察知――君の現在位置 ◆6LcvawFfJA
放送で呼ばれたのは、合計十六名。
全体の五分の一が、夜明けを待たず脱落した事になる。
さらに言えば、その内の一人はオリジナルARMS“ホワイトラビット”の適正者、巴武士。
停滞状態に陥っていた彼がいかなる状態でプログラムに参加させられたのは、もはや下手人くらいしか知らぬ事実と思われるが、もし行動可能な状態だったとすればその力は凄まじい。
オリジナルARMS最速のスピードに加えて、“ジャバウォック”や“ナイト”と同じくARMS殺しまで有している筈だ。
そんなホワイトラビットをも含む十六名が、早々に命を落とした。
しかしその事実と直面しても、キース・グリーンはただ参加者の脱落具合が想像より早いと思うだけであった。
元より、強者が集っているとは思っていたのだから。
理解していながら、一つの椅子を求める決意をしたのだから。
余計な感情を挟まずに、ただ残りが五十六名という事実だけを脳に刻み込む。
生き残っている五十六名には兄も姉も含まれていたが、その点は予想していた通りであった。
(そして君も……ね。やはりそう簡単に脱落はしないか)
キースシリーズでは無いとある参加者に思いを馳せつつ、グリーンは手元のレーダーを起動する。
表示範囲の設定を弄り、エリア全体を確認可能な最広域表示にする。
ちなみにグリーンが今いるのは、地図におけるE-3だ。
放送寸前までいたE-2には、チームを組んでいると推測出来る四人組の反応があった。
だがその四人組は、兄であるキース・シルバーの進行進路上にいたのだ。
揃って殲滅されるのは、もはや必然である。
ならば他に誰もいないエリアに留まる理由も無く、北上するシルバーとは反対に南へと進んできたのだ。
E-3内で映し出された光点は、二つ。
お互いの距離がかなり近くかつ離れない事から、接触していると思われる。
内一つは、先程出会ったコウ・カルナギであろう。
超人的な身体能力を持つとはいえ、ARMS完全体のような高速移動は不可能な以上、出会った地点からそこまで離れてるとは考えづらい。
加えてグリーンはカルナギが南下する姿を確認しており、あの男はそうそう一度決めた進路を変えるタイプではない。
(カルナギと接触し続けているという事は、すなわち交戦中だ。
もしも相手が戦うに値しない相手ならば、そんな奴の所に長居するような男じゃない)
距離が離れており、二つの光点の細かい動作までは分からない。
しかし片方がカルナギで、もう片方がカルナギの敵と成り得る存在。
ならば、どういう状況なのかは火を見るより明らかだ。
(まだ五十六人もいる段階で、奴と戦う必要は無い。
どうせ放っておいても闘っている様な奴だ。精々暴れてくれればいいさ)
むしろ、下手に接触してはいけない。
数時間前ならばともかく、“今の”グリーンを見れば嬉々として仕掛けてくるだろう。
もはや仕留め損なう事は在り得ないが、あんまり早々に殺してしまうのは勿体無い。
彼の言葉では無いが、騎士を気取って死ぬ気は無い。
(……では、隣のエリアに向かおう)
レーダーの電源を切って、デイパックに収納する。
電池がどれだけ持つのか分からないのだ。
現状でもとても役に立つが、より重宝するのは残り人数が少なくなってきてからだろう。
それより早く電池切れなんて事態は極力避けたいので、使用時以外は電源を切ることにしているのだ。
(どちらに向かうか……。
人が多いのは南の市街地だろうが、カルナギに目敏く発見されかねない。それは、僕の望む所では無い。
西は……、シルバー兄さんが来た方向だからな。おそらく既に屍の山だ。時間が経てば人がくるだろうが、すぐに行っても無駄だ。
となると、残りは一つしかない)
早々と決断を下し、グリーンは東に歩み始める。
空間を操るARMS“チェシャキャット”の使い手だというのに、先程からこうして足で移動をする破目になっている。
瞬間移動はかなり体力を消費する為、仕方が無い。
それにしても乗り物を使うならばともかく、徒歩での長距離移動など数年ぶりだ。
(……そういえば)
ふと思い立って、グリーンは歩きながらデイパックの中身を物色する。
