ヘルダイバー ◆d4asqdtPw2
遥かな高みから睨む双眼。
その猛き視線を全身に浴びても、秋葉流は一向に怯まない。
破壊神を前にしても、独特のその緩い笑みを顔に貼り付けたままで。
その猛き視線を全身に浴びても、秋葉流は一向に怯まない。
破壊神を前にしても、独特のその緩い笑みを顔に貼り付けたままで。
「水鏡とかいう兄ちゃんはどこだ?」
敵意を隠そうともしない巨躯に、彼は少年から預かっていた疑問を届ける。
だが、訊くまでもなく流はすでに真実を悟ってしまっていた。
この規格外の男と対峙した瞬間に。
彼の底知れぬ実力を感じとった、その瞬間に。
そして、残されていた一握の可能性すらも、次の瞬間には朽ちて消えることになる。
敵意を隠そうともしない巨躯に、彼は少年から預かっていた疑問を届ける。
だが、訊くまでもなく流はすでに真実を悟ってしまっていた。
この規格外の男と対峙した瞬間に。
彼の底知れぬ実力を感じとった、その瞬間に。
そして、残されていた一握の可能性すらも、次の瞬間には朽ちて消えることになる。
「あの者のことか……なかなか歯ごたえのある漢であった」
吐血の跡らしき汚れが残る口元を歪め、鬼が笑った。
クワガタ虫のような珍妙な髪型に、時代錯誤な長ラン。
ふざけているのかとしか思えぬような見てくれであった。
しかしながら、ひしひしと伝わるプレッシャーは笑って済ませられるものではない。
吐血の跡らしき汚れが残る口元を歪め、鬼が笑った。
クワガタ虫のような珍妙な髪型に、時代錯誤な長ラン。
ふざけているのかとしか思えぬような見てくれであった。
しかしながら、ひしひしと伝わるプレッシャーは笑って済ませられるものではない。
「どこにいんのかって聞いたはずなんだがなァ……」
流は余裕じみた軽口を零す。
が、立ちはだかる敵との絶望的な戦力差も理解していた。
真っ向勝負になれば、彼の勝ち目は薄い。
流は余裕じみた軽口を零す。
が、立ちはだかる敵との絶望的な戦力差も理解していた。
真っ向勝負になれば、彼の勝ち目は薄い。
「彼奴はこの俺に傷を負わせた」
痺れを切らした男が拳を握り締め、流に歩み寄る。
彼の一歩が大地を揺らし、木々をざわめかせた。
痺れを切らした男が拳を握り締め、流に歩み寄る。
彼の一歩が大地を揺らし、木々をざわめかせた。
「…………そうかい。分かったぜ」
迫る死線に、飄々と笑っていた彼の顔も一転して強張る。
取り出した金色の武器を組み替え、鎖鎌に変形させた。
迫る死線に、飄々と笑っていた彼の顔も一転して強張る。
取り出した金色の武器を組み替え、鎖鎌に変形させた。
「アンタが会話する気ねぇってことがよ……!」
もはや『落下してきた』と表現してきた方が適切だろう拳を、飛びのいてかわす。
ただの打撃は、しかし大地に大穴を穿ち、周囲の木々を根ごとまとめて掘り返す。
戦術もテクニックもあったものではない。
しかし、小細工抜きの力押しこそ何よりも怖い。
もはや『落下してきた』と表現してきた方が適切だろう拳を、飛びのいてかわす。
ただの打撃は、しかし大地に大穴を穿ち、周囲の木々を根ごとまとめて掘り返す。
戦術もテクニックもあったものではない。
しかし、小細工抜きの力押しこそ何よりも怖い。
「逃げるつもりか?」
「そりゃあな」
戦力差を冷静に分析し、退避しかけた流。
牽制するかのように、大男が眼の奥に殺意を潜ませた。
「そりゃあな」
戦力差を冷静に分析し、退避しかけた流。
牽制するかのように、大男が眼の奥に殺意を潜ませた。
「逃げられるとでも思っているのか?」
「どうかな……」
全力で殺しにかかるとの悪魔の予告。
それでも若き僧は、うろたえることはない。
この落ち着きこそが、彼の最たる強みであった。
「どうかな……」
