ガキじゃいられない ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
恐れるものなどなにもない――だなんて、そんなのはガキだけが言える妄言だ。
◇ ◇ ◇
しばらくレイラと話してみて、魔道具『輪廻』について少し分かった。
副作用である記憶の不明瞭化には、作用する記憶と作用しない記憶がある。
魔本や魔物についての知識が、レイラからは消えていないのだ。
記憶にはいくつもの種類がある。そのうち長期記憶は、輪廻の副作用を受けないのだろう。
あくまで現時点においては、の話である。いずれ使い続けていくうちに常識さえ失ってしまうかもしれない。そのときには破壊する。
いまにして思い返してみれば、英語の文章をキーボードで打ち込んだ時点で気が付くべきであった。
だというのにあっさりと見過ごしてしまっていたなんて、まったく僕らしくない。
人類最高の頭脳を持つ超天才アル・ボーエンといえど、さすがにこの状況にうろたえってしまっていたのか。
情けないと思いながらも、一方でしようがないと納得している自分もいる。
副作用である記憶の不明瞭化には、作用する記憶と作用しない記憶がある。
魔本や魔物についての知識が、レイラからは消えていないのだ。
記憶にはいくつもの種類がある。そのうち長期記憶は、輪廻の副作用を受けないのだろう。
あくまで現時点においては、の話である。いずれ使い続けていくうちに常識さえ失ってしまうかもしれない。そのときには破壊する。
いまにして思い返してみれば、英語の文章をキーボードで打ち込んだ時点で気が付くべきであった。
だというのにあっさりと見過ごしてしまっていたなんて、まったく僕らしくない。
人類最高の頭脳を持つ超天才アル・ボーエンといえど、さすがにこの状況にうろたえってしまっていたのか。
情けないと思いながらも、一方でしようがないと納得している自分もいる。
魔物、魔道具、妖怪、結界。
この場に来てから見知ったものには、謎が多すぎる。
いままでの僕ならば、「そんなものは愚かな人間が己の理解できない現象をどうにか説明するために作り出した幻想だ」と斬って捨てていた。
しかし、現実に目にしてしまった。体験してしまった。実感してしまった。
となれば、受け入れよう。
この期に及んで常識を振りかざして否定するなど、変わっていく状況に対応しきれない凡人の取る行動だ。
ほんの少し前にありえなかった事態が当たり前のように起こる――それが、現実だ。
死体からサイボーグは作成可能だし、炭素と珪素のハイブリッド生命体だって実在する。
……それまでこの世になかった毒物だって、簡単に作り出せる。
そんなことを知っている僕が、現実を認めないワケにはいかない。
いままでの僕ならば、「そんなものは愚かな人間が己の理解できない現象をどうにか説明するために作り出した幻想だ」と斬って捨てていた。
しかし、現実に目にしてしまった。体験してしまった。実感してしまった。
となれば、受け入れよう。
この期に及んで常識を振りかざして否定するなど、変わっていく状況に対応しきれない凡人の取る行動だ。
ほんの少し前にありえなかった事態が当たり前のように起こる――それが、現実だ。
死体からサイボーグは作成可能だし、炭素と珪素のハイブリッド生命体だって実在する。
……それまでこの世になかった毒物だって、簡単に作り出せる。
そんなことを知っている僕が、現実を認めないワケにはいかない。
はっきり言って、恐ろしい――が。
先ほど、レイラは負った傷が回復したと告げてきた。
確認してみると、たしかに傷痕すら残っていなかった。
魔物の治癒力は非常に高いようでARMS所持者たちのことを思い出す。
だが、レイラはARMSコアを埋め込まれていない。ナノマシンが身体に通っているワケではないのだ。
X-ARMYに所属していた『不死身のヴォルフ』と違って、人体改造を行っているワケでもない。
あんな回復力は生物としておかしいが、にもかかわらずただの生物なのだ。
細胞復元能力がイカレてしまっているとしか思えない。
だいたい細胞を再生するために使うエネルギーは、人間と変わらぬサイズの身体のどこに蓄えてあるというのか。
呪文を唱えることで発動する魔法だって、不可思議だ。あんなものを放つエネルギーの源はどこなのか。
推測にすぎないが、魔物の身体は僕の知る生物の身体と大きく異なっているのだろう。
ゆえに、大量のエネルギーを体内に蓄えることができるのだ。
