意義 ◆6LcvawFfJA
マシン番長は南へと戻らず、東に進んでいる。
先刻、子猿番長と命名した少年の攻撃を受けて移動している際、道中に人影は発見できなかった。
番長抹殺プログラムを最優先している以上、誰もいない場所に向かってもメリットはない。
子猿番長がいた地点まで帰還したところで、悠長に待っている可能性は限りなく無いに等しい。
その為にマシン番長は、人間が潜むのに最適と思われるマンションが立ち並ぶ東へと足を運んだ。
マンションに辿り着くなり、いちいち階段を上ってマンション内を隈なく歩いて回る。
レーダーにエラーが生じており、さらにどの程度の範囲ならば反応するのかは不明。
そのような状況では、抹殺するべき番長を捜索するのにまどろっこしい方法を取るしかなかった。
番長がいようといなかろうと全ての建造物を片っ端から破壊すれば、最終的に番長抹殺プログラムは成し遂げられる。
しかしそんな無茶苦茶をするように、彼はプログラムされてはいない。
邪魔をしない一般人には、極力接触しないのが望ましいとされているのだ。
「コノマンションニモ、生体反応ハ無イカ……」
優に地上二十メートルはあるマンションの屋上から飛び降りても、マシン番長は涼しい顔を保つ。
靴と接触した地面は窪んでしまったというのに、姿勢は垂直のまま背筋を伸ばしている。
少し離れた場所にあるアパートに向かおうとして、マシン番長は硬直した。
先程までなにも捉えなかったレーダーが、唐突に反応したのだ。
何か感知すれば即座に出向くはずだったというのに、石像のように固まっている。
理由は、感知した反応の種類にある。
反応したのは“生体を察知する”レーダーではなく、“動く物を察知する”レーダー。
つまり、察知したのは“生物ではない”。人間の様な形をしていたとしてもである。
そして、マシン番長はある事実を知っている。
“全国にいる番長中、サイボーグはマシン番長だけ”なのだ。
「トハイエ、スデニ番長ト会ッテイル可能性ハ低クナイ」
たとえ番長でなかろうと、接触してマイナスにはならない。
情報を得ることは出来るし、仮に邪魔をするのなら破壊する必要がある。
取るべき行動を決定し、硬直していた肢体を駆動させる。
明確な目標を定めて尚、マシン番長は表情を変えない。
否、彼は元より、変える表情など持ち合わせてはいない。
先刻、子猿番長と命名した少年の攻撃を受けて移動している際、道中に人影は発見できなかった。
番長抹殺プログラムを最優先している以上、誰もいない場所に向かってもメリットはない。
子猿番長がいた地点まで帰還したところで、悠長に待っている可能性は限りなく無いに等しい。
その為にマシン番長は、人間が潜むのに最適と思われるマンションが立ち並ぶ東へと足を運んだ。
マンションに辿り着くなり、いちいち階段を上ってマンション内を隈なく歩いて回る。
レーダーにエラーが生じており、さらにどの程度の範囲ならば反応するのかは不明。
そのような状況では、抹殺するべき番長を捜索するのにまどろっこしい方法を取るしかなかった。
番長がいようといなかろうと全ての建造物を片っ端から破壊すれば、最終的に番長抹殺プログラムは成し遂げられる。
しかしそんな無茶苦茶をするように、彼はプログラムされてはいない。
邪魔をしない一般人には、極力接触しないのが望ましいとされているのだ。
「コノマンションニモ、生体反応ハ無イカ……」
優に地上二十メートルはあるマンションの屋上から飛び降りても、マシン番長は涼しい顔を保つ。
靴と接触した地面は窪んでしまったというのに、姿勢は垂直のまま背筋を伸ばしている。
少し離れた場所にあるアパートに向かおうとして、マシン番長は硬直した。
先程までなにも捉えなかったレーダーが、唐突に反応したのだ。
何か感知すれば即座に出向くはずだったというのに、石像のように固まっている。
理由は、感知した反応の種類にある。
反応したのは“生体を察知する”レーダーではなく、“動く物を察知する”レーダー。
つまり、察知したのは“生物ではない”。人間の様な形をしていたとしてもである。
そして、マシン番長はある事実を知っている。
“全国にいる番長中、サイボーグはマシン番長だけ”なのだ。
「トハイエ、スデニ番長ト会ッテイル可能性ハ低クナイ」
たとえ番長でなかろうと、接触してマイナスにはならない。
情報を得ることは出来るし、仮に邪魔をするのなら破壊する必要がある。
取るべき行動を決定し、硬直していた肢体を駆動させる。
明確な目標を定めて尚、マシン番長は表情を変えない。
否、彼は元より、変える表情など持ち合わせてはいない。
○
足音を捉えて舌なめずりしていたドットーレは、接近者を視認して目を見開く。
ドットーレにとって、マシン番長の正体を見極めるのは容易い事だった。
人間と大差ないボディの上に学生服を身に着けていたところで、正体は筒抜けだ。
「“人形”か……」
「ソウダ」
自動人形の中には、彼らの求める解答を導き出す為に人間世界に溶け込んでいるタイプが存在する。
