一閃――鬼、天を斬る ◆6LcvawFfJA
やかましく首輪から響くアナウンスを無視し、鬼丸猛は北上する。
首輪が鳴ってから五歩ほど進んでから、ようやくその足を止めた。
目を眇めて、前方に広がる地平線を注意深く眺める。
一見何も無いようだが、しかし確かに何かが眼前に立ちはだかっている。
納刀したままの魔王剣を前に出してみると、やはり目視出来ぬ壁に阻まれた。
(結界か)
胸中でひとりごちる鬼丸に、驚愕の念は無い。
魔王鬼丸に殺し合いを強制しているのだ。
この程度の備えがあるのは必然。むしろ、していなくては愚鈍に過ぎる。
先刻の放送によれば、キース・ブラックは死者だけでなく参加者の所在地まで把握している。
つまるところ、自らに危機の及ばぬ外部より観覧を決め込んでいるのだろう。
「しかし地上に壁を作ることは出来ても……」
不可視の壁より視線を逸らし、上空を見据える鬼丸。
魔王の意に呼応して、魔王剣から響く呻きにも似た胎動音。
柄の髑髏を模した装飾から闇が溢れ出し、瞬く間に持ち主までも包み込む。
「“天”はどうだろうな」
不遜に言い放ち、鬼丸は魔王剣を抜く。
抜刀の勢いそのままに一閃すると、刃の軌道と変わらぬ形状の漆黒が天を昇っていく。
悪の素質を持ち合わせた者でなければ引き出せぬ、魔王剣の真なる力“魔王三日月剣”。
たとえ真空であろうとも消滅することのない、必滅の波動。
であるのだが、雲を両断し、大気を裂いて、その先で何かに阻まれた。
「ふん……、やはりな」
苦々しく吐き捨てると、鬼丸は魔王剣を鞘に納める。
結界は地上だけに非ず、上空を覆うように展開されているらしい。
これもまた想定内だ。鬼丸自身、超高速での飛行が可能なのだから。
まだこの場において披露するに相応しい機会を得ていないさらなる力、“魔王半月剣”及び“魔王満月剣”ならば結界を破れるやもしれぬ。
(が、まだ頃合いではない)
鬼丸の首には、忌々しい円環が嵌っている。
魔王剣の全力ならば結界を破ることは可能であろうが、その瞬間にこいつを起動させられてはたまらない。
ただの爆炎ならば耐えられるが、鬼を飼い馴らす為に作られた代物。下手は打てない。
世界を覆う殻を砕くのは、縛り付ける拘束具を外してからだ。
「それに……、随分と愉快な輩ばかり呼び付けたらしい。
そやつらの血で魔王剣を飾ってからでも、遅くはあるまい」
鬼丸の中に蘇るのは、先程殺害した魔物の子。
戦力では鬼丸に及ばなかったが、どれだけ斬り付けようと幾度となく喰らい付いてきた。
そうして仕留めた頃には時間を大分費やしてしまい、仲間の金髪を追うのは叶わなくなっていた。
あの“ボー・ブランシェ”という男の名は、放送で呼ばれることはなかった。生き長らえているのだ。
大して厄介な相手ではないが、魔王に仇なす輩を放置する道理は無い。
コウ・カルナギと同じく、次に発見すれば即座に切り捨てる。
だが、その二人より優先すべき相手が未だ生存している。
死者は十六名告げられ、その中には鬼丸の知った名も複数あったのが知ったことではない。
重要なのは、かつて野望が実現する寸前で鬼丸を打ち倒した男の生存だ。
そう。鉄刃の命を奪わずして、魔王鬼丸が世界に君臨する事は出来ない。
「何処にいるのかは知らんが、虱潰しに探し出してくれる。
この鬼丸と相対する前に、得物を手にしておくんだな。あの……覇王剣をなあッ!」
魔王剣と同等の力を持つ覇王剣。
その力を誰より引き出せる鉄刃。
決着を付ける事になれば、いかに鬼丸とて力を出し惜しむ訳にいくまい。
魔王満月剣を使うに相応しい舞台を夢想し、鬼丸は口元を鋭角に歪めた。
鬼を笑わせたのは全力で戦う機会の存在ではなく、宿敵が六時間の内に死んでいなかった事実かもしれない。
首輪が鳴ってから五歩ほど進んでから、ようやくその足を止めた。
目を眇めて、前方に広がる地平線を注意深く眺める。
一見何も無いようだが、しかし確かに何かが眼前に立ちはだかっている。
納刀したままの魔王剣を前に出してみると、やはり目視出来ぬ壁に阻まれた。
(結界か)
胸中でひとりごちる鬼丸に、驚愕の念は無い。
魔王鬼丸に殺し合いを強制しているのだ。
この程度の備えがあるのは必然。むしろ、していなくては愚鈍に過ぎる。
