問答 ◆6LcvawFfJA



 地上の遥か上空で、とある参加者が浮遊していた。
 アシュタロスに生み出されし蛍の化身、ルシオラである。
 立腹した様子を隠そうともせず、自分のいる高度よりさらに上を睨み付けている。
「こんのぉ……!」
 怒気を含んだ声とともに、ルシオラの掌に光が集っていく。
 ルシオラは、アシュタロスの直属部隊として作られた。
 故に当然ながら内包する魔力は、標準的な魔族とは比べ物にならぬ程膨大。
「喰らいなさいッ!」
 躊躇も、手加減も、微塵もしていない。
 桁外れの魔力を絞り出し、ルシオラは全力の光線を放つ。
 上級魔族や一流ゴーストスイーパーでなければ、一発で蒸発してしまう。
 それほどの威力が籠められていたのだが、光線は何かに阻まれて霧散する。
 渋い表情になるルシオラ。
 地図を配られた時点で、違和感自体はあった。
 切り取られたかのように真四角の地形。
 そんなものは自然界に存在し得ない。
 奇妙に思っていながら気にも留めていなかったものの、気に留めておくべきだったようだ。
 傷の回復が遅い事から思い至ったのだが、どうやら正解であったらしい。
 地形が真四角なのではなく、覆うように“真四角の結界が張られている”のだ。
「……くっ」
 判明した事実に、ルシオラは歯噛みする。
 結界に閉じ込められ、回復力を弱められているのが気に喰わない。
 だが彼女が何より憤慨しいるのは、また別だ。
 “主のアシュタロスを封じ込めている”のが、自分自身が閉じ込められている事よりも腹立たしい。
 感情を露に、神剣“竜の牙”へと魔力を通すルシオラ。
 槍状に変形するのを待ち、竜の牙を思い切り振りかぶる。
 しかしやはり結界に刃は刺さらず、力を籠めた自身の手が痺れるだけ。
 これで、明らかになった。
 現状では結界に対処のしようが無い。
「一体何をしているのよ、私は……」
 先の放送で十六の名前が呼ばれたが、十六の中にルシオラが殺害した者はいない。
 これまでたったの二人にしか遭遇せず、その二人さえ殺し切れていなかったらしい。
 “空白の才”の木札に文字を綴る為の道具も、在処すら分かっていない。
 結界に気付いたのもようやくである。きっとアシュタロスは、この場に転送されて早々に勘付いただろうに。
 アシュタロスが悲願を達成する為だけに生み出されたというのに、全く役に立っていないではないか。
 怒りの矛先の向きは、いつの間にかキース・ブラックから自分自身に変わっていた。
 沈んだ気持ちに対応するように、ルシオラの高度が少し落ちる。
 遥か上空からでも地上を眺められるくらいの視力は持ち合わせているが、実際に八十人の中二人しか発見出来ていない。
 もう少し低くから見下ろすようにするべきかもしれない。
 ルシオラは重力に抵抗せず、ゆっくりと落下していった。
 そうしてから暫く経ち、ルシオラは奇妙な景色を目の当たりにする。
 ある建造物が半壊しているのだ。
 地図を思い返してみると、小学校という施設だった筈だ。
 その屋上に、人影がある。
 一気に落ち込んでいた感情が吹き飛ぶが、接近してみて気付く。
 あれは、生物ではない。魂を与えられただけの無機物だ。
 誰が作ったかなど、考えるまでも無かった。
 人間界にはロボットを生み出せる奇才がいるし、神界には意思を持つ無機物も少なくない。
 それは情報として聞いており、ルシオラも知っている。
 その上で、断定出来る。
 身に纏う死臭が、魔力と見紛う域まで到達しているのだ。
 ならばあんな物を作り出せるのは、この世界においてアシュタロスだけである。
 危うく錯覚しかけたが、魔力自体は殆ど観測出来ない。
 かなり低級の魔族なのだろう。
 ならばアシュタロスがいるこの場でどう動くべきかを気付いていない可能性もある。
 ルシオラは、手っ取り早く尋ねる事にした。

「ねえ、あなたはどういう目的で動いてるの?」

     ○

 我に返ったドットーレがいたのは、小学校の屋上。
 横島忠夫に一杯喰われた憤怒のあまり、玄関から屋上までひたすら破壊して回っていたのだ。
 怒り全てが治まった訳では無いが、周囲が目に入らぬ程の激情は静まった。
 そんな折、何者かの気配を感じ取る。
 それ自体は喜ばしい事態なのだが、問題は方向である。
(……上だと?)
 見上げてみれば、珍しい出で立ちの女性が少しずつ降りてきている。
 一見ただ変な格好をしただけの人間だが、そうではない。
 額にある二本の触角は装飾品でなく、額そのものから生えている。
 そもそも人間は飛べない。
(自動人形か)
 自動人形とは、基本的に人体をベースにして、それに何かを組み合わせたようなデザインをしている。
 それに、低級な人形には戦闘力が低い代わりに飛行可能な物がいる。
 そう考えてみると、あの奇妙な衣服も自動人形特有の喜劇役者じみたそれに見えなくも無い。
 故に、ドットーレがこういう結論に至るのは至極当然であった。
 見覚えは無いが、それは先に遭遇した個体も同じ事。
 低級な自動人形を全体把握している訳も必要も、ドットーレには無い。
 近付いてきた理由を尋ねようとし、相手に先を越された。

