ジョージ・ラローシュの交渉 ◆n0WqfobHTU
相手が人間ならば、戦う以外の選択肢もありうるかもしれない。そう思える程度には、人を、信じようという気になれた。
神秘の玉の回転でどーにかこうにかコウ・カルナギの蹴りを防いだジョージ・ラローシュは、そのまま大きく吹っ飛ばされる。
こうして都合良く距離も開いてくれたので、ジョージは神秘の玉を収納し、悪鬼のごとき気配を隠すそぶりもみせぬコウ・カルナギを前に、静かに、手元のバッグを開いた。
中から出て来たのは、息を噴きいれ鍵盤を弾く事で音を鳴らす、鍵盤ハーモニカ、ピアニカと呼ばれるものであった。
その名称をコウは知らなかったが、小型のピアノっぽい楽器というのは見ればわかる。
コウは怪訝そうにそれを見つめる。
「おい、そりゃ何の真似……」
コウのリアクションなぞ全放置で、ジョージは大き息を吸い込むと鍵盤に指を走らせた。
呼気を用いる事で豊かな音色を可能とするピアニカから、流れるように音が響く。
「……何、してやがんだてめぇ?」
ジョージは表情のまるで読めぬ銀色の瞳でコウを見つめた。
「ふむ、『禁じられた遊び』という曲なのだが。知らなかったか? なら……」
すたすたすたとコウ・カルナギはジョージに近寄っていく。
「これならどうだ? バッハならば有名であるし……」
目を閉じて曲に集中するジョージを、コウ・カルナギは情け容赦無く殴り飛ばした。
小さい悲鳴と共にジョージは近くの民家に叩き込まれる。
中で派手な音がしたのは、家具に激突して下敷きにでもなったせいか。
首を傾げた後、コウ・カルナギはぶつぶつ漏らしながら足を進める。
「ただの馬鹿か? 一体何だったんだ今のは……」
調子の狂ったような顔をしていたコウ・カルナギであったが、その気配にはすぐに気付けた。
民家の奥よりがさがさと動く音。
木製の何かを跳ね除けた音。
天井から落っこちてきた何かが当たったらしい音。
がしゃんという音から察するに照明器具であろう。というかそのまま民家から出てきたジョージがガラス塗れな所を見れば音関係なくそれはわかる。
「そんなに私の音楽は出来が悪かったか? まあ待て、ならもっと大きなピアノを探そう。自慢ではないがピアノの技術だけならばそうそう遅れは取らないと自負しているんだ」
コウ・カルナギが注視したのは、もちろん音楽云々ではなく、コウに殴られても平然と立ち上がった所だ。
「へぇタフじゃねえか、妙な芸だけじゃねえんだなてめぇ」
すたすたとコウに歩み寄るジョージは、体のガラスやら木切れやらを払い落としている。
「これでもしろがね-Oだからな。頑丈さには自信がある。だが、一つ忠告させてもらおう」
「何だ?」
「そんな勢いで他の人間を殴るのは止めた方がいい。死んでしまうぞ」
馬鹿にされているのか、コウは一瞬そうも思ったが、何処までも真顔のジョージの顔からその辺を判断する事は出来ない。
「おい、お前殺し合いしねえのか? そうしねえと首輪吹っ飛んでてめぇが死んじまうぞ」
ジョージは、そこで初めて感情らしきものを表現する。
落胆を示すように大きく肩を落として見せたのだが、やはり顔は無表情のままである。
「ふむ、友愛を示すべく音楽を奏でてみたのだが、伝わらなかったか。誤解の無いよう言っておくが、あの戦闘形態はあくまで移動に用いていただけであって、私に戦闘の意志はない」
「…………」
コウは無言。なのでジョージは言葉を続けた。
「音楽は人の心を安らげる。私はOであるから効果は薄いだろうが、君は人間のようだしそれならばと思った……」
そこでジョージも言葉を止めたのは、ジョージの眼前に、もうこれでもかっつー勢いで大きく拳を振りかぶったコウの姿があったからだ。
今度は通りすがりにどつくなんて勢いではなく、全体重を拳に乗せきる勢いでコウは右腕を振り切る。
そしてこれを喰らったジョージ。
手足の骨格明後日の方向いてるだろ、な姿でぐるんぐるん回りながら吹っ飛んで行った。
そして衝撃音。
壁の崩れる音。
下敷きになるジョージ。
少しの間ぴくりとも動かなかったが、それでも彼は立ち上がった。
ふらふらと覚束ない足元で、瓦礫をどけながら。