全力で殺しにかかるとの悪魔の予告。
それでも若き僧は、うろたえることはない。
この落ち着きこそが、彼の最たる強みであった。
流は鎌を放り投げ、森を揺らしながら突進してきた化物の腕に鎖を巻きつける。
それを手繰り寄せた勢いを利用して、巨大な二の腕にしがみついた。
ず太い喉もとに刃をつき立て、耳元でささやき掛ける。
それを手繰り寄せた勢いを利用して、巨大な二の腕にしがみついた。
ず太い喉もとに刃をつき立て、耳元でささやき掛ける。
「命が惜しかったらよォ、見逃してくれや」
「無駄だ」
刃などに屈する相手ではない。
この男と会ったばかりの流でさえも、それは分かりきったことだった。
男は象のような巨体に力を込め、上半身の筋肉を膨張させる。
その勢いだけで、小さな僧はいとも簡単に吹き飛ばされた。
「無駄だ」
刃などに屈する相手ではない。
この男と会ったばかりの流でさえも、それは分かりきったことだった。
男は象のような巨体に力を込め、上半身の筋肉を膨張させる。
その勢いだけで、小さな僧はいとも簡単に吹き飛ばされた。
「……やっぱ駄目かい」
「貴様……謀るなよ……」
流は綺麗に着地を決めると、焦った風もなく肩をすくめる。
対する男のこめかみには、太い血管が浮かびあがっている。
その全身から湧き上がる湯気が、掴みどころのない流に対する男の怒りを表していた。
「貴様……謀るなよ……」
流は綺麗に着地を決めると、焦った風もなく肩をすくめる。
対する男のこめかみには、太い血管が浮かびあがっている。
その全身から湧き上がる湯気が、掴みどころのない流に対する男の怒りを表していた。
「この日本番長を前にしてまだ手を抜くかッ!」
蛮声による耳鳴りが、流の鼓膜をけたたましく震わせた。
次の瞬間、巨人の両足を中心として大地に放射状に亀裂が生じる。
桁外れの覇気に、ついに地殻が悲鳴をあげたのだ。
男の両足がズブズブと地面に埋まっていく。
静寂が戻った後には、大男は胸まで大地に埋まってしまっていた。
蛮声による耳鳴りが、流の鼓膜をけたたましく震わせた。
次の瞬間、巨人の両足を中心として大地に放射状に亀裂が生じる。
桁外れの覇気に、ついに地殻が悲鳴をあげたのだ。
男の両足がズブズブと地面に埋まっていく。
静寂が戻った後には、大男は胸まで大地に埋まってしまっていた。
「…………!」
デタラメな強さを目の当たりにし、流の身体が硬直する。
恐れているわけではない。
突風を感じたのだ。
それは敵の声圧でもなければ、巨体が一種のビル風を生んでいるとかいうわけでもない。
風は、彼の心で渦巻き続けている。
今も、なお。
デタラメな強さを目の当たりにし、流の身体が硬直する。
恐れているわけではない。
突風を感じたのだ。
それは敵の声圧でもなければ、巨体が一種のビル風を生んでいるとかいうわけでもない。
風は、彼の心で渦巻き続けている。
今も、なお。
「……分かった。降参だ」
いそいそと地面から這い出る巨人に向け、両手を掲げる。
おとなしく殺されてやるという意味ではない。
いそいそと地面から這い出る巨人に向け、両手を掲げる。
おとなしく殺されてやるという意味ではない。
「日本番長サンよ、あんたは『デザート』ってやつさ」
「俺はそこまで糖分を含んでおらん」
「……本気出せるようになったらまた会おうぜ」
敬礼のようなポーズで別れを告げると、流は蔵王を取り出して日本番長へと投げつけた。
珠の中から出てきたのは、流の数倍の大きさのある透明な熊だ。
ぬいぐるみのように可愛くデフォルメされたその獣は、男の巨体をも飲み込んで内部に閉じ込めてしまう。
脱出しようと彼が拳を振るった次の瞬間……。
熊は内部の日本番長を巻き込んで大爆発を起こした。
「俺はそこまで糖分を含んでおらん」
