らでぃかる・ぐっど・すぴーど ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
「――というワケです」
いまユーゴー・ギルバートが告げたのは、彼女の知るキース・ブラックの目的すべてである。
どういうことだか分からないが、この殺し合いプログラムの舞台では彼女のテレパス能力に妨害がかけられているらしい。
となればいくら世界最高峰のテレパシストのユーゴーであろうと、いつ不意を打たれて殺されてしまうか分からない。
そのことを考慮すれば、話す時間のあるうちにブラックの思惑を伝えておかねばなるまい。
とはいえ、このプログラムはユーゴーの把握していたブラックの目的とはかけ離れているのだが、それでも真の狙いを見定めるための鍵にはなりうるだろう。
ゆえに、ユーゴーは少し時間をかけてゆっくりと詳細に説明したのだが――
どういうことだか分からないが、この殺し合いプログラムの舞台では彼女のテレパス能力に妨害がかけられているらしい。
となればいくら世界最高峰のテレパシストのユーゴーであろうと、いつ不意を打たれて殺されてしまうか分からない。
そのことを考慮すれば、話す時間のあるうちにブラックの思惑を伝えておかねばなるまい。
とはいえ、このプログラムはユーゴーの把握していたブラックの目的とはかけ離れているのだが、それでも真の狙いを見定めるための鍵にはなりうるだろう。
ゆえに、ユーゴーは少し時間をかけてゆっくりと詳細に説明したのだが――
「うん。よく分かんねえ。
まあでも、つまりそのおりじなるあーむず? が味方で、きーすなんとかが悪いヤツなんだなっ!
そんでありす? ってのが……? あれ? そんな名前、名簿にあったっけ? 覚えてねーだけかな」
まあでも、つまりそのおりじなるあーむず? が味方で、きーすなんとかが悪いヤツなんだなっ!
そんでありす? ってのが……? あれ? そんな名前、名簿にあったっけ? 覚えてねーだけかな」
返ってきた植木耕助の言葉に、肩を落とすことになった。
ユーゴーは知らぬことだが、少し前の植木ならば話を呑み込むことができたかもしれない。
だが、生憎いまの彼は『勉強の才』を失ってしまっている。
何度も繰り返し述べられたならばともかく、たった一度の説明では、地球外生命体『アザゼル』と少女『アリス』より始まった深い因縁をすべて理解することなど不可能なのだ。
ユーゴーは知らぬことだが、少し前の植木ならば話を呑み込むことができたかもしれない。
だが、生憎いまの彼は『勉強の才』を失ってしまっている。
何度も繰り返し述べられたならばともかく、たった一度の説明では、地球外生命体『アザゼル』と少女『アリス』より始まった深い因縁をすべて理解することなど不可能なのだ。
「どっ、どこが分からなかったのか、くわしく……」
「えっ。間違ってたか? おかしーな」
「えっ。間違ってたか? おかしーな」
ユーゴーは唖然としかけるも、咳を一つついて気を取り直す。
元より一度の説明で終わるとは、考えていなかった。
あんなにまったくなんにも分かっていなかったのは予想外だが、まだ植木は中学一年生なのだ。
もっと簡単な言葉を使って、分かりやすく伝えねばならない。
そのように思考を巡らせつつ、ユーゴーは脳内で単語を選りすぐっていく。
元より一度の説明で終わるとは、考えていなかった。
あんなにまったくなんにも分かっていなかったのは予想外だが、まだ植木は中学一年生なのだ。
もっと簡単な言葉を使って、分かりやすく伝えねばならない。
そのように思考を巡らせつつ、ユーゴーは脳内で単語を選りすぐっていく。