ARMSコアによって身体にナノマシンが通い、爆発的なパワーを生み出す彼らのように。
急激な進化の末に自分自身の肉体さえ耐え切れない力を得てしまったキース・シルバー。
彼の最期が、脳裏を掠める。
確認してみると、たしかに傷痕すら残っていなかった。
魔物の治癒力は非常に高いようでARMS所持者たちのことを思い出す。
だが、レイラはARMSコアを埋め込まれていない。ナノマシンが身体に通っているワケではないのだ。
X-ARMYに所属していた『不死身のヴォルフ』と違って、人体改造を行っているワケでもない。
あんな回復力は生物としておかしいが、にもかかわらずただの生物なのだ。
細胞復元能力がイカレてしまっているとしか思えない。
だいたい細胞を再生するために使うエネルギーは、人間と変わらぬサイズの身体のどこに蓄えてあるというのか。
呪文を唱えることで発動する魔法だって、不可思議だ。あんなものを放つエネルギーの源はどこなのか。
推測にすぎないが、魔物の身体は僕の知る生物の身体と大きく異なっているのだろう。
ゆえに、大量のエネルギーを体内に蓄えることができるのだ。
ARMSコアによって身体にナノマシンが通い、爆発的なパワーを生み出す彼らのように。
急激な進化の末に自分自身の肉体さえ耐え切れない力を得てしまったキース・シルバー。
彼の最期が、脳裏を掠める。
「本当に……怖いもの知らずだな、キース・ホワイト」
意図せず、考えが口から零れてしまう。咄嗟に前を行くレイラを見るが、そこまでは届かなかったらしく胸を撫で下ろす。
少しバランスが崩れてしまっただけで、シルバーはああなってしまった。
強烈なエネルギーを作り出せるという点で、ARMSと魔物は一緒だ。
そんなものが、どちらも狭い会場内に押し込まれている。
キース・ホワイトはなにを考えているのか。
僕は怖い。
僕はキース・ホワイトとは違う。いまの僕は、違うから。
かつては、自分たちの頭脳があればなんだって思い通りにできると信じていた。
僕たちの手に余る代物なんかこの世にありはしない――と、自信満々に断言できた。
でもそんなバカげたことは、もはや口に出せない。
この超天才の頭脳をもってしてもどうにもならない現実があると、知ったからだ。
そんな簡単なことなのに、アイツが殺されるまで気付かなかった。
当時の僕にとってのすべてを失ったから、もう僕はガキじゃいられなくなった。
だから、怖い。
制御できない力も、それらをぶつけようとするキース・ホワイトも。
ホワイトは、むかしの僕に似ている。
自分ならばなんでも成し遂げられると信じ込んだまま、僕が大人になったらああなっていたのだろう。
そのためなのだろう。
あの男の存在は、非常に不愉快だ。
大人になれなかったガキを見ていると、自己嫌悪に似た感情に満たされる。
自分が巡らせているのはガキの思考にすぎないと、思い知らせてやりたくなる。
少しバランスが崩れてしまっただけで、シルバーはああなってしまった。
強烈なエネルギーを作り出せるという点で、ARMSと魔物は一緒だ。
そんなものが、どちらも狭い会場内に押し込まれている。
キース・ホワイトはなにを考えているのか。
僕は怖い。
僕はキース・ホワイトとは違う。いまの僕は、違うから。
かつては、自分たちの頭脳があればなんだって思い通りにできると信じていた。
僕たちの手に余る代物なんかこの世にありはしない――と、自信満々に断言できた。
でもそんなバカげたことは、もはや口に出せない。
この超天才の頭脳をもってしてもどうにもならない現実があると、知ったからだ。
そんな簡単なことなのに、アイツが殺されるまで気付かなかった。
当時の僕にとってのすべてを失ったから、もう僕はガキじゃいられなくなった。
だから、怖い。
制御できない力も、それらをぶつけようとするキース・ホワイトも。
ホワイトは、むかしの僕に似ている。
自分ならばなんでも成し遂げられると信じ込んだまま、僕が大人になったらああなっていたのだろう。
そのためなのだろう。
あの男の存在は、非常に不愉快だ。
大人になれなかったガキを見ていると、自己嫌悪に似た感情に満たされる。
自分が巡らせているのはガキの思考にすぎないと、思い知らせてやりたくなる。
「ここが公園みたいね」
「ああ、そうだな……って!」
「ああ、そうだな……って!」
考えごとをしているうちに、目的地の公園に着いていたようだ。
レイラに返事しつつ、手がかりを探すべく周囲を確認する。
