「はぁ……」

 少しだけ手が空いて、溜息が漏れる。それと一緒に思い浮かべるのは、さっきまでのやりとり。

『行けよ。行ってこいよ。俺には関係ない話だ』
『今行け!すぐ行け!行っちまえ!!』


『――行けよ。清々すらぁ』


 なんでよ。なんで、なんで!なんでなんでなんで!!
 あたしは!ただ、一言だけ、一言だけ聞ければ、あたしはっ!       

「結局、アンタにとってあたしは――』

 どうでもいい存在なの?

                                    『行くなって言ってよ、お兄ちゃん』


 視線が落ちる。そこで目に入るのは、布団から出た、兄貴の手。
 あたしは引き寄せられるように、その手に触れていた。
 少しだけ、ごつごつした手。
 あたしより、一回り大きい手。

 この手が、落ち込むあたしを慰めてくれた        『お前はよく頑張ったよ』
 あたしの大事なものを護ってくれた            『俺に任せろ』
 あたしの大切な親友を繋ぎ止めてくれた         『妹が、大ッッ……好きだぁぁぁぁぁっ!!』

 今日、あたしが留学すればしばらくの間、会うことも触れることもない

 気が付けば、まるで恋人がそうするように指をからめて、その手を握っていた。

「あ、あたし、何をやって――っ」

 我に返って離そうとして……やっぱりやめた。
 少しだけ力を込めてみると、伝わる熱が上がった気がした。

302 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/20(月) 19:55:56 ID:0Pkk4eIx0 [3/3]
「き…りの……」
「――っ!」

 その声と、キュッと握り返される手に、起きてしまったかと思ったがそうはならなかったようだ。
 顔を覗き込んでみる。

「なんて顔してんのよ、アンタ……」

 眉間にしわを寄せて、不安そうに顔を歪めている。
 さっきから握られている手の力も、緩む気配がない。
 想像してるより強く握られてるみたいで、ほどけそうもなかった。


 ねぇ、あたしのことなんてアンタに関係ないんじゃなかったの?
 その顔は、この手は『そういうこと』なんだって思ってもいいの?      


                      『お兄ちゃんが止めてくれたら、私、どこにも行かないよ?』


「このバカ、変態、シスコン。口じゃ行けなんて言ってたくせに、これじゃ、あたしどこにもいけないじゃん」

 あたしは今、どんな顔をしてるんだろう。
 怒ってるんだろうか、呆れてるんだろうか、それとも……わかんないや。

 ほんと、バカ。こんなチャンス滅多にないんだよ?わかってんのあんた。
 ま、あたしなら?こういうこともこれっきりってことはないだろうけど?          
 それでも!あたしにここまでのことさせてるんだから責任取りなさいよね。                  


                    『夢はどこでも叶えられるけど、お兄ちゃんはここにしかいないから……』


「ま、あんたシスコンだし?あたしがいないと寂しくて死ぬ!なんていわれても困るし」

 素直じゃない。そんな自分を心の中で笑ってしまう

「だから、さ。大丈夫だよ兄貴。あたしは、傍にいるから」

 その声が聞こえたのか、兄貴の顔は少しだけ穏やかになって手の力がゆるむ。
 あたしはその手をそっとほどいて、その場を離れた。 

「おやすみ、兄貴」

これからも、ずっとずっと、よろしくね。            

                      
                          『ありがとうお兄ちゃん、これからもずっと一緒だね。』



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最終更新:2010年12月30日 19:07