死出の誘蛾灯 ◆xrS1C1q/DM
花菱烈火が上げた開戦の狼煙。
一瞬で弾け、散っていった空の花。
艶やかな光と火薬の炸裂音。
異様な空気と静寂に包まれた街の中で自分の存在を全力で主張した一発。
その光は複数の参加者の目に飛び込み、その音は鼓膜を揺らす。
しかし、花菱烈火以外に火薬の芸術を楽しんだ者が何人いるだろうか。
殺し合いという異常な状況下において、不特定多数に自分の所在を教える行為。
味方を探しているのだろうか、参加者を集めて一網打尽にしようとしているのだろうか、それとも他に何か意図があるのだろうか。
打ち上げたものの真意が分からない中、呑気に楽しむ余裕を持っているものはほぼいないだろう。
近寄るか、避けるか。
この二択に生死がかかっていると言っても過言ではない。
一瞬で弾け、散っていった空の花。
艶やかな光と火薬の炸裂音。
異様な空気と静寂に包まれた街の中で自分の存在を全力で主張した一発。
その光は複数の参加者の目に飛び込み、その音は鼓膜を揺らす。
しかし、花菱烈火以外に火薬の芸術を楽しんだ者が何人いるだろうか。
殺し合いという異常な状況下において、不特定多数に自分の所在を教える行為。
味方を探しているのだろうか、参加者を集めて一網打尽にしようとしているのだろうか、それとも他に何か意図があるのだろうか。
打ち上げたものの真意が分からない中、呑気に楽しむ余裕を持っているものはほぼいないだろう。
近寄るか、避けるか。
この二択に生死がかかっていると言っても過言ではない。
そんな中、古の剣豪、宮本武蔵は前者を選択した。
味方になってくれそうな人物であれば、万々歳。
自分が殺し合いに参加する気はないことを伝え、共にキース・ブラック打倒の志を貫けば良い。
幼くも確かな実力と正義の心を秘めた鉄刃をはじめとした仲間もきっと同じ目的で動いている。
ならば、この場で行うべきは一人でも多くの仲間を引き込むこと。
自分が殺し合いに参加する気はないことを伝え、共にキース・ブラック打倒の志を貫けば良い。
幼くも確かな実力と正義の心を秘めた鉄刃をはじめとした仲間もきっと同じ目的で動いている。
ならば、この場で行うべきは一人でも多くの仲間を引き込むこと。
万が一、危険人物と出会ってしまった場合は不本意ながら戦うしか無いのだろう。
年老いて全盛期の力を失ったとはいえ、伝説とも呼ばれた剣技は今も健在。
不慣れな武器とはいえども並大抵の敵なら打ち倒すことが出来るだろう。右手で持っている錫杖を力強く握りしめる。
ある程度の長さが調節が可能なそれは最短にしたとしていても、常人よりも遥かに背の低い武蔵にとっては少し身に余るものだ。
だが、それでも使いこなす自身はあった。
かつては船の櫂を使って戦ったことすらあるのだ。多少武器が長いくらいで振り回されるほどの素人ではない。
彼が唯一懸念しているのが――。
年老いて全盛期の力を失ったとはいえ、伝説とも呼ばれた剣技は今も健在。
不慣れな武器とはいえども並大抵の敵なら打ち倒すことが出来るだろう。右手で持っている錫杖を力強く握りしめる。
ある程度の長さが調節が可能なそれは最短にしたとしていても、常人よりも遥かに背の低い武蔵にとっては少し身に余るものだ。
だが、それでも使いこなす自身はあった。
かつては船の櫂を使って戦ったことすらあるのだ。多少武器が長いくらいで振り回されるほどの素人ではない。
彼が唯一懸念しているのが――。
「鬼丸……あの魔王を放っておくわけにはいかん」
自分よりも格上であり、かつ殺し合いに乗った者の存在。
そう、鬼に取り憑かれ"魔王”と化した鬼丸猛。
己の愛刀を奪われている今、鬼丸が魔王剣を持っている可能性は低いと思っているが、それでも危険なのには変りない。
それに、想像はしたくないが、この場には鬼丸以上の化物が潜んでいることも考えうる。
そう、鬼に取り憑かれ"魔王”と化した鬼丸猛。
己の愛刀を奪われている今、鬼丸が魔王剣を持っている可能性は低いと思っているが、それでも危険なのには変りない。
それに、想像はしたくないが、この場には鬼丸以上の化物が潜んでいることも考えうる。
「あやつのような者たちを野放しにすれば、多くの者達が犠牲となる。じゃが……」
右手の錫杖をやや恨みがましい目で見、そして気分を沈める。
持っている正義感には力が付いてこない。
今の彼が命を賭して鬼丸と戦ったところで勝ち目はほぼ零に近いのだから。
常人よりも遥かに長い人生の中、自分の無力を感じたことは幾度もある。が、何度思い知らされようとも慣れることはない。
皺だらけの顔に更に皺が増え、武器を握った腕がわずかに震える。
もしも出会ったものが其の様な存在だったとき、彼に取れる行動は二つ。
持っている正義感には力が付いてこない。
今の彼が命を賭して鬼丸と戦ったところで勝ち目はほぼ零に近いのだから。
常人よりも遥かに長い人生の中、自分の無力を感じたことは幾度もある。が、何度思い知らされようとも慣れることはない。
皺だらけの顔に更に皺が増え、武器を握った腕がわずかに震える。
もしも出会ったものが其の様な存在だったとき、彼に取れる行動は二つ。