「……本気出せるようになったらまた会おうぜ」
敬礼のようなポーズで別れを告げると、流は蔵王を取り出して日本番長へと投げつけた。
珠の中から出てきたのは、流の数倍の大きさのある透明な熊だ。
ぬいぐるみのように可愛くデフォルメされたその獣は、男の巨体をも飲み込んで内部に閉じ込めてしまう。
脱出しようと彼が拳を振るった次の瞬間……。
熊は内部の日本番長を巻き込んで大爆発を起こした。
「…………今すぐにでも戦いたいところだが」
後方で生じた轟音。
振り返ることもなく、流は森の中を走り続けた。
日本番長とか言うあの男は、流が今まで相対してきた中でもトップクラスの実力者だ。
雷獣『とら』と同格か、もしかしたらそれ以上の実力をもつ。
だが、それでも……だからこそ、今は戦えない。
独鈷も錫杖も持っていない状態では本気を出せないからだ。
己の『すべて』をぶつけるに相応しい相手だからこそ、その『すべて』を整えてからでなければ挑めない。
ハンデという心残りを背負えば、それが彼の風になる。
後方で生じた轟音。
振り返ることもなく、流は森の中を走り続けた。
日本番長とか言うあの男は、流が今まで相対してきた中でもトップクラスの実力者だ。
雷獣『とら』と同格か、もしかしたらそれ以上の実力をもつ。
だが、それでも……だからこそ、今は戦えない。
独鈷も錫杖も持っていない状態では本気を出せないからだ。
己の『すべて』をぶつけるに相応しい相手だからこそ、その『すべて』を整えてからでなければ挑めない。
ハンデという心残りを背負えば、それが彼の風になる。
「微風でも、風は風だからな」
一度だけ振り返る。
男は追ってこないようだ。
つむじ風が止まないことを確認すると、秋葉流は再び駆け出した。
一度だけ振り返る。
男は追ってこないようだ。
つむじ風が止まないことを確認すると、秋葉流は再び駆け出した。
【A-3 東部 一日目黎明】
【金剛猛(日本番長)】
[時間軸]:不明
[状態]:内蔵にだm「小せえ事は気にするな」
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ファウードの回復液入り水筒@金色のガッシュ、不明支給品0~2
[基本方針]:小せえ事は気にするな
[時間軸]:不明
[状態]:内蔵にだm「小せえ事は気にするな」
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ファウードの回復液入り水筒@金色のガッシュ、不明支給品0~2
[基本方針]:小せえ事は気にするな
◆ ◆ ◆
偵察に立候補した流が帰ってくるまでに、それほど時間はかからなかった。
彼の帰還に、ユーゴーは素直に安堵のため息をつく。
化物じみた強さを誇る巨人と相対したらしいが、目立ったダメージも与えられてはいないようだ。
彼の帰還に、ユーゴーは素直に安堵のため息をつく。
化物じみた強さを誇る巨人と相対したらしいが、目立ったダメージも与えられてはいないようだ。
「それで、あの兄ちゃんは? 水鏡は生きてたんだろ?」
刃が流に駆け寄り、彼のズボンを引っ張って問いただす。
若き侍のその声色から、彼が水鏡とやらの生存を強く信じていることが感じ取られた。
しかし、その期待が現実にはならぬと、テレパシスト・ユーゴーは知っている。
少年の笑顔に対し、流は無言で首を横に振り、応えた。
刃が流に駆け寄り、彼のズボンを引っ張って問いただす。
若き侍のその声色から、彼が水鏡とやらの生存を強く信じていることが感じ取られた。
しかし、その期待が現実にはならぬと、テレパシスト・ユーゴーは知っている。
少年の笑顔に対し、流は無言で首を横に振り、応えた。
「嘘……だろ…………」
少年の顔が見る見るうちに青ざめていく。
