苦渋の決断 ◆c8fjjCyRkM



アルの話が終わった。
ボーは口を開く事が出来ないでいる。
いや、一応ではあるが、口が開いてはいる。
開いてはいるのだがもごもごと動かすばかりで、言葉が出てこないのだ。
少年達に何と声をかけるべきなのかが、分からない。
しかし……
喋ろうとするのをやめて、ボーは軽トラックが来た方向を見る。
そちらにある公園に、キース・シルバーという名の化け物がいるらしい。
気の利いた言葉は分からないが、今からやるべき事はよく分かった。
決意を固めて、ボーは拳を固く握る。

「早急に逃げねばならんというのに止めてしまい悪かったな、アル。このボー・ブラシェが何としても貴様の友人を連れ帰る。大船に乗った気持ちでいてくれて構わん。事が終わり次第全力で追いかけるので、皆で距離を取ってくれ」

この場に置いて、ボーは一度敗北している。
その事実を忘れてしまった訳ではない。
むしろ負けず嫌いなボーは、死ぬまで忘れられはしないだろう。
しかしそれでも、ボーは行かねばならんのだ。
まだ中学生という小僧が、掌から荷電粒子砲を放つという化け物と戦っているのだから。
まだ現時点は自分を最強ではないと認め、相手の力も認め、その上で決意をこめた言葉だった。
にもかかわらず、返ってきたのはアルの冷たい声。

「何をふざけた事を言っているッ! 貴様が向かったところで、次にキース・ホワイトが読み上げる名が1つ増えるだけだッ!」

キース・ホワイトという呼び名に違和感はあった。
放送で死者の名前を読み上げるのは、キース・ブラックのはずだ。
だが、そんな事はどうでも良い。
そんな些細な事柄は、また後で聞けば十分。
問題なのは……また別だ。

「死体が増える……だと!? 貴様、よもや信じておらんのか!? キース・シルバーとやらを食い止めるべく残った友人を!」

信じ難い言葉だった。
否定して欲しかった。
しかし返ってきたのは……

「はっ、そりゃあそうだろう。多少荷電粒子砲を曲げられる程度で勝てるものか。曲げたところで無意味なほど接近されれば終わりだし、奴にはそれが出来る。分かりきっている事だろ。100人いりゃ100人がアイツが死ぬと思うさ。賭けなんか成立しないね」

「貴、貴様……!」

ボーは、軽トラックに乗っている3人を守るべき弱者だと思っていた。
だというのに、アルのこの言い種はどういう事か。
友を愚弄するような輩に、守ってやる価値はあるのだろうか。
いかに子供が物の価値が分からず、その為に強者が手本にならねばならないとはいえ……
あんまりにもひどい。
それに、どうして助手席に座る2人は何も言わないのか。
コロンビーヌという少女はともかく、レイラと名乗った方は十分分別の付く年齢に見えるというのに。
困惑のあまり言葉の出てこないボーに、アルは呆れたように言い放つ。

「けどな、僕はあいつを信じてない訳じゃない」

「何……?」

「あいつが勝てるとは思ってないが、そんなのはあいつだって同じ事だ。勝てるなんて全く思っていないくせに、さも自信があるかのような口振りだっただけだ」

予期せぬ内容に反応に困るボーを差し置いて、アルは続ける。

「だが信じている。あいつは足止めをすると言ったからな。その言葉の方は信じてやっている。だから、あいつがせっかく足止めをしているというのに、僕が余計な話をしたせいで犠牲者が増えるというのは好ましくない。
それでも行くというのなら止めんがな。自殺志願者が自ら命を絶とうとするのを止めるほど物好きじゃない」

やっとボーは理解した。
公園に残ったというアルの友人、佐野清一郎は……テッドと同じなのだ。
放送前にテッドがボーを逃がす為に鬼丸を足止めしたように、佐野はアル達を逃がす為にキース・シルバーを足止めしているのだ。
そう分かったからには、ボーは公園に向かう訳には行かない。
それは、テッドの思いを無碍にするに等しいのだ。

