境遇――孤独だった三人 ◆6LcvawFfJA
生まれてすぐから、保護するべく隔離されていた“人形破壊者”。
親から捨てられ、幼少時代を孤児院で過ごした“元麗、現火影”。
持って生まれた異能の所為で、周囲から虐げられてきた“天界人”。
それぞれ似た過去を持ちながら、前二人と最後の一人の間には大きな差がある。
弱い為に孤立した二人と異なり、天界人ロベルト・ハイドンは強いが故に孤独だったのだ。
よって弱者を守ろうとする前の二人、才賀エレオノールと小金井薫に対して、ロベルトは疑問を抱く。
彼は、誰にも守ってもらえなかった強者なのだから。
親から捨てられ、幼少時代を孤児院で過ごした“元麗、現火影”。
持って生まれた異能の所為で、周囲から虐げられてきた“天界人”。
それぞれ似た過去を持ちながら、前二人と最後の一人の間には大きな差がある。
弱い為に孤立した二人と異なり、天界人ロベルト・ハイドンは強いが故に孤独だったのだ。
よって弱者を守ろうとする前の二人、才賀エレオノールと小金井薫に対して、ロベルトは疑問を抱く。
彼は、誰にも守ってもらえなかった強者なのだから。
○
「ところでしろがねさん、彼には探し人について尋ねたの?」
ホテルに到着したロベルトの言葉を受け、エレオノールの白銀の瞳孔が拡大する。
迅速に再会せねばならない人間の存在を、すっかり失念していた。
救出した小金井の安否に気を取られていた所為であるのだが、エレオノールは己を胸中で責める。
大きく肩を落とすエレオノールの動作から察して、ロベルトは視線を小金井に向けた。
「聞いてなかったのか……。君、ええと……」
「俺は小金井、小金井薫っつーのさ。そんでもって中二! 同い年くらいじゃねーかな?」
「それは偶然だね。僕も中学二年生だよ。名前は」
ロベルトは少し警戒心を抱く。
中学生であるのなら、神候補から力を授かっている可能性がある。
そしてそうだとすれば、ほぼ確実に“知られている”ことになる。
ロベルト・ハイドンは、能力者界隈ではちょっとした有名人なのだ。
「ずばり“ロベルト・ハイドン”でしょ?」
「……ッ。どうしてその名を?」
決して動揺を顔に出しすぎず、しかし多少驚いたという表情はしっかり浮かべて、ロベルトは問う。
「種も仕掛けもない簡単な話さ。しろがねのお姉さんが、さっきから心配そうに名前呼んでたからね。
ロベルトなんて名簿に一人しかいないから、当てられて当然って落ち」
白い八重歯を見せて笑う小金井。
ロベルトも一瞬唖然としてから、釣られて作っていた表情を崩してしまった。
「で小金井君、才賀勝という少年と」
「悪いけど、俺が最初に会ったのはあのシルベストリってサイボーグだよ」
小金井の言葉にエレオノールは頭を垂らし、また即座に勢いよく上げた。
「ロベルト! 怪我はありませんか!?」
「いや、大丈夫だよ。特に何も無い」
僅かだけ迷い、ロベルトは続ける。
小金井がシルベストリの名を知っているのならば、数時間と待たず明らかになってしまうことだ。
「人形を追い詰めたが、不意を突かれ逃がしてしまった。任されておいてすまない」
この発言は虚構だ。
あえて見逃したのが真実だが、それを言うほどロベルトは愚かではない。
多少叱責されてでも、不意を突かれた事にした方が立ち回りやすい。
そう考えていたロベルトに待っていたのは、予期せぬ反応だった。
「安心しました。何よりまずロベルトに傷が無いことが第一です」
大きく安堵の息を吐き、エレオノールは柔らかな笑みを浮かべる。
何故か胸が痛くなり、ロベルトは笑顔から目を逸らす。
「俺も怪我無いけど……、あいつを放っておくのは危険だね。どこに行ったか分かる」
「すまない。逃げられてから暫く捜したが見つからなかった。おそらく、既に離れられてしまっているだろう」
これもまた虚構。
エレオノールと小金井が浮かべた神妙な表情を、ロベルトは直視する事が出来なかった。
「なら、今から追っても仕方ないね……。
さっき言ってたお姉さんの探してる人の事教えてよ。俺も仲間探してるしね!」
“仕方がない”。
小金井がおそらく深い意味など籠めずに使ったであろう言葉。
それが、ロベルトの中に引っ掛かった。
先程の行動は、仕方がなかったのだろうか。
小金井とエレオノールの言葉に相槌を打ちながらも、そんな風に考えてしまっていた。