いつも一瞬で目的に着いてしまうので、移動中に食事を取るというのは未経験だ。
それに、戦場においては常に食事が取れる訳では無い。
周囲に誰もいないのが分かっている今こそ、安心してエネルギーを補給できる良い機会である。
調べてみて分かったのだが、どうやら食料は参加者によって異なった物が配られているらしい。
アンジェリーナに支給された物と比較してみて、明らかになった。
しばらく迷った後、グリーンが取り出したのは幾つかのおにぎりであった。一つずつビニールの袋で放送されている。
アメリカ育ちのグリーンはおにぎりを初めて見たのだが、それが今は亡き思い人の国でポピュラーな食べ物である事は知っていた。
故に、一度口にしてみる事にしたのだ。
(成程、“そういう事”か)
包装をまじまじと注視してから、何かに気付いたのか不敵な笑みを浮かべるグリーン。
(この大きく書かれた食材が、ライスの中に詰められているのだな。
つまりこれにはサーモン、こちらはツナ、そしてこれは……ウメボシ? 何だそれは)
得体の知れない食材は後回しにし、一つ目はサーモンにする。
邪魔なビニールを引っ張って、中身を出そうとするグリーン。
結果、海苔が全て千切れた丸裸のおにぎりが手元に残る。
「…………?」
首を傾げるグリーン。
あまり詳しい訳では無いが、どうも自分の知っているおにぎりの外見と激しく異なっている。
だが資料と実物の間に差異があるなど、当然の事だ。
グリーンは一人頷き、全裸おにぎりを口に運ぶ。
「決して不味くは無い……。むしろ旨い部類に入る……が、如何せん米が手に付くな」
異物感が凄まじいので、手に付着した米だけを空間移動で吹き飛ばす。
小さな物を動かすくらいならば大して疲れない事が分かった。思わぬ収穫だ。
ツナのおにぎりを食べようとして、グリーンは新しい発見をした。
表面には中身が書いてあったが、裏面にはこの包装の解き方が書いてあるではないか。
どうりであの様なみすぼらしい外見になってしまったはずだと一人納得し、裏面の表記に従ってみる。
「…………?」
数分前の繰り返しのように、首を傾げるグリーン。
その手には、海苔が派手に破れて白いご飯が見えている半裸のおにぎり。
「これが正しい姿なのか……やはり手がべたべたするな」
空間移動で手を綺麗にし、三つ目を取り出す。
結構、気に入ったらしい。
やっぱり半裸状態になったおにぎりを口に運ぶグリーン。
全体の五分の一が、夜明けを待たず脱落した事になる。
さらに言えば、その内の一人はオリジナルARMS“ホワイトラビット”の適正者、巴武士。
停滞状態に陥っていた彼がいかなる状態でプログラムに参加させられたのは、もはや下手人くらいしか知らぬ事実と思われるが、もし行動可能な状態だったとすればその力は凄まじい。
オリジナルARMS最速のスピードに加えて、“ジャバウォック”や“ナイト”と同じくARMS殺しまで有している筈だ。
そんなホワイトラビットをも含む十六名が、早々に命を落とした。
しかしその事実と直面しても、キース・グリーンはただ参加者の脱落具合が想像より早いと思うだけであった。
元より、強者が集っているとは思っていたのだから。
理解していながら、一つの椅子を求める決意をしたのだから。
余計な感情を挟まずに、ただ残りが五十六名という事実だけを脳に刻み込む。
生き残っている五十六名には兄も姉も含まれていたが、その点は予想していた通りであった。
(そして君も……ね。やはりそう簡単に脱落はしないか)
キースシリーズでは無いとある参加者に思いを馳せつつ、グリーンは手元のレーダーを起動する。
表示範囲の設定を弄り、エリア全体を確認可能な最広域表示にする。
ちなみにグリーンが今いるのは、地図におけるE-3だ。
放送寸前までいたE-2には、チームを組んでいると推測出来る四人組の反応があった。
だがその四人組は、兄であるキース・シルバーの進行進路上にいたのだ。
揃って殲滅されるのは、もはや必然である。
ならば他に誰もいないエリアに留まる理由も無く、北上するシルバーとは反対に南へと進んできたのだ。
E-3内で映し出された光点は、二つ。
