雷人具太陽(ライジングサン) 前編 ◆AJINORI1nM



 武士がゼオンと共に東に飛んで行った後、ジャンは自分と武士の支給品を確認していた。
 ゼオンとの戦闘により、自力で歩くにはダメージを負い過ぎていたジャンは、
支給品の中に何か行動の補助になるものはないかと思ったのだ。
 リュックの中身を見てみれば、空飛ぶホーキ、戦国時代の忍びが作ったという魔導具、霊力を備えた青紫水晶、
そしてインドラの雷撃『ヴァジュラ』と、アーカムで扱うようなオーパーツが続々と出てくるではないか。

 ヴァジュラは聖杯の一件で破壊されたと聞いている。
 偽物だろうと試しに使ってみたが、ヴァジュラは伝承の通りに雷を放った。
 本物と見て間違いない。が、ヴァジュラが二つ存在するという話は聞いたことがない。
 死者の復活といい、この大量のオーパーツといい、敵の強大さを思い知らされた気分だった。

 とにかく、わからない事をうだうだと悩んでいても何も始まらない。
 移動は空飛ぶホーキである『青き稲妻』を使うとして、支給品の中から青き稲妻と相性の良い武器を選ぶ。
 ジャンが選んだものは、鎖で繋がった一対の手甲と霊力を備えているという青紫水晶の二つ。
 手甲の名は『門構(もんがまえ)』。青紫水晶は『翠龍晶(すいりゅうしょう)』という。

 門構は様々な効果を発揮する魔導具だが、『無名(むみょう)』という魔導具が装着されなければただの大きな手甲にしかすぎない。
 門構を選んだ理由は、単純に扱い易いからだ。
 この手甲は手のひらを出せる形になっているため、箒(ほうき)である青き稲妻の柄を掴む事ができる。
 敵に遭遇した時は、青き稲妻で敵に突っ込み手甲で殴り倒そうと考えたのだ。

 『閻水(えんすい)』という水を刃に変える魔導具もあったが、青き稲妻を使う以上、
片手で青き稲妻を掴み、もう片方の手で攻撃をするという戦法を取らざるを得ない。
 片手、それも疲労困憊の状態で閻水を使ったとしても、上手く扱えるとは思えなかった。
 ヴァジュラは大きさと重さから言って論外だ。
 故に、手甲で殴るという単純な戦法の取れる門構を選んだのだ。


 それに、とジャンは先程の戦いで見た武士の姿を思い出す。
 武士は、敵であってもその命を救おうと、自身を顧みず(かえりみず)に己の信念を貫き通していた。

 閻水を武器に選ばなかった理由は、扱いにくいというだけではない。
 使おうと思えば、閻水で作った水の刃の切っ先を敵に向けた状態で青き稲妻を突撃させることも、
敵の横を通り過ぎる際に撫で切る事もできない訳ではないのだ。
 説明書によれば青き稲妻は音速を超えることができるとあるので、
高速で移動すれば軽く撫でるだけでも十分に致命傷を負わせることが可能だろう。
 だが、それでは駄目なのだ。

 武士に命を救われた自分が、武士の信念を汚すような行為をして良い訳がない。

 ジャンは、例え敵であっても武士の信念を守るため、命までは奪うまいと心に決めていた。
 しかし、それはあくまで無力化できる相手の場合だ。
 先程のゼオンのように殺し合いにのった強者が相手の場合、
武士のように自分を犠牲にしてまで殺さずに戦う事ができるかと聞かれれば答えはノーだ。
 殺すしか方法がないという相手は、確かに存在する。
 その相手が仲間を殺そうとしているとなれば尚更だ。

 武士は日常に帰るために誰も殺さない道を選んだ。
 だが、自分はアーカムのS級エージェント、スプリガンのジャン・ジャックモンドだ。
 生きる場所も帰る場所も戦場である。
 敵を殺す事に躊躇いはない。
 そう思うのだが、武士の姿が心にちらつき、本当にそれで良いのかという気持ちが生じている。