逃げて危険な存在がいることを伝えて回るか、花火に寄せられて近づいてきた参加者を止めるか。
非常に厳しいと言わざるをえないが、勝算がないわけではない。
全盛期の頃の若さと共に失った力と速さ。
その代わりに得た老獪さと熟練した技術。
この二つがあれば、打ち倒すのは不可能であろうとも逃げきることなら可能性が残っている。
歯がゆいものが残らないわけではないが、犬死するよりははるかにましだろう。
全盛期の頃の若さと共に失った力と速さ。
その代わりに得た老獪さと熟練した技術。
この二つがあれば、打ち倒すのは不可能であろうとも逃げきることなら可能性が残っている。
歯がゆいものが残らないわけではないが、犬死するよりははるかにましだろう。
「む、おったか」
道の上に堂々と立つ人影を見つけた武蔵は気を引き締めた。
こちらに気がついていないのか、戦意がないのか、武蔵に向かってリアクションを取ることはない。
緊張した面持ちでゆっくりと距離を詰めつつ、ある程度の間隔をとったまま謎の影へと声をかける。
こちらに気がついていないのか、戦意がないのか、武蔵に向かってリアクションを取ることはない。
緊張した面持ちでゆっくりと距離を詰めつつ、ある程度の間隔をとったまま謎の影へと声をかける。
「お前は……ブラックの言うことに従って誰かを殺す気はあるのかのう?」
背を向ける人影へと固い意志を言葉に乗せ、問いかけた武蔵。
その声に反応し、影は振り返る。
顔立ちからして十代半ばから後半くらいであろう少年。
暗闇で多少の見辛さがあったものの、武蔵は彼の顔に見覚えがあった。
その声に反応し、影は振り返る。
顔立ちからして十代半ばから後半くらいであろう少年。
暗闇で多少の見辛さがあったものの、武蔵は彼の顔に見覚えがあった。
「確か最初に集められた場におった……」
少年は武蔵の言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべる。
次に続く言葉を期待し――――。
次に続く言葉を期待し――――。
「ブラックにいきなり突っ込んで行こうとした馬鹿者じゃな!」
「ちょっと待てやジジイ! そこは勇敢とかカッコイイとか言う場面だろうが!」
「ええい、素性も分からんヤツにいきなり突っかかるなどアホじゃアホ!」
「うるせぇ! 表出ろ!」
「ここが表じゃろうが!」
「小さいことは気にすんな!」
「細かくはないわ!」
「ちょっと待てやジジイ! そこは勇敢とかカッコイイとか言う場面だろうが!」
「ええい、素性も分からんヤツにいきなり突っかかるなどアホじゃアホ!」
「うるせぇ! 表出ろ!」
「ここが表じゃろうが!」
「小さいことは気にすんな!」
「細かくはないわ!」
…………。
………。
……。
………。
……。
「ハァー、ハァー。と、とりあえずお前が殺し合いに反対してることはよーく分かった」
「同じく。これがもしも演技でしたってならおめーに殺されてやってもいいぜ」
「同じく。これがもしも演技でしたってならおめーに殺されてやってもいいぜ」
数分に渡る大人げない言い争いが終わり、距離をとったまま二人は笑いあう。
激しい言葉の交わし合いは二人の共通の認識をハッキリと浮き彫りにさせた。
それは即ち、"キース・ブラックのプログラムを破壊する”こと。
激しい言葉の交わし合いは二人の共通の認識をハッキリと浮き彫りにさせた。
それは即ち、"キース・ブラックのプログラムを破壊する”こと。
「そういや名前聞いてなかったな、教えてくれよ」
「やれやれ、人に名を聞くときは自分から名乗るのが常識じゃろうに。
だが今回は特別に教えてやろう! 伝説の剣豪、二刀流の宮本武蔵とは何を隠そう、このワシのことじゃ!」
「へー」
「やれやれ、人に名を聞くときは自分から名乗るのが常識じゃろうに。
だが今回は特別に教えてやろう! 伝説の剣豪、二刀流の宮本武蔵とは何を隠そう、このワシのことじゃ!」
「へー」
武蔵の自己紹介にいかにもどうでもよさそうな返事を返した少年。
明らかに信じていない。そのことが一目で分かった。
カチンと来た武蔵であったが、話が進まないのでグッと堪える。
明らかに信じていない。そのことが一目で分かった。
カチンと来た武蔵であったが、話が進まないのでグッと堪える。
「ワシはお前の名を聞いてないぞ?」
「ああ、俺は烈火。花菱烈火だ」
「ああ、俺は烈火。花菱烈火だ」
少年、花菱烈火の名を聞いた武蔵は、ゆっくりと彼のもとへと歩み寄る。
武器を左手に持ち替え、右腕を差し出した。
武器を左手に持ち替え、右腕を差し出した。
「何はともあれ、これからブラック打倒の志を共にする仲間としてワシと戦ってくれぬか?」
「悪いんだが、その手は握れねぇ」
「なっ!?」
「悪いんだが、その手は握れねぇ」
「なっ!?」
突然の拒絶。
驚く武蔵をよそに烈火の体が炎に包まれ――――美女が現れた。
驚く武蔵をよそに烈火の体が炎に包まれ――――美女が現れた。
「えっと、お前は実はおなごだったということかの?」
戸惑いながらの問いかけに美女は首を振る。
混乱する武蔵をよそに、おもちゃ屋の建物から烈火が出てきた。
そして烈火の戻れという言葉と共に美女の姿も掻き消える。
