トラッシュ ◆d4asqdtPw2
闇夜の元を悠然と進む、二人の老兵。
彼らが目指す先は近場の小学校だ。
少しばかり急ぎ足なのは、両者共に探し人がいるからであろうか。
しかし、そんな彼らをあざ笑うかのごとく、殺し合いという残酷な現実がその歩みを阻む。
彼らが目指す先は近場の小学校だ。
少しばかり急ぎ足なのは、両者共に探し人がいるからであろうか。
しかし、そんな彼らをあざ笑うかのごとく、殺し合いという残酷な現実がその歩みを阻む。
「お盛んなことだねぇ」
遊園地を出た二人は、さっそく足止めを食うこととなってしまった。
暗き森に突如現れたのは、大地に転がる死体だ。
だが、老婆は微塵も動じることない。
それも当然のことだろう。
彼女は最古のしろがね、ルシール・ベルヌイユ。
自動人形との、永きにわたる戦いを繰り広げてきた女である。
その悠久の生命の最中では、屍など飽きるほど目にしてきた。
今さら見知らぬものが死んでいたからといって、狼狽するはずもない。
遊園地を出た二人は、さっそく足止めを食うこととなってしまった。
暗き森に突如現れたのは、大地に転がる死体だ。
だが、老婆は微塵も動じることない。
それも当然のことだろう。
彼女は最古のしろがね、ルシール・ベルヌイユ。
自動人形との、永きにわたる戦いを繰り広げてきた女である。
その悠久の生命の最中では、屍など飽きるほど目にしてきた。
今さら見知らぬものが死んでいたからといって、狼狽するはずもない。
そんな彼女とは対照的なのが、白髪の男性。
遺骸を憐れんで、彼は僅かに目を細める。
名を蒼月紫暮という。
妖を滅ぼす『獣の槍』の伝承者である少年の父親であり、光覇明宗最強との呼び声高い法力僧だ。
紫暮は無言で膝をつき、物言わぬ青年の瞼をそっと閉じてやる。
彼の腹には大きな穴が開いており、それが死因となったことは明白だった。
遺骸を憐れんで、彼は僅かに目を細める。
名を蒼月紫暮という。
妖を滅ぼす『獣の槍』の伝承者である少年の父親であり、光覇明宗最強との呼び声高い法力僧だ。
紫暮は無言で膝をつき、物言わぬ青年の瞼をそっと閉じてやる。
彼の腹には大きな穴が開いており、それが死因となったことは明白だった。
「……素手、ですな」
「だろうね」
両者の意見が一致する。
普通の人間から見れば、大型の兵器でも用いたのではないかと思われるような傷跡。
だが、彼らは道具も使わずにここまでの破壊を生み出せる存在を知っていた。
ルシールが疑うは自動人形。人に仇成す、悪夢の現況だ。
紫暮の方は妖。こちらはすべてが悪というわけではない。
そのどちらにも共通するのが、人ならず物だということ。
「だろうね」
両者の意見が一致する。
普通の人間から見れば、大型の兵器でも用いたのではないかと思われるような傷跡。
だが、彼らは道具も使わずにここまでの破壊を生み出せる存在を知っていた。
ルシールが疑うは自動人形。人に仇成す、悪夢の現況だ。
紫暮の方は妖。こちらはすべてが悪というわけではない。
そのどちらにも共通するのが、人ならず物だということ。
実際のところ、この青年を殺した下手人はそのどちらにも属してはいない。
けれど、人間でないという一点においては、二人の予測は的中していたのだった。
けれど、人間でないという一点においては、二人の予測は的中していたのだった。
「ご婦人、しばしお待ちください」
紫暮が遺体の顔に付着した汚れをふき取り、てきぱきと着衣の乱れを直してやる。
腹部の赤黒い血痕もどうにかしようと思案したが、手持ちの道具ではどうすることもできず、心中で青年に謝罪するに終わった。
無念そうな死に顔をジッと眺め、紫暮は大きく溜め息を吐き出す。
暖かな呼気は宵の風に連れられて、そこに込められた悲しみを遥か彼方へと運んでゆく。
物言わぬ青年に背を向けると、初老の僧は支給品である鍋の蓋を用いて器用に穴を掘りだした。
