貫くということ◆WMyP5RHbA6
殺す。
霧沢風子の頭にある思考はそれだけだった。
目の前で血と臓物を撒き散らしながら動かない仲間を見て。
風子の世界は音を失くした。
霧沢風子の頭にある思考はそれだけだった。
目の前で血と臓物を撒き散らしながら動かない仲間を見て。
風子の世界は音を失くした。
「あ、ああっ」
殺し合い。集められた五人の仲間。
全員が全員ただで殺られるようなヘタレ野郎じゃない。
今回もいつも通り、ボロボロになりながらも無事にハッピーエンドを勝ち取るはずだった。
全員が全員ただで殺られるようなヘタレ野郎じゃない。
今回もいつも通り、ボロボロになりながらも無事にハッピーエンドを勝ち取るはずだった。
「何でだよ……何でっ!」
ハッピーエンドはもう叶わない。一緒に生きて帰りたい仲間が早くも二人消えてしまった。
何やってんだ、烈火、みーちゃん。殺しても死なないゴキブリみたいなお前等がどうして死んじゃうんだよ。
流れだした放送を口では否定したが、心の奥底ではとっくに理解できていたはずだ。
烈火も水鏡も、死んでしまったんだって。
何やってんだ、烈火、みーちゃん。殺しても死なないゴキブリみたいなお前等がどうして死んじゃうんだよ。
流れだした放送を口では否定したが、心の奥底ではとっくに理解できていたはずだ。
烈火も水鏡も、死んでしまったんだって。
「残して、いくな。置いていかないでっ」
いつまでも続くと思っていた日常はもう二度と戻ってこない。
よしんば、残り三人が無事に生きて帰って、柳を助けることができたとしてもそこに二人はいない。
全員揃って火影なのだ、誰か一人でも欠けたら駄目なのだ。
もう、仲間を失うことなんてゴメンだ。絶対、一緒に生きて帰るんだ。
そう決意した矢先のことだった。
また、いなくなる。しかも、今度は自分の前という最悪のシチュエーションだ。
よしんば、残り三人が無事に生きて帰って、柳を助けることができたとしてもそこに二人はいない。
全員揃って火影なのだ、誰か一人でも欠けたら駄目なのだ。
もう、仲間を失うことなんてゴメンだ。絶対、一緒に生きて帰るんだ。
そう決意した矢先のことだった。
また、いなくなる。しかも、今度は自分の前という最悪のシチュエーションだ。
「嫌だよぉ……」
風子にとって、烈火と土門はある種火影の中でも特別な存在であった。
魔導具なんてものに関わる前からの付き合い、言わば幼馴染のようなものだ。
片方の烈火は既に死んでしまい、土門も生きてこそいるがもうじき死んでしまうだろう。
魔導具なんてものに関わる前からの付き合い、言わば幼馴染のようなものだ。
片方の烈火は既に死んでしまい、土門も生きてこそいるがもうじき死んでしまうだろう。
「……憎い。あいつらを殺した奴等が憎い。あいつらが生きることを許さなかった世界が憎い」
烈火も、水鏡も、土門も。どうして死ななくちゃいけないんだ。
死んでいい理由なんて何一つない奴等なのに。
故に、そんな奴等を殺した目の前の敵が憎いのだ。
手に持っている風神剣が囁くのだ。
殺してしまえ、と。生きる価値のない奴等なのだから仕方ない、と。
死んでいい理由なんて何一つない奴等なのに。
故に、そんな奴等を殺した目の前の敵が憎いのだ。
手に持っている風神剣が囁くのだ。
殺してしまえ、と。生きる価値のない奴等なのだから仕方ない、と。
「殺す」
風子はこの甘く蕩けるような殺意に身を委ねることを決めてしまった。
仇討ちだ、これは正当なる殺人なのだから。
自分の仲間が死んでいくのを防ぐ為にそうするしかないじゃないか。
仲間以外を殺して、護リ抜く。この選択に間違いなんかない。
仇討ちだ、これは正当なる殺人なのだから。
自分の仲間が死んでいくのを防ぐ為にそうするしかないじゃないか。
仲間以外を殺して、護リ抜く。この選択に間違いなんかない。
「風神剣、応えろ」
その為なら悪鬼にでも何でもなってやる――!
