茶会 ◆6LcvawFfJA



 陶磁器製のティーカップを口元に運ぶキース・バイオレット。
 そもそも良質とは言い難い茶葉より抽出された紅茶は、既に冷え切っている事もあって酷く味気無い。
 だがそれでも、バイオレットは紅茶を喉に滑らせていく。
 まるで機械のように、プログラムに巻き込まれた直後から同じ行動を繰り返している。
 そうする他に、何をすればいいのか分からないでいる。
 傍目には平静を乱していないようだが、その実は行く道を知らぬだけだ。
(……巴武士)
 脳裏から離れないのは、一人の少年の姿。
 オリジナルARMS“ホワイトラビット”の適正者だ。
 “ジャバウォック”を止める鍵の一つ。
 そんな彼が逝った。
 久留間恵がプログラムに参加していない以上、残る鍵は新宮隼人のみとなった。
 終末に至らぬよう動いてきた彼女にとって、かなりの痛手となる。
 が、現状、彼女はプログラムにおいて如何様に動くかを決めかねている。
 故に、迷うのだ。
 巴武士の死に対し、どう反応すべきなのか。
 ジャバウォックを打ち倒す鍵を喪失した事を悔やむ必要は、もはや無い筈だ。
 にもかかわらず、胸が痛い。
 ホワイトラビットの喪失ではなく、巴武士の死対して嘆いている彼女がいた。
(何故……、私達に感情など与えたのだ)
 プログラムの背後にいるだろう彼女の母“アリス”に、胸中で尋ねる。
 勿論、返答は無い。
 無音の喫茶店内に、唐突に扉をノックする音が響く。
「……入りたければ、勝手にすればよい」
 バイオレットが言うと、喫茶店の扉が緩やかに開かれる。
 現れたのは、白髪をした老年の男。
 かけている眼鏡の奥に見える目付きは、とても穏やかだ。
 キース・ブラックにより与えられた資料によると、才賀正二という名であっただろうか。
 黙考するバイオレットの前で、老人は両頬を掴む。
 頬を左右に引っ張っていくと、髭が天を衝かんとする勢いで上方を指す。

「うちゅーぢんだよ~~~。ぴきゃぺきょり~ん」

 またしても、喫茶店内に静寂が拾った。

 才賀正二の姿に変装したフェイスレスは、心底つまらなそうに口を尖らせる。
「何だよ、リアクション薄いなァ」
 言い終わった頃には、頬も髭も元の位置に戻っていた。
「君がキース・バイオレットかい? 新宮隼人君に聞いて来たんだけど」
 挨拶代わりの一発ギャグなど無かったかのように、フェイスレスは本題に入る。
 バイオレットの方も、ギャグに触れる様子は無い。
「ああ、そうだ」
「へー。話に聞いてた通り、超そっくり。さすがだね」
 バイオレットの体を足先から舐め回すように眺めるフェイスレス。
 少し、クローン技術に興味が沸く。
 だが、それをわざわざ口にする事は無い。
「ああ、そういえば名前を言っていなかったね」
 ふと思い出したような口調で、自らの名を名乗る。
「僕の名前は……、才賀正二というんだよ」
 返ってきたのは、含み笑いだった。
 バイオレットが、刺すような視線で睨んでくる。
「兄、キース・ブラックより参加者の情報は与えられている。
そのような芝居は、私には通用しない」
 的確な指摘に対し、フェイスレスは表情に出す事無く笑う。
 それを確かめる為に、無意味なギャグを行ったのだ。
 しかしその打算をおくびに出さず、さも驚いたように演じる。
「へえ……。だとすれば、僕は一体どう名乗ればいいのかな?
名簿にはある名で書かれているけど、あれは異名の様な物で個人名ではなくてね」
 バイオレットの視線がより鋭くなる。
 そして零れ落ちた声も、冷え切っていた。