お互いの距離がかなり近くかつ離れない事から、接触していると思われる。
内一つは、先程出会ったコウ・カルナギであろう。
超人的な身体能力を持つとはいえ、ARMS完全体のような高速移動は不可能な以上、出会った地点からそこまで離れてるとは考えづらい。
加えてグリーンはカルナギが南下する姿を確認しており、あの男はそうそう一度決めた進路を変えるタイプではない。
(カルナギと接触し続けているという事は、すなわち交戦中だ。
もしも相手が戦うに値しない相手ならば、そんな奴の所に長居するような男じゃない)
距離が離れており、二つの光点の細かい動作までは分からない。
しかし片方がカルナギで、もう片方がカルナギの敵と成り得る存在。
ならば、どういう状況なのかは火を見るより明らかだ。
(まだ五十六人もいる段階で、奴と戦う必要は無い。
どうせ放っておいても闘っている様な奴だ。精々暴れてくれればいいさ)
むしろ、下手に接触してはいけない。
数時間前ならばともかく、“今の”グリーンを見れば嬉々として仕掛けてくるだろう。
もはや仕留め損なう事は在り得ないが、あんまり早々に殺してしまうのは勿体無い。
彼の言葉では無いが、騎士を気取って死ぬ気は無い。
(……では、隣のエリアに向かおう)
レーダーの電源を切って、デイパックに収納する。
電池がどれだけ持つのか分からないのだ。
現状でもとても役に立つが、より重宝するのは残り人数が少なくなってきてからだろう。
それより早く電池切れなんて事態は極力避けたいので、使用時以外は電源を切ることにしているのだ。
(どちらに向かうか……。
人が多いのは南の市街地だろうが、カルナギに目敏く発見されかねない。それは、僕の望む所では無い。
西は……、シルバー兄さんが来た方向だからな。おそらく既に屍の山だ。時間が経てば人がくるだろうが、すぐに行っても無駄だ。
となると、残りは一つしかない)
早々と決断を下し、グリーンは東に歩み始める。
空間を操るARMS“チェシャキャット”の使い手だというのに、先程からこうして足で移動をする破目になっている。
瞬間移動はかなり体力を消費する為、仕方が無い。
それにしても乗り物を使うならばともかく、徒歩での長距離移動など数年ぶりだ。
(……そういえば)
ふと思い立って、グリーンは歩きながらデイパックの中身を物色する。
いつも一瞬で目的に着いてしまうので、移動中に食事を取るというのは未経験だ。
それに、戦場においては常に食事が取れる訳では無い。
周囲に誰もいないのが分かっている今こそ、安心してエネルギーを補給できる良い機会である。
調べてみて分かったのだが、どうやら食料は参加者によって異なった物が配られているらしい。
アンジェリーナに支給された物と比較してみて、明らかになった。
しばらく迷った後、グリーンが取り出したのは幾つかのおにぎりであった。一つずつビニールの袋で放送されている。
アメリカ育ちのグリーンはおにぎりを初めて見たのだが、それが今は亡き思い人の国でポピュラーな食べ物である事は知っていた。
故に、一度口にしてみる事にしたのだ。
(成程、“そういう事”か)
包装をまじまじと注視してから、何かに気付いたのか不敵な笑みを浮かべるグリーン。
(この大きく書かれた食材が、ライスの中に詰められているのだな。
つまりこれにはサーモン、こちらはツナ、そしてこれは……ウメボシ? 何だそれは)
得体の知れない食材は後回しにし、一つ目はサーモンにする。
邪魔なビニールを引っ張って、中身を出そうとするグリーン。
結果、海苔が全て千切れた丸裸のおにぎりが手元に残る。
「…………?」
首を傾げるグリーン。
あまり詳しい訳では無いが、どうも自分の知っているおにぎりの外見と激しく異なっている。
だが資料と実物の間に差異があるなど、当然の事だ。
グリーンは一人頷き、全裸おにぎりを口に運ぶ。
「決して不味くは無い……。むしろ旨い部類に入る……が、如何せん米が手に付くな」
異物感が凄まじいので、手に付着した米だけを空間移動で吹き飛ばす。
小さな物を動かすくらいならば大して疲れない事が分かった。思わぬ収穫だ。