混乱する武蔵をよそに、おもちゃ屋の建物から烈火が出てきた。
そして烈火の戻れという言葉と共に美女の姿も掻き消える。
「すまねぇな、コイツを保険として使ってたんだ。もしも急に襲われても大丈夫なようにな」
「ああ、それは構わん。この場では石橋を叩いて渡るくらいの慎重さが必要じゃ。
じゃが、それが一体なんだったのかワシに説明してくれぬかのう?」
「コイツは"塁”っていってな。相手に幻覚を見せ、引っかかった相手を燃やしつくす力があるんだ」
「つまり……ワシがお前の手を強引に握ってたとしたら?」
「焼け死んだかもしれねぇ」
「ああ、それは構わん。この場では石橋を叩いて渡るくらいの慎重さが必要じゃ。
じゃが、それが一体なんだったのかワシに説明してくれぬかのう?」
「コイツは"塁”っていってな。相手に幻覚を見せ、引っかかった相手を燃やしつくす力があるんだ」
「つまり……ワシがお前の手を強引に握ってたとしたら?」
「焼け死んだかもしれねぇ」
物騒なことをさらりと言ってのけた烈火に武蔵は再び食って掛かる。
そして売り言葉に買い言葉だと言わんばかりに烈火も反撃し、またしても無駄な時間を費やした。
更に数分後。
我に帰った武蔵が折れたことにより、口論はようやく沈下する。
そして売り言葉に買い言葉だと言わんばかりに烈火も反撃し、またしても無駄な時間を費やした。
更に数分後。
我に帰った武蔵が折れたことにより、口論はようやく沈下する。
「とりあえず、じゃ。改めてよろしく頼むぞ烈火」
「こっちこそよろしくな武蔵」
「こっちこそよろしくな武蔵」
そう言って差し出された手を今度こそちゃんと握りしめた。
力強く握り締められた掌に、武蔵は確信する。
花菱烈火の内に秘められた力強さと正義の心を。
力強く握り締められた掌に、武蔵は確信する。
花菱烈火の内に秘められた力強さと正義の心を。
老人の細腕とは思えない重みを持った掌に、烈火も確信する。
彼は本物の宮本武蔵であり、善の心を持っている人間であることを。
彼は本物の宮本武蔵であり、善の心を持っている人間であることを。
「そういえば烈火、あのおなご……"塁”とやらにもう一度会えぬかのう?
あのギリギリ見えそうで見えないのが……の」
「何いってんだこのエロジジイ!」
「男児たる物、興味がないわけないじゃろうが!」
「うるせえ馬鹿野郎!」
あのギリギリ見えそうで見えないのが……の」
「何いってんだこのエロジジイ!」
「男児たる物、興味がないわけないじゃろうが!」
「うるせえ馬鹿野郎!」
今までの真剣な表情から一転、鼻の下をだらしなく伸ばす武蔵。
そんな彼の姿を見て、烈火はある人物を思い出す。
そんな彼の姿を見て、烈火はある人物を思い出す。
(このジジイ……虚空に似てやがる)
(失礼な、儂はあんなだらしないジジイじゃないわ)
(失礼な、儂はあんなだらしないジジイじゃないわ)
心の中から響く老人の声と、耳から飛び込んでくる老人の声。
あまりにもうっとおしい二重奏に烈火は怒ることすら忘れ、ただため息をついた。
あまりにもうっとおしい二重奏に烈火は怒ることすら忘れ、ただため息をついた。
☆ ★ ☆
夜空を駆けるかぼちゃのおばけ。
怪物と共に箒に跨るのは火男の仮面を被った道化。
不意に道化の着ていたタキシードのポケットから銀色のロケットがこぼれ落ちる。
怪物と共に箒に跨るのは火男の仮面を被った道化。
不意に道化の着ていたタキシードのポケットから銀色のロケットがこぼれ落ちる。
「むっ……」
少々間の抜けた声を零し、半ば反射的に人形を急降下させ、落下するロケットを空中で掴む。
その額には僅かに汗が浮かび、"それ”が彼にとっていかに大切な物だったのかを表していた。
仮面の下でホッとした表情を浮かべたのも束の間、すぐさまその顔は厳しくしかめられる。
小さな箱の中に入っているのは一枚の写真。
彼がママンと呼んだ女性の在りし日の姿。
彼女を"切り捨てる”と誓ってもなお、このロケットを捨てることは出来なかった。
己の手で捨てることもできなければ、事故で失うことすら無意識が拒絶してしまった。
若干の後悔と共に、いとおしむかのようにゆっくりと掌で一撫ですると、妙な違和感が掌に伝わる。
その額には僅かに汗が浮かび、"それ”が彼にとっていかに大切な物だったのかを表していた。
仮面の下でホッとした表情を浮かべたのも束の間、すぐさまその顔は厳しくしかめられる。
小さな箱の中に入っているのは一枚の写真。
彼がママンと呼んだ女性の在りし日の姿。
彼女を"切り捨てる”と誓ってもなお、このロケットを捨てることは出来なかった。
己の手で捨てることもできなければ、事故で失うことすら無意識が拒絶してしまった。
若干の後悔と共に、いとおしむかのようにゆっくりと掌で一撫ですると、妙な違和感が掌に伝わる。
「拾うときに引っ掛けてしまったのか。僕としたことがしくじってしまったな」
よく見れば、表面に小さなひっかき傷ができてしまっていた。
やれやれとぼやき、彼はポケットの中へとしまい込んむ。
この時、才賀アンジェリーナが命を散らしていたのだが、彼にそれを知るよしはない。
ただ自分の失敗と不幸が重なったことで傷がついたたのだとしか思わなかった。