「“白金”でも“ディーン・メーストル”でも“才賀貞義”でも“フェイスレス”でも……、好きな物を名乗れば良いだろう」

 全てを知られているらしい事実に、フェイスレスは笑った。
 驚愕するでもなければ、焦って取り乱しもしない。
 “話が楽になった”と分かり、思い切り笑顔になった。
「まあ警戒するのはもっともんだけどねェ。全部知ってるみたいだし。
でも、少し考えてみれば簡単に分かるだろう?」
 話しながら、フェイスレス司令としての外見に戻る。
 笑顔のままで、バイオレットに歩み寄っていく。
「僕には、叶えなくちゃいけない夢がある。
その為には、このプログラムって邪魔なんだよねー。
知ってる君に話すまでもないだろうけど、勝君もエレオノールも失う訳にはいかないんだよ。
替えの利かない大事な役目があるもんだからさァ」
 察しが付いたらしいバイオレット。
 未だ睨み付けるような視線のまま、口を開く。
「殺し合いには乗っていない……という事か?」
「当たり前じゃーん。
後でどうするかはともかく、とりあえずは勝君達と一緒にここを脱出するつもりだよん。
君のお兄さんは全員殺したら何でも叶えてくれるって言ってたけど、何ともナンセンスだよ。
夢ってのは、自分の手で叶えるから意味があるんじゃないか」
 耳触りの良い言葉を吐くフェイスレス。
「だからさ、余さず全部知ってる事を教えてよ」

 より深くなったフェイスレスの笑顔に、バイオレットは生理的な嫌悪感を覚えた。
 だが、フェイスレスは紛う方無き天才だ。
 プログラムを止めるつもりならば、かなり役に立つだろう。
 抗っている新宮隼人の手助けにもなる筈だ。
 故に、バイオレットは決断を下す。
「いいだろう……。私が分かっている範囲については話そう」
 自分がプログラムにおいてどう動くのかも、未だ決められていないというのに。

     ○

「むむむー……」
 難しそうな表情で呻るフェイスレス。
 バイオレットの話を聞いた後、質問と応答を数度繰り返した。
 それでも、違和感は消えない。
「何か、おかしくない?
キース・ブラックの目的から、かなりズレてんじゃん」
「それは……、私にも分かっている」
「だよねえ。思い違いじゃないよねえ」
 口調は軽いが、フェイスレスの表情は真剣であった。
 また、先の放送も気にかかる。
 殺し合いの説明をしたキース・ブラックの口調とは、幾らか違っていたのだ。
 よく他人に成り済ますフェイスレスには、よく分かる。
「……ま、“十つの世界”って話だしね。
他の世界の人達とも会って話聞いてみるかなァ」
 手前にあるティーカップに手を伸ばし、フェイスレスは紅茶を飲み干す。
「紅茶、ありがとね。美味しかったよ」
「お世辞はいらん」
「せっかく褒めたんだから、素直に喜べばいいのに」
 茶化すように言いながら、喫茶店の扉の方に進むフェイスレス。
 ふと足を止めて、バイオレットの方を振り返る。
「情報のお礼に、これあげるよん」
 ガッシュの魔本を投げ渡すと、バイオレットは目を見張った。
 何やら問い詰めてくるが全て無視して、フェイスレスは続ける。
「そうやって怒れるなら、動けばいいんじゃないかな。
君がどうしようと僕には関係無いけど、どう動くか迷ってるような奴に叱られる筋合いは無いね」
 バイオレットが口籠ったのを確認し、フェイスレスは彼女に背を向ける。
「まァ、恋愛でもしてみればいいんじゃないかな。
良いよォ、恋愛は。迷う間も無く動いちゃうからね。はっはっは」
 高笑いを上げながら、フェイスレスは喫茶店を後にする。
 喫茶店の扉を閉めてから、急に落ち着いた口調に戻る。
「……これに関しては、あながち冗談でも無いんだけどね。
気付くかどうか……。いや、気付かないだろうな」





【E-5 喫茶店/一日目 朝】

【キース・バイオレット】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にてオリジナルARMSたちがカリヨンタワーに乗り込む直前。
[状態]:健康、共振波を放出中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~2(未確認)、ガッシュの魔本@金色のガッシュ
[基本方針]:キース・バイオレットとして行動する……? ひとまず喫茶店に留まり、入ってきた参加者に対応。
※参加者の情報をブラックから聞かされています。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。


【フェイスレス】
[時間軸]:28巻、勝にゲームを申し込んだ後。
[状態]:健康
[装備]:エネルギー結晶@GS美神(体内)、言霊@烈火の炎(体内)
[道具]:基本支給品一式×2、式神十二神将の札×8(マコラ、ショウトラ、アジラ、サンチラ、シンダラ、ハイラ、インドラ、クピラ)@GS美神
[基本方針]:愛しの人を手に入れるべく、エレオノールと才賀勝の捜索。才賀正二の悪評を広めるのも忘れない。



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069:モーニングティーを飲みに行こう キース・バイオレット 113:未来位置
092:ゲェムを作る側から見た場合 フェイスレス  : 





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