ドットーレは、マシン番長をその類と認識した。
「ソノ帽子、血液ガ付着シテイルナ。オマエノ目的ハ何ダ」
無遠慮な言葉使いに、ドットーレの眉が微かに動く。
人間風情と過ごしている低級人形が、“最古の四人”である自分に話す口調とは思えなかった。
頭に血が上り帽子に手を伸ばしかけたところで、ドットーレは自分を抑えた。
最古の四人が、他の自動人形より上位に位置しているのは“長”直々に意思を与えられたからだ。
その長であるフランシーヌ人形よりも、ドットーレは自分の憎しみを優先してしまった。
そんな自分に、低級人形を見下す資格はない。
「返答ヲ求メテイル」
後悔に顔を歪ませるドットーレに対し、マシン番長は無表情のまま問い質す。
「目的……、取るべき行動……、進むべき道などッ、決まっている」
ドットーレは、絞り出すように。
「我らが主……意思を与えてくださったフランシーヌ様! あの御方を笑顔にするッ。自動人形の身体は尽き果てるまでッ、その為だけにある!」
喉が引き裂けるほどに声を張り上げて、宣言する。
分かり切った答えだ。
主の笑顔にするべく、二百年もの間“真夜中のサーカス”として世界を巡ったのだ。
二百年もの間、身体を改造し続けてきたのだ。
にもかかわらず、ドットーレには聞こえてしまっていた。
人形破壊者の老婆の言葉が、リピートされ続けている。
取るに足らぬはずの言葉が、木霊し続けている。
思考の片隅に、“永遠の歯車奴隷”というワードが引っかかっている。
だからこそ、ドットーレはつい声を荒げたのだ。
そして、その事にさえも勘付いてしまっている。
「“笑顔”……。何故ダ?」
「何度も言わせるなッ! 主の笑顔こそが、我ら自動人形の存在意義!」
ドットーレの声量はより一層大きくなる。
下級人形は、フランシーヌ人形への忠誠心が低い。マシン番長がしつこく尋ねてくるのに違和感は無い。
だというのに、ドットーレは苛立ってしまっている。
彼もまたフランシーヌ人形への忠誠より、己の欲を重視してしまった下級人形。
話しているうちにいずれ自分でそう納得してしまうのを、強く恐れていた。
「ソウカ……」
マシン番長が考え込むように黙ったのに安堵し、ドットーレは切り出す。
実際の焦燥を隠すような、落ち着いた口調で。
「ではな。自動人形同士で戦う理由も無い」
重厚な物言いとは裏腹に、素早くマシン番長に背を向けて足早に遠ざかっていく。
「“笑顔ニスル為ダケニアル”カ……」
己に向けられた言葉でないと理解していながら、マシン番長の呟きがドットーレの思考に残った。
ドットーレにとって、マシン番長の正体を見極めるのは容易い事だった。
人間と大差ないボディの上に学生服を身に着けていたところで、正体は筒抜けだ。
「“人形”か……」
「ソウダ」
自動人形の中には、彼らの求める解答を導き出す為に人間世界に溶け込んでいるタイプが存在する。
ドットーレは、マシン番長をその類と認識した。
「ソノ帽子、血液ガ付着シテイルナ。オマエノ目的ハ何ダ」
無遠慮な言葉使いに、ドットーレの眉が微かに動く。
人間風情と過ごしている低級人形が、“最古の四人”である自分に話す口調とは思えなかった。
頭に血が上り帽子に手を伸ばしかけたところで、ドットーレは自分を抑えた。
最古の四人が、他の自動人形より上位に位置しているのは“長”直々に意思を与えられたからだ。
その長であるフランシーヌ人形よりも、ドットーレは自分の憎しみを優先してしまった。
そんな自分に、低級人形を見下す資格はない。
「返答ヲ求メテイル」
後悔に顔を歪ませるドットーレに対し、マシン番長は無表情のまま問い質す。
「目的……、取るべき行動……、進むべき道などッ、決まっている」
ドットーレは、絞り出すように。
「我らが主……意思を与えてくださったフランシーヌ様! あの御方を笑顔にするッ。自動人形の身体は尽き果てるまでッ、その為だけにある!」
喉が引き裂けるほどに声を張り上げて、宣言する。
分かり切った答えだ。
主の笑顔にするべく、二百年もの間“真夜中のサーカス”として世界を巡ったのだ。
二百年もの間、身体を改造し続けてきたのだ。
にもかかわらず、ドットーレには聞こえてしまっていた。
人形破壊者の老婆の言葉が、リピートされ続けている。
取るに足らぬはずの言葉が、木霊し続けている。
思考の片隅に、“永遠の歯車奴隷”というワードが引っかかっている。
だからこそ、ドットーレはつい声を荒げたのだ。
そして、その事にさえも勘付いてしまっている。
「“笑顔”……。何故ダ?」
「何度も言わせるなッ! 主の笑顔こそが、我ら自動人形の存在意義!」
ドットーレの声量はより一層大きくなる。
下級人形は、フランシーヌ人形への忠誠心が低い。マシン番長がしつこく尋ねてくるのに違和感は無い。
だというのに、ドットーレは苛立ってしまっている。
彼もまたフランシーヌ人形への忠誠より、己の欲を重視してしまった下級人形。
話しているうちにいずれ自分でそう納得してしまうのを、強く恐れていた。
「ソウカ……」