「……な、何だこの拳は。もしかしてお前も改造を受けていたりするのか?」
コウは、心底不思議そうに問うた。
「お前、こんだけやられてまだヤる気になんねえのか?」
ジョージより殺意も敵意もまるで感じられぬコウは、そんな人間を信じられぬのだ。
「ああ、自己紹介がまだだったな。私の名はジョージ・ラローシュ。しろがねOの一人だ。一つ、聞いていいか?」
「……一つならな」
「私は極めて友好的な接触を試みているつもりなのだが、何処がお前の気に触ったんだ? 正直、これ以上殴られるのは御免被りたいのだが」
コウ・カルナギよりの返事は、実に彼らしい拳がドでかく見えるような迫力あるパンチで行なわれた。
こうして都合良く距離も開いてくれたので、ジョージは神秘の玉を収納し、悪鬼のごとき気配を隠すそぶりもみせぬコウ・カルナギを前に、静かに、手元のバッグを開いた。
中から出て来たのは、息を噴きいれ鍵盤を弾く事で音を鳴らす、鍵盤ハーモニカ、ピアニカと呼ばれるものであった。
その名称をコウは知らなかったが、小型のピアノっぽい楽器というのは見ればわかる。
コウは怪訝そうにそれを見つめる。
「おい、そりゃ何の真似……」
コウのリアクションなぞ全放置で、ジョージは大き息を吸い込むと鍵盤に指を走らせた。
呼気を用いる事で豊かな音色を可能とするピアニカから、流れるように音が響く。
「……何、してやがんだてめぇ?」
ジョージは表情のまるで読めぬ銀色の瞳でコウを見つめた。
「ふむ、『禁じられた遊び』という曲なのだが。知らなかったか? なら……」
すたすたすたとコウ・カルナギはジョージに近寄っていく。
「これならどうだ? バッハならば有名であるし……」
目を閉じて曲に集中するジョージを、コウ・カルナギは情け容赦無く殴り飛ばした。
小さい悲鳴と共にジョージは近くの民家に叩き込まれる。
中で派手な音がしたのは、家具に激突して下敷きにでもなったせいか。
首を傾げた後、コウ・カルナギはぶつぶつ漏らしながら足を進める。
「ただの馬鹿か? 一体何だったんだ今のは……」
調子の狂ったような顔をしていたコウ・カルナギであったが、その気配にはすぐに気付けた。
民家の奥よりがさがさと動く音。
木製の何かを跳ね除けた音。
天井から落っこちてきた何かが当たったらしい音。
がしゃんという音から察するに照明器具であろう。というかそのまま民家から出てきたジョージがガラス塗れな所を見れば音関係なくそれはわかる。
「そんなに私の音楽は出来が悪かったか? まあ待て、ならもっと大きなピアノを探そう。自慢ではないがピアノの技術だけならばそうそう遅れは取らないと自負しているんだ」
コウ・カルナギが注視したのは、もちろん音楽云々ではなく、コウに殴られても平然と立ち上がった所だ。
「へぇタフじゃねえか、妙な芸だけじゃねえんだなてめぇ」
すたすたとコウに歩み寄るジョージは、体のガラスやら木切れやらを払い落としている。
「これでもしろがね-Oだからな。頑丈さには自信がある。だが、一つ忠告させてもらおう」
「何だ?」
「そんな勢いで他の人間を殴るのは止めた方がいい。死んでしまうぞ」
馬鹿にされているのか、コウは一瞬そうも思ったが、何処までも真顔のジョージの顔からその辺を判断する事は出来ない。
「おい、お前殺し合いしねえのか? そうしねえと首輪吹っ飛んでてめぇが死んじまうぞ」
ジョージは、そこで初めて感情らしきものを表現する。
落胆を示すように大きく肩を落として見せたのだが、やはり顔は無表情のままである。
「ふむ、友愛を示すべく音楽を奏でてみたのだが、伝わらなかったか。誤解の無いよう言っておくが、あの戦闘形態はあくまで移動に用いていただけであって、私に戦闘の意志はない」
「…………」
コウは無言。なのでジョージは言葉を続けた。
「音楽は人の心を安らげる。私はOであるから効果は薄いだろうが、君は人間のようだしそれならばと思った……」
そこでジョージも言葉を止めたのは、ジョージの眼前に、もうこれでもかっつー勢いで大きく拳を振りかぶったコウの姿があったからだ。
今度は通りすがりにどつくなんて勢いではなく、全体重を拳に乗せきる勢いでコウは右腕を振り切る。
