Place to stay

chal

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しばらく歩き続けるうちに足元の雪は殆ど見えず抜かるんだ地へ変わった。

夜が明ける前から歩き続けて、今はもう日が高くなり始めている。
フィリディアから離れれば、暦上は雪の降らない季節。
フィリディアの魔石の余波で浅く積もった雪が解けたせいかもしれない。
もう暫く歩けば…レデニスにつく頃には、きっと足元には雪の名残も残ってはいないだろう。

フィリディア仕様の厚手のローブでは少し暑い。
レデニスについたら新調する必要があるかもしれない。
額に微かに滲む汗を拭うと少し先を歩くアッシュに視線を向ける。

…あの後から、何処かボーっとした様子で黙々と歩き続けている。

時たま思い出したように明るさを繕ったように話を振ったり、此方が声を掛ければ普段どおり明るく応じるもののその表情には何処か無理が見えた。
魔石の発動がそれだけ大きなショックだったのかもしれない。

僕の方はといえば、ショックを受けていないといえば嘘になるが頭のどこかで予想していた最悪のケース。
予測していた分だけショックは軽い。
それ以上にどちらかといえば、信じがたい気持ちもある。
しかし、確かにあの兵士は一度死に、そして再び生き返った。
その温度の変化をこの手に感じ、魔石の発動の根拠ともなりうる魔力を確かにこの身に感じたのだ。
有り得ないと目を逸らしたところで、事態は変わらない。
ならば魔石の発動の代償がどんなものなのか、コントロールできないものなのか…知らなければならない。



しかし、アッシュにはそう簡単に切り替えることは出来ないのだろう。

まだ数日の付き合いとはいえ、アッシュが前向きでまっすぐな人間だということは僕にもわかった。
そんなアッシュだからこそショックも大きいのかもしれない。
……それが人の命を理不尽に奪う力であるのなら尚更。





どちらも話すことのないまま、黙々と歩き続ける。
暫くすると遠くに広い公道が見えてきた。

「…ディアン、此処で少し休もう。」

「……え?ああ、そうだな。」

足を止め声を掛けた僕に少し遅れてアッシュも足を止めて頷く。

「公道に出れば隠れられる場所はないから。
 少し休んだら一息に公道を抜けよう。」

ここからレデニスはそう遠くないはずだ。
徒歩でもしばらく歩けばつくだろう。
公道はどうしても視野が広く追っ手に見つかり易い。
少しでも身は隠せる方がいい。

アッシュが近くの木の根元に腰を下ろしたのを確認すると、僕も近くの木の幹に体重を預ける。
厚手のローブが重くて、気休めだとわかりつつせめてもとフードを払った。



「……ここはもう、フィリディアではないんだな。」

気候の違いに改めてそう零す。

生まれて初めてあの国を出た。
まだフィリディアに近いこの場所はそんなに気候の高い場所ではないだろうが、あの凍える地で生まれ育った僕には雪が降っていないというだけでまるで気候が違うように感じた。

……この場所が故郷から酷くはなれた場所のように思えた。






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