レイラに返事しつつ、手がかりを探すべく周囲を確認する。
「なんっだ、この公園は! 地図と全然違うじゃないか!!」
「いわゆる『イラストはイメージです』というヤツね……」
「ええい、黙れ黙れ! 記憶が曖昧になっているはずなのに、なぜそんな言い回しを覚えている!」
「……はっ。もしかしてこの輪廻、一般常識とかは忘れづらいのかしら」
「ふん! そんなこと、もう分かっていたさ!」
「いわゆる『イラストはイメージです』というヤツね……」
「ええい、黙れ黙れ! 記憶が曖昧になっているはずなのに、なぜそんな言い回しを覚えている!」
「……はっ。もしかしてこの輪廻、一般常識とかは忘れづらいのかしら」
「ふん! そんなこと、もう分かっていたさ!」
地図上では大きく描かれているというのに、実物はただ遊具がいくつかあるだけだ。
そこまで広くない、というかむしろ狭い。
地図に描かれている時計台も、大した代物ではなかった。
わざわざ時間をかけずとも、ほんの少し首を振るだけですぐに全敷地内を確認できてしまう。
ただの公園だ。手がかりになりそうなものなど一つもない。
そこまで広くない、というかむしろ狭い。
地図に描かれている時計台も、大した代物ではなかった。
わざわざ時間をかけずとも、ほんの少し首を振るだけですぐに全敷地内を確認できてしまう。
ただの公園だ。手がかりになりそうなものなど一つもない。
「ちい、ならば次は幼稚園か。こちらも実物はちっぽけだったりしないだろうな……」
ポケットから取り出した地図を取り出して、次の目的地を定める。
コンパスを片手に歩き出そうとしたところで、レイラが公園を眺め続けていることに気付いた。
コンパスを片手に歩き出そうとしたところで、レイラが公園を眺め続けていることに気付いた。
「どうした、レイラ。ここにはもう用はないぞ」
「アル、あれは何かしら?」
「アル、あれは何かしら?」
遊具の一つを指差して、レイラは怪訝な顔で尋ねる。
輪廻の効果を受けてしまったのか、もとから知らないのか。
どちらかは分からないが、僕にとってただの公園でもレイラにとっては奇妙に思えるらしい。
何にせよ、知識がない者に訊かれれば答えるのが超天才の役目だ。
輪廻の効果を受けてしまったのか、もとから知らないのか。
どちらかは分からないが、僕にとってただの公園でもレイラにとっては奇妙に思えるらしい。
何にせよ、知識がない者に訊かれれば答えるのが超天才の役目だ。
「滑り台という遊具だ。階段になっているほうを上り、坂を座って滑り降りる」
「じゃああれは?」
「ジャングルジムという。よじ登ったり、内部へ入り込んだりする」
「では、あれ」
「シーソーだ。板の両側に数名が座り、交互に地面を蹴ることで上下する」
「あそこ」
「砂場だな。城なり団子なりを砂で作る場所だ」
「あれ」
「登り棒。名前通り、握り締めて上に登っていく棒だ」
「あれは」
「ブランコ。座りながら身体を前後に動かすことで、椅子が振り子のように運動する」
「いろいろあるのね……」
「じゃああれは?」
「ジャングルジムという。よじ登ったり、内部へ入り込んだりする」
「では、あれ」
「シーソーだ。板の両側に数名が座り、交互に地面を蹴ることで上下する」
「あそこ」
「砂場だな。城なり団子なりを砂で作る場所だ」
「あれ」
「登り棒。名前通り、握り締めて上に登っていく棒だ」
「あれは」
「ブランコ。座りながら身体を前後に動かすことで、椅子が振り子のように運動する」
「いろいろあるのね……」
僕が返答しているというのに、レイラはこちらを振り向きもしない。
惹きつけられたかのように、遊具から遊具へと視線を動かしている。
輪廻の効果で大人になっているというのに、ガキみたいだ。
とはいえ、知識にないものを目にしたのだから仕方がないと言えば仕方がない。
惹きつけられたかのように、遊具から遊具へと視線を動かしている。
輪廻の効果で大人になっているというのに、ガキみたいだ。
とはいえ、知識にないものを目にしたのだから仕方がないと言えば仕方がない。
「どれか一つくらい試してみるか?」
「っっ!? で、でも時間を浪費するワケには――」
「ふん。こんな公園に来てしまった時点で、すでに時間の無駄だ。
それに、このままなにもしないほうがよっぽど無駄足踏んでしまったことになる」
「そ、そう言えばそうね。じゃあ……一つ、一つだけ…………」
「っっ!? で、でも時間を浪費するワケには――」
「ふん。こんな公園に来てしまった時点で、すでに時間の無駄だ。