「アルよ、運転席を降りろ」

その事に気付いても、こう切り出すまでに数十秒ほど費やしてしまう。
そういう男なのだ、ボー・ブランシェは。

「……は?」

「さっきのようにトロトロ走っていたのでは、せっかく足止めをしていてもいずれ追いつかれかねん。それに、目の前に誰かが現れても止まることが出来んとあっては、先程は私だったから良かったものの守るべき弱者であったなら轢き殺すところだったぞ」

「なっ……!? 今世紀最大の頭脳を持ってすれば、もうしばらく運転を続けるだけですぐにこの車の特性を読み取って、問題無く乗り回せるように……! ま、まあ良い! 運転がしたいというのならさせてやるさ!」

アルは顔を赤くして反論しようとするが、意外にも早く落ち着いた。
偉そうな態度で言い放って、運転席を降りる。
すると、何故か助手席の二人まで降りてしまう。
疑問に思ったのはボーだけではないらしく、アルが問いかける。

「どうして、わざわざお前達まで降りるんだ?」

「あらン。せっかく助手席を譲ってあげようと思ったのにィ」

「今までよりスピードが上がるのに、アルが荷台に乗るなんて危ないわ」

「そんな気を使わずとも……」

「私達なら大丈夫だけど、アルじゃカーブに差し掛かったりしたら吹き飛ばされていきそうだもの」

「……」

気まずそうなアルに、レイラが小首を傾げる。
レイラの屈託の無い笑顔に、アルは言葉を失ってしまう。

「ハハハハハハ!」

そのやり取りに、既に運転席に座っていたボーは大きく笑う。
手本となるべき強者が弱者を守るというのは、ボーの信じるナチスの理想と同じであるのだ。

「何を笑っている! 何を! どこかおかしい事があったか!?」

助手席に座り込んだアルが怒鳴るが、ボーの笑いは止まらない。
動き出した軽トラックのエンジン音でさえ、ボーの大きな声はかき消せなかった。



  ◇  ◆  ◇  ◆



ようやくボーの笑いが収まり、アルは辟易としたように溜息を吐く。
軽トラックが向かうのは西だ。
東にはキース・シルバーがおり、北には名前不明のボーが角ハゲと呼ぶ強敵がいるらしい。
そして南にキース・グリーンがいるのは、キース・シルバーの思考から読み取っている。
それはもう大分前の事だが、アルの知る内最も出くわす訳にはいかない名前の一つだ。
もう移動している可能性が高くとも、出来るだけ避けて通りたい。

(この男……ボー・ブランシェでは、相手になりそうもないからな)

ボーには告げていないが、アルは既に心眼でボーの思考を読んでいる。
ゆえに、ボーの実力については分かっている。
まるで人体改造でも受けているかのような力を発揮出来るようだが、さすがにキース・シリーズ達には敵わないだろう。
少ない会話でボーの性格も理解したので、口に出したりはしない。
また角ハゲについての話を聞きだした際に、その実力を思い知るはめになった。
魔王三日月剣という一撃の威力は、キース・シルバーの荷電粒子砲に勝るとも劣らない。
気付けば、アルは背中に汗をかいていた。
車のシートとの接着面が気色悪いので、背筋を伸ばしてシートから離れる。
乾くまではこの体勢を保つ事にする。

(戦闘能力を有するレイラとコロンビーヌに、心眼でこの今世紀最高の頭脳が随時指示を出せるとはいえ、シルバーや角ハゲを相手取るには如何せん火力が足りない。やはり、高槻や隼人と早く会わねばならない。
隼人の方も高槻と同じくARMSが復活しているのかは定かでは無いが……クソ! これもシルバーに聞いておくべきだった!)