「では、先ほどよりもっと分かりやすく説明しますね。まず――」
「ん。姉ちゃん、ちょっとしーっ」
「ん。姉ちゃん、ちょっとしーっ」
再び説明を開始しようとしたところで、ユーゴーは言葉を遮られる。
ユーゴーが見てみれば、植木は真剣な表情で誰もいない方向を見据えていた。
もしや誰かが隠れているのかと、ユーゴーの背筋が冷たくなる。
しかしそちらに意識を集中させても、テレパス能力がなにものかの意識を感知することはできない。
怪訝に思うユーゴーの前で、植木はデイパックを下ろして地図を取り出す。
ユーゴーが見てみれば、植木は真剣な表情で誰もいない方向を見据えていた。
もしや誰かが隠れているのかと、ユーゴーの背筋が冷たくなる。
しかしそちらに意識を集中させても、テレパス能力がなにものかの意識を感知することはできない。
怪訝に思うユーゴーの前で、植木はデイパックを下ろして地図を取り出す。
「姉ちゃん、俺たちはいまどの辺にいるんだ!?」
「え? えっと、この辺りから南南東に移動してきたはずだから……」
「え? えっと、この辺りから南南東に移動してきたはずだから……」
これまでの動向を思い返しつつ、ユーゴーは地図上の一点を指差す。
その箇所を確認して、植木は声を張り上げる。
その箇所を確認して、植木は声を張り上げる。
「やっぱり! すぐ近くに線路があるのかっ!」
「……? それが、どうしたんですか?」
「さっき電車の音が聞こえたし、電車は勝手に動いたりしない」
「……? それが、どうしたんですか?」
「さっき電車の音が聞こえたし、電車は勝手に動いたりしない」
当たり前のことを言ったのち、植木は拳を強く握り締めた。
「つまり、電車を運転してるブラックの仲間がいるんだっ!!」
植木の断言に対して、ユーゴーは沈黙するしかなかった。
いや、決して彼の発想に呆れているのではない。
もちろん自動運転という可能性も大いにあるし、殺し合いの参加者に電車を動かすスキルの持ち主がいただけかもしれない。
しかし、植木の考察通りであるかもしれない。
ブラックの率いる組織『エグリゴリ』の一員が、電車を運転しているのかもしれない。
可能性としてはかなり低いが、ありえないとは言い切れない。
しばらく黙りこくったのち、ユーゴーは静かに口を開く。
そう断言するような諦めの念こそが、人の足を止めるのだ。
いや、決して彼の発想に呆れているのではない。
もちろん自動運転という可能性も大いにあるし、殺し合いの参加者に電車を動かすスキルの持ち主がいただけかもしれない。
しかし、植木の考察通りであるかもしれない。
ブラックの率いる組織『エグリゴリ』の一員が、電車を運転しているのかもしれない。
可能性としてはかなり低いが、ありえないとは言い切れない。
しばらく黙りこくったのち、ユーゴーは静かに口を開く。
そう断言するような諦めの念こそが、人の足を止めるのだ。
「たぶん、違います」
「ええっ!?」
「ええっ!?」
予想外の返答だったのだろう、植木は目を見開いたまま固まってしまう。
そんな大げさな動作に思わず頬を緩め、ユーゴーは続ける。
そんな大げさな動作に思わず頬を緩め、ユーゴーは続ける。
「ですが、確かめなくては分かりません。
もしかしたらもしかするかもしれません」
もしかしたらもしかするかもしれません」
すぐには意味を理解しきれなかったらしい植木が、一分ほど経ってから白い歯を見せた。
◇ ◇ ◇
十分ばかし経過したころ、植木とユーゴーはエリアB-6の『モチノキ森街駅』にいた。
これだけの速さで到着したのは、六ツ星神器『電光石火(ライカ)』の効果ゆえである。