背負ったデイバックを放り投げて、風神剣を強く握り締める。
彼女の仲間は誰もその選択肢を望んでなんかいないというのに。
吹き始めた風はもう止まらなかった。
背負ったデイバックを放り投げて、風神剣を強く握り締める。
彼女の仲間は誰もその選択肢を望んでなんかいないというのに。
吹き始めた風はもう止まらなかった。
「だから言ったじゃん! あれ危険だって!」
「……悪い。お前の言うことだとはいえ、全く信用しなかった俺のミスだ」
「……悪い。お前の言うことだとはいえ、全く信用しなかった俺のミスだ」
一方の横島と清麿は、風子の影響を受けないよう、背後へと下がっていた。
状況は、極めて最悪だ。
風子は暴走し、土門は死にかけ。マシン番長もダメージが大きいようですぐには動けない。
圧倒的に戦力が足りなさすぎるのだ。
今でこそ、風子の暴走に面食らっているのか、襲いかかってきているバロウとさとりはこちらまで攻めて来ない。
だが、彼ら二人が落ち着きを取り戻したら最後、全滅もありうる。
状況は、極めて最悪だ。
風子は暴走し、土門は死にかけ。マシン番長もダメージが大きいようですぐには動けない。
圧倒的に戦力が足りなさすぎるのだ。
今でこそ、風子の暴走に面食らっているのか、襲いかかってきているバロウとさとりはこちらまで攻めて来ない。
だが、彼ら二人が落ち着きを取り戻したら最後、全滅もありうる。
(考えろ、考えろ! 何かあるはずだ、起死回生の手段が!)
冷静に流れを読み切らないと、死ぬ。
前回のようなミスはもう許されない領域まで来ているのだ。
ヒデヨシの犠牲を無駄にしない。
そう、誓ったのだから。
前回のようなミスはもう許されない領域まで来ているのだ。
ヒデヨシの犠牲を無駄にしない。
そう、誓ったのだから。
「さとりさん、ここは僕が抑えるからあの人達の所へ」
「わかった。へへ、一気に行くぞ」
「わかった。へへ、一気に行くぞ」
やはり、来たか。
清麿は唾を飲み込み、震えを必死に抑える。
デイバックの中からAK-47を取り出しいつでも撃てるように安全装置を解除。
頼れるのは自分だけだ。
清麿は唾を飲み込み、震えを必死に抑える。
デイバックの中からAK-47を取り出しいつでも撃てるように安全装置を解除。
頼れるのは自分だけだ。
「殺す」
「君の相手は僕だよ」
「君の相手は僕だよ」
さとりを行かせまいと風子は風神剣による風の刃を発生させた。
だが、刃はバロウの放つ鉄により掻き消される。
その後も息をつく暇すら与えずに鉄を連射。
風子は自分の身を護るのに力を使わなければいけない。
だが、刃はバロウの放つ鉄により掻き消される。
その後も息をつく暇すら与えずに鉄を連射。
風子は自分の身を護るのに力を使わなければいけない。
「畜生、やるしかないか!」
扱い方も知らない武器を持って戦闘など正直真っ平御免。
加えて、生き残れる可能性は限りなく低い。
清麿の拙い頭はそう判断している。
それでも、黙って殺されるのだけはごめんだ。
最後の最後まで足掻いてやると決めたその時。
加えて、生き残れる可能性は限りなく低い。
清麿の拙い頭はそう判断している。
それでも、黙って殺されるのだけはごめんだ。
最後の最後まで足掻いてやると決めたその時。
「だらっしゃああああああああああああ!!!」
清麿の目に信じられない光景が写った。
さとりの繰り出す海月を受け止めた横島である。
手には文殊で作った双頭の霊波刀を握りしめて。
さとりの繰り出す海月を受け止めた横島である。
手には文殊で作った双頭の霊波刀を握りしめて。
「うごごごごっ! こわっ、こんな近くで鍔迫り合いとか超怖いっ! それにこの野郎、顔も怖いし!」
頭から滝のように冷や汗を流しながら横島はさとりの腹にヤクザキック。
もろにくらったさとりはまりのように吹き飛んだ。
その瞬間、横島は後ろを向いて怒鳴り散らす。
もろにくらったさとりはまりのように吹き飛んだ。
その瞬間、横島は後ろを向いて怒鳴り散らす。
「何ぼさっとしてやがるんだよ、おいいいいいっ! ぼーっとしてるんじゃねえええええ!!」
「あ、ああっ!」
「この俺が銭も美女も手に入らない足止め役なんてやるんだっ! 高嶺清麿っ!
お前はさっさとそこでのびてる二人を叩き起こして来い!」
「横島……」
「はよいけーっっっ!!! こんな役目はさっさと終わらせたいんじゃあああああああああ!!!」
「死ぬなよ、横島っ!」
「あ、ああっ!」
「この俺が銭も美女も手に入らない足止め役なんてやるんだっ! 高嶺清麿っ!