そしてこれを喰らったジョージ。
手足の骨格明後日の方向いてるだろ、な姿でぐるんぐるん回りながら吹っ飛んで行った。
そして衝撃音。
壁の崩れる音。
下敷きになるジョージ。
少しの間ぴくりとも動かなかったが、それでも彼は立ち上がった。
ふらふらと覚束ない足元で、瓦礫をどけながら。
「……な、何だこの拳は。もしかしてお前も改造を受けていたりするのか?」
コウは、心底不思議そうに問うた。
「お前、こんだけやられてまだヤる気になんねえのか?」
ジョージより殺意も敵意もまるで感じられぬコウは、そんな人間を信じられぬのだ。
「ああ、自己紹介がまだだったな。私の名はジョージ・ラローシュ。しろがねOの一人だ。一つ、聞いていいか?」
「……一つならな」
「私は極めて友好的な接触を試みているつもりなのだが、何処がお前の気に触ったんだ? 正直、これ以上殴られるのは御免被りたいのだが」
コウ・カルナギよりの返事は、実に彼らしい拳がドでかく見えるような迫力あるパンチで行なわれた。
相手をするのが嫌になったコウは、ジョージを無視してさっさと歩を進めるが、ジョージはその後を小走りについてくる。
「待て。奴等の言うように殺し合いをした所で、奴等が素直に我々を逃がしてくれる保証なぞ何処にもないぞ」
コウは無言。
「それに、だ。お前は知らないだろうが、ここにはしろがねOの、そして自動人形の長であるフェイスレスも来ている。まともに奴とぶつかっては勝ち目なぞ無いぞ」
ぴくりと、コウの耳が動いた。
「へぇ、そいつはそんなに強ぇのか?」
「だから我等しろがねOの長であったと言っているだろう。三解のフェイスレスと言えば、裏切りが発覚する以前より自動人形の間ですら有名な名であったのだぞ」
ジョージの忠告はコウを煽るだけである。
そんなコウの在り様が理解出来ぬジョージは、再び彼に問う。
「何故そこまで自分の力に自信がありながら、この殺し合いを仕掛けた者の言葉に従っているのだ? 戦闘は好きだが、死ぬかもしれぬ戦いは嫌だと、そういう事か? 自分が死なない程度の敵としか戦う気は無いと」
ぴたりとコウの足が止まる。
振り返ったコウは、口を大きく開いた笑顔を見せ、ジョージの肩をぽんぽんと叩く。
「む? 私は何かおかしい事を言ったか? いや、しかし君の笑顔は始めてみたがまるで獲物を前にしたライオンの様……」
四度、コウの拳が唸りを上げた。
回復能力に長けたしろがねとはいえ、相手は誰あろうコウ・カルナギだ。
その拳を四発ももらって、無事でいられようはずもない。
「……なあ、気に触った事があるのなら、まず言葉で言ってもらえないか。これでは反省を後に活かす事も出来ないし、何より身が持たない」
「うるせえっ! てめぇ何なんださっきから!」
コウの技量があれば、ジョージがわざと拳を受けているのではないことはわかる。
攻撃の意志はないのだろうが、コウの拳に反応も出来ていない。
つまりコウの攻撃を防ぐ手段は無い、そうジョージにももうわかっているはずなのである。
常人ならば十回は死ねる打撃を積み重ねたジョージの体は、とうとう動く事も出来なくなってしまった模様。
「てめぇがタフなのはわかったがな、それだけだ。その程度の能力じゃさっきの曲芸もたかが知れてるしな。まさかまだ俺に勝てるつもりなんじゃねえだろうな」
「無理を言うな。それに私は君のような非常識な拳を振るう相手にはトラウマがあるんだ。まったく、この手の相手は私にはキモンらしい」
両手を大きく広げるコウ。
「お前の都合なんざ知った事か! いいから俺に用があるんならさっさと言え!」
仰向けにひっくり返った体勢のまま、首だけを起こしてジョージは言った。
「ここから脱出する為協力し合わないか」
真意を確かめるようにコウはジョージをじっと見つめる。
「……アテでもあんのか?」
「無い」
よし殴ろう、そう決めて踏み出しかけたコウは、しかしそこで足を止める。
「お前、さあ。……普通、ここまで殴られりゃ猿でも学習しねえか?」
「かもしれない。それでも、人一人説得しようというのだ。それなりの代償は払わねばならないだろう」
