たった一つの卑怯なやり方 ◆c8fjjCyRkM
メキラはあくまで紅煉から逃げただけであり、キース・バイオレットの元に向かおうという意思はそもそも持ってなかった。
別段目的地など定めていない為、秋山優が投擲するヒョウによっていとも容易く進行方向を誘導される。
結果として、駅を出た時点では喫茶店へと直進する形であったメキラは、現在は喫茶店とは全く異なる方向へと進んでいた。
別段目的地など定めていない為、秋山優が投擲するヒョウによっていとも容易く進行方向を誘導される。
結果として、駅を出た時点では喫茶店へと直進する形であったメキラは、現在は喫茶店とは全く異なる方向へと進んでいた。
「すげえよ優兄ちゃん! こんな方法、俺には全然浮かばなかった!」
「まあ僕も、キース・ブラックと繋がりがありそうなキース・バイオレットには用があるからね」
投げたヒョウを残さず回収しながら、秋山は隣を行く蒼月潮に言葉を返す。
2人の真上で浮いている紅煉は、順調さが気に入らないらしく険しい表情だ。
2人の真上で浮いている紅煉は、順調さが気に入らないらしく険しい表情だ。
「ああ……、キース・ブラックか……。確かに関係あるって言ってたな……。でも、バイオレット姉ちゃんは……」
口籠りながらも何かを言う素振りを見せた潮であったが、途中で喋るのを止めた。
追いかけていたメキラの姿が消え失せて、唐突に眼前に出現したのだ。
メキラが瞬間移動を使うのは、既に見破っていた。
しかしこれまで逃げ続けていたというのに、どうしていきなり向かってきたのか。
考えるまでもない。逃げ切れないと悟ったからだろう。
慌てて仕掛けにきたというのなら、今こそ倒すべき時だ。
追いかけていたメキラの姿が消え失せて、唐突に眼前に出現したのだ。
メキラが瞬間移動を使うのは、既に見破っていた。
しかしこれまで逃げ続けていたというのに、どうしていきなり向かってきたのか。
考えるまでもない。逃げ切れないと悟ったからだろう。
慌てて仕掛けにきたというのなら、今こそ倒すべき時だ。
「このッ!」
支給品を組み合わせて作った即席の槍を振るう潮。
接近されすぎているので、どうやったって刃が相手に触れることはない。
だがこの槍の柄は、神通棍である。
式神のような相手に対し、最も効果を発揮する霊媒アイテム。
それを察しているらしく、メキラは槍が届かぬ場所まで瞬間移動する。
接近されすぎているので、どうやったって刃が相手に触れることはない。
だがこの槍の柄は、神通棍である。
式神のような相手に対し、最も効果を発揮する霊媒アイテム。
それを察しているらしく、メキラは槍が届かぬ場所まで瞬間移動する。
「一尖」
出現したメキラに、秋山の投擲したヒョウが突き刺さる。
槍からは逃げなければならないが、上空には天敵の紅煉がいる。
ならば紅煉の死角にしか出られないと、既に判断していたのだ。
しかしメキラはそのことを知らず、ただ困惑するのみ。
困惑している間にも、事態は動き続ける。
槍からは逃げなければならないが、上空には天敵の紅煉がいる。
ならば紅煉の死角にしか出られないと、既に判断していたのだ。
しかしメキラはそのことを知らず、ただ困惑するのみ。
困惑している間にも、事態は動き続ける。
「四爆」
メキラに刺さったヒョウに付属していた符が爆発した。
妖の類によく効くよう調整された霊符だ。
小さな爆発に反して、零体へのダメージは大きい。
悲鳴を上げながらも、メキラは瞬間移動を発動させる。
もう一発でもダメージを受ければ、行動不可能になる。
そう認識したメキラが選んだのは……
妖の類によく効くよう調整された霊符だ。
小さな爆発に反して、零体へのダメージは大きい。
悲鳴を上げながらも、メキラは瞬間移動を発動させる。
もう一発でもダメージを受ければ、行動不可能になる。
そう認識したメキラが選んだのは……
「あァ? 何だァ? 仕掛けといて、また消えたのか? みっともねえなァ! ひゃっはっは!」
逃亡だった。
哄笑する紅煉、警戒を続ける秋山と潮。