 強大な敵に出会った時、自分はどうするのか。
 殺すのか、それとも武士のように殺さずに戦うのか。
 答えは出ない。



「ええい考えても仕方ねえ! まずはこいつを試さねえとな」


 ジャンは、門構にある窪み(くぼみ)に翠龍晶を嵌め込んだ。
 本来ならば無名を嵌めるその窪みに、翠龍晶は不思議とぴったり嵌まった。

 門構は、魔導具の中でも少々風変わりな魔導具である。
 鎖で繋がった手甲を合わせることで『門』という文字を形成する作りになっており、
その『門』の中心に無名という何も書かれていない宝玉を嵌めこむことで、初めてその能力を発動させる。
 この無名に文字が浮かび上がることで門構えの漢字を表し、出来上がった漢字の意味に沿った効果を発揮するのだ。

 例えば、無名に『音』の文字が浮かべば『闇』の漢字が出来上がり、周囲の人間の視界を完全に奪い文字通り相手に闇をもたらす事ができ、
無名に『人』の文字が浮かべば『閃』という漢字により閃光を放ち、目眩まし(めくらまし)に使う事ができる。

 ジャンは、門構発動に必要とさえる無名を、それらの効果を発揮するためのエネルギー源であると仮定していた。
 どちらか一つでは発動せず、二つ組み合わせることで初めて効果発揮する。
 門構と無名の二つは、機械と電源の関係にあるのではないかと思ったのだ。

 門構だけではエネルギーが無いため効果を発揮できず、無名だけでもそのエネルギーを使う機構が存在しないため効果を発揮しない。
 ならば、この霊力が備わっているという翠龍晶を使えば、霊力をエネルギーとして『門』の能力だけでも使えるのではないか。
 そう考えたジャンは、試しに使ってみようと翠龍晶を門構に嵌め込んだのだ。

 門構を発動させえた結果は、門扉が目の前に出現することにより現れた。
 門構は、ジャンの思惑通り、翠龍晶の霊力を使うことで『門』の能力を発動させたのだ。
 説明書によれば、この扉は異空間へ繋がっているらしい。
 無名が無いため出現した扉を開け閉めすることはできないが、何も扉の使い道は一つではない。
 コップに花を挿して花瓶として使うように、人間の発想にかかれば本来の用途以外の使い道を道具に示す事も可能なのだ。


「よし! この門は壁に使えそうだな。それじゃ、そろそろ移動するか」


 『門』の能力を攻撃を防ぐ守りの壁に使うこと思い付いたジャンは、目の前に出した門扉を消すと移動の準備を始める。
 武士の支給品を自分のリュックに全て移し、武士のリュックを蔵王の中に仕舞う。
 二つのリュックを持っていては、他の参加者に誰かを殺して奪ったのではないかと疑惑を持たれかねない。
 ここに置いていくにも、武士と合流した際に武士の支給品を入れる入れ物が無くなってしまう。
 そこで、ジャンは青き稲妻を出して空になった蔵王に武士のリュックを入れ、武士と再開した際に支給品と共に返還しようと考えたのだ。

 リュックの中身を移したのは、リュックの中に物が入っている状態では、リュックを蔵王に収納する事ができなかったからだ。
 どうやら、複数の物を蔵王に入れる事は出来ないという制限に引っ掛かるらしい。


 荷物の移し替えを終えると、門構を両腕に装着したジャンは青き稲妻に跨った(またがった)。
 目指すは武士とゼオンの飛び去った東の方角だ。
 青き稲妻に念波で指示を送ると、空飛ぶホーキは宙に浮かび、ジャンの思った方角、東へ向けて前進を始めた。]





◆ ◆ ◆





 街路樹と街灯が並ぶ道路。
 その歩道を美神令子は歩いていた。
 向かう先はもちろん地図の外。
 殺し合いをする気などさらさらない。


「アシュタロスが居るこんな所に居られるもんですか! 私は出てくわ!」


 彼女はアシュタロスに命を狙われている。
 正確に言えば、彼女の魂に存在するエネルギー結晶を狙われているのだが、そのエネルギー結晶を取りだすためには美神の魂がなくてはならない。
 魂を抜き出すには肉体を殺してしまうのが一番手っ取り早い方法だ。
 つまり、アシュタロスがエネルギー結晶を手に入れる過程として、美神の殺害が必要になっているのだ。