彼の心も悲しい青色に包まれていく。
ユーゴーは彼にかけてやる言葉を探したが、何を言っていいのか分からない。
絡めた両手を額に当てて、ただ俯くことしかできなかった。
少年の顔が見る見るうちに青ざめていく。
彼の心も悲しい青色に包まれていく。
ユーゴーは彼にかけてやる言葉を探したが、何を言っていいのか分からない。
絡めた両手を額に当てて、ただ俯くことしかできなかった。
「嘘だ! 生きてるって言ってくれよ!」
悲しみの色は、たちまち激情の赤へ。
流の脚をガッシリ掴んで、前後に振り乱す。
少年が激昂する様を、法力僧は感情のない瞳で見つめる。
悲しみの色は、たちまち激情の赤へ。
流の脚をガッシリ掴んで、前後に振り乱す。
少年が激昂する様を、法力僧は感情のない瞳で見つめる。
「おい……刃、だったか……?」
「俺が行く! この目で確かめるまで信じねえぞ!」
流が口を開くも、刃は聞く耳も持たない。
感情のままに動く少年に、ユーゴーは新宮隼人の姿を見た。
あの少年も彼と同じような反応をするのだろうと。
「俺が行く! この目で確かめるまで信じねえぞ!」
流が口を開くも、刃は聞く耳も持たない。
感情のままに動く少年に、ユーゴーは新宮隼人の姿を見た。
あの少年も彼と同じような反応をするのだろうと。
だが、彼を行かせるわけにはいかない。
ここで少年を死地に赴かせてしまえば、水鏡凍季也の決死の行動も水泡に帰してしまうのだから。
ユーゴーがなんとか刃を説き伏せようと立ち上がった、そのとき。
秋葉流の鋭い眼が、少年剣士を貫く。
それだけで、彼は石化したかのように硬直してしまった。
ここで少年を死地に赴かせてしまえば、水鏡凍季也の決死の行動も水泡に帰してしまうのだから。
ユーゴーがなんとか刃を説き伏せようと立ち上がった、そのとき。
秋葉流の鋭い眼が、少年剣士を貫く。
それだけで、彼は石化したかのように硬直してしまった。
「刃……聞け……ッ!」
「…………お、おぅ」
たじろぐ少年の両肩を、流はしっかりを掴んで放さない。
二人の姿は、年の離れた兄弟のようにも見える。
まるで、流の心に秘められた闇を忘れさせてしまうような光景だ。
だが、天使が読み取った彼の心は、相変わらずの無音状態であった。
「…………お、おぅ」
たじろぐ少年の両肩を、流はしっかりを掴んで放さない。
二人の姿は、年の離れた兄弟のようにも見える。
まるで、流の心に秘められた闇を忘れさせてしまうような光景だ。
だが、天使が読み取った彼の心は、相変わらずの無音状態であった。
「後ろを見ろ」
その言葉を受け、少年がゆっくりと振り向く。
直後、己が瞳の捉えた光景に彼は息を呑んだ。
その言葉を受け、少年がゆっくりと振り向く。
直後、己が瞳の捉えた光景に彼は息を呑んだ。
「私の、せい、で…………ごめんな、さい……」
白い肌を這い落ちる涙が、大地の若草を濡らして弾ける。
うわ言のように繰り返される言葉は、今は亡き剣士への懺悔であった。
崩れ落ちたかのように、両手を地面について座るチェリッシュ。
彼女も、水鏡を救えなかったのだ。
その心うちは、テレパシーで読まずとも察せられるものであった。
白い肌を這い落ちる涙が、大地の若草を濡らして弾ける。
うわ言のように繰り返される言葉は、今は亡き剣士への懺悔であった。
崩れ落ちたかのように、両手を地面について座るチェリッシュ。
彼女も、水鏡を救えなかったのだ。
その心うちは、テレパシーで読まずとも察せられるものであった。
しかし、実際にユーゴーに流れ込んできた彼女の感情はもっと複雑なもの。
その心を支配してるのは、無念や負い目ではなく、恐怖だ。
絶対的な存在に対する怯え。
おそらくは、チェリッシュが話していたゼオンとかいう魔物。
