銀の意志/銀の遺志 ◆hqLsjDR84w



 ◇ ◇ ◇


「戦いの神――『帽子屋(マッドハッター)』のキース・シルバーとして、プログラム・バトルロワイアルの進行を促してくれ」


 ◇ ◇ ◇


 武骨な指につままれて、小さな容器が取り出された。
 ガラス製に見える一方で、また別の素材でできているかのような。
 どうにも得体の知れない、透明なビン。
 そのなかで揺らめくのは、淡くバラ色に輝く液体。
 月や星の光を照り返しているのではなく、液体自身が仄かに発光しているのだ。

 その液体を――見るものが見たならば、こう、呼ぶだろう。

 老いる速度を緩めて死を遠ざける長寿薬。
 いかなる病をも完治させる万能の霊薬。
 万物を溶解して永遠に記憶する媒体。
 自動人形を縛る枷から解き放つ鍵。
 異常な身体能力を得るための糧。
 錬金術の集大成にして到達点。
 人類の夢を現実とする神秘。

 ――――生命の水(アクア・ウイタエ)。

 多くの人々が求めるであろう代物。
 大金をはたいてでも手に入れんとする者も多数いるほどの逸品。
 それが小さなビンに一杯分だけ。
 子どもでも一息で飲み干せるほど僅かな量だけ、ではあるものの。
 この殺し合い――プログラム・バトルロワイアルの舞台に支給されていた。
 いくつもの世界から呼び出された強者たちであろうとも、欲する者は少なくないだろう。
 そんな生命の水は、殺し合い開始からしばらくが経過してようやく表に出て――そして。

 開栓すらされることなく、容器ごと荷電粒子砲に飲み込まれた。

 眩い光を放つ光線を受けた瞬間――いや、接触する寸前にすでに蒸発。
 人類が憧憬してきた夢を叶える霊薬は、呆気なく消滅したのだった。
 内部に残されていた錬金術師『白銀(バイイン)』の記憶も、悲しみも、憎悪も。
 何もかもを破壊し尽くす荷電粒子の極光に喰い千切られて、欠片も残りはしなかった。


 ◇ ◇ ◇


 荷電粒子砲を放った右腕を通常の状態に戻して、キース・シルバーは再びリュックサックを背負う。
 そのまま何事もなかったかのように、北上を再開する。
 支給品を確認したのは、単なる気紛れだった。
 先刻の戦闘からしばらくが経過してから、ふと思ったのだ。
 最高で三つほど道具が支給されているらしいが、自分に配られたものは何なのか――と。
 戦闘用ARMSであるマッドハッターを埋め込まれたシルバーに、武器など必要ない。
 とはいえプログラム開始前に目を通した資料に記されていた道具は、とても興味深いものだった。
 シルバーはマッドハッターによる至高として他の戦闘を見下しているが、行わないワケではない。
 『戦いの神』たる彼は、必要とあらば化学戦をも指示するのだ。
 ゆえに調べることにし、出て来たのが生命の水であった。
 キース・ブラックに手渡された資料によって、その詳細をシルバーは知っている。
 ナノマシンによる再生力が弱まっている現状では、治癒力を底上げするという効果は魅力的だった。

 しかし――――気に入らなかったのだ。

 飲み干した生物に、人形破壊者(しろがね)としての生を強制する呪縛が。
 他者に勝手に過酷な道を押し付けて自由を奪おうという、制作者の意図が。

 キース・シリーズは、人工的に作られた存在だ。
 長兄のキース・ブラックと母たるアリスによって、運命をプログラミングされている。
 シルバーが闘争を求めるのもまた、プログラムにより植えつけられた思考にすぎない。
 だがたとえそうだとしても、いまとなっては関係がないことだ。
 存在を規定するのは、環境でも素質でもない。
 自分自身の意志だ。
 そもそもがプログラムであろうとも、現在のシルバーを形作るのは闘争だけだ。
 戦いの神として、破壊の神として、突き進む。
 それこそがシルバーの意志。
 ブラックの掌の上であろうとも、シルバーは戦闘生命としての生を完全燃焼させることを望むのだ。
 重要なのはシルバーの意志だ。ブラックの思惑ではない。
 ましてや液体に溶け込んだ錬金術師の遺志であろうはずがなかった。

 プログラムの進行を促せ――などというブラックの言葉に従い、先ほどは伊崎剣司との戦闘を切り上げた。
 ただ、それは伊崎剣司では足りないと判断したからだ。
 かなりの実力者でこそあったものの、戦いの神の闘争心を満足させるほどの男とは思えなかった。
 携えていた雷神剣はARMSの天敵となりえるだろうが、マッドハッターは荷電粒子を操るのだ。
 本来の持ち主ならばともかく、手にしたばかりの使い手が放つ電撃程度は耐えきれるだろう。
 金糸雀という愛刀を見つけたあとならば、期待はできるのだが。
 その場合、ブラックの言葉通りに退く気はない。
 正面からぶつかり、戦闘生命としての生を実感するだけだ。
 元より、シルバーが殺し合いの進行だけを優先するはずがなかった。
 もしも高槻涼が暴走していたのなら、シルバーは迷わず相手をするのだから。
 『進行を促す』という指示に従うのならば放っておくべきだろうが、シルバーがジャバウォックとの闘争を見逃すはずがない。
 見越した上で、ブラックは『マッドハッターのキース・シルバーとして』などと言ったのだろうか。
 そんなことを考えながら、シルバーはロングコートの下にある左腕をさすった。
 ジャバウォックの反物質法砲を受けて、大きく抉れた箇所である。
 もはやシルバーが人間形態を取っていても隠し切れぬ、戦闘生命であることの証明。
 傷痕が未だに疼くという事実に口角を吊り上げながら、体内に埋め込まれたARMSコアから共振波を放出する。
 眼前にジャバウォックが訪れることを期待しつつ、シルバーは北へと歩む。



【D-2 南部/一日目 黎明】

【キース・シルバー】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:疲労回復、傷再生、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:闘争を求める。北へ向かう。



【支給品紹介】


【生命の水(アクア・ウイタエ)@からくりサーカス】
キース・シルバーに支給された。
錬金術の集大成『柔らかい石』を水と反応させることでできる、バラ色の液体。
生物が摂取すると、瞳や体毛が銀色になり、身体能力や治癒力が飛躍的に上昇する。
またいかなる物質をも溶かして液中に保管するため、飲めば溶けた物質(人間や人形、それらの一部分)の持っていた記憶や遺志を得ることができる。
今回支給されたのは、錬金術師『白銀(バイイン)』が溶けたものである。
そのため飲むと、彼が得意としていた人形繰りの技術を得ることができるが、同時に彼が抱いていた自動人形への深い憎悪によって人形破壊者(しろがね)となってしまう。
…………どんな物質も溶かしてしまうのなら何に入れられて支給されたのかという話になるが、原作でもビンのような容器に保管されていましたし、それで支給されたということで。


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016:剣迷いなく、道遠し キース・シルバー 057:現在位置~Fly! You can be Free Bird~






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