ホテルに到着したロベルトの言葉を受け、エレオノールの白銀の瞳孔が拡大する。
迅速に再会せねばならない人間の存在を、すっかり失念していた。
救出した小金井の安否に気を取られていた所為であるのだが、エレオノールは己を胸中で責める。
大きく肩を落とすエレオノールの動作から察して、ロベルトは視線を小金井に向けた。
「聞いてなかったのか……。君、ええと……」
「俺は小金井、小金井薫っつーのさ。そんでもって中二! 同い年くらいじゃねーかな?」
「それは偶然だね。僕も中学二年生だよ。名前は」
ロベルトは少し警戒心を抱く。
中学生であるのなら、神候補から力を授かっている可能性がある。
そしてそうだとすれば、ほぼ確実に“知られている”ことになる。
ロベルト・ハイドンは、能力者界隈ではちょっとした有名人なのだ。
「ずばり“ロベルト・ハイドン”でしょ?」
「……ッ。どうしてその名を?」
決して動揺を顔に出しすぎず、しかし多少驚いたという表情はしっかり浮かべて、ロベルトは問う。
「種も仕掛けもない簡単な話さ。しろがねのお姉さんが、さっきから心配そうに名前呼んでたからね。
ロベルトなんて名簿に一人しかいないから、当てられて当然って落ち」
白い八重歯を見せて笑う小金井。
ロベルトも一瞬唖然としてから、釣られて作っていた表情を崩してしまった。
「で小金井君、才賀勝という少年と」
「悪いけど、俺が最初に会ったのはあのシルベストリってサイボーグだよ」
小金井の言葉にエレオノールは頭を垂らし、また即座に勢いよく上げた。
「ロベルト! 怪我はありませんか!?」
「いや、大丈夫だよ。特に何も無い」
僅かだけ迷い、ロベルトは続ける。
小金井がシルベストリの名を知っているのならば、数時間と待たず明らかになってしまうことだ。
「人形を追い詰めたが、不意を突かれ逃がしてしまった。任されておいてすまない」
この発言は虚構だ。
あえて見逃したのが真実だが、それを言うほどロベルトは愚かではない。
多少叱責されてでも、不意を突かれた事にした方が立ち回りやすい。
そう考えていたロベルトに待っていたのは、予期せぬ反応だった。
「安心しました。何よりまずロベルトに傷が無いことが第一です」
大きく安堵の息を吐き、エレオノールは柔らかな笑みを浮かべる。
何故か胸が痛くなり、ロベルトは笑顔から目を逸らす。
「俺も怪我無いけど……、あいつを放っておくのは危険だね。どこに行ったか分かる」
「すまない。逃げられてから暫く捜したが見つからなかった。おそらく、既に離れられてしまっているだろう」
これもまた虚構。
エレオノールと小金井が浮かべた神妙な表情を、ロベルトは直視する事が出来なかった。
「なら、今から追っても仕方ないね……。
さっき言ってたお姉さんの探してる人の事教えてよ。俺も仲間探してるしね!」
“仕方がない”。
小金井がおそらく深い意味など籠めずに使ったであろう言葉。
それが、ロベルトの中に引っ掛かった。
先程の行動は、仕方がなかったのだろうか。
小金井とエレオノールの言葉に相槌を打ちながらも、そんな風に考えてしまっていた。
○
「お姉さんは、その勝を守らなきゃいけないんだ。大変だね」
「いえ、小金井もです。柳という子……間に合うと良いですね」
「まあ……、ここと変わらないくらい危険だからね」
遠くを見ながら、小金井は表情を険しくする。
折り畳んでいるエレザールの鎌を持つ手が、微細に震えていた。
その素振りを見て、エレオノールもまた目付きを鋭くする。
保護すべき対象の事を考えているように、ロベルトには見えた。
故に、これまで殆ど動かしていなかった口を開く。
「仮定の話になるが……もしも、だ」
才賀勝と佐古下柳。
どちらも戦う術を持たないらしかった。
幼少時のロベルト・ハイドンは見捨てられてたというのに。
彼と彼女は、守ってもらえるのだという。
ならば、ロベルトには尋ねずにいられなかった。
「君達が守ろうとしている彼や彼女が、仮に……、そうだな」
包帯を纏った額から、滑らすようにロベルトは髪を掻き揚げた。
さながら何でもなくふと疑問に思った事を口にしているだけだと、印象付けているかのように。
「あのシルベストリを圧倒出来るほどに強かったのなら……、君達は守ろうとするのか?