何十年間もずっと守りぬいたロケットペンダントに初めて傷がついたのを偶然と切り捨てる。
激しい戦いの中でも一度も触れさせなかったのにも関わらず、ここが殺し合いの場という特殊な環境であるにも関わらず。
"ママン”が死ぬことを想定もしていなかったのかもしれない。
不吉だという感情は一切沸き起こらなかった。
しかし、掌に染み付いた冷たさが妙に気持ち悪く、振り払うかのように息を吹きかける。
そして彼は飛行を続けようと糸を繰ろうとするも、後ろから聞こえた炸裂音に腕を止める。
やれやれとぼやき、彼はポケットの中へとしまい込んむ。
この時、才賀アンジェリーナが命を散らしていたのだが、彼にそれを知るよしはない。
ただ自分の失敗と不幸が重なったことで傷がついたたのだとしか思わなかった。
何十年間もずっと守りぬいたロケットペンダントに初めて傷がついたのを偶然と切り捨てる。
激しい戦いの中でも一度も触れさせなかったのにも関わらず、ここが殺し合いの場という特殊な環境であるにも関わらず。
"ママン”が死ぬことを想定もしていなかったのかもしれない。
不吉だという感情は一切沸き起こらなかった。
しかし、掌に染み付いた冷たさが妙に気持ち悪く、振り払うかのように息を吹きかける。
そして彼は飛行を続けようと糸を繰ろうとするも、後ろから聞こえた炸裂音に腕を止める。
最期に聞いた音と似たような、それでいて遥かに弱い音。
それは確かに火薬が爆ぜる音色だった。
しかし、音源は懸糸傀儡を操って空を飛んでいる自分よりも更に上空。
何事かと思った彼であったが、記憶の引き出しより情報が即座に飛び出してくる。
それは確かに火薬が爆ぜる音色だった。
しかし、音源は懸糸傀儡を操って空を飛んでいる自分よりも更に上空。
何事かと思った彼であったが、記憶の引き出しより情報が即座に飛び出してくる。
「花火、か」
仲町サーカスにいた頃には毎日のように聞いていた音。
夜空に咲き誇った大輪の姿を空想し、妙に懐かしい気分となった。
だが、今は感傷にひたっている時間も余裕もない。
少しだけずれてしまった仮面の位置を片手で直す。
夜空に咲き誇った大輪の姿を空想し、妙に懐かしい気分となった。
だが、今は感傷にひたっている時間も余裕もない。
少しだけずれてしまった仮面の位置を片手で直す。
「僕の知ってる者でこんなコトするのは、あのチョンマゲイノシシくらいか?
いや、案外誰がやってもおかしくないな」
いや、案外誰がやってもおかしくないな」
自分の仲間だった者たちの顔を思い浮かべ、呆れ混じりの声で呟く。
出来ることならば知り合いには会いたくはない。
"仮面”を被った今、誰であろうと容赦なしに殺せる自信はある。
それでも自身の手にかけることは避けたいというのが本音だ。
我ながら弱い考えだ。仮面の下、自嘲気な笑みを浮かべる。
出来ることならば知り合いには会いたくはない。
"仮面”を被った今、誰であろうと容赦なしに殺せる自信はある。
それでも自身の手にかけることは避けたいというのが本音だ。
我ながら弱い考えだ。仮面の下、自嘲気な笑みを浮かべる。
「あれほどの馬鹿はそうそういないと信じたいんだがな」
都合よく知り合いに出会えるとは考えていない。
プログラムに呼ばれた人数を考えれば、むしろ知らない人間と出会う確率のほうが高いのだから。
だからこそ彼はジャック・オー・ランターンを音がした方へと飛ばす。
そこにいた人間が殺し合いに乗っていようがいまいが関係ない。
ただ、エレオノールのために息の根を止めるだけだ。
プログラムに呼ばれた人数を考えれば、むしろ知らない人間と出会う確率のほうが高いのだから。
だからこそ彼はジャック・オー・ランターンを音がした方へと飛ばす。
そこにいた人間が殺し合いに乗っていようがいまいが関係ない。
ただ、エレオノールのために息の根を止めるだけだ。
☆ ★ ☆
三日月型に吊り上がった口を隠そうともせず、憲兵番長は堂々と我が道を行く。
最初に出会った参加者がキース・シルバーであったことは彼にとって幸運だった。
あれだけの強者がこの殺し合いに参加している。その上、キースの名を冠するものは彼ひとりだけではない。
やがて訪れるであろう戦いを想像し、唇を舐める。
弱者をいたぶることができ、強者との戦闘を楽しむこともできる。
彼にとってこの殺し合いの会場は一種のテーマパークのようなものだろう。
唯一の不満といえば、愛刀である金糸雀を没収されてしまったことだけ。
直感であったが、万全な体制であらねばキース・シルバーの隠し玉である完全体には勝てぬことを悟っていた。
最初に出会った参加者がキース・シルバーであったことは彼にとって幸運だった。
あれだけの強者がこの殺し合いに参加している。その上、キースの名を冠するものは彼ひとりだけではない。
やがて訪れるであろう戦いを想像し、唇を舐める。
弱者をいたぶることができ、強者との戦闘を楽しむこともできる。
彼にとってこの殺し合いの会場は一種のテーマパークのようなものだろう。
唯一の不満といえば、愛刀である金糸雀を没収されてしまったことだけ。
直感であったが、万全な体制であらねばキース・シルバーの隠し玉である完全体には勝てぬことを悟っていた。