紫暮が遺体の顔に付着した汚れをふき取り、てきぱきと着衣の乱れを直してやる。
腹部の赤黒い血痕もどうにかしようと思案したが、手持ちの道具ではどうすることもできず、心中で青年に謝罪するに終わった。
無念そうな死に顔をジッと眺め、紫暮は大きく溜め息を吐き出す。
暖かな呼気は宵の風に連れられて、そこに込められた悲しみを遥か彼方へと運んでゆく。
物言わぬ青年に背を向けると、初老の僧は支給品である鍋の蓋を用いて器用に穴を掘りだした。
「止めておきなよ。関わる義理はないはずさ」
彼が墓穴をこしらえようとしているのに気づき、ルシールが静止する。
こうしている間にも、彼らの探し人が誰かを殺し、もしくは誰かに殺されてしまっているかもしれないのだ。
縁も所縁もない小僧の亡骸に構っている時間など、彼女にとっては無駄なものに他ならなかった。
懸念事項はそれだけにとどまらず、彼を殺した異形がまだこのあたりにいる可能性は高い。
もし、それが自動人形であった場合、たたでは済まないだろう。
万全の状態で戦ったとしても苦戦は必至。
呑気に穴なぞ掘っていては、間違いなくこの青年と同じ末路をたどる事になる。
彼が墓穴をこしらえようとしているのに気づき、ルシールが静止する。
こうしている間にも、彼らの探し人が誰かを殺し、もしくは誰かに殺されてしまっているかもしれないのだ。
縁も所縁もない小僧の亡骸に構っている時間など、彼女にとっては無駄なものに他ならなかった。
懸念事項はそれだけにとどまらず、彼を殺した異形がまだこのあたりにいる可能性は高い。
もし、それが自動人形であった場合、たたでは済まないだろう。
万全の状態で戦ったとしても苦戦は必至。
呑気に穴なぞ掘っていては、間違いなくこの青年と同じ末路をたどる事になる。
「これでも僧侶の端くれなもので」
「…………フン」
紫暮は優しき声を以ってして、ルシールを諭す。
不満そうに鼻を鳴らしながらも、彼女はそれ以上の文句は言わなかった。
男の背中から漂う張り詰めた気配を感じたからだ。
いつ襲われても対応できるように、周囲に警戒を張り巡らせているのだろう。
これならば、たとえ自動人形が襲ってこようとも、即死という最悪の事態だけは回避できる。
即死だけならば、の話ではあるが。
「…………フン」
紫暮は優しき声を以ってして、ルシールを諭す。
不満そうに鼻を鳴らしながらも、彼女はそれ以上の文句は言わなかった。
男の背中から漂う張り詰めた気配を感じたからだ。
いつ襲われても対応できるように、周囲に警戒を張り巡らせているのだろう。
これならば、たとえ自動人形が襲ってこようとも、即死という最悪の事態だけは回避できる。
即死だけならば、の話ではあるが。
「まだ、やりたいことも多かっただろうになぁ」
銀の円盤で土をかきながら、悲しそうに呟いた。
若くして倒れた青年を、自分の息子と重ねているのかもしれない。
彼の肉親である蒼月潮も、この殺し合いに参加させられていた。
もしかしたら、数時間後にはこの光景が我が子を埋葬するソレに変わるのかもしれないのだ。
銀の円盤で土をかきながら、悲しそうに呟いた。
若くして倒れた青年を、自分の息子と重ねているのかもしれない。
彼の肉親である蒼月潮も、この殺し合いに参加させられていた。
もしかしたら、数時間後にはこの光景が我が子を埋葬するソレに変わるのかもしれないのだ。
「くだらない感傷はお止めよ。そいつが善人だった証拠はないんだ」
ルシールが青年の傍らに転がっていたバットらしきものを拾う。
強い力で砕かれた金属棒は、元の半分ほどの長さしか残っていない。
落ちていた位置などから推測するに、これは明らかに青年が振るっていたものだ。
彼がこれを用いて誰かを襲い、返り討ちにされたということも考えられないわけではない。
得体の知れない仏を同情するだけ無駄というものだ。
それを分かっていながらも、紫暮は黙々と青年のための棺を掘る。