ジョージの言葉をコウは鼻で笑う。
「笑わせるぜ、ちっと撫でたぐらいで動けなくなるようなてめぇが俺に協力しようだ? そのザマでどう俺の力になれるってんだ?」
みきみきと音を立てる全身を、ジョージは強引に持ち上げ立ち上がった。
コウはジョージの異常に早い自然治癒能力に気付いていた。
それでも負った損傷は体を動かせる程回復していない事にも。
「ほう」
半ば崩れかけたブロック壁に手をつきながらだが、ジョージはよたよたとコウの方に歩み寄る。
「……とりあえず、今までのやりとりで、まず一つ、君の役に立つ方法が見つかったぞ」
「ふん、聞いてやるぜ。言ってみな」
「脱出の手助けとなるかもしれない人物との交渉役だ。君に任せたら挨拶する間も無く死んでしまうだろうからな」
ジョージの交渉術も大概なのだが、確かに、コウ・カルナギがそうするよりはマシであろう。
「待て。奴等の言うように殺し合いをした所で、奴等が素直に我々を逃がしてくれる保証なぞ何処にもないぞ」
コウは無言。
「それに、だ。お前は知らないだろうが、ここにはしろがねOの、そして自動人形の長であるフェイスレスも来ている。まともに奴とぶつかっては勝ち目なぞ無いぞ」
ぴくりと、コウの耳が動いた。
「へぇ、そいつはそんなに強ぇのか?」
「だから我等しろがねOの長であったと言っているだろう。三解のフェイスレスと言えば、裏切りが発覚する以前より自動人形の間ですら有名な名であったのだぞ」
ジョージの忠告はコウを煽るだけである。
そんなコウの在り様が理解出来ぬジョージは、再び彼に問う。
「何故そこまで自分の力に自信がありながら、この殺し合いを仕掛けた者の言葉に従っているのだ? 戦闘は好きだが、死ぬかもしれぬ戦いは嫌だと、そういう事か? 自分が死なない程度の敵としか戦う気は無いと」
ぴたりとコウの足が止まる。
振り返ったコウは、口を大きく開いた笑顔を見せ、ジョージの肩をぽんぽんと叩く。
「む? 私は何かおかしい事を言ったか? いや、しかし君の笑顔は始めてみたがまるで獲物を前にしたライオンの様……」
四度、コウの拳が唸りを上げた。
回復能力に長けたしろがねとはいえ、相手は誰あろうコウ・カルナギだ。
その拳を四発ももらって、無事でいられようはずもない。
「……なあ、気に触った事があるのなら、まず言葉で言ってもらえないか。これでは反省を後に活かす事も出来ないし、何より身が持たない」
「うるせえっ! てめぇ何なんださっきから!」
コウの技量があれば、ジョージがわざと拳を受けているのではないことはわかる。
攻撃の意志はないのだろうが、コウの拳に反応も出来ていない。
つまりコウの攻撃を防ぐ手段は無い、そうジョージにももうわかっているはずなのである。
常人ならば十回は死ねる打撃を積み重ねたジョージの体は、とうとう動く事も出来なくなってしまった模様。
「てめぇがタフなのはわかったがな、それだけだ。その程度の能力じゃさっきの曲芸もたかが知れてるしな。まさかまだ俺に勝てるつもりなんじゃねえだろうな」
「無理を言うな。それに私は君のような非常識な拳を振るう相手にはトラウマがあるんだ。まったく、この手の相手は私にはキモンらしい」
両手を大きく広げるコウ。
「お前の都合なんざ知った事か! いいから俺に用があるんならさっさと言え!」
仰向けにひっくり返った体勢のまま、首だけを起こしてジョージは言った。
「ここから脱出する為協力し合わないか」
真意を確かめるようにコウはジョージをじっと見つめる。
「……アテでもあんのか?」
「無い」
よし殴ろう、そう決めて踏み出しかけたコウは、しかしそこで足を止める。
「お前、さあ。……普通、ここまで殴られりゃ猿でも学習しねえか?」
「かもしれない。それでも、人一人説得しようというのだ。それなりの代償は払わねばならないだろう」
ジョージの言葉をコウは鼻で笑う。
「笑わせるぜ、ちっと撫でたぐらいで動けなくなるようなてめぇが俺に協力しようだ? そのザマでどう俺の力になれるってんだ?」
みきみきと音を立てる全身を、ジョージは強引に持ち上げ立ち上がった。
コウはジョージの異常に早い自然治癒能力に気付いていた。