しかしメキラが現れることはなく、放送が始まった。
哄笑する紅煉、警戒を続ける秋山と潮。
しかしメキラが現れることはなく、放送が始まった。
◇ ◆ ◇ ◆
身を潜めたメキラは、状況を冷静に分析する。
駅で1発、そして今もう1発。
2度も霊符による攻撃を受けた。
一般的な霊符ならばともかく、ある界隈では名の知れた符咒士の逸品である。
いくら式神として格の高いメキラでも、ダメージは深刻だ。
主の元に戻って休むべきだが、その力すらない。
帰還するより霊力が尽きるのが先だろう。
そこで考え……結論を出した。
機を探り、不意を突く。
あの2人の内、片方はせめて倒しておく。
そう心に決め、メキラは物陰から眺め続ける。
好機はすぐに訪れた。
潮が明らかに動揺しだしたのだ。
これを逃す手はない。
体に残った霊力を振り絞り、メキラは最後の瞬間移動を行った。
駅で1発、そして今もう1発。
2度も霊符による攻撃を受けた。
一般的な霊符ならばともかく、ある界隈では名の知れた符咒士の逸品である。
いくら式神として格の高いメキラでも、ダメージは深刻だ。
主の元に戻って休むべきだが、その力すらない。
帰還するより霊力が尽きるのが先だろう。
そこで考え……結論を出した。
機を探り、不意を突く。
あの2人の内、片方はせめて倒しておく。
そう心に決め、メキラは物陰から眺め続ける。
好機はすぐに訪れた。
潮が明らかに動揺しだしたのだ。
これを逃す手はない。
体に残った霊力を振り絞り、メキラは最後の瞬間移動を行った。
◇ ◆ ◇ ◆
念仏番長と居合番長が死んだ。
その事実に、秋山は驚かなかった。
むしろ、どこか納得していた。
名簿には知っている名が幾らかあったが、もしその中から誰かが死ぬとすれば……
この2人の内のどちらかだろうと、予想していたのだ。
その事実に、秋山は驚かなかった。
むしろ、どこか納得していた。
名簿には知っている名が幾らかあったが、もしその中から誰かが死ぬとすれば……
この2人の内のどちらかだろうと、予想していたのだ。
(長生き出来なそうなタイプなんだよな、どちらも。いや、念仏の方は案外生き残りそうなタイプでもあるんだけど、でもあれで意外に体張ったりするからなぁ)
そのように考えながら、秋山が両者の死に何の感情も抱いていないかと言えば違った。
共に戦ったかけがえのない仲間だ。
今回も、一緒に生き残りたかった。
しかし同時に、この状況で誰も死なないで済むとも思っていなかった。
共に戦ったかけがえのない仲間だ。
今回も、一緒に生き残りたかった。
しかし同時に、この状況で誰も死なないで済むとも思っていなかった。
(どうせ馬鹿正直にまっすぐ生きたんだろう。君達の分まで僕が卑怯を請け負おう)
今は亡き仲間に、口には出さずに告げる。
これで彼等への弔いは終わりだ。
死んだ者に悠長に思いを馳せる暇はない。
傍らで俯いている潮に、秋山は視線をやった。
これで彼等への弔いは終わりだ。
死んだ者に悠長に思いを馳せる暇はない。
傍らで俯いている潮に、秋山は視線をやった。
「……ッ!」
仲間への追悼を早く済ませたのは、秋山にとって幸運だった。
潮の背後に現れた式神に、丁度勘付くことができたのだから。
潮の背後に現れた式神に、丁度勘付くことができたのだから。
「七排ッ!」
咄嗟に掴んだヒョウを投げ、付属している霊符を爆破する。
回避する力も、耐える力も、メキラには残っていなかった。
爆風が風に流された後には、何も残っていなかった。
回避する力も、耐える力も、メキラには残っていなかった。
爆風が風に流された後には、何も残っていなかった。
「へッ。なんだ、運が良いでやんの」
「紅煉、お前……!」
「ああ、気付いてたぜ。だからどうかしたか?」
「……いや。何でもないさ」
また呪文を詠唱しよかとも思ったが、秋山はそれをしなかった。
そんなことよりも、潮のことが優先すべきだと思った。
そんなことよりも、潮のことが優先すべきだと思った。
「潮……、何かあったのか?」
「真由子と……、そしてとらが……あの大馬鹿野郎がよォ……」