横目で睨んだ彼の顔から伝わる人間臭さを痛いほど感じ、ルシールは「それに……」と言葉を続けた。
ルシールが青年の傍らに転がっていたバットらしきものを拾う。
強い力で砕かれた金属棒は、元の半分ほどの長さしか残っていない。
落ちていた位置などから推測するに、これは明らかに青年が振るっていたものだ。
彼がこれを用いて誰かを襲い、返り討ちにされたということも考えられないわけではない。
得体の知れない仏を同情するだけ無駄というものだ。
それを分かっていながらも、紫暮は黙々と青年のための棺を掘る。
横目で睨んだ彼の顔から伝わる人間臭さを痛いほど感じ、ルシールは「それに……」と言葉を続けた。
「死ねるなら、それはそれで幸せなのさ」
自らの銀色の髪の毛を指で梳かす。
人形破壊者の呪われた運命を思って。
彼女たちは、かつて死ななかったから、人間ではなくなった。
今も死ねないから、ずっと苦しんでいる。
安らかな眠りにつけるということは、それはある意味で幸せなことなのだ。
自らの銀色の髪の毛を指で梳かす。
人形破壊者の呪われた運命を思って。
彼女たちは、かつて死ななかったから、人間ではなくなった。
今も死ねないから、ずっと苦しんでいる。
安らかな眠りにつけるということは、それはある意味で幸せなことなのだ。
「えぇ、本当に」
この僧は、しろがねたちの背負ったものなど何にも知らない。
それなのに、彼はルシールの言うことに同意した。
一瞬の躊躇もなく。
揺るぎもなく。
この僧は、しろがねたちの背負ったものなど何にも知らない。
それなのに、彼はルシールの言うことに同意した。
一瞬の躊躇もなく。
揺るぎもなく。
「生きて戦い続けることが、もっともつらいのです」
遠き誰かを想っているかのような声であった。
風に乗っても届かないほど悠遠な、誰かを。
最古のしろがねは、にごり切った眼で男の背中を見つめる。
彼の警戒は、微塵も緩むことはなく。
遠き誰かを想っているかのような声であった。
風に乗っても届かないほど悠遠な、誰かを。
最古のしろがねは、にごり切った眼で男の背中を見つめる。
彼の警戒は、微塵も緩むことはなく。
しばらくの後、青年の身体は冷たい地中に還された。
こんもりと盛り上がった土に向け、紫暮が落ち着いた声で念仏を唱える。
彼は天に昇っていくのだと信じながら。
さすがに慣れたもので、弔いの儀式はあっという間に終了した。
こんもりと盛り上がった土に向け、紫暮が落ち着いた声で念仏を唱える。
彼は天に昇っていくのだと信じながら。
さすがに慣れたもので、弔いの儀式はあっという間に終了した。
「名も知らぬ青年よ、安心しなさい。あの世は年中無休だ」
「なんだえ、そりゃ?」
エゴだと分かっていても、紫暮は少しでもやさしい言葉で見送ろうとする。
しかし、彼のその言葉選びに、老婆がすかさずツッコミを入れた。
「なんだえ、そりゃ?」
エゴだと分かっていても、紫暮は少しでもやさしい言葉で見送ろうとする。
しかし、彼のその言葉選びに、老婆がすかさずツッコミを入れた。
「いやぁ、急に思いつきまして…………」
「みっともないからお止め」
「ですな。ちょっと酷かったか……ハハハハハ……」
彼女の言葉で我に返った法力僧が、たまらず乾いた笑いでごまかす。
咄嗟に思いついたことを考慮しても、あまりにダサいフレーズだ。
もし、こんな決め台詞を放つものがいるとすれば、余程センスのない人間なのであろう。
今のは異常事態のせいで気に迷いが生じただけなのだと、綺麗さっぱり忘れることにした。
「みっともないからお止め」
「ですな。ちょっと酷かったか……ハハハハハ……」
彼女の言葉で我に返った法力僧が、たまらず乾いた笑いでごまかす。
咄嗟に思いついたことを考慮しても、あまりにダサいフレーズだ。
もし、こんな決め台詞を放つものがいるとすれば、余程センスのない人間なのであろう。
今のは異常事態のせいで気に迷いが生じただけなのだと、綺麗さっぱり忘れることにした。