その心を支配してるのは、無念や負い目ではなく、恐怖だ。
絶対的な存在に対する怯え。
おそらくは、チェリッシュが話していたゼオンとかいう魔物。
「サムライってのは、勝手な行動で女を泣かせるやつのことを言うのか?」
「…………」
彼の言葉と少女の涙を受けて、刃の心の焔が弱まっていく。
ユーゴーの脳内に映し出されたのは、美しい女性の姿。
どうやら刃の母親のようだ。
彼と母の間に何があったかは分からないが、その存在が彼に冷静さを取り戻させたのは間違いない。
流の言葉は、相手の弱点を的確に抉る。
刃の母親のことなど知らないだろうに、無意識に思い出に訴えかける話術。
ユーゴーには到底出来ない芸当だ。
「…………」
彼の言葉と少女の涙を受けて、刃の心の焔が弱まっていく。
ユーゴーの脳内に映し出されたのは、美しい女性の姿。
どうやら刃の母親のようだ。
彼と母の間に何があったかは分からないが、その存在が彼に冷静さを取り戻させたのは間違いない。
流の言葉は、相手の弱点を的確に抉る。
刃の母親のことなど知らないだろうに、無意識に思い出に訴えかける話術。
ユーゴーには到底出来ない芸当だ。
「……水鏡は…………サムライだったか?」
「あいつは、あの化物を追い詰めていた」
刃は、振り向くことなくチェリッシュを見たままで流に問うた。
流は間髪いれずに答える。
それが嘘だということは、ユーゴーにしか分からないことだ。
「あいつは、あの化物を追い詰めていた」
刃は、振り向くことなくチェリッシュを見たままで流に問うた。
流は間髪いれずに答える。
それが嘘だということは、ユーゴーにしか分からないことだ。
「本当か?」
「紙一重だったと言ってたぜ」
刃は眼を瞑り、一度だけ大きく息を吸い込む。
冷たい空気で、胸の激情を鎮火させるがごとく。
深呼吸の後、刃は流の元から離れてツカツカと女性に歩み寄った。
顔をあげた彼女の塗れた瞳を見つめながら、彼なりに慎重に言葉を選ぶ。
「紙一重だったと言ってたぜ」
刃は眼を瞑り、一度だけ大きく息を吸い込む。
冷たい空気で、胸の激情を鎮火させるがごとく。
深呼吸の後、刃は流の元から離れてツカツカと女性に歩み寄った。
顔をあげた彼女の塗れた瞳を見つめながら、彼なりに慎重に言葉を選ぶ。
「なんだ……その……ね、姉ちゃんの……せいじゃ、ねぇよ」
「…………でも……」
こういうことは苦手なのだろう。
僅かに朱に染まる頬をポリポリと掻きながら、ぎこちなく女性を励まそうとする。
その思いが伝わったのか、女性も涙を拭って弱々しくも彼を見据えた。
「…………でも……」
こういうことは苦手なのだろう。
僅かに朱に染まる頬をポリポリと掻きながら、ぎこちなく女性を励まそうとする。
その思いが伝わったのか、女性も涙を拭って弱々しくも彼を見据えた。
「さっきは怒鳴ってゴメンな。……俺、強くなるからさ…………」
「…………」
「戦おうぜ、あいつの分まで」
「…………うん」
刃の真っ直ぐな気持ちが届いたようで、取り乱していたチェリッシュも、ひとまずは落ち着いたようだ。
とはいえ、立ち直ったとは言いがたい。
今も彼女の心には恐怖と絶望が渦巻いている。
それを根本から何とかしてやるのは、刃では不可能だ。
彼女の心が必要としてるのは、ユーゴーの知らない別の誰かであった。
「…………」
「戦おうぜ、あいつの分まで」
「…………うん」
刃の真っ直ぐな気持ちが届いたようで、取り乱していたチェリッシュも、ひとまずは落ち着いたようだ。
とはいえ、立ち直ったとは言いがたい。
今も彼女の心には恐怖と絶望が渦巻いている。
それを根本から何とかしてやるのは、刃では不可能だ。
彼女の心が必要としてるのは、ユーゴーの知らない別の誰かであった。
「ありがとな、流」