それでも負った損傷は体を動かせる程回復していない事にも。
「ほう」
半ば崩れかけたブロック壁に手をつきながらだが、ジョージはよたよたとコウの方に歩み寄る。
「……とりあえず、今までのやりとりで、まず一つ、君の役に立つ方法が見つかったぞ」
「ふん、聞いてやるぜ。言ってみな」
「脱出の手助けとなるかもしれない人物との交渉役だ。君に任せたら挨拶する間も無く死んでしまうだろうからな」
ジョージの交渉術も大概なのだが、確かに、コウ・カルナギがそうするよりはマシであろう。
コウ・カルナギは異常な遺伝子を持つ者達の一人として、実験施設にて研究されていた。
その扱いはモルモットのそれであり、類稀な能力の事もあり、まともに真正面から会話しようという者もいなかった。
そうする為には、コウ・カルナギの人類の域を軽く越えた暴力に耐える必要があったのだから、当然と言えば当然だ。
かつてアル・ボーエンがコウ・カルナギとの交渉を成功させているが、これにした所で条件が揃った上での事だ。
研究所にてコウ・カルナギに必要とされていたのは正にその暴力であり、それが限度を越えていた為、コウ・カルナギは特異な人間ばかり集められた研究所ですら異端視された。
これをコウ・カルナギがどう捉えていたのかの記述は無い。
ただ、彼は研究所の外に出てからも「強さ」に固執している所から、他者のようにモルモットにされずに済んだ理由である、彼の彼だけの暴力に、深い自負を抱いていたと推測される。
そしてその暴力を用いて彼が為した事は、強さの確認である。
強者と合間見える事を目的とし、拳を交え自らの強さを確かめる。
そこまではコウ・カルナギを知る人物ならば、誰しも辿り着けるだろう彼の人物像だ。
しかし、それ以外の見方も存在するのではなかろうか。
特異な環境に生きた彼は、一般人ズレ甚だしいジョージ・ラローシュと比較してすら、コミュニケーション能力に劣る。
彼に出来るのはその劣った対話能力ではなく、自慢の拳で語る事のみ。それ以外で強い自我に見合った優位を保つ自信が無かったのだろう。
そして、ただひたすらに強さを求める、例えばスプリガンの朧のような生き方を選ばず、飽く事無く強者との血沸き肉踊る対戦を望んだのは、彼が他者との関わりを心の底では望んでいたからではないだろうか。
自らと対等に戦える相手と認めたならば、その者に固執し何度も何度も戦おうとする。
これこそが、コウ・カルナギの対話であったのではなかろうか。
結論は、出ない。
コウ・カルナギがエグリゴリのくびきより放たれて、まだ間が無い。
彼がどのような内面世界を持ち得るのか。恐らく彼自身にすらわからぬ心の内は、このような多種多様な人間が集まる殺し合いの中でどう動いていくのか。
とりあえず、今は一つだけ、答えが出た。
その扱いはモルモットのそれであり、類稀な能力の事もあり、まともに真正面から会話しようという者もいなかった。
そうする為には、コウ・カルナギの人類の域を軽く越えた暴力に耐える必要があったのだから、当然と言えば当然だ。
かつてアル・ボーエンがコウ・カルナギとの交渉を成功させているが、これにした所で条件が揃った上での事だ。
研究所にてコウ・カルナギに必要とされていたのは正にその暴力であり、それが限度を越えていた為、コウ・カルナギは特異な人間ばかり集められた研究所ですら異端視された。
これをコウ・カルナギがどう捉えていたのかの記述は無い。
ただ、彼は研究所の外に出てからも「強さ」に固執している所から、他者のようにモルモットにされずに済んだ理由である、彼の彼だけの暴力に、深い自負を抱いていたと推測される。
そしてその暴力を用いて彼が為した事は、強さの確認である。
強者と合間見える事を目的とし、拳を交え自らの強さを確かめる。
そこまではコウ・カルナギを知る人物ならば、誰しも辿り着けるだろう彼の人物像だ。
しかし、それ以外の見方も存在するのではなかろうか。
特異な環境に生きた彼は、一般人ズレ甚だしいジョージ・ラローシュと比較してすら、コミュニケーション能力に劣る。
彼に出来るのはその劣った対話能力ではなく、自慢の拳で語る事のみ。それ以外で強い自我に見合った優位を保つ自信が無かったのだろう。
