選択 ◆6LcvawFfJA
“ライカ”によって会場の西端に到着した植木耕助とユーゴー・ギルバート。
彼等は言葉を失っていた。
「……何だよ、これ」
ようやく植木耕助から零れた声は、震えを帯びていた。
それほどまでに凄惨な光景が、眼前には広がっている。
辺り一帯に散らばっている無数の木片。
それが単なる木片でないのは、木蓮と交戦した植木には分かる。
木蓮が用いていたのは、その肉体を樹木に変質させる能力。
であるならば、この木片は肉片と見るべきだ。
その仮説を裏付けるように、木片の中に服の切れ端と首輪が落ちていた。
つまりこれは、
「死んじまってる……」
植木の思考は、全てユーゴーに流れ込む。
散らばる木片から木蓮が死んだという考えも、誰が行ったのかという想像も。
しかしたとえ思考が流れ込んでこなくとも、すぐに考えを知る事となっていた。
植木の思いが彼の中に留まらず、言葉となって出てしまったのだから。
「殺しちまったのかよ、流兄ちゃん……!」
地面に膝を付け、植木は地面を叩き付けた。
これまでに悪党と戦った事は何度もある。
だがその内誰一人として、殺した事は無い。
それは偏に、相手が“能力”や“空白の才”目当ての小物ばかりであったという理由が大きい。
ロベルト・ハイドンのように、ただ自暴自棄になっているだけで明確に悪人と言えない相手もいた。
だから殺さなかった。ぶっ飛ばして思い知らせれば十分だったのだ。
しかし今、植木の眼前で変わり果てた姿となっている男。
永井木蓮は違う。
大して知っている訳では無いのに、それでも分かる。
少し言葉を交わしただけで理解してしまった。
人を殺す事をエンターテイメントなどと言い放っていた。
木蓮という人間は、救いようが無い根っからの悪党だ。
だというのならば、殺すしか無いのかもしれない。
ぶっ飛ばすだけでは済まないのかもしれない。
それでも、植木は木蓮を殺せなかった。
ナゾナゾ博士の遺体を見て激昂し、衝動的に十つ星神器“魔王”を繰り出してしまったというのに。
命を奪う事は出来なかった。
全力だった筈なのに、どこかで力を抑えてしまっていた。
救いようが無いのは分かっていた。
殺すのが正しかったのかもしれない。
なのに、そんな根っからの悪党でも殺せなかったのだ。
「糞……!」
もう一度地面を殴る。
木蓮を殺したのは、おそらく流だろう。
その行動は正しい。
植木は、そう思っている。
人殺しが善き事であるなど考えたくもないが、木蓮に関してだけは別だった。
あのような外道は初めて見た。二度と見たくも無い。
ナゾナゾ博士を殺しておいてあの男だけ生きているのも納得がいかない。
のうのうと生かしておいた自分こそ間違っていたのかもしれない。
そう思っている。
そう思っているのに、
「畜生……!」
何故か、涙が溢れてくる。
流が人を殺したという事実が、重たく圧し掛かってくる。
流は正しい。
初対面時からずっとそうだった。
木蓮がこうなっているのも、流が正しい判断をしたからだろう。
理解している筈なのに、たまらない。
何がたまらないのかは、植木自身にも分からない。
たまらなく悔しいのか、悲しいのか、腹立たしいのか。
それさえ分からないでいた。
彼等は言葉を失っていた。
「……何だよ、これ」
ようやく植木耕助から零れた声は、震えを帯びていた。
それほどまでに凄惨な光景が、眼前には広がっている。
辺り一帯に散らばっている無数の木片。
それが単なる木片でないのは、木蓮と交戦した植木には分かる。
木蓮が用いていたのは、その肉体を樹木に変質させる能力。
であるならば、この木片は肉片と見るべきだ。
その仮説を裏付けるように、木片の中に服の切れ端と首輪が落ちていた。
つまりこれは、
「死んじまってる……」
植木の思考は、全てユーゴーに流れ込む。
散らばる木片から木蓮が死んだという考えも、誰が行ったのかという想像も。
しかしたとえ思考が流れ込んでこなくとも、すぐに考えを知る事となっていた。
植木の思いが彼の中に留まらず、言葉となって出てしまったのだから。
「殺しちまったのかよ、流兄ちゃん……!」
地面に膝を付け、植木は地面を叩き付けた。
これまでに悪党と戦った事は何度もある。
だがその内誰一人として、殺した事は無い。
それは偏に、相手が“能力”や“空白の才”目当ての小物ばかりであったという理由が大きい。
ロベルト・ハイドンのように、ただ自暴自棄になっているだけで明確に悪人と言えない相手もいた。
だから殺さなかった。ぶっ飛ばして思い知らせれば十分だったのだ。
しかし今、植木の眼前で変わり果てた姿となっている男。
永井木蓮は違う。
大して知っている訳では無いのに、それでも分かる。
少し言葉を交わしただけで理解してしまった。
人を殺す事をエンターテイメントなどと言い放っていた。