 どんな理由であろうと、殺されるのはまっぴらごめんである。
 元凶であるアシュタロスを倒すにしても、アシュタロスは超上級魔族であり、実力者とはいえ人間である美神では到底太刀打ちできる相手ではない。
 対峙してしまったら、逃げる以外に道がないのだ。
 幸い、自分が飛ばされたのは会場の端に近いB-5エリアの十字路。
 他の参加者も自分と同様に飛ばされているのだろうが、こんな端の方で出会う可能性は少ないだろう。
 とにかく、こんな物騒な場所に長居は無用だ。
 早々におさらばするに限る。と、美神は周囲を警戒しつつ歩を進める。


「神通棍は事務所に置いてきちゃったみたいだし、支給品とかいうのは『鍋』に『土手鍋』と鍋しかないし……」


 美神に支給された物は、とても殺し合いの武器とは呼べない代物が二つあるばかりであった。
 一つは、ごく普通の『鍋』。
 本当に何の変哲もない鍋だ。
 これで他の参加者を殴れば良いのだろうか?

 もう一の支給品は『土手鍋』。
 説明書に書いてあるその名前を見ただけで、美神は説明書ごとリュックの中に戻してしまった。
 わざわざ説明されなくとも土手鍋がどういう物かは知っている。
 広島の郷土料理だ。
 以前仕事で広島に行った時に食べた記憶がある。

 他に何かないかと探してはみたが、『鍋』と『土手鍋』以外には何もなかった。
 どちらも蔵王というオカルトアイテムに収納されている。
 普通の鍋は蔵王から出して一応の確認をした後、蔵王の中に再び収納した。
 土手鍋の方は取り出してすらいない。

 金物の鍋に鍋料理。
 こんな物で殺し合いをさせる主催者の意図がわからなかった。
 もしかして、これは『ハズレ』という事なのだろうか。
 美神は夜の道を歩きながら、小さく溜め息を吐いた。


「はぁ。そもそも普通こんな所に大勢集めたくらいで、殺し合いなんか起こるわけ……あっ」


 最初に集められた広場で、ブラックと名乗る男が言っていたことを思い出す。
 集められた者の首には首輪が嵌められており、任意で爆発させる事ができる、とブラックは言っていた。
 恐る恐る、首に手を当てそれを確認する。
 金属製のその感触を確かめ、ごくりと唾を飲み込んだ。
 嫌な想像が頭に浮かんだのだ。

 今自分は地図の外へと向かって進んでいるが、地図の外へと足を踏み出した瞬間に首輪が爆発する、等という事が起こらないだろうか。
 殺し合いを強要されている上に、爆弾入りの首輪まで嵌められているのだ。
 その可能性は十分にある。


「じょ、冗談じゃないわ……。まずはこの首輪をなんとかしないといけないじゃない……。
 オカルトグッズならまだしも、こんな爆弾なんて専門外だし……あ、そうよドクター・カオスが居るじゃないの!」


 ぽん、と手を叩いて名簿にあった知り合いの名を思い出す。


「……いや、でも……大丈夫かしら?」


 しかし、直後に不安そうな顔つきになると、口元に手を当て悩んでしまう。

 ヨーロッパの魔王ドクター・カオス。
 世界で唯一人造人間の開発をも成功させた人物であり、かの悪名高き吸血鬼ブラドーを圧倒した実力者。
 技術に関しては右に出る者が居らず、魔族が仲間に引き込もうと画策する程の頭脳を持つ優秀な錬金術だ。
 天才とは、正に彼のためにある言葉である!