答えられずとも、分かっていた。
それでも情報端末のことを隠している以上、聞かねばならないのだ。
それでも情報端末のことを隠している以上、聞かねばならないのだ。
「う、嘘だよな!? んな訳ねえよな!? はっ、キース・ブラックの野郎、こんなことありえねえよな!? あいつに限って、そんな簡単に死ぬはずねえんだ!」
どう返すべきか。
秋山には分からなかった。
放送が嘘の可能性は、限りなく低いと思う。
しかしそう言ってしまっていいものだろうか……
迷う秋山をよそに、上空から降り注ぐ嘲笑うような声。
秋山には分からなかった。
放送が嘘の可能性は、限りなく低いと思う。
しかしそう言ってしまっていいものだろうか……
迷う秋山をよそに、上空から降り注ぐ嘲笑うような声。
「んな訳ねーのはその甘ったるい考えだろうが、馬ァ――――鹿。二人がかりで敵わなかった俺がいるんだぜ。他にも、お前等以上の奴がいねえとは限らねえだろ。ただでさえよえーんだからよ、お前達」
秋山に睨み付けられても、紅蓮はにたりと笑い返す。
「何だよ、卑怯者。文句あんのか? だったらこいつは、あのぬっるい考えのままいるべきだったってのかよ。それはそれで面白えからどっちでもよかったけどよ」
秋山は、一瞬だけ呆然となった。
その通りである。
あのまま事実を受け入れないより、こうして直面させた方が幾分ましなのだ。
やり方が冷たく、紅煉自身はただ嘲笑いたかっただけであろうが……
しかし、この手自体は悪くない。
その通りである。
あのまま事実を受け入れないより、こうして直面させた方が幾分ましなのだ。
やり方が冷たく、紅煉自身はただ嘲笑いたかっただけであろうが……
しかし、この手自体は悪くない。
秋山は懐に手を伸ばし、顔のを上半分を隠せるマスクを取り出す。
それを装着し、項垂れる潮に声をかけた。
それを装着し、項垂れる潮に声をかけた。
「潮」
「優兄ちゃん、そのマスク……」
「黙って聞け。あくまで僕の認識だが、あの放送はきっと事実だと思う。奴に嘘を吐くメリットはないし、いかに死にそうにない者だって倒しかねない参加者もいる」
「……うっ……」
「だが潮、お前はそうしているだけなのか? 先程呼ばれた16人を殺した奴等は、お前のように落ち込んだりせず動き続けているだろう。それでも俯くだけなのか? そうしている間に、他の知り合いや、お前の守ろうとしていたキース・バイオレットが危険にさらされているかもしれないのに」
ぴくりと、潮の肩が跳ねた。
追い打ちをかけるように、秋山は語気を強くしてもう一言。
追い打ちをかけるように、秋山は語気を強くしてもう一言。
「それでも、そのまま立ち止まっているつもりなのか?」
目を見開いたまま、潮は立ち尽くす。
しかし30秒ほど経ったとき、不意に潮の表情に笑みが浮かんだ。
しかし30秒ほど経ったとき、不意に潮の表情に笑みが浮かんだ。
「……ちぇっ! ずるいよなァ! そんなこと言われたら、ゆっくり落ち込んでもいられねえじゃんかよ!」
大きく伸びをしてから、潮は深く息を吐く。
「真由子ととらが死んだとか全然実感ねえし、信じる気もあんましねえけどよ、でも……まっ、もしもってこともあるから言ってやる」
吐いた以上に吸って、そのまま大きく叫ぶ。
「な―――に、勝手に死んでやがんだ! こんの大馬鹿野郎ォ――――――ッッ!!」
そうして振り返った潮の表情は、晴れ晴れとしたものであった。
「さて行こうぜ。まったく! 人が沈んでるのに、あんな言い方するんだもんな! 卑怯だなァ、優兄ちゃんは」
「そりゃあ卑怯な手を使うさ。なぜなら……」
アイ・アム・卑怯番長。
と、秋山は自身の二つ名を初めて潮に名乗った。
と、秋山は自身の二つ名を初めて潮に名乗った。
◇ ◆ ◇ ◆
彼等は知らない。
メキラを誘導した結果、とらを殺害したゼオンにかなり接近していた事実を。
そして知らないまま、ゼオンの元から離れていく……。
メキラを誘導した結果、とらを殺害したゼオンにかなり接近していた事実を。