木蓮という人間は、救いようが無い根っからの悪党だ。
だというのならば、殺すしか無いのかもしれない。
ぶっ飛ばすだけでは済まないのかもしれない。
それでも、植木は木蓮を殺せなかった。
ナゾナゾ博士の遺体を見て激昂し、衝動的に十つ星神器“魔王”を繰り出してしまったというのに。
命を奪う事は出来なかった。
全力だった筈なのに、どこかで力を抑えてしまっていた。
救いようが無いのは分かっていた。
殺すのが正しかったのかもしれない。
なのに、そんな根っからの悪党でも殺せなかったのだ。
「糞……!」
もう一度地面を殴る。
木蓮を殺したのは、おそらく流だろう。
その行動は正しい。
植木は、そう思っている。
人殺しが善き事であるなど考えたくもないが、木蓮に関してだけは別だった。
あのような外道は初めて見た。二度と見たくも無い。
ナゾナゾ博士を殺しておいてあの男だけ生きているのも納得がいかない。
のうのうと生かしておいた自分こそ間違っていたのかもしれない。
そう思っている。
そう思っているのに、
「畜生……!」
何故か、涙が溢れてくる。
流が人を殺したという事実が、重たく圧し掛かってくる。
流は正しい。
初対面時からずっとそうだった。
木蓮がこうなっているのも、流が正しい判断をしたからだろう。
理解している筈なのに、たまらない。
何がたまらないのかは、植木自身にも分からない。
たまらなく悔しいのか、悲しいのか、腹立たしいのか。
それさえ分からないでいた。
植木の胸中に溢れる感情は、ユーゴーにも流れ込む。
ユーゴーの脳裏を過るのは、思い人の姿。
高槻涼は、自身に埋め込まれた“ジャバウォック”に呑み込まれぬよう生きてきた。
襲いかかってくる敵であろうと、極力殺してしまわぬようにしていた。
ユーゴーが属していた“X-ARMY”の面々も、涼は殺さなかった。
ジャバウォックの意思ではなく、自身の意思で殺した数はその能力からみれば驚くほど少ない。
いくらでも殺せるにもかかわらず、殺さずに振る舞ってきた。
他人を殺すごとに人でなくなってしまうと、そう考えていたのだ。
そんな彼が怒りに駆られるでも無く、自らの意思で殺害を決断した相手がいる。
キース・シリーズの次男、“マッドハッター”のキース・シルバーだ。
シルバーの内面を覆う精神の鎧が崩れた時、彼のARMSは制御不可能となった。
延々と温度が上昇し、いずれ地中深くまで焼き尽くし、多大な影響を及ぼしかねない。
そんな状況で、高槻涼は自らの意思で彼の殺害を決意した。
仲間を含むその時にニューヨークにいる全員とキース・シルバーの命を天秤にかけ、前者を取ったのだ。
反射的にではなく、とても冷静に。
「……耕助君」
植木自身にも理解出来ぬ感情でも、ユーゴーは理解していた。
植木は、命の価値を比べる事に抵抗感があるのだ。
他の多数の参加者と永井木蓮の命。
どちらが大事なのかなど、比べるまでもない。
他の多数には、植木の仲間達も含まれている。
にもかかわらず、植木は天秤にかけられない。
かければどうなるかなど明白なのに、かける事自体を良しとしていない。
だがしかし天秤にかけねばならない事態が、いつか嫌でも訪れるだろう。
オリジナルARMSの少年達のように。
エグリゴリに反発するという事は、つまりそういう事だ。
誰も殺さずに済めばいいだろうが、そうはいかない。
だから、
「一体誰を救うべきなのかを、いずれ選ぶ時が来ます」
ユーゴーに出来るのは、今の内に投げかけておくだけだ。
「流さんは、彼を選ばなかったのでしょう」
茶番じみていると思いつつ、この一言は必要だった。
他者がどう選んだのか、例を挙げておかねばならない。
「こいつがとんでもない糞野郎だって事は、俺も分かってる。
けどよ、それでも……! いや、流兄ちゃんは正しいと思うけど……!」
口籠る植木。
「まだ決められなくても問題ありません」
ユーゴーが微笑みかける。
「ですがいつか必ず選ばねばなりません。その時、」
首を傾げる植木に、ユーゴーは穏やかな口調のままで。
ユーゴーの脳裏を過るのは、思い人の姿。
高槻涼は、自身に埋め込まれた“ジャバウォック”に呑み込まれぬよう生きてきた。
襲いかかってくる敵であろうと、極力殺してしまわぬようにしていた。
ユーゴーが属していた“X-ARMY”の面々も、涼は殺さなかった。
ジャバウォックの意思ではなく、自身の意思で殺した数はその能力からみれば驚くほど少ない。
いくらでも殺せるにもかかわらず、殺さずに振る舞ってきた。
他人を殺すごとに人でなくなってしまうと、そう考えていたのだ。
そんな彼が怒りに駆られるでも無く、自らの意思で殺害を決断した相手がいる。
キース・シリーズの次男、“マッドハッター”のキース・シルバーだ。
シルバーの内面を覆う精神の鎧が崩れた時、彼のARMSは制御不可能となった。