 ……というのは今は昔の物語。
 長く生きたせいでボケが進行しており、今では単純な掛け算も間違えるまでに落ちぶれてしまっている。
 たまにとんでもない発明をしたり、メドーサの魔法陣を解析して異界から元の場所へと戻してくれたりと、
その頭脳が完全に衰えてしまった訳でもないのだが……。


「いきなり自分の首輪を任せるってのは正直不安だわ。でも、首輪をなんとかできそうなのはカオスしか居ないし……。
 せめてマリアのサポートがあれば安心なんだけど……う~ん……」

「何かお困りかな? そこのお嬢さん」

「! 誰!?」


 考え事をしていて油断していたか。
 声がした方を見れば、街灯の下に老人が立っている。
 老人はにこやかな笑顔を浮かべると、言葉を続けた。


「いやいや、私は決して、怪しい者ではない。才賀正二というしがない老人さ」

「才賀……正二?」


 名簿の中にあった名前だ。
 手に赤い本を持っているが、見た目は普通の老人に見える。



「ああ、才賀正二。それが私の名前だよ。こんな所にいきなり連れてこられて途方にくれていたら、道を歩くあなたの姿が見えてね。
 殺し合いをしそうな雰囲気でもないし、初めて出会う人間だ。声をかけてみたという次第なんだよ」


 そう言うと、正二と名乗った老人は美神へ近付くために歩き出す。


「首輪がどうのと聞こえたが、私に見せてもらえないかな? こう見えても技術職で働いていてね。
 自分の首輪は見れないが、君の首輪を見せてもらえば、外し方もわかると思うんだ」


 人当たりの良さそうな笑顔を向けながら、老人の言葉は続く。


「もちろん、工具がないから今すぐに首輪を分解するのは無理だが、見てみないことには必要な道具の見当を付ける事もできないからね。
 どうだい? 悪い話ではないと思うんだが……」

「動かないで!!」


 にこやかに話しかけていた老人に向かって、美神は語気を強くして老人に叫んだ。
 老人は立ち止まると、はっとした表情になり、悲しそうに口を開く。


「ああ、すまない。初対面の相手に自分の首を見せろだなんて……。私は、相手の気持ちを考えるのが下手だなあ……。
 悪かった。いや、君が私を信用できないというなら──」

「ねえ、あなた、どうしてリュックを二つも背負ってるの?」


 美神の言葉を聴くと、老人はきょとんとした顔をして動きを止めた。
 老人の背には二つのリュック。
 その二つ共が、食糧や支給品を入れるために主催者から配られたものと全く同形のものだ。
 支給品にリュックがあったのかもしれないが、二つも一緒に背負うというのはどう考えても不自然だ。
 それに、中に何かが入っている事がわかる膨らみが、どちらのリュックにも見られる。

 真っ先に思い付くのは、二つ目のリュックは他の参加者の物であるという事。
 間違いなくこの老人は他の参加者と接触しているはずだ。
 だというのに、先程この老人は初めて人間に出会ったと言っていたではないか。
 二つ目のリュックの持ち主が近くに居らず、尚且つ嘘まで吐いているとなれば、答えは自ずと(おのずと)見えてくる。