先刻の放送によれば、キース・ブラックは死者だけでなく参加者の所在地まで把握している。
つまるところ、自らに危機の及ばぬ外部より観覧を決め込んでいるのだろう。
「しかし地上に壁を作ることは出来ても……」
不可視の壁より視線を逸らし、上空を見据える鬼丸。
魔王の意に呼応して、魔王剣から響く呻きにも似た胎動音。
柄の髑髏を模した装飾から闇が溢れ出し、瞬く間に持ち主までも包み込む。
「“天”はどうだろうな」
不遜に言い放ち、鬼丸は魔王剣を抜く。
抜刀の勢いそのままに一閃すると、刃の軌道と変わらぬ形状の漆黒が天を昇っていく。
悪の素質を持ち合わせた者でなければ引き出せぬ、魔王剣の真なる力“魔王三日月剣”。
たとえ真空であろうとも消滅することのない、必滅の波動。
であるのだが、雲を両断し、大気を裂いて、その先で何かに阻まれた。
「ふん……、やはりな」
苦々しく吐き捨てると、鬼丸は魔王剣を鞘に納める。
結界は地上だけに非ず、上空を覆うように展開されているらしい。
これもまた想定内だ。鬼丸自身、超高速での飛行が可能なのだから。
まだこの場において披露するに相応しい機会を得ていないさらなる力、“魔王半月剣”及び“魔王満月剣”ならば結界を破れるやもしれぬ。
(が、まだ頃合いではない)
鬼丸の首には、忌々しい円環が嵌っている。
魔王剣の全力ならば結界を破ることは可能であろうが、その瞬間にこいつを起動させられてはたまらない。
ただの爆炎ならば耐えられるが、鬼を飼い馴らす為に作られた代物。下手は打てない。
世界を覆う殻を砕くのは、縛り付ける拘束具を外してからだ。
「それに……、随分と愉快な輩ばかり呼び付けたらしい。
そやつらの血で魔王剣を飾ってからでも、遅くはあるまい」
鬼丸の中に蘇るのは、先程殺害した魔物の子。
戦力では鬼丸に及ばなかったが、どれだけ斬り付けようと幾度となく喰らい付いてきた。
そうして仕留めた頃には時間を大分費やしてしまい、仲間の金髪を追うのは叶わなくなっていた。
あの“ボー・ブランシェ”という男の名は、放送で呼ばれることはなかった。生き長らえているのだ。
大して厄介な相手ではないが、魔王に仇なす輩を放置する道理は無い。
コウ・カルナギと同じく、次に発見すれば即座に切り捨てる。
だが、その二人より優先すべき相手が未だ生存している。
死者は十六名告げられ、その中には鬼丸の知った名も複数あったのが知ったことではない。
重要なのは、かつて野望が実現する寸前で鬼丸を打ち倒した男の生存だ。
そう。鉄刃の命を奪わずして、魔王鬼丸が世界に君臨する事は出来ない。
「何処にいるのかは知らんが、虱潰しに探し出してくれる。
この鬼丸と相対する前に、得物を手にしておくんだな。あの……覇王剣をなあッ!」
魔王剣と同等の力を持つ覇王剣。
その力を誰より引き出せる鉄刃。
決着を付ける事になれば、いかに鬼丸とて力を出し惜しむ訳にいくまい。
魔王満月剣を使うに相応しい舞台を夢想し、鬼丸は口元を鋭角に歪めた。
鬼を笑わせたのは全力で戦う機会の存在ではなく、宿敵が六時間の内に死んでいなかった事実かもしれない。
【D-1 北端/一日目 朝】
【鬼丸猛】
[時間軸]:24巻、刃との闘う直前
[状態]:鬼化、健康
[装備]:魔王剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、テッドの魔本@金色のガッシュ、神慮伸刀(片方)@烈火の炎、不明支給品0~4
[基本方針]:鉄刃と決着を付ける。ボー、カルナギを斬る。出会った者も斬る。
※魔王鬼丸としての記憶を取り戻しました。
[時間軸]:24巻、刃との闘う直前
[状態]:鬼化、健康
[装備]:魔王剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、テッドの魔本@金色のガッシュ、神慮伸刀(片方)@烈火の炎、不明支給品0~4
[基本方針]:鉄刃と決着を付ける。ボー、カルナギを斬る。出会った者も斬る。
※魔王鬼丸としての記憶を取り戻しました。
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