「ふむ、そういえばこの刀。雷が出せるとか書いてあったような」
思い出したように手にした刀を見る。戦闘に熱中しすぎてすっかり忘れていたのだ。
そもそもの関心が薄かったのも原因の一つだろう。
切れ味や使い心地、そして鳴き声のみを求めていた彼にとって、雷が出るという付加価値に魅力は感じない。
刀によって肉や骨を切り裂いたときの音色こそが至高にして最高。
そう考えていた彼にとっては電撃による攻撃などは無粋な上に邪魔なものにしかならない。
だが、折角なのだから一度くらいは使ってみるか、という好奇心が首をもたげた。
雷が出るように念じつつ刀を振るう。
すると剣先から雷光が迸り、一瞬にして街路樹を焼き尽くす。
そもそもの関心が薄かったのも原因の一つだろう。
切れ味や使い心地、そして鳴き声のみを求めていた彼にとって、雷が出るという付加価値に魅力は感じない。
刀によって肉や骨を切り裂いたときの音色こそが至高にして最高。
そう考えていた彼にとっては電撃による攻撃などは無粋な上に邪魔なものにしかならない。
だが、折角なのだから一度くらいは使ってみるか、という好奇心が首をもたげた。
雷が出るように念じつつ刀を振るう。
すると剣先から雷光が迸り、一瞬にして街路樹を焼き尽くす。
「なかなかの威力があるみたいだね。だが、やはり」
その後の言葉が紡がれることはなかった。
唐突に浮かび上がってきた鬼の映像、心の奥から何かが湧き上がる。
説明書には書かれていなかったが、雷神剣にはある特性があった。
それは人の心に潜んだ鬼を呼び起こすこと。
怒り、憎しみ、欲望といった邪心にその身を支配させること。
憲兵番長から呼び起こされた鬼が体を操ろうとし――――
唐突に浮かび上がってきた鬼の映像、心の奥から何かが湧き上がる。
説明書には書かれていなかったが、雷神剣にはある特性があった。
それは人の心に潜んだ鬼を呼び起こすこと。
怒り、憎しみ、欲望といった邪心にその身を支配させること。
憲兵番長から呼び起こされた鬼が体を操ろうとし――――
「くだらん」
つまらなそうな一言と共に潮を引くように消えてゆく。
憲兵番長は雷神に負けるようなやわな精神力の持ち主ではない。
更に言えば、彼の性は元来より悪。
邪心がいくら沸きあがろうとも、それは彼にとっては当たり前のこと。
かくして憲兵番長は雷神剣の支配を軽くいなし、体を乗っ取ろうとする刀を一切恐れること無く腰へと戻した。
憲兵番長は雷神に負けるようなやわな精神力の持ち主ではない。
更に言えば、彼の性は元来より悪。
邪心がいくら沸きあがろうとも、それは彼にとっては当たり前のこと。
かくして憲兵番長は雷神剣の支配を軽くいなし、体を乗っ取ろうとする刀を一切恐れること無く腰へと戻した。
「君では金糸雀には勝てんよ」
彼の心を捉えて離さない刀はこの世にただ一振り。
実験も終え、雷の能力に対する興味の一切を失った憲兵番長は再び歩み出そうとする。
が、その足は視界に入った花火によって一瞬だけ止まった。
顔が喜び一色に染まり上がる。
それは美しい火薬の芸術に心が奪われたからではない。
実験も終え、雷の能力に対する興味の一切を失った憲兵番長は再び歩み出そうとする。
が、その足は視界に入った花火によって一瞬だけ止まった。
顔が喜び一色に染まり上がる。
それは美しい火薬の芸術に心が奪われたからではない。
「面白い。どの命知らずが上げたのか知らないが、お希望通り向かってあげようではないか」
自分の居場所を不特定多数に知らせる時点で、恐らくは実力に自信がある人間だろうと判断。
またしても強者と戦えるのかと思うだけで興奮が最高潮に達する。
斬る、斬る、斬る。
彼の脳内はそれだけに埋め尽くされていった。
欲望による支配は雷神剣の洗脳によるものよりも遥かに強い。
疾風の如くかけ出した姿はまさに鬼。
アスファルトを砕かんとする程の力強さで彼は進む。
またしても強者と戦えるのかと思うだけで興奮が最高潮に達する。
斬る、斬る、斬る。
彼の脳内はそれだけに埋め尽くされていった。
欲望による支配は雷神剣の洗脳によるものよりも遥かに強い。
疾風の如くかけ出した姿はまさに鬼。
アスファルトを砕かんとする程の力強さで彼は進む。
☆ ★ ☆
「で、これからどうするんじゃ?」
「とりあえずはここで他のヤツが来るのを待とうぜ。多分、他にも何人か来るんじゃないか?」
「うむ、それでいいが一つだけ警告しておくぞ。あまりにも強すぎるヤツが来たら引くことも考えるべきじゃ。
お前の性格からして勝ち目が微塵もなくとも突っ込んできそうじゃからな」
「とりあえずはここで他のヤツが来るのを待とうぜ。多分、他にも何人か来るんじゃないか?」
「うむ、それでいいが一つだけ警告しておくぞ。あまりにも強すぎるヤツが来たら引くことも考えるべきじゃ。
お前の性格からして勝ち目が微塵もなくとも突っ込んできそうじゃからな」
情報交換を終えた武蔵と烈火は共に今後の方針を決めた。
それはシンプルに花火で近寄ってきた参加者を待つこと。
鬼丸の驚異が頭から離れない武蔵は烈火の無鉄砲さに一抹の不安を覚えるも、誰かと接触したい気持ちが強かったのでグッとこらえた。