「まさか……」

「ククッ……。クックックッ、アーッハッハッハ!」


 美神が老人に対して身構えると、老人は大声で笑い始めた。
 その異様な光景に、美神は背筋に薄ら寒いものを覚える。


「アッハッハ、いやあ、気付かれてしまったか。これは失敗だ。ま、気付かれるようにわざとこんな恰好をしていたんだけどねー」


 老人は先程までのにこやかな表情から一転し、にやにやと嫌な笑みを浮かべると止めていた足を再び進め始める。

 この老人は何かおかしい。
 今の言動といい、きっと殺し合いに乗っている。
 そう感じ取った美神は、老人から離れるべく道路から開けた草原へと急いで移動する。


「おいおい、そこまで嫌わなくでも良いだろう? 女性に逃げられるというのは、傷付くんだよ」

「あなた、殺し合いに乗ってるんでしょう!? そのリュックも誰かを殺して奪った物!?」


 美神は老人と十分に距離をとりながら叫ぶ。
 おそらくは先程のように自分を無害な老人に見せ、隙を見て他者を殺害したのだ。
 なんとも狡猾な爺さんだと美神は思った。


「残念! いやあお恥ずかしながら、まだ誰も殺してないんだなぁ、これが」

「まだ!? これから殺す気満々って事!?」

「うーん……。そーだなあ……」


 老人は顎に手を当て、考える仕草をする。
 そして、何かを思いついたのか、そのにやついた目を美神へと戻した。


「そうだ。君、今から面白いものを見せてあげよう。世にも奇妙なショータイムの幕開けさあ」

「悪いけど、あんたが開くようなショーを見る気はないわ」

「まあまあそう言わずに。楽しい楽しいショーがはーじまーるよ~~」


 老人は大仰に両手を広げると、口上を述べ始める。


「さあさあお集まりいただいた淑女のために、一世一代の芸をお見せいたしましょう!
 遠からん者は音に聞け! 近くな者は刮目せよ! この才賀正二、呪文と共に口から雷を飛ばしてご覧に入れましょう!!」


 そう叫ぶや否や、老人が手に持つ赤い本が輝き始める。
 老人は闇のような笑みを浮かべており、本の輝きに照らし出されたその顔は不気味と言う他ない。


「ザケル!!」

「なっ!?」


 老人が呪文を唱えると、宣言通り口から雷撃を放った。
 雷光は闇夜に光をもたらし、美神の数歩前の地面を黒く焦がす。


「ハハハハハ! 驚いたかい? さあて、出せる雷はこれだけにあらず! 観客はしかと刮目せよ! 雷の連続攻撃なり~!」


 再び老人の持つ本が輝きを増す。
 またあんな攻撃をされたのではたまったものではない。
 美神は全速力で老人から逃げる。


「ザケル!!」


 老人の口から再び雷撃が飛び出す。
 美神は老人が叫ぶと同時に進行方向を変え、辛うじて(かろうじて)雷撃を避ける。
 しかし、老人の攻撃はこれで終わったわけではなかった。


「ザケル! ザケル! ザケルゥ!!」


 間髪入れずに呪文が続く。
 いかに優秀なゴーストスイーパーと言えども、美神は人間以上の身体能力を持っているわけではないのだ。
 連続で放たれた雷撃、その三発目が美神の左脚に直撃する。
 雷撃は左脚から全身を駆け抜けると共に美神の体に激痛をもたらした。


「ああっ!!」


 美神はその場で地面に倒れる。
 走っていたせいで地面を滑り、草と小石で腕や脚を擦り剥いた(すりむいた)。
 体を起こそうとするが、全身が痺れて上手く体を動かせない。
 焼けるような痛みで呼吸も満足にできない状態だ。

 そんな美神の姿を見ながら、老人は高らかに笑い声を上げている。


「アーッハッハッハッハッハ!! いやあ、人が苦しむ姿は何度見ても愉快だねえ。楽しませてくれてありがとう。
 そのお礼に、もう一度雷を浴びせてあげるよ」


 倒れている美神からは見えないが、老人があのにやついた顔をしている事は容易に想像できた。
 自分にある武器といえば鍋しかない上にそれもリュックの中。
 取り出している暇がないどころか、出したとしても対抗できそうにないハズレ支給品だ。
 逃げるのが一番の選択肢なのだが、体を思うように動かすことができない。
 そんな美神に向かって、老人は死刑宣告を言い放った。


「さあいよいよフィナーレとなりました! 才賀正二、最後の芸です! どうか刮目してご覧ください!
 今度の雷は、今までとは一味違うものとなりましょう!!」


 老人の持つ赤い本が、美神に死をもたらすために不気味な光を放ち始める。
 さっきまで放った雷撃よりも強力な雷を放とうとしているのか、赤い本は一層強く光輝いている。



「ザケ──」

「そこまでだぜ!!」


 老人の呪文は、突如として現れた人物によってその詠唱を中断された。
 人物の名前はジャン・ジャックモンド。
 東へ向かって飛んでいる途中、叫び声を聞いた彼は急ぎこの場所へと駆け付けたのだ。
 到着した彼の目に飛び込んできたのは、地に伏す女性と高笑いをする老人の姿。
 この光景を見れば、どちらが被害者と加害者かは一目瞭然だろう。