それに、このままなにもしないほうがよっぽど無駄足踏んでしまったことになる」
「そ、そう言えばそうね。じゃあ……一つ、一つだけ…………」
ぶつぶつと呟きながら、レイラは遊具を見渡していく。
片手では数えられないほどの回数視線を左右させて、ようやくより抜いたらしい。
片手では数えられないほどの回数視線を左右させて、ようやくより抜いたらしい。
「あれにするわ」
「…………そうか」
「…………そうか」
レイラが指差したのは、シーソーだった。
なんでまた、この公園にある遊具で唯一二人以上でないと遊べない物を選んだんだ。
そんな僕の疑問を気にも留めず、レイラはシーソーに歩み寄って腰を下ろす。
そのままこちらをじっと見据えている。
立ち止まっている僕に、視線を向け続けている。
これは、もう、行くしかない、のか。
レイラは大きな勘違いをしている。
僕は、公園にある遊具を知っているだけだ。
クソッ。こんなガキの遊び、僕だってやったことないんだぞ。
なんでまた、この公園にある遊具で唯一二人以上でないと遊べない物を選んだんだ。
そんな僕の疑問を気にも留めず、レイラはシーソーに歩み寄って腰を下ろす。
そのままこちらをじっと見据えている。
立ち止まっている僕に、視線を向け続けている。
これは、もう、行くしかない、のか。
レイラは大きな勘違いをしている。
僕は、公園にある遊具を知っているだけだ。
クソッ。こんなガキの遊び、僕だってやったことないんだぞ。
「ええい、大人の姿になってるんだからそんな端に座るな! もっと中心付近に行け!」
「たしかにそうね。気付かなかったわ。さすが天才ね、アル」
「こんなことで、僕の頭脳の優秀さを再認識するな……」
「たしかにそうね。気付かなかったわ。さすが天才ね、アル」
「こんなことで、僕の頭脳の優秀さを再認識するな……」
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
「ふふふっ」
「……ふん」
「……ふん」
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
ぎったん、ばっこん。
【E-2 公園/一日目 黎明】
【レイラ】
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:大人化、ダメージ回復、疲労(小)、心の力(小)
[装備]:輪廻@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、居合番長の風呂敷@金剛番長、 通信鬼@GS美神極楽大作戦。
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻で大人の姿となることで能力が上昇していますが、副作用で会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:大人化、ダメージ回復、疲労(小)、心の力(小)
[装備]:輪廻@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、居合番長の風呂敷@金剛番長、 通信鬼@GS美神極楽大作戦。
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻で大人の姿となることで能力が上昇していますが、副作用で会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。
【アル・ボーエン】
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康、心の力(小)
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神極楽大作戦、ノートパソコン@現実。
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康、心の力(小)
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神極楽大作戦、ノートパソコン@現実。
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。
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