武器を持たずとも、自動人形を一蹴する実力があったとしたら。君達よりもよっぽど強かったとしたら。
それでも君達は、彼や彼女を守るのか?」
静寂が場を支配する。
あくまでロベルトにはそう感じた。
訊いてから答えを待つまでの時間が、永劫じみて思えた。
ようやく、或いはすぐにであったのか。
ロベルトには判別つかないが、エレオノールと小金井はほぼ同時に返した。
「それは関係ありません。私は、お坊ちゃまに危険な目に遭って欲しくないのです」
「そんなのどうでもいいよ。俺は、柳ちゃんには安全でいて欲しいだけなんだから」
瞬きすることなく、銅像のように固まってしまう。
そんな自分に気付いたロベルトは、慌てた素振りを見せないように再び右手を顔に持っていく。
「そうか。変な事聞いて悪かったね」
今回は、髪がうまく掻き揚げられなかった。
気付かぬ内に掻いていた汗の所為で、髪が一部肌に纏わりついているのだ。
それに焦るロベルトを、エレオノールと小金井は怪訝そうに眺める。
彼が何をやっているのか分からないといった様子で、首を傾げていた。
「いえ、小金井もです。柳という子……間に合うと良いですね」
「まあ……、ここと変わらないくらい危険だからね」
遠くを見ながら、小金井は表情を険しくする。
折り畳んでいるエレザールの鎌を持つ手が、微細に震えていた。
その素振りを見て、エレオノールもまた目付きを鋭くする。
保護すべき対象の事を考えているように、ロベルトには見えた。
故に、これまで殆ど動かしていなかった口を開く。
「仮定の話になるが……もしも、だ」
才賀勝と佐古下柳。
どちらも戦う術を持たないらしかった。
幼少時のロベルト・ハイドンは見捨てられてたというのに。
彼と彼女は、守ってもらえるのだという。
ならば、ロベルトには尋ねずにいられなかった。
「君達が守ろうとしている彼や彼女が、仮に……、そうだな」
包帯を纏った額から、滑らすようにロベルトは髪を掻き揚げた。
さながら何でもなくふと疑問に思った事を口にしているだけだと、印象付けているかのように。
「あのシルベストリを圧倒出来るほどに強かったのなら……、君達は守ろうとするのか?
武器を持たずとも、自動人形を一蹴する実力があったとしたら。君達よりもよっぽど強かったとしたら。
それでも君達は、彼や彼女を守るのか?」
静寂が場を支配する。
あくまでロベルトにはそう感じた。
訊いてから答えを待つまでの時間が、永劫じみて思えた。
ようやく、或いはすぐにであったのか。
ロベルトには判別つかないが、エレオノールと小金井はほぼ同時に返した。
「それは関係ありません。私は、お坊ちゃまに危険な目に遭って欲しくないのです」
「そんなのどうでもいいよ。俺は、柳ちゃんには安全でいて欲しいだけなんだから」
瞬きすることなく、銅像のように固まってしまう。
そんな自分に気付いたロベルトは、慌てた素振りを見せないように再び右手を顔に持っていく。
「そうか。変な事聞いて悪かったね」
今回は、髪がうまく掻き揚げられなかった。
気付かぬ内に掻いていた汗の所為で、髪が一部肌に纏わりついているのだ。
それに焦るロベルトを、エレオノールと小金井は怪訝そうに眺める。
彼が何をやっているのか分からないといった様子で、首を傾げていた。
【E-4 ビジネスホテル/一日目 早朝】
【ロベルト・ハイドン】
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと同行し、人が集まりそうな街へ向かう。
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと同行し、人が集まりそうな街へ向かう。
【才賀エレオノール】
[時間軸]:28巻『幕間Ⅰ~「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、残り支給品0~2(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
[時間軸]:28巻『幕間Ⅰ~「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、残り支給品0~2(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
【小金井薫】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。
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033:It's like a 自問自答 | 才賀エレオノール | 095:明け方の演奏会 |
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小金井薫 |