「おおっと! 危ない危ない」


 ジャンは腕に装着した門構で老人を殴りつけようと、片手で箒に掴まりながら老人に向かって突撃した。
 しかし、紙一重のとろで老人にかわされてしまう。
 老人はわざとらしく二、三歩よろけて見せると、ジャンの方へと顔を向けた。


「チッ!」


 ジャンは舌打ちをすると、空中で箒を方向転換し、老人へと向き直る。
 ジャンの服は所々焦げ付いており、顔には血の跡も見える、
 ゼオンとの戦闘により、体は疲労困憊だ。
 しかし、その双眸から闘志の炎は消えていない。
 鋭い眼光を放ち、老人を睨みつける。
 対照的に、老人は満身創痍な彼を見るや顔を歪め、その両眼から涙を流し始めた。


「おお、一体どうしたんだい? 酷くぼろぼろじゃないか……。君のような青年がこんな目に会うなんて……さあ、今すぐ傷を見せなさい!
 私は医者だ! おっと、その前に早く安全な場所まで逃げなくてわ! この女は殺し合いに乗っていて、私は襲われているところだったんだ!!」


 老人は嗚咽に咽び(むせび)ながら、青年の姿を労わる(いたわる)発言をする。
 そして必死の表情で青年に危険を伝え、この場から逃げるように呼びかけた。


「何とか反撃して倒したところなんだが、まだ安心はできない! 端から見れば私が襲っていたように見えたかもしれないが、どうか信じて欲しい!
 さあ、一緒に逃げよう!!」

「なっ……何言って……」


 美神は老人に言葉に反論しようとするが、まだ呼吸は整っていない。
 美神の小さな声は、ジャンには届かない。


「……ハッ! なぁにが襲われてた、だ! その背中にある二つのリュックはなんなんだよ!!」


 ジャンは老人の背中を指さして叫んだ。
 美神の声が聞こえなくとも、状況からして老人が殺し合いに乗っているのは明白だった。
 だが、老人の言葉にジャンは迷う。
 リュックを二つも持っている事からかなり怪しいが、自分もリュックを二つ持っているため人の事を言えた立場ではない。
 もしかしたら、自分のように誰かから託されたものかもしれないし、偶然拾ったということも考えられる。
 しかし、普通の老人ならば敵とは言え攻撃する相手に向かってあのような高笑いをするだろうか?

 一瞬迷った後、ジャンは老人に対して鎌を掛けることにした。
 嘘を吐く可能性もあるが、リュックを二つ持っている事に何か理由があるのならば、必ず弁明するはずだ。

 言葉を受けた老人を注意深く観察してみれば、悲しみの表情から普通の顔に戻っている。
 そして、溜め息を一つ吐くと、涙を拭う(ぬぐう)事もせず、あー嫌だ嫌だと頭を振るっている。


「あーあー、まったくばれるのが早すぎる。やっぱりこの格好は駄目だね。すーぐに疑われるよ。
 もう中身だけ自分のリュックに移して、邪魔にしかならない奪った方のリュックはそこら辺に捨てようかなァ」

「てめえ……」


 ジャンは老人の反応に怒りを覚えた。
 今の発言でこの老人は黒に確定した。
 それも他人を傷つけても何とも思わないような、武士とは正反対の真っ黒な人物だ。


「てめえ、そのリュックの持ち主をどうしやがった! 答えろ!!」


 ジャンは老人に向かって怒声を飛ばす。
 対して老人は、ジャンの言葉に飄飄とした態度で答える。


「アッハッハ、いやだなあ、両肩の関節を外して気絶させただけだよ。
 五歳くらいの少年でね、優しい王様になるのだ~なんて気っ持ち悪いこと言いやがるからさあ、思わず手が出ちゃってね。
 ついでに荷物を奪っちゃったよ。今そいつ寺に居るんだけどさ、今頃すやすや眠ってんだろうな~、あー気持ち悪りい!
 戻って殺そうかな、そうだ殺そう。だってキモいもんね」