マシン番長が考え込むように黙ったのに安堵し、ドットーレは切り出す。
実際の焦燥を隠すような、落ち着いた口調で。
「ではな。自動人形同士で戦う理由も無い」
重厚な物言いとは裏腹に、素早くマシン番長に背を向けて足早に遠ざかっていく。
「“笑顔ニスル為ダケニアル”カ……」
己に向けられた言葉でないと理解していながら、マシン番長の呟きがドットーレの思考に残った。
○
ドットーレが去って数刻の後、マシン番長は再び番長の捜索を再開する。
傍目には何も変化していないが、彼のCPUに新たな目的がインプットされていた。
とある、壮大なテーマが。
単に、ドットーレの言葉を鵜呑みにしたのではない。
マシン番長のメモリーには、予てより製作者の一人であるDr.月奈の柔らかな笑顔が刻み込まれていた。
不可思議なことに、そのメモリーは他のメモリーより蘇る頻度が多い。
そしてDr.月奈の笑顔が浮かぶ度、マシン番長のCPUは落ち着くのだ。
理由は不明であったが、ドットーレとのやり取りにて理解した。
番長抹殺プログラムと同じく、“存在意義”の一つであったのだ。
もう一人の製作者Dr.鍵宮の笑顔は思い返しても何の効果も得られないが、番長抹殺プログラムを進めれば見ることができる。
だがDr.月奈は、それでは笑顔を浮かべてくれない。
彼女は、すでに“もう二度と戻ってこれない”のだから。
ただ、彼女によく似た少女がいる。
月美という名の彼女の笑顔は、Dr.月奈の笑顔と同じ効果があった。
微笑む彼女のメモリーが蘇れば、CPUが落ち着きより冷静になれる。
ならば、月美を笑顔にすることも自分の存在意義なのだと、マシン番長は考える。
「シカシ、方法ガ分カラナイ……。探シテイクシカ無イナ……」
“人間を笑顔にする方法を見付ケル”。
それが、マシン番長が新たに抱えたテーマ。
番長抹殺プログラムと同時に進行するべき、大きなプログラム。
全ての番長を殺害するという彼にとって容易な任務とは異なり、何もかもが手探りなニューミッション。
傍目には何も変化していないが、彼のCPUに新たな目的がインプットされていた。
とある、壮大なテーマが。
単に、ドットーレの言葉を鵜呑みにしたのではない。
マシン番長のメモリーには、予てより製作者の一人であるDr.月奈の柔らかな笑顔が刻み込まれていた。
不可思議なことに、そのメモリーは他のメモリーより蘇る頻度が多い。
そしてDr.月奈の笑顔が浮かぶ度、マシン番長のCPUは落ち着くのだ。
理由は不明であったが、ドットーレとのやり取りにて理解した。
番長抹殺プログラムと同じく、“存在意義”の一つであったのだ。
もう一人の製作者Dr.鍵宮の笑顔は思い返しても何の効果も得られないが、番長抹殺プログラムを進めれば見ることができる。
だがDr.月奈は、それでは笑顔を浮かべてくれない。
彼女は、すでに“もう二度と戻ってこれない”のだから。
ただ、彼女によく似た少女がいる。
月美という名の彼女の笑顔は、Dr.月奈の笑顔と同じ効果があった。
微笑む彼女のメモリーが蘇れば、CPUが落ち着きより冷静になれる。
ならば、月美を笑顔にすることも自分の存在意義なのだと、マシン番長は考える。
「シカシ、方法ガ分カラナイ……。探シテイクシカ無イナ……」
“人間を笑顔にする方法を見付ケル”。
それが、マシン番長が新たに抱えたテーマ。
番長抹殺プログラムと同時に進行するべき、大きなプログラム。
全ての番長を殺害するという彼にとって容易な任務とは異なり、何もかもが手探りなニューミッション。
【B-2 住宅街/一日目 早朝】
【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:異常なし
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:番長を抹殺し、幽霊と仲直りする。邪魔するものも排除。人を“笑顔”にする方法を知る。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:異常なし
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:番長を抹殺し、幽霊と仲直りする。邪魔するものも排除。人を“笑顔”にする方法を知る。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!、AK-47@現実
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!、AK-47@現実
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。
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046:自動人形の法則 | ドットーレ | 076:横島忠夫、清麿と出会う(前編) |
018:バグ | マシン番長 | 066:ばかやろう節(1) |