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『次の放送は正午に行われるので、覚えておくんだな――』

 六時間おきに流れる放送、その初回はこんな言葉で切り上げられた。
 もはや重要な情報を聞き逃す恐れはないので、沈黙を続ける必要など無い。
 それくらい理解していたが、ユーゴー・ギルバートは口を開く事が出来なかった。
 単純に拡声器のような機械を使っただけでは、会場全域に声を響かすなど到底不可能。
 かといってテレパシーによって思考に直接呼びかけられたのではないことくらい、テレパシストのユーゴーには明白。
 だとすればいかなる手を用いて、キース・ブラックは放送を行ったのか。
 その答えは不明。選択肢を絞るどころか、選択肢さえ見えてこない。推理に足る材料が存在しない。
 また放送の主は、声こそブラックのそれであったが、口調が大いに異なっているように思えた。
 普段のように思わせぶりに演技がかっているのではなく、ただただ尊大な口振りになっていた。
 そもそも放送の時間が短かったのもあり、違和感は些細であるのだが、確かにユーゴーの胸に引っかかる。
 だがそれらの不可解さもほんの少し気にかかっているものの、ユーゴーが黙っている最大の理由は別にある。
 告げられた十六人の死者の中に、彼女の知る名があったのだ。
(武士君……)
 オリジナルARMS“白兎(ホワイトラビット)”の適正者、巴武士。
 高槻涼の中の“ジャバウォック”が暴走した時、それを打ち倒す運命を背負った内の一人が息絶えた。
 異常発達したARMSに繭のように包まれていた彼が、どのような状態でこの殺し合いに呼び出されたのかは定かではない。
 そして、もう二度と明らかになる事は無いだろう。
 とにかくホワイトラビットがいなくなれば、ジャバウォックを止める使命は殆ど“ナイト”に一任されたと言える。
 勿論、ユーゴーも涼の内面にアクセスして暴走を制御するつもりではあるが、テレパスを届けるには隙を作らねばならない。
 ジャバウォックと同等までは行かずとも、戦闘を繰り広げるだけの力を有した者がいなくては、テレパシストの能力は涼に及ばない。
 殺し合いから六時間が経過しても、会場全体が激しく震動したりはしていない。
 ジャバウォックと地球の共振が起こっていないならば、高槻涼は赤木カツミの死を破壊衝動に支配されることなく乗り越えたのだろう。
 一先ずは安心だが、暴走の可能性が消えたとは言い難い。
 そう考えてみると、ホワイトラビットの脱落は大きな損失だ。
 しかしユーゴーは、いつか来るかもしれない戦いを思って残念がっているのではない。
 大きな戦力“ホワイトラビット”の損失を悔やんでいるのではなく、一人の少年“巴武士”の死が悲しいのだ。
 プログラムされた運命から抗うべく、共に戦ってきた仲間。
 そして、何より友達であったのだ。
 かつて兄を失った時のように、胸の中が空っぽになったような錯覚に襲われる。
 涙が零れ落ちそうになったが、ユーゴーは下唇を噛んで耐える。
 友達が死んだという事実は、あまりにも重い。
 何かが圧し掛かってきているかのように体が重く、微動だにしたくない。
 暫くの間だけでも、思考をシャットアウトして放心状態に陥ってしまいたい。
 だが、そんな事をする訳にはいかない。

『そんな重てえもん背負ってふらふらしてる間に、人は殺されてくぜ』

 混乱する思考の中で、ユーゴーが思い返すのは秋葉流の言葉。
 彼の胸中には黒い風が渦巻いていたが、この言葉は紛れも無く真実から出ていた。
 彼の言う通り、重たい物を背負っている暇など無い。
 そんな事をしている間に、他の大切な人達が危機に晒されるかもしれない。
(ごめんなさい、武士君)
 今は一度、悲しむのを止めます。
 巴武士に胸中でそう謝罪して、ユーゴーは傍らにいる少年を見やる。
 緑色の頭髪が鮮やかな少年は、植木耕助。
 彼もまた、ユーゴーと同じように放送が終わってから無言を貫いている。
 その理由は、ユーゴーには痛いほど分かった。
 彼の友人が二人、放送で名を呼ばれたのだ。
 テレパスを使うまでもなく察せられるが、しかし植木の思いは勝手にユーゴーへと流れ込んでくる。
 最初は放送を信じていなかったようだが、眼前にある土の山、ナゾナゾ博士という名の老人を埋葬した墓が目に入った。
 だからこそ、植木は友人達の死を受け入れた。
 まず溢れ出した感情は哀しみだったが、徐々に怒りへと変化していった。
 “自分自身への”怒りへと。
 友人を殺した相手ではなく、友人を助けられなかった自分自身を責めているのだ。
 先刻のように、植木はまた抱え込もうとしている。
 ユーゴーはそれを止めなくてはならない。
 意を決して声をかけようと、ユーゴーは植木の肩に手を伸ばす。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
 今にも手が触れようという所で、植木が絶叫する。
 あまりにも唐突であったので、ユーゴーの肩がびくんと跳ねる。
 植木は叫ぼうと思い至ったのと同時に叫んだので、テレパシストであるユーゴーでさえ不意を打たれた。
「弱えッ! 弱えッ! 俺は弱えッ!」
 ユーゴーの心拍数が一気に上がっている事など知る由も無く、植木はしゃがみ込んで地面を殴り付ける。
 全力で殴っているらしく、一打ごとに拳が傷ついていく。
 ついに拳から血飛沫が飛んでも、無視して続けている。
「ヒデヨシイイイイイイイイイッ! 李崩オオオオオオオオオオッ! ナゾナゾ博士エエエエエエエッ!!」
 最後の一人は拳を叩き付けている真下にいるのだが、植木は完全に忘れてしまっている。
 行動と思考の両方に驚愕し、ユーゴーは目を丸くして呆気に取られるしかない。
「よし、悲しむのお終い。もう引きずらない。絶対」
 五分ほど地面を殴打して、植木は何事もなかったかのように立ち上がる。
「すっげえ悲しいし、悔しいし、ふざけんなって思うし、ごめんって言いたいけど、今はやらない。我慢する」
 未だ呆然としているユーゴーに向かって、宣言するように言い放つ。
「全部終わったら、泣く」
 奇しくも、それは先程ユーゴーが胸中で武士にかけた言葉に似ていた。
 その事に気付き、微笑みを浮かべるユーゴー。
 笑われた理由が分からず、植木は怪訝そうに首を傾げる。
 何かおかしな事があっただろうかと考えてから、納得したように手を打つ。
 纏っている防弾チョッキに手を伸ばして、勢いよく脱いで前に出す。
「全然気付かなかった! 何も着てねえ姉ちゃんに渡さず、俺が着てるのはおかしいな!」
 その行動によってユーゴーの笑みはさらに深くなり、植木はさらに困惑するのだった。





【A-5 東部/一日目 朝】

【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。流を待つ。

【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。うえきとともに、流を待つ。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません



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070:流と耕助 ユーゴー・ギルバート 084:らでぃかる・ぐっど・すぴーど
植木耕助





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