延々と温度が上昇し、いずれ地中深くまで焼き尽くし、多大な影響を及ぼしかねない。
そんな状況で、高槻涼は自らの意思で彼の殺害を決意した。
仲間を含むその時にニューヨークにいる全員とキース・シルバーの命を天秤にかけ、前者を取ったのだ。
反射的にではなく、とても冷静に。
「……耕助君」
植木自身にも理解出来ぬ感情でも、ユーゴーは理解していた。
植木は、命の価値を比べる事に抵抗感があるのだ。
他の多数の参加者と永井木蓮の命。
どちらが大事なのかなど、比べるまでもない。
他の多数には、植木の仲間達も含まれている。
にもかかわらず、植木は天秤にかけられない。
かければどうなるかなど明白なのに、かける事自体を良しとしていない。
だがしかし天秤にかけねばならない事態が、いつか嫌でも訪れるだろう。
オリジナルARMSの少年達のように。
エグリゴリに反発するという事は、つまりそういう事だ。
誰も殺さずに済めばいいだろうが、そうはいかない。
だから、
「一体誰を救うべきなのかを、いずれ選ぶ時が来ます」
ユーゴーに出来るのは、今の内に投げかけておくだけだ。
「流さんは、彼を選ばなかったのでしょう」
茶番じみていると思いつつ、この一言は必要だった。
他者がどう選んだのか、例を挙げておかねばならない。
「こいつがとんでもない糞野郎だって事は、俺も分かってる。
けどよ、それでも……! いや、流兄ちゃんは正しいと思うけど……!」
口籠る植木。
「まだ決められなくても問題ありません」
ユーゴーが微笑みかける。
「ですがいつか必ず選ばねばなりません。その時、」
首を傾げる植木に、ユーゴーは穏やかな口調のままで。
「相手を間違えないで下さい」
「……ああ!」
暫しの間を置いて頷く植木。
彼がまだ理解し切れていない事は、ユーゴーには伝わっている。
それでも構わなかった。
一度頭に入れておいてもらうのが目的であったのだ。
「では東に戻りましょう」
ユーゴーが首輪を広いながら提案すると、怪訝そうになる植木。
「ん? 戻るのか? せっかくだし、流兄ちゃん探した方が……」
「南が禁止エリアである以上、流さんが向かった方向は北と東の二つしかありません。
北に行ったのならば美神さんに出会う筈ですし、行き違いになっている可能性もあるので私達は戻りましょう。
見付からなければ、あちらも探してるものとして動きましょう」
「そっか」
あっさり納得する植木に、安堵するユーゴー。
本当は北に向かって美神に出くわすのを避けただけだ。
彼女が同行を嫌がってる事は、ユーゴーにも伝わっていた。
暫しの間を置いて頷く植木。
彼がまだ理解し切れていない事は、ユーゴーには伝わっている。
それでも構わなかった。
一度頭に入れておいてもらうのが目的であったのだ。
「では東に戻りましょう」
ユーゴーが首輪を広いながら提案すると、怪訝そうになる植木。
「ん? 戻るのか? せっかくだし、流兄ちゃん探した方が……」
「南が禁止エリアである以上、流さんが向かった方向は北と東の二つしかありません。
北に行ったのならば美神さんに出会う筈ですし、行き違いになっている可能性もあるので私達は戻りましょう。
見付からなければ、あちらも探してるものとして動きましょう」
「そっか」
あっさり納得する植木に、安堵するユーゴー。
本当は北に向かって美神に出くわすのを避けただけだ。
彼女が同行を嫌がってる事は、ユーゴーにも伝わっていた。
【A-5 西端/一日目 昼】
【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:『電光石火(ライカ)』
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。東へ。
※美神、ユーゴーとテレパスで情報を共有しました。
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:『電光石火(ライカ)』
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。東へ。
※美神、ユーゴーとテレパスで情報を共有しました。
【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません。東へ。
※美神、植木とテレパスで情報を共有しました。
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません。東へ。
※美神、植木とテレパスで情報を共有しました。
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079:不止 | ユーゴー・ギルバート | 107:能力者CO/価値観の不一致 |
植木耕助 |