流の元に走り寄って、刃が礼を述べる。
男は気のない返事を返しただけで、つまらなそうに空を見上げていた。
流の元に走り寄って、刃が礼を述べる。
男は気のない返事を返しただけで、つまらなそうに空を見上げていた。
「…………なぁ、刃」
ポツリと、零した。
彼にしては珍しく、随分と真剣な声。
刃が「ん?」と訝しげに彼を見上げる。
流は一瞬だけチェリッシュに視線を向けると、すぐにまた白んだ天へ戻した。
ポツリと、零した。
彼にしては珍しく、随分と真剣な声。
刃が「ん?」と訝しげに彼を見上げる。
流は一瞬だけチェリッシュに視線を向けると、すぐにまた白んだ天へ戻した。
「男ってのは、一生のうちに何人の女の子の涙をとめてやれるんだろうな?」
「わかんねえよ、んなこたよー」
「…………お子様にはまだ早かったかね」
ヘラヘラ笑う男に、少年は頬を膨らませて抗議する。
本当に、こうして見るだけならば流はいい兄貴分だ。
ユーゴーの顔にも自然と笑みが浮かぶ。
だが、突如として彼女の頭に流れ込んできた思念が、男の仮面を剥いでしまった。
「わかんねえよ、んなこたよー」
「…………お子様にはまだ早かったかね」
ヘラヘラ笑う男に、少年は頬を膨らませて抗議する。
本当に、こうして見るだけならば流はいい兄貴分だ。
ユーゴーの顔にも自然と笑みが浮かぶ。
だが、突如として彼女の頭に流れ込んできた思念が、男の仮面を剥いでしまった。
『そんな目で、俺を見るな……!』
少年と笑いあうその姿からは想像すらできない胸のうち。
少年と笑いあうその姿からは想像すらできない胸のうち。
『俺は、お前らを騙してるだけなんだぜ?』
それは、ユーゴーが今まで危険視していた彼の人物像とも違う。
この男は単なる戦闘狂というわけではないようだ。
それは、ユーゴーが今まで危険視していた彼の人物像とも違う。
この男は単なる戦闘狂というわけではないようだ。
「んじゃ、俺らは行くわ」
刃の頭を乱暴にワシャワシャ撫で、流は別れを告げる。
ひらひらと手を振って、どこかへ歩き出した。
彼らと一緒に行動していくものだと思っていたユーゴーは、突然の別行動宣言に驚き慌てる。
刃の頭を乱暴にワシャワシャ撫で、流は別れを告げる。
ひらひらと手を振って、どこかへ歩き出した。
彼らと一緒に行動していくものだと思っていたユーゴーは、突然の別行動宣言に驚き慌てる。
「なんでだよ。一緒に行こうぜ」
「……探し物があるんでね」
彼を信頼しきっている刃も、もちろん不満を訴えた。
だが男の心は決まっているようで、少年の呼び止める声を聞く耳ももたない。
「……探し物があるんでね」
彼を信頼しきっている刃も、もちろん不満を訴えた。
だが男の心は決まっているようで、少年の呼び止める声を聞く耳ももたない。
「ユーゴー、心配ならあいつらに付いてってもいいんだぜ?」
たしかに、未だ精神が不安定なチェリッシュは心配だ。
幼い刃だけでは心もとない。
ユーゴーが一緒についていてやるのが懸命であろう。
だが……。
たしかに、未だ精神が不安定なチェリッシュは心配だ。
幼い刃だけでは心もとない。
ユーゴーが一緒についていてやるのが懸命であろう。
だが……。
『こんな甘ちゃんどもに構ってる暇はねぇ。殺し合いする武器を見つけねえといけないんだ』
さらに注ぎ込まれる黒い思惑。
彼もほうっておくわけにもいかなかった。
殺し合いに乗り気な分、一人にするのは危険だ。
先ほどの不可解な思念のこともある。
まだ、全貌が見えないこの男から目を離すわけにはいかない。
さらに注ぎ込まれる黒い思惑。
彼もほうっておくわけにもいかなかった。
殺し合いに乗り気な分、一人にするのは危険だ。
先ほどの不可解な思念のこともある。
まだ、全貌が見えないこの男から目を離すわけにはいかない。