「ねえ、あなたはどういう目的で動いてるの?」

 一瞬、ドットーレには意味が分からなかった。
 “最古の四人”たる自身への言葉だと理解したや否や、刃の仕込まれた帽子に手を伸ばす。
 そしてそれを振るう寸前で、再び沸点まで到達しかけた怒りをどうにか抑える。
 放送前に遭遇した低級人形の際と同じだ。
 一時とはいえ、憎悪に従ってフランシーヌ人形への敬愛を忘れた自分に、低級人形を罰する資格は無い。
「貴様等は、先程から同じ事を……ッ!
目的など……ッ、そんな物は決まっているッ!!」
 先程と同じ問いに、同じ答えを返す。
 ルシールより浴びせられた言葉や、それを鵜呑みにした自分自身の姿が蘇る。
 唾棄すべき記憶が思い出され、またしても搾り出すように口調になる。
「我らが主……意思を与えてくださったフランシーヌ様! あの御方を笑顔にするッ。自動人形の身体は尽き果てるまでッ、その為だけにある!」
 ドットーレの叫びに、相手は目を見張る。
 こんなところも、先程の人形と同じだった。
 それでいいのかと尋ねられているようで、酷く不愉快だ。
 なぜか、ルシールの罵倒が聞こえてくる。
 ルシールの声を掻き消すように、ドットーレは声量を大きくする。

「あの日より二百年あまり……ッ、ずっと己はその為だけに動いてきたッ!!」

 その宣言が十秒ほど経ち、呆然としていた女性型人形はようやく口を動かす。
「二百年……」
 噛み締めるように復唱する。
 そして考え込むような表情になった後、再び何かを言いかける。
「ねえ、もしあなたが…………」
 僅かに言い淀んでから、意を決したように言い切った。

「たった一年しか生きられないとしたら……それでも、その為だけに動くの?」

 一際大きく、ドットーレの中でルシールの言葉が響き渡った。
 “永遠の歯車奴隷”。
 反響する声を無理矢理振り払わんと、これまで以上の大声を出す。

「笑止!! 無論、その場合であろうとも、己はそうあるだけだ!!!!」

     ○

 大音声の返事を聞いたルシオラは、それ以上何も言わず小学校から遠ざかるように飛び立った。
 あちらに追いかける意思はないらしく、屋上で立ち尽くしている。
 “フランシーヌ様”と呼んでいたが、それがアシュタロスであるのは明白だ。他の誰にあんな物を作れるというのか。
 何故あの人形に女性名で名乗ったのかは不明だが、アシュタロスの真意が不明なのはいつもの事だ。
 たとえ真意が分からなくとも、サポートするのだから一緒である。
 ならば、目的を同じくする人形と同行すべきだったのではないか。
 そう分かっていながらも、ルシオラはあの場に居続ける事が出来なかった。
(たった一年しか生きられないとしたら……か)
 自分自身がした質問が、ルシオラの脳内を駆け巡る。
 どうしてあのような質問をしたのか。
 自分の事だというのに、ルシオラには分からなかった。
 ただ二百年以上も生き続けているという人形とは、一緒にいたくない。
 そう思っただけだと、自分を納得させる。

(私は……、一体どんな答えを望んでたのかな)

 そんな疑問にも、やはり答えは出てこなかった。





【B-2 小学校/一日目 朝】

【ドットーレ@からくりサーカス】
[時間軸]:本編死亡直前
[状態]:健康
[装備]:バルカン@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、声玉@烈火の炎
[基本方針]:優勝し、柔らかい石を手に入れフランシーヌの元へ帰る。清磨の知り合いを全員殺して清磨に『笑顔』を届ける。あの人間(横島)を八つ裂きにする。



【B-2 小学校周辺の上空/一日目 午前】

【ルシオラ】
[時間軸]:横島と夕日を見る以前。
[状態]:健康、ドットーレの言葉が引っかかっている
[装備]:竜の牙(勾玉状態)@GS美神極楽大作戦!!
[道具]:基本支給品一式、蔵王(空)@烈火の炎、空白の才の木札@植木の法則
[基本方針]:アシュ様のために行動する。参加者を殺し支給品を奪う。花火が打ち上がった付近は後回し。ドットーレから離れる。



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087:二百年も待ったのだ ドットーレ  : 
050:歯車が噛み合わない ルシオラ 121:「お前は弱いな」





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