表情を歪めるアル。
隼人のARMSについて尋ねなかったのは、到底失敗とは言えないだろう。
あの場面ではそこまで頭が回らずとも仕方がないし、他に色々と聞き出したのだから十分だ。
そのように思っても問題無い。
だが、アルは過去の自分を許さない。
自分の頭脳を誇っているからこそ、たった一つの小さなミスさえ見過ごす訳にはいかないのだ。

「あまり自分を責めるなよ、アル・ボーエン」

急に声をかけられ、アルは顔を上げる。
苛立ちが顔に出ていたらしい。
それにしても、まさかボー・ブランシェに悟られるほどひどい顔をしていたのか。
冷静さを失っていた自分に嫌気が差し、アルは眉を顰めた。

「ハハハ! まぁこの状況で落ち着かないのは分かるがな! 安心するがいい、私は世界最強の男、ボー・ブランシェだ!」

生憎、心眼でボーの思考は筒抜けだ。
実はボーが自分を世界最強などと思っていない事も、そう思う事となった原因も、アルには分かってしまう。
しかし仮にも励ましてくれているので、触れない事にする。
アルは自分の性格が良いなどと思っていないが、それでも無粋な真似をするのは気が引けた。

「それにな、アルよ。もし恐ろしい相手が現れても恐れる事は無い。この私が残って相手をしてやるから、その間に逃げればいい。お前の運転でも逃げれるだけ時間を稼いでやる。私は世界最強の男だからな!」

一気に、アルの頭が冷えた。
ボー・ブランシェという知能指数の低そうな男は、佐野清一郎と同じだ。
もしもの時は自分だけを切り捨てる。
そんな選択を出来てしまうタイプだ。
顎に力が籠もり、口内にぎりりと音が響く。
佐野の選択は正しい。
もしもの時にボーが取ろうとしている選択も正しい。
1人が残って他の多数を生き延びらせる。
全員死ぬよりよっぽど合理的だ。
だが、アルは気に入らなかった。

(たとえ甘いと揶揄されようと、僕はもう友達を誰一人……死なせたくない)

自分らしくない考えだと、アルも自ら思う。
少し昔の自分ならば、きっと嘲笑っていた。
でも、アルはそれでいいとほくそ笑んだ。

(かつての僕の嘲笑なんか聞き流してやる。人は進化していく者なんだよ、旧アル・ボーエン)

逆に過去の自分をせせら笑ってから、アルの頭中に1人の男の顔が浮かぶ。
強大な力に恐怖する事無く、アルが生まれる以前から同じ事にばかり固執している研究者。
前に進まず、止まり続けている。
かつてと違い変わっていく事を知ったアルにとって、理解し難い男。

「……お前にも分からせてやるぞ、キース・ホワイト」

思いを口に出すと、それにボーが食い付いた。

「そういえばアルよ、奴の名を間違って覚えているぞ。奴はキース・ブラックだ。あのような者の名など覚えてやる気にならないのは分かるがな」

また笑い出したボーに、アルは教えてやる事にした。
どうせ移動中であるのだから、この間に情報交換は済ませておくべきだろう。

「ああ、まだ言ってなかったな。奴は……」





【D-2 路上(中央)/一日目 午前】

【アル・ボーエン】
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康、心の力(中)
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎、軽トラック@現実
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神、ノートパソコン@現実、USBメモリ@現実
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。西へ向かう。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。



【レイラ】
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:大人化、ダメージ回復、心の力(中)
[装備]:輪廻@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式、居合番長の風呂敷@金剛番長、通信鬼@GS美神
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻で大人の姿となることで能力が上昇していますが、副作用で会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。



【コロンビーヌ】
[時間軸]:本編で活動停止後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1~3(確認済み、装飾品ではない)、基本支給品一式
[基本方針]:さすらう。『生存目的』を見つけ出す。アルに同行。
※アポリオンは使用可。制限されているかどうかは不明。



【ボー・ブランシェ】
[時間軸]:COSMOS戦にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:弱者を助けつつ、主催者を倒す。暁を探し戦力を整え角ハゲ(鬼丸)を倒す。


投下順で読む


時系列順で読む

前へ:戦闘生命 戻る 次へ:明暗

キャラを追って読む

096:禁句 レイラ 121:「お前は弱いな」
アル・ボーエン
コロンビーヌ  : 
ボー・ブランシェ







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