「ごめんね、刃くん。私もいくわ」
「ユーゴー……わーったよ」
刃と流を交互に見比べ……彼女は危険な男についていくことを告げた。
勝手に歩いていってしまっている男の背中を、駆け足で追いかける
刃も追いかけようとしたが、チェリッシュを一人置いていくわけにもいかず、諦めて彼女たちを見送ることにしたようだ。
「ユーゴー……わーったよ」
刃と流を交互に見比べ……彼女は危険な男についていくことを告げた。
勝手に歩いていってしまっている男の背中を、駆け足で追いかける
刃も追いかけようとしたが、チェリッシュを一人置いていくわけにもいかず、諦めて彼女たちを見送ることにしたようだ。
「チェリッシュさんのこと、しっかり守ってあげてね」
「おう、任せてくれ。俺たちの仲間に会ったらよろしく言っといてくれな!」
手を振る刃の後ろで座るチェリッシュと眼が合った。
微笑みかけると、彼女も僅かにだが笑みを返す。
これなら大丈夫だろうと、天使は少年たちに背を向けて走り出した。
秋葉流という男を見極めるために。
「おう、任せてくれ。俺たちの仲間に会ったらよろしく言っといてくれな!」
手を振る刃の後ろで座るチェリッシュと眼が合った。
微笑みかけると、彼女も僅かにだが笑みを返す。
これなら大丈夫だろうと、天使は少年たちに背を向けて走り出した。
秋葉流という男を見極めるために。
【A-4 南部 一日目黎明】
【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません
【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎
[道具]:ランダム支給品0~1、基本支給品一式
[基本方針]:本気を出せるような強者と戦う。そのための武器を探す。
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎
[道具]:ランダム支給品0~1、基本支給品一式
[基本方針]:本気を出せるような強者と戦う。そのための武器を探す。
【A-4 北部 一日目黎明】
【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、チェリッシュの魔本@金色のガッシュ、不明支給品0~2
[基本方針]:テッドに会いたい
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、チェリッシュの魔本@金色のガッシュ、不明支給品0~2
[基本方針]:テッドに会いたい
【鉄刃】
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[基本方針]:殺し合いには乗らない。チェリッシュを守る。
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[基本方針]:殺し合いには乗らない。チェリッシュを守る。
【支給品紹介】
【透明の巨大クマちゃん@からくりサーカス】
『最後の四人』の一人、ディアマンティーナの切り札。
飲み込んだ相手を内部に閉じ込めて大爆発する。
『最後の四人』の一人、ディアマンティーナの切り札。
飲み込んだ相手を内部に閉じ込めて大爆発する。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
030:悪魔~デモン~ | 金剛猛(日本番長) | 080:Merry-Go-Round |
鉄刃 | 064:ぎゅっと握って | |
チェリッシュ | ||
001:物語の始まりはそう、為す術のない彼女が―――― | 秋葉流 | 070:流と耕助 |
ユーゴー・ギルバート |