それはシンプルに花火で近寄ってきた参加者を待つこと。
鬼丸の驚異が頭から離れない武蔵は烈火の無鉄砲さに一抹の不安を覚えるも、誰かと接触したい気持ちが強かったのでグッとこらえた。
「む、早速誰か来たようじゃの」
誰かの気配を感じ取る、それと同時に武蔵の背筋が凍りついた。
研ぎ澄まされた刀の様な鋭い殺気が全身に突き刺さる。
咄嗟に錫杖を構え、隣の烈火に視線を送った。
彼も異様な殺気に反応していた様で、腕から炎の刃を出して敵襲に備えている。
研ぎ澄まされた刀の様な鋭い殺気が全身に突き刺さる。
咄嗟に錫杖を構え、隣の烈火に視線を送った。
彼も異様な殺気に反応していた様で、腕から炎の刃を出して敵襲に備えている。
「来たぞ武蔵!」
その声と同時に二人はその場から散開する。
直後、屋根の上から降って来た一撃がアスファルトを豆腐のように切り裂く。
武蔵と烈火。
二人に挟み撃ちにされた状況で、飛び降りてきた青年は楽しげに笑った。
直後、屋根の上から降って来た一撃がアスファルトを豆腐のように切り裂く。
武蔵と烈火。
二人に挟み撃ちにされた状況で、飛び降りてきた青年は楽しげに笑った。
「そう来なくては小生もつまらん。折角殺気を隠さずに来てやったのだからね」
純白に包まれた外見とは真逆の黒く染まりきった心。
烈火達は瞬時にそれを察知するも、安易に跳びかかることはしない。
青年の佇まいに一切の隙がないことを分かっているのだ。
烈火達は瞬時にそれを察知するも、安易に跳びかかることはしない。
青年の佇まいに一切の隙がないことを分かっているのだ。
「さぁ、今度こそ命を断つ音色を聞かせておくれ」
そう言って青年、憲兵番長は持っていた刀を撫でる。
見覚えのある刀に武蔵は目を見開く。
見覚えのある刀に武蔵は目を見開く。
「まさか……」
「ほぅ、この刀のことを知ってる人間か? 中々悪くないよこれは」
「ほぅ、この刀のことを知ってる人間か? 中々悪くないよこれは」
雷神剣を持っている。その事実がある仮定を生み出した。
十中八九は当たっているだろうとあたりを付け、離れた烈火に向かって武蔵は叫ぶ。
十中八九は当たっているだろうとあたりを付け、離れた烈火に向かって武蔵は叫ぶ。
「烈火、こやつは殺すな! 気絶させるか剣を手放させるかのどちらかにしろ!」
理由はわからなかったが、武蔵を信頼し、烈火は首を縦に振る。
だが、武蔵の考えを小馬鹿にしたかのように憲兵番長は言葉を紡ぐ。
だが、武蔵の考えを小馬鹿にしたかのように憲兵番長は言葉を紡ぐ。
「小生が雷神剣に人格を乗っ取られた被害者の可能性があるからかい?
そうだと考えているならば残念ながら外れだ。
小生は小生の思うがままに人斬りを楽しみたいのだよ、こんな無粋なものに魂を売り渡す気はない」
そうだと考えているならば残念ながら外れだ。
小生は小生の思うがままに人斬りを楽しみたいのだよ、こんな無粋なものに魂を売り渡す気はない」
それと聞くやいなや、武蔵の表情は苦虫を噛み潰した様なものへと変わる。
雷神剣の力を知っている武蔵は悪人の手に渡ってしまったことを惜しく思い、話に聞いただけの烈火も青年から溢れる邪気と強者の風格を感じ取っていた。
雷神剣の力を知っている武蔵は悪人の手に渡ってしまったことを惜しく思い、話に聞いただけの烈火も青年から溢れる邪気と強者の風格を感じ取っていた。
「嬉しいよ、これならば小生の欲求不満も解消できそうだ」
やろうと思えば完全に殺気を消して接近することができたのをあえてしなかったのは、戦いを楽しむためだ。
一瞬で切り裂き、命を断つのも嫌いではない。嫌いではないのだが、今回は話が違う。
キース・シルバーとの戦いが半端に終わったことで残ったもや。
それを解消する生贄としてこの"三人”は選ばれた。
そう、三人だ。
一瞬で切り裂き、命を断つのも嫌いではない。嫌いではないのだが、今回は話が違う。
キース・シルバーとの戦いが半端に終わったことで残ったもや。
それを解消する生贄としてこの"三人”は選ばれた。
そう、三人だ。
「こそこそと覗いている君。どうだい、参加しないのかい?」
憲兵番長の呼びかけに応え、道化、ギイ・クリストフ・レッシュは民家の影より姿を現した。
本来ならば三人の戦闘後に漁夫の利を狙う気であったが、気がつかれていたのならば仕方が無い。
あまりにも濃密であった憲兵番長の殺気に覆い隠され、ギイの気配を感じることが出来なかった武蔵と烈火の二人。
迂闊であったという表情を浮かべる二人を尻目に無言で糸を繰る。
カボチャ頭の怪物が構えた鎌が高速で振動する音が辺り一面に響き渡り、静寂を切り裂いていった。
本来ならば三人の戦闘後に漁夫の利を狙う気であったが、気がつかれていたのならば仕方が無い。
あまりにも濃密であった憲兵番長の殺気に覆い隠され、ギイの気配を感じることが出来なかった武蔵と烈火の二人。
迂闊であったという表情を浮かべる二人を尻目に無言で糸を繰る。
カボチャ頭の怪物が構えた鎌が高速で振動する音が辺り一面に響き渡り、静寂を切り裂いていった。
(さて、この場合はどちらを狙うのが得策か。白いヤツと加勢して二人を殺すか? 二人と協力して白いのを殺すか?)