 にたにたと笑いながら、老人は楽しそうに喋っている。
 今まで悪人はごまんと見てきたが、これ程不快な人間を見たのは初めてだった。
 こんないかれた老人を野放しにするわけにはいかない。


「爺さん、悪いが少し眠ってもらうぜ!!」


 先程よりも速く青き稲妻を操り、老人に向けて再度突進する。
 しかし、再びかわされてしまう。
 青き稲妻に慣れていないため、直線の動きしかできないのが原因かもしれない。
 それに、この老人は見た目とは裏腹に俊敏だった。
 まだまだ余裕があるように見える。


「気を、付けて。そいつ、口から雷を吐くわよ……」

「なに!?」


 呼吸が整ってきた美神が、ジャンに警告を発する。
 見れば、老人の手には赤い本。
 ゼオンの持っていた本と色は違うが、酷似した装丁のものを持っている。
 この老人は口から雷撃を放つと言うのか。
 あの本も、オーパーツの一種なのだろうか。


「アハハハ! じゃあリクエストにお答えして、山をも砕く特大の雷を披露するとしようかな!」


 そう言うや否や、老人の持っている本が一際強い光を放ち始める。
 まずい、とジャンは思う。
 老人に突っ込んだところで、またかわされてしまえば一巻の終わりだ。
 逃げるにしても、倒れている女性を置き去りにはできない。
 女性を抱えて逃げることも、今のジャンでは不可能だ。


「くそっ!!」


 ジャンは女性の所へと急いで青き稲妻を走らせる。
 老人はそんなジャンを顔で追いながら口を開いた。


「第三の術! ジケルド!!」

「門構ええええええええ!!!」


 女性の近くまで寄ったジャンは、両腕の手甲を一つにし、門構を発動させる。
 どの程度耐えられるかはわからないが、今はこれに賭けるしかない。

 老人と二人の間に、禍禍しい門扉が出現した。




「……………ん?」

「へぇ~、門か。それはあれかな? どこかに繋がっているのかな?」


 門構は確かに発動した。
 しかし、老人が電撃を、いや、何か攻撃をしたようには感じられない。
 こちらに来たものと言えば、気の抜けた老人の声だけだ。


「あ、さっきのは冗談だよ。実はザケル! しかどんな呪文か知らないんだ。悪いね。私はそろそろお暇(いとま)させてもらうよ。
 ほら、あのガキを殺しに行かなきゃいけないしさ」


 『ザケル』の部分だけ強く発音していたが、電撃等の攻撃が来る様子はない。
 今さっき叫んだ『ジケルド』といい、自分で術のコントロールができるらしい。
 ゼオンと同じ呪文というのが気になるが、それよりも後半部分の発言が問題だった。
 『あのガキ』とは、先程言っていた荷物を奪った子供のことなのだろう。
 その子供を殺しに行くと言っている老人を、ここで見逃す訳にはいかない。
 それが、武士に命を救われた自分の役目だ。


「行かせるか!」

「さあさあ刮目せよ! この才賀正二が取り出したるは一着のローブ!!」


 ジャンが行動を始める頃には、老人はすでに喋りだしていた。
 そして、青き稲妻を操るジャンが門の陰から飛び出した時には、老人は手に漆黒のローブを持っていた。


「このローブはなんと! 着た者の姿を完璧に消し去ってしまうのです!」


 老人はそう言うと、素早い動作でローブを被る。
 するとどうだろうか。老人は言った通りその姿を消してしまった。


「チィッ!!」


 ジャンは、老人は姿を消した場所へ向けて突撃する。
 老人が移動した気配はなかったため、今ならばまだ攻撃も当たるはずだ。
 だが、それを嘲笑う(あざわらう)かのような声が辺りに響く。