「墓標もないが……」
去り際、小さな声で青年に謝罪する。
こんな状況なのだから、仕方がない。
ちゃんと成仏させられるだけ幸せというものだ。
……と、先を歩いていたルシールが突如として踵を返し、盛り土の前で立ち止まる。
そして、先ほど拾ったバットを、茶色の布団に突き刺した。
墓碣代わりということらしい。
去り際、小さな声で青年に謝罪する。
こんな状況なのだから、仕方がない。
ちゃんと成仏させられるだけ幸せというものだ。
……と、先を歩いていたルシールが突如として踵を返し、盛り土の前で立ち止まる。
そして、先ほど拾ったバットを、茶色の布団に突き刺した。
墓碣代わりということらしい。
「よろしいのですかな?」
薄っすら笑みを浮かべつつ、尋ねる。
対するルシールは、相変わらずの鉄面皮だ。
それでも、紫暮は彼女の新たな一面を見た気がした。
真ん中から折れてしまっているとはいえ、金属バットの攻撃力は侮れない。
貴重な近接武器として、少なくとも鍋蓋よりは重宝しただろうに。
感傷的になることを否定した彼女にしては、随分と人間じみた行為だ。
薄っすら笑みを浮かべつつ、尋ねる。
対するルシールは、相変わらずの鉄面皮だ。
それでも、紫暮は彼女の新たな一面を見た気がした。
真ん中から折れてしまっているとはいえ、金属バットの攻撃力は侮れない。
貴重な近接武器として、少なくとも鍋蓋よりは重宝しただろうに。
感傷的になることを否定した彼女にしては、随分と人間じみた行為だ。
「…………そんな下品なガラクタは要らないのさ」
開いた両手を掲げながら、ルシールは再び歩き出す。
その小さな背中を、紫暮が頭をかきながら追いかける。
不意に気配を感じて振り返ると、月夜に照らされた金属バットがにわかに輝いた。
……ような気がした。
開いた両手を掲げながら、ルシールは再び歩き出す。
その小さな背中を、紫暮が頭をかきながら追いかける。
不意に気配を感じて振り返ると、月夜に照らされた金属バットがにわかに輝いた。
……ような気がした。
【A-3 一日目 黎明】
【ルシール・ベルヌイユ@からくりサーカス】
[時間軸]:真夜中のサーカス襲撃直前
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM84
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:ドットーレを最優先で探し、殺す。小学校へ行く。
[時間軸]:真夜中のサーカス襲撃直前
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM84
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:ドットーレを最優先で探し、殺す。小学校へ行く。
【蒼月紫暮@うしおととら】
[時間軸]:詳しくは不明だが、とらとは面識がある状態、かつ白面を倒す前からの参加
[状態]:健康
[装備]:鍋の蓋
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(未確認)
[基本方針]:潮、ドットーレを探す。小学校へ行く。
[備考]:ルシールを少しだけ警戒しています。
[時間軸]:詳しくは不明だが、とらとは面識がある状態、かつ白面を倒す前からの参加
[状態]:健康
[装備]:鍋の蓋
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(未確認)
[基本方針]:潮、ドットーレを探す。小学校へ行く。
[備考]:ルシールを少しだけ警戒しています。
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011:宵闇の唄 | ルシール・ベルヌイユ | 086:オヤジよりさらに年上のばーさん |
蒼月紫暮 |