ギイに残されたのは二つの選択。どちらにしても一長一短である。
まとめて二人を殺せるという点では憲兵番長に加勢するほうが得策だろう。
しかし、その後に戦闘になるのは避けれない。
二人との戦闘でどれだけ負傷するか分からない今、最後に血に飢えた狂獣を残すのには多大なリスクがある。
が、立場が逆転する可能性も十分残っている。
相手が負傷し、自分が無傷だった場合は三つの白星を同時にあげることが出来るのだ。
しかし、その後に戦闘になるのは避けれない。
二人との戦闘でどれだけ負傷するか分からない今、最後に血に飢えた狂獣を残すのには多大なリスクがある。
が、立場が逆転する可能性も十分残っている。
相手が負傷し、自分が無傷だった場合は三つの白星を同時にあげることが出来るのだ。
逆に、二人について憲兵番長と戦った場合はその後について考えなくても良いというメリットがある。
もしも負傷したとしても、二人を騙し通せば襲われる心配はないはずだ。
それに旗色が悪くなれば逃げるという手だって使える。
デメリットは無傷で憲兵番長を倒せてしまった場合、二人を殺すのが手間だということだ。
桁外れの強者でなければ三人相手に無双することは出来ぬだろう。
そうなった場合に、二人残ってしまうのは少々めんどくさい。
もしも負傷したとしても、二人を騙し通せば襲われる心配はないはずだ。
それに旗色が悪くなれば逃げるという手だって使える。
デメリットは無傷で憲兵番長を倒せてしまった場合、二人を殺すのが手間だということだ。
桁外れの強者でなければ三人相手に無双することは出来ぬだろう。
そうなった場合に、二人残ってしまうのは少々めんどくさい。
悩むギイ。誰を斬るか値踏みする憲兵番長。突然の乱入者をどう扱うか考えあぐねている武蔵。
そんな中、最初に動き出したのは烈火。
「ゴチャゴチャ考えるのは性に合わねぇ! とりあえず黒確定のお前からぶっ飛ばす!」
憲兵番長へと炎の刃を振り上げる烈火。
動き出す他の三人。
かくして戦いの火蓋は切って落とされることとなった。
【D-4 商店街おもちゃ屋前/一日目 黎明】
【花菱烈火】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3(確認済み、花火ではない)
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3(確認済み、花火ではない)
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。
【宮本武蔵】
[時間軸]:魔王鬼丸との最終決戦前
[状態]:健康
[装備]:錫杖@うしおととら
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[基本方針]:仲間を集め、プログラムを破壊する
[時間軸]:魔王鬼丸との最終決戦前
[状態]:健康
[装備]:錫杖@うしおととら
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[基本方針]:仲間を集め、プログラムを破壊する
【ギイ・クリストフ・レッシュ】
[時間軸]:本編で死亡後
[状態]:健康
[装備]:ジャック・オー・ランターン@からくりサーカス、ひょっとこ面@現地調達
[道具]:ランダム支給品1~5、基本支給品一式×2
[基本方針]:エレオノールを優勝させる。
[時間軸]:本編で死亡後
[状態]:健康
[装備]:ジャック・オー・ランターン@からくりサーカス、ひょっとこ面@現地調達
[道具]:ランダム支給品1~5、基本支給品一式×2
[基本方針]:エレオノールを優勝させる。
【伊崎剣司(憲兵番長)】
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(中)
[装備]: 雷神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[基本方針]:人を斬る。
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(中)
[装備]: 雷神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[基本方針]:人を斬る。
☆ ★ ☆
「あんな事やる馬鹿野郎は一人しかいねぇよな」
ニカッと笑みを浮かべ、青年、石島土門は空を眺める。
少し前にそこにあったのは、このプログラムに呼ばれる直前に見たものとよく似た炎の花。
開戦の合図にそんな事をやるような人間を彼は一人しか知らず、彼ならばこんな時であっても普段と変わらないだろうという確信を持っていた。
他の人間が打ち上げた可能性も考えなかったわけではないが、それでも彼の足は止まらない。
少しでも合流できる可能性があるのならば、後先考えずに向かうのがこの男だ。
さっきまでの苛々した思いが一気に吹き飛んでいく。
こんなクソッタレた殺し合いだって仲間と共にならば軽く解決することが出来る。
少し前にそこにあったのは、このプログラムに呼ばれる直前に見たものとよく似た炎の花。
開戦の合図にそんな事をやるような人間を彼は一人しか知らず、彼ならばこんな時であっても普段と変わらないだろうという確信を持っていた。
他の人間が打ち上げた可能性も考えなかったわけではないが、それでも彼の足は止まらない。
少しでも合流できる可能性があるのならば、後先考えずに向かうのがこの男だ。
さっきまでの苛々した思いが一気に吹き飛んでいく。
こんなクソッタレた殺し合いだって仲間と共にならば軽く解決することが出来る。
「よっしゃ、この調子で全員と再会するとすっかな」
踏みしめる一歩は依然として重いままであるが、先程までの荒々しさはそこには存在しない。
希望へと向かって前進していく漢の姿がそこにはあった。
希望へと向かって前進していく漢の姿がそこにはあった。
「んっ?」
花火の上がった方向を目指して歩いていると、土門の耳に高笑いが飛び込んでくる。
朗々とした良い声ではあるのだが、どこか間の抜けた男性の声。
近くによってみれば、時代錯誤の服装を着た侍のような青年が一人。
端正な顔立ちは二枚目と呼ぶにふさわしいものであるが、緩んだ表情がそれを台無しにしている。
朗々とした良い声ではあるのだが、どこか間の抜けた男性の声。
近くによってみれば、時代錯誤の服装を着た侍のような青年が一人。
端正な顔立ちは二枚目と呼ぶにふさわしいものであるが、緩んだ表情がそれを台無しにしている。
「ははははは、このじゃじゃ馬もすっかり手に馴染むようになったぞ!
この佐々木小次郎に使いこなせぬ武器など存在はせぬ!