本来、ライカは使用者だけが高速で移動できる神器であるのだが、植木はそれをユーゴーを背負ったまま発動させたのだ。
目を離した隙にナゾナゾ博士を殺されてしまった以上、植木にユーゴーを置いていくという選択肢はなかった。
ちなみに先ほどまでいた地点には、流への書置きを風に飛ばされないようにして残してある。
これだけの速さで到着したのは、六ツ星神器『電光石火(ライカ)』の効果ゆえである。
本来、ライカは使用者だけが高速で移動できる神器であるのだが、植木はそれをユーゴーを背負ったまま発動させたのだ。
目を離した隙にナゾナゾ博士を殺されてしまった以上、植木にユーゴーを置いていくという選択肢はなかった。
ちなみに先ほどまでいた地点には、流への書置きを風に飛ばされないようにして残してある。
「ん。電車止まってる」
「……ですね」
「次出るまであと三分か。急いで確認しなきゃな」
「……ですね」
「……ですね」
「次出るまであと三分か。急いで確認しなきゃな」
「……ですね」
植木に背負われているユーゴーの返答は、ひどく素っ気ない。
実は、返答なんかよりも真っ青になっている顔色のほうがよっぽど凄まじいのだが、植木はそのどちらにも気付かなかった。
彼女がこうなってしまったのは、電車を逃さぬという心意気の余りにライカを飛ばしすぎ、それこそサーカスの一員のような平衡感覚の優れたもの以外は到底対応できぬほどの速度を出していたせいなのだが――
ユーゴーの異変自体に勘付いていない植木に、察することなどできるはずがない。
実は、返答なんかよりも真っ青になっている顔色のほうがよっぽど凄まじいのだが、植木はそのどちらにも気付かなかった。
彼女がこうなってしまったのは、電車を逃さぬという心意気の余りにライカを飛ばしすぎ、それこそサーカスの一員のような平衡感覚の優れたもの以外は到底対応できぬほどの速度を出していたせいなのだが――
ユーゴーの異変自体に勘付いていない植木に、察することなどできるはずがない。
「よっと」
そんなかけ声とともに、植木は先頭車両の運転席へと繋がる扉を蹴り開ける。
そして露になった運転席を確認し、植木は落胆の声を漏らした。
そして露になった運転席を確認し、植木は落胆の声を漏らした。
「やっぱ出る直前に姉ちゃんが言った通り、自動運転だったかー」
「……ですね」
「……ですね」
またしても素っ気ない返事を受けても、植木はやはり怪訝にさえ思わない。
一応最後尾車両まで向かって車掌室も確認するが、そこにも誰もいなかった。
ちょうどそのタイミングで、サイレンの音が響き渡った。
一応最後尾車両まで向かって車掌室も確認するが、そこにも誰もいなかった。
ちょうどそのタイミングで、サイレンの音が響き渡った。
『一番線、ドアが閉まります。ご注意ください』
あぶねっ、などと言いつつ、植木は素早く電車から飛び降りる。
激しい動きに伴って、ユーゴーが呻くような声を漏らす。それにも植木は気付かなかった。
遠ざかっていく電車を見送ったのち、植木は静かになった駅のホームで呟く。
激しい動きに伴って、ユーゴーが呻くような声を漏らす。それにも植木は気付かなかった。
遠ざかっていく電車を見送ったのち、植木は静かになった駅のホームで呟く。
「さて、流兄ちゃんのとこまで戻るか」
その言葉の半ばで、ユーゴーは目を見開いた。
うまく回らない頭を無理矢理に回転させて、思考を巡らす。
もしももう一度あの加速を体感することになれば、はたして自分は耐えられるのか。
うまく回らない頭を無理矢理に回転させて、思考を巡らす。
もしももう一度あの加速を体感することになれば、はたして自分は耐えられるのか。
(……無理無理無理無理!)