「しかも足音まで消してくれる優れ物! これで君たちは私を追う事ができなくなるね」

「ちくしょうっ!!」



 老人の言う通りだった。
 老人が移動した音などしなかったにも関わらず、ジャンの突進は空振りに終わる。
 青き稲妻を操り闇雲に移動するが、老人に当たることはない。


「じゃーねぇー。縁があったらまた会おう! アハハハハハハハハハ!!」


 老人の声は聞こえる。
 しかし、どこから聞こえてくるのかがわからない。
 これもあのローブの力なのだろうか。
 ジャンは遠ざかる老人の笑い声を聞きながら歯噛みしたが、こんな所で立ち止まっている暇はない。
 美神の側に駆け寄ると、美神を抱え起こし、声をかける。


「おい、大丈夫か」

「え、ええ……。さっきよりはいくらかマシよ……。助けてくれてありがとう」


 老人が居なくなると共に、体の痺れも薄れてきていた。
 美神はもう動けるようになったと自分で判断すると、自力で立ち上がりジャンに向き直る。


「って、あんたそれ『青き稲妻』じゃないの! スペインの重要文化財をどこで手に入れたのよ!」

「ん? これを知ってんのか?」



 美神とジャンは、お互いの情報を手短に交換した。
 ジャンの持っている支給品についてや、ジャンが来る前の老人の行動についてである。


「くーっ、あのブラックってやつ、私には鍋しか支給しなかったくせになんなのよも~、不公平じゃないの!」

「んなことより、今はあの爺さんを追うのが先だ! 確か寺にいる子供を殺すって言ってたぞ。早く行かねえと子供が殺されちまう!」

「そうね。じゃあ私がこのホーキを操縦するわ。前に使ったことがあるから、あなたよりは上手く操れるはずよ」

「霊能力者なんだって? 確かに俺よりは上手くそいつを操れそうだ。頼んだぜ」


 傷だらけのジャンに何があったのか。スペインにアーカムの情報に引っかからなかったこのような重要文化財が存在していたのか。
 お互い、気になることは少なからずあったが、そんな疑問は後回しにするしかない。
 美神を前に、ジャンを後ろに乗せた青き稲妻が、美神の念波によって宙に浮かんだ。


「しっかり掴まってなさいよ!」

「俺のことは気にすんな! できるだけ急いでくれ!」

「オーケー!!」


 二人を乗せた青き稲妻は、C-6にある寺へと向けて速度を上げる。
 風を切る音だけが、暗闇に残った。





【C-6 西部 一日目黎明】

【ジャン・ジャックモンド】

[時間軸]:少なくともボー死亡後。

[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)

[装備]:門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら、青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!

[道具]:白兎の耳@ARMS、武士のリュック@現地調達、ヴァジュラ@スプリガン、閻水@烈火の炎、
     蔵王(空)@烈火の炎、不明支給品0~1(確認済み)、基本支給品一式×2。

[基本方針]:殺し合いには乗らない。高槻涼に会う。
      1:殺しはできるだけしない。
      2:寺に向かい子供を保護する。

※二人とも青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!に乗っています。
※美神と少しばかり情報を交換しました。
※『才賀正二』を危険人物と認識しました。


【美神令子】
[時間軸]:少なくとも平安京から帰還した後。

[状態]:疲労、雷撃のダメージ、すり傷。

[装備]:青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!

[道具]:鍋@現実、土手鍋@金剛番長、基本支給品一式。

[基本方針]:ここから逃げる。首輪を外す。殺し合いには乗らない。
      1:アシュタロスから逃げる。
      2:寺に向かい子供を保護する。

※二人とも青き稲妻@GS美神極楽大作戦!!に乗っています。
※ジャンと少しばかり情報を交換しました。
※美神は土手鍋の説明書を名前までしか読んでいません。
※美神は神通棍やお札は事務所に置いてあると思っています。
※『才賀正二』を危険人物と認識しました。




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028: ジャン・ジャックモンド 043-b:雷人具太陽(ライジングサン) 後編
GAME START 美神令子
006:『太陽の人形芝居』 フェイスレス






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