そして知らないまま、ゼオンの元から離れていく……。
【E-5 住宅街(南)/一日目 朝】
【蒼月潮】
[時間軸]:26巻第42章『三日月の夜』直後。
[状態]:健康
[装備]:制服、即席槍(ジャバウォックの爪@ARMS+操り糸@からくりサーカス+神通棍@GS美神)、ヴィルマのナイフ(6本)@からくりサーカス
[道具]:基本支給品一式、操り糸(3/4)@からくりサーカス
[基本方針]:仲間を集めて殺し合いを止める。とら? 勝手にしろィ! 喫茶店に向かう。
※バイオレットからプログラムについて他のキースシリーズ、オリジナルARMS勢の情報を貰いました。
ただし、ARMSについては教えて貰っていません。
[時間軸]:26巻第42章『三日月の夜』直後。
[状態]:健康
[装備]:制服、即席槍(ジャバウォックの爪@ARMS+操り糸@からくりサーカス+神通棍@GS美神)、ヴィルマのナイフ(6本)@からくりサーカス
[道具]:基本支給品一式、操り糸(3/4)@からくりサーカス
[基本方針]:仲間を集めて殺し合いを止める。とら? 勝手にしろィ! 喫茶店に向かう。
※バイオレットからプログラムについて他のキースシリーズ、オリジナルARMS勢の情報を貰いました。
ただし、ARMSについては教えて貰っていません。
【秋山優(卑怯番長)@金剛番長】
[時間軸]:最終決戦後、後日談の前
[状態]:健康
[装備]:霊符(残り30枚)、ヒョウ(残り15本)、参加者名簿入り携帯端末@オリジナル(ポケット)、サバイバルナイフ(腰)@現地調達
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、ヒョウ(25本)&符(50枚)&十五雷正法説明書@うしおととら、
、不明支給品1(秋山は確認済)、1~3(秋山と紅煉が確認済み)、デパート内で回収したものいろいろ
[基本方針]:あらゆる卑怯な手を使ってこの街から脱出し、家へ帰る。体内に爆砕符があると思い込んでいる紅煉を脅してうまく利用する。喫茶店に向かう。
[時間軸]:最終決戦後、後日談の前
[状態]:健康
[装備]:霊符(残り30枚)、ヒョウ(残り15本)、参加者名簿入り携帯端末@オリジナル(ポケット)、サバイバルナイフ(腰)@現地調達
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、ヒョウ(25本)&符(50枚)&十五雷正法説明書@うしおととら、
、不明支給品1(秋山は確認済)、1~3(秋山と紅煉が確認済み)、デパート内で回収したものいろいろ
[基本方針]:あらゆる卑怯な手を使ってこの街から脱出し、家へ帰る。体内に爆砕符があると思い込んでいる紅煉を脅してうまく利用する。喫茶店に向かう。
【紅煉@うしおととら】
[時間軸]:本編にて死亡後
[状態]:ダメージ回復
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:秋山優をなんとか隙を見て喰い殺す。それまでは死にたくないので従う。秋山を殺せたらあとはひたすら参加者を喰い殺す。喫茶店に向かう。
※「黒炎(分身というか手下と言うか、まあセルジュニアみたいなもの)を生む能力」は制限により使用不可。
[時間軸]:本編にて死亡後
[状態]:ダメージ回復
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本方針]:秋山優をなんとか隙を見て喰い殺す。それまでは死にたくないので従う。秋山を殺せたらあとはひたすら参加者を喰い殺す。喫茶店に向かう。
※「黒炎(分身というか手下と言うか、まあセルジュニアみたいなもの)を生む能力」は制限により使用不可。
※メキラは消滅しました。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
069:モーニングティーを飲みに行こう | 秋山優(卑怯番長) | 113:未来位置 |
紅煉 | ||
蒼月潮 |