誰が来ようとも打ち破ってやろうぞ!」
「なあ」
「物干し竿と鞭の二刀流で戦うのも悪くはないかもしれぬでござるな。
いや……しかし侍としてそれはどうなのだ?」
「おい」
「むむ、やはり侍たるもの刀一本で戦うべきなのでは?
しかし……武蔵は櫂を使って戦ったこともあるから」
「土門ちゃんもここまで無視されちゃ怒っちまうぞ固羅ァ!」
この佐々木小次郎に使いこなせぬ武器など存在はせぬ!
誰が来ようとも打ち破ってやろうぞ!」
「なあ」
「物干し竿と鞭の二刀流で戦うのも悪くはないかもしれぬでござるな。
いや……しかし侍としてそれはどうなのだ?」
「おい」
「むむ、やはり侍たるもの刀一本で戦うべきなのでは?
しかし……武蔵は櫂を使って戦ったこともあるから」
「土門ちゃんもここまで無視されちゃ怒っちまうぞ固羅ァ!」
耳に口を近づけて大声で叫ぶ。
「ぬおっ!? 何奴!?」
「やっと気がついたか」
「やっと気がついたか」
コメカミに血管を浮かび上がらせながら、ため息混じりに呟く。
自分のことを延々と無視していた侍もどき。
この調子ならば危険はないだろうと、確信した上での接触だ。
自分のことを延々と無視していた侍もどき。
この調子ならば危険はないだろうと、確信した上での接触だ。
「人の話を無視すんなってカーチャンから教わんなかったのかお前?
なあ、俺のことさんざん無視しやがってよぉ」
なあ、俺のことさんざん無視しやがってよぉ」
苛立ち混じりに詰め寄った土門を相手に小次郎はニヤリと笑みを浮かべる。
今までの三枚目な雰囲気が一転、研ぎ澄まされた気配が彼の全身より溢れ出す。
尋常にない空気と、僅かながらの殺気を感じ取った土門は咄嗟に後ろへと飛び退いた。
それと同時に振るわれ、蛇のように襲いかかる鞭。
今まで自分がいた地面をいとも容易く蹂躙する鋼鉄の鞭を見つめ、生唾を飲んだ。
今までの三枚目な雰囲気が一転、研ぎ澄まされた気配が彼の全身より溢れ出す。
尋常にない空気と、僅かながらの殺気を感じ取った土門は咄嗟に後ろへと飛び退いた。
それと同時に振るわれ、蛇のように襲いかかる鞭。
今まで自分がいた地面をいとも容易く蹂躙する鋼鉄の鞭を見つめ、生唾を飲んだ。
「これを躱すとは、これでこそ腕試しの相手にふさわしい! 佐々木小次郎、推して参る!」
豹変した小次郎に驚きつつも、すぐに気持ちを切り替える土門。
両足を地面に付け、全身に力を入れる。
浮き上がる血管、盛り上がる筋肉。
そして着ていたTシャツがはじけ飛び――――その下より鉄色をした筋肉の鎧が現れる。
これが土門に支給された武器、AMスーツ。
御神苗優が使用していた"それ”は肉弾戦を得意とする土門にとっては最高の組み合わせ。
両足を地面に付け、全身に力を入れる。
浮き上がる血管、盛り上がる筋肉。
そして着ていたTシャツがはじけ飛び――――その下より鉄色をした筋肉の鎧が現れる。
これが土門に支給された武器、AMスーツ。
御神苗優が使用していた"それ”は肉弾戦を得意とする土門にとっては最高の組み合わせ。
「いくぜ佐々木小次郎。てめぇが強くなりてぇ理由なんか知らねぇが、人を殺してでも得たい強さなんざ認めねぇ」
「ふむ、花火を上げた者と戦う前の食前酒替わりのつもりだったが面白い」
「ふむ、花火を上げた者と戦う前の食前酒替わりのつもりだったが面白い」
両者の視線が交差する。
「テメェを倒してさっさと仲間を探しに行かせてもらうぜ」
「貴様を倒して、花火を打ち上げたものも打ち倒してくれよう!」
「貴様を倒して、花火を打ち上げたものも打ち倒してくれよう!」
同じ場所を目指す二人だが、行けるのは勝者のみ。
暗闇の中、二つの影かが交錯する。
暗闇の中、二つの影かが交錯する。
【D-4 北部/一日目 深夜】
【佐々木小次郎】
[時間軸]:プラズマ戦直前
[状態]:万全
[装備]: 拷問鞭@金剛番長
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(武器はなし)
[基本方針]:強者と戦い、天下一の侍となる
[時間軸]:プラズマ戦直前
[状態]:万全
[装備]: 拷問鞭@金剛番長
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(武器はなし)
[基本方針]:強者と戦い、天下一の侍となる
【石島土門】
[時間軸]:SODOM突入前
[状態]:健康
[装備]: 御神苗優のAMスーツ@スプリガン
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(本人確認済み。使える物と使えない物が入っている?)
[基本方針]:烈火たちと合流したい。風子最優先。
[時間軸]:SODOM突入前
[状態]:健康
[装備]: 御神苗優のAMスーツ@スプリガン
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(本人確認済み。使える物と使えない物が入っている?)
[基本方針]:烈火たちと合流したい。風子最優先。
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038:レッツゴーレッカマン | 花菱烈火 | 066:ばかやろう節(1) |
GAME START | 宮本武蔵 | |
002:インビジブル | ギイ・クリストフ・レッシュ | |
016:剣迷いなく、道遠し | 伊崎剣司(憲兵番長 | |
佐々木小次郎 | ||
012:Dash! to truth | 石島土門 |