結論が導き出されるのは、思いのほか早かった。
「あ、あの……」
「ん? なんだ、姉ちゃ――!?」
「ん? なんだ、姉ちゃ――!?」
勢いよく振り返って、植木は息を呑んだ。
ここに至って、ようやくユーゴーの顔色がえげつないことになっていることを知ったのだ。
ここに至って、ようやくユーゴーの顔色がえげつないことになっていることを知ったのだ。
「どうしたんだ、姉ちゃん!? なんか悪いもんでも拾って食ったのか!?」
「そんなこと…………うぷっ」
「そんなこと…………うぷっ」
否定しようとして、ユーゴーは口元を押さえる。
必死で呼吸を整えて、どうにか言うべきことだけを搾り出す。
必死で呼吸を整えて、どうにか言うべきことだけを搾り出す。
「さっきの、車輪……は、ちょっと……合わない、みた、い……」
「ライカか!?」
「そ、そう……おぇ」
「だったら早く言ってくれよ! 俺は、もう二度と仲間をつらい目に合わせたくないんだ……っ!」
「…………」
「ライカか!?」
「そ、そう……おぇ」
「だったら早く言ってくれよ! 俺は、もう二度と仲間をつらい目に合わせたくないんだ……っ!」
「…………」
植木の言葉が偽りのない真実であることは、ユーゴーにもよく分かった。
テレパス能力を使うまでもない。
目には涙が溜まっており、歯は軋む音が聞こえるほど噛み締められているのだ。
にもかかわらず、ユーゴーは冷ややかな視線を向けるしかできなかった。
なぜなら――
テレパス能力を使うまでもない。
目には涙が溜まっており、歯は軋む音が聞こえるほど噛み締められているのだ。
にもかかわらず、ユーゴーは冷ややかな視線を向けるしかできなかった。
なぜなら――
(早くもなにも、五十回は『止めて』って言いましたけどね……)
しかし、恨み節を言ってもしようがない。
これから切り替えていけばいいだけである。
というか、そもそも余計なことを言う余裕などない。
これから切り替えていけばいいだけである。
というか、そもそも余計なことを言う余裕などない。
「できれば、その……別、の……方法、で」
「分かった! んじゃ、いったん下ろすぜ!」
「分かった! んじゃ、いったん下ろすぜ!」
植木は背負っていたユーゴーを、今度は前に抱きかかえる。
「今度はこっちだ!」
行きに使用した車輪型のライカではなく、植木は九ツ星神器『花鳥風月(セイクー)』を発現させる。
植木の背から生えた黒い羽を見て、ユーゴーは胸を撫で下ろした。
きっと、これでゆっくりと飛んでくれるのだろう。
そう判断し、ユーゴーは安心して目を閉じ、身体を落ちつけようと呼吸を整え――
植木の背から生えた黒い羽を見て、ユーゴーは胸を撫で下ろした。
きっと、これでゆっくりと飛んでくれるのだろう。
そう判断し、ユーゴーは安心して目を閉じ、身体を落ちつけようと呼吸を整え――
「よっしゃ!」
急激な重力を味わうハメになった。
閉じたはずの目を勢いよく開けてみると、視界に入る景色が凄まじい速度で後ろに流れていっていた。
ライカのときのような下の地形による上下振動はないものの、代わりに猛烈な浮遊感が押し寄せてきている。
背負われていたせいで直撃しなかった風圧も、容赦なく襲いかかってくる。
閉じたはずの目を勢いよく開けてみると、視界に入る景色が凄まじい速度で後ろに流れていっていた。
ライカのときのような下の地形による上下振動はないものの、代わりに猛烈な浮遊感が押し寄せてきている。
背負われていたせいで直撃しなかった風圧も、容赦なく襲いかかってくる。
「止めて止めとめ止めて止めええええええええええええええええええっ!!!」
必死で声を張り上げるも、風に呑み込まれて植木まで届かない。
腹部からなにかがこみ上げてくるなかで、ユーゴーの思考は不思議とクリアになっていく。
プログラムに巻き込まれてからずっと探していた相手に思いを馳せ、これまで彼に対して抱いたことのない感情を初めて抱いた。
腹部からなにかがこみ上げてくるなかで、ユーゴーの思考は不思議とクリアになっていく。
プログラムに巻き込まれてからずっと探していた相手に思いを馳せ、これまで彼に対して抱いたことのない感情を初めて抱いた。
(あー……いまこの場に、高槻くんがいなくてよかったー…………)
【B-6 モチノキ森街駅/一日目 午前】
【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:『花鳥風月(セイクー)』
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。流を待っていたとこまで戻る。
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:『花鳥風月(セイクー)』
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。流を待っていたとこまで戻る。
【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。流を待っていたとこまで戻いやぁぁぁあああああっ!
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません。
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。流を待っていたとこまで戻いやぁぁぁあああああっ!
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません。
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079:不止 | ユーゴー・ギルバート | 107:能力者CO/価値観の不一致 |
植木耕助 |