そして、ただひたすらに強さを求める、例えばスプリガンの朧のような生き方を選ばず、飽く事無く強者との血沸き肉踊る対戦を望んだのは、彼が他者との関わりを心の底では望んでいたからではないだろうか。
自らと対等に戦える相手と認めたならば、その者に固執し何度も何度も戦おうとする。
これこそが、コウ・カルナギの対話であったのではなかろうか。
結論は、出ない。
コウ・カルナギがエグリゴリのくびきより放たれて、まだ間が無い。
彼がどのような内面世界を持ち得るのか。恐らく彼自身にすらわからぬ心の内は、このような多種多様な人間が集まる殺し合いの中でどう動いていくのか。
とりあえず、今は一つだけ、答えが出た。
「よし、面倒な事は全部お前がやれ。もちろん、俺の戦いの邪魔しやがったら即座にブチ殺すがな。ああ、後脱出しそこねてもブチ殺す。命賭けでやれ」
「どの道命は賭かっているだろう。私のだけでなく、君の命も」
「だから必死こいてやれっつってんだよ銀目」
「銀の瞳はしろがねに共通する特徴だ。私の名はジョージ・ラローシュだと言ったろう」
「ああ、はいはい、ジョージね。俺はコウ・カルナギ様だ。そう呼べ」
「カルナギサマー? 夏の一種か?」
とりあえずジョージを殴り飛ばしながら、コウ・カルナギは少し上機嫌に歩き出す。
口は悪いが、ムカツいて殴ってもすぐに壊れない下っ端というのは、彼の経験にもそう無かったのだから。
「どの道命は賭かっているだろう。私のだけでなく、君の命も」
「だから必死こいてやれっつってんだよ銀目」
「銀の瞳はしろがねに共通する特徴だ。私の名はジョージ・ラローシュだと言ったろう」
「ああ、はいはい、ジョージね。俺はコウ・カルナギ様だ。そう呼べ」
「カルナギサマー? 夏の一種か?」
とりあえずジョージを殴り飛ばしながら、コウ・カルナギは少し上機嫌に歩き出す。
口は悪いが、ムカツいて殴ってもすぐに壊れない下っ端というのは、彼の経験にもそう無かったのだから。
【E-3 南部路上/一日目 早朝】
【コウ・カルナギ】
[時間軸]:第五部開始時
[状態]:軽い疲労、両掌に軽い怪我、満腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:サーチアンドデストロイ。ARMS、鬼丸を特に優先。刃も見つけ次第ブン殴る。ジョージに面倒な事は全部やらせる。
[時間軸]:第五部開始時
[状態]:軽い疲労、両掌に軽い怪我、満腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:サーチアンドデストロイ。ARMS、鬼丸を特に優先。刃も見つけ次第ブン殴る。ジョージに面倒な事は全部やらせる。
【ジョージ・ラローシュ】
[時間軸]:本編死亡後
[状態]:殴られすぎて通常行動は可能な程度にガタが来ている、疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:ジードのタバコ@金色のガッシュ、ピアニカ@金色のガッシュ、ランダム支給品0~1、基本支給品一式
[基本方針]:脱出して子供たちにピアノを聞かせる。乗る気はない。 コウと共に脱出を画策する。
[時間軸]:本編死亡後
[状態]:殴られすぎて通常行動は可能な程度にガタが来ている、疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:ジードのタバコ@金色のガッシュ、ピアニカ@金色のガッシュ、ランダム支給品0~1、基本支給品一式
[基本方針]:脱出して子供たちにピアノを聞かせる。乗る気はない。 コウと共に脱出を画策する。
ピアニカ@金色のガッシュベル アポロが子供に弾くようせがまれた楽器の一つ。子供が扱う物でもあるので、楽器のワリに結構頑丈だったり。
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050:歯車が噛み合わない | コウ・カルナギ | 095:明け方の演奏会 |
ジョージ・ラローシュ |