ツナのおにぎりを食べようとして、グリーンは新しい発見をした。
表面には中身が書いてあったが、裏面にはこの包装の解き方が書いてあるではないか。
どうりであの様なみすぼらしい外見になってしまったはずだと一人納得し、裏面の表記に従ってみる。
「…………?」
数分前の繰り返しのように、首を傾げるグリーン。
その手には、海苔が派手に破れて白いご飯が見えている半裸のおにぎり。
「これが正しい姿なのか……やはり手がべたべたするな」
空間移動で手を綺麗にし、三つ目を取り出す。
結構、気に入ったらしい。
やっぱり半裸状態になったおにぎりを口に運ぶグリーン。
「…………ッ?! ……ゴッッ!? ガッッッ??!!」
口内に広がった予期せぬ酸味に、グリーンは目を白黒させる。
(これは……ッ、ビネガー?! ピクルスだと!?)
冷静に中身を分析しているようだが、実は激しく咳き込んでいたりする。
(これは……ッ、ビネガー?! ピクルスだと!?)
冷静に中身を分析しているようだが、実は激しく咳き込んでいたりする。
○
程無くして、グリーンはエリアF-3に足を踏み入れた。
道中で咳き込んでいたとは誰にも思えぬ、いつもと同じ涼しい表情を浮かべている。
せっかく移動したというのに、参加者レーダーに反応は無い。
それに落胆する事も無く、グリーンは南下する。
またF-3に入ったら使おうとレーダーの電源を切り、デイパックに戻す。
そうして暫し歩いたところで、グリーンは足を止めた。
その体は僅かに振動しており、口角は吊り上っている。
支給されたレーダーで表示出来ない範囲だが、しかし支給品で無いレーダーは確実に捉えた。
そのレーダーとは、グリーンの体内にある。
ARMSの共振反応が、南にARMSの存在を感知しているのだ。
兄では無い。
姉でも無い。
騎士でも無い。
量産型でも無い。
それらと見紛う筈が無い。
他ならぬあの男だ。
この世で最も気に入らないあの男だ。
“あの時”、“同じ感情を抱いただろう”、あの男だ。
道中で咳き込んでいたとは誰にも思えぬ、いつもと同じ涼しい表情を浮かべている。
せっかく移動したというのに、参加者レーダーに反応は無い。
それに落胆する事も無く、グリーンは南下する。
またF-3に入ったら使おうとレーダーの電源を切り、デイパックに戻す。
そうして暫し歩いたところで、グリーンは足を止めた。
その体は僅かに振動しており、口角は吊り上っている。
支給されたレーダーで表示出来ない範囲だが、しかし支給品で無いレーダーは確実に捉えた。
そのレーダーとは、グリーンの体内にある。
ARMSの共振反応が、南にARMSの存在を感知しているのだ。
兄では無い。
姉でも無い。
騎士でも無い。
量産型でも無い。
それらと見紛う筈が無い。
他ならぬあの男だ。
この世で最も気に入らないあの男だ。
“あの時”、“同じ感情を抱いただろう”、あの男だ。
「ようやく見付けたぞッ、高槻涼ッ!」
【F-3 路上/一日目 朝】
【キース・グリーン】
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王~バロール~』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐~サクラメント~』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:疲労回復
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王~バロール~』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐~サクラメント~』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:疲労回復
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。
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