お前はさっさとそこでのびてる二人を叩き起こして来い!」
「横島……」
「はよいけーっっっ!!! こんな役目はさっさと終わらせたいんじゃあああああああああ!!!」
「死ぬなよ、横島っ!」
清麿は脇目もふらずに土門達が倒れている所に走っていく。
それを見て、さとりは追いかけようとするが横島が牽制してくる為に動けない。
結局は、清麿の逃亡を許すこととなる。
それを見て、さとりは追いかけようとするが横島が牽制してくる為に動けない。
結局は、清麿の逃亡を許すこととなる。
「どうして逃げなかったんだ? お前の頭の中身は逃げることでいっぱいだったのに」
「うるせええええっっ! まだ風子ちゃんの乳揉んでねーのに逃げてたまるかあああああっ!
俺だって本当は逃げてえよおおおおおおお!!! というか、ここでいいとこみせたらあんなことやそんなことができるかもしれないだろうが!」
「お、おう……」
「うるせええええっっ! まだ風子ちゃんの乳揉んでねーのに逃げてたまるかあああああっ!
俺だって本当は逃げてえよおおおおおおお!!! というか、ここでいいとこみせたらあんなことやそんなことができるかもしれないだろうが!」
「お、おう……」
顔に青筋を浮かばせながら、横島は涙を流しながら叫ぶ。
「だから、お前等さっさと帰れよォ!」
横島は霊波刀をぐるんと回し、強く地面を蹴る。
さとりによる右斜め上から振り下ろされる一撃を斜線から身体をずらすことで回避。
後ろに回りこんでからの突き、まるで読まれているかの如くひらりと躱された。
だが、霊波刀はそこから流れるような横振りの一撃に移転する。
さとりも面食らったのか、回避するのがほんの数秒だけ遅れてしまった。
さとりによる右斜め上から振り下ろされる一撃を斜線から身体をずらすことで回避。
後ろに回りこんでからの突き、まるで読まれているかの如くひらりと躱された。
だが、霊波刀はそこから流れるような横振りの一撃に移転する。
さとりも面食らったのか、回避するのがほんの数秒だけ遅れてしまった。
「ぬぅ……!」
「おらららららららああああああ!!」
「おらららららららああああああ!!」
微かに切り裂かれるさとりの肌。致命傷には至らないがそれは横島にとって確かな自信となる。
このまま押し切りたい横島と何とか挽回したいさとり。
言葉をかわすこともなく、二つの刃が乱雑にぶつかり合う。
傍で荒れ狂う風などもう二人には見えない。
二人の頭にはこの闘いを乗り切ることしか頭にないのだから。
このまま押し切りたい横島と何とか挽回したいさとり。
言葉をかわすこともなく、二つの刃が乱雑にぶつかり合う。
傍で荒れ狂う風などもう二人には見えない。
二人の頭にはこの闘いを乗り切ることしか頭にないのだから。
(チッ……! 何なんですかああああ!? めっちゃ強いんですけどォ! 早くヘルプミーィィィィ!)
(ううっ、こいつの頭の中、読みにくい……胸揉みたいとか尻触りたいとか童貞卒業とかよくわかんねえなァ)
(ううっ、こいつの頭の中、読みにくい……胸揉みたいとか尻触りたいとか童貞卒業とかよくわかんねえなァ)
互いに焦燥感を胸に秘めながら刃を振るう。
最も、殺意に溢れているさとりとは違い、横島は早く助けてきてくれという情けない情が漏れ出しているが。
何合か、刃を重ねるが一向に決まらない。
膠着状態の戦闘にしびれを切らしたのかさとりは一旦後退し、刃を収める。
最も、殺意に溢れているさとりとは違い、横島は早く助けてきてくれという情けない情が漏れ出しているが。
何合か、刃を重ねるが一向に決まらない。
膠着状態の戦闘にしびれを切らしたのかさとりは一旦後退し、刃を収める。
「読みにくいなァ、おめえの心」
「ああん!?」
「浮かび上がるのが女性と裸で抱き合ってるのばっかだ」
「当たり前だろーがっ! こんな刃同士でお話し合いよか女の子とベッドでお話の方がよっぽどしたいんだぁ!」
「ああん!?」
「浮かび上がるのが女性と裸で抱き合ってるのばっかだ」
「当たり前だろーがっ! こんな刃同士でお話し合いよか女の子とベッドでお話の方がよっぽどしたいんだぁ!」
横島の煩悩前回の言い分を聞いて、目を丸くしてさとりは首を傾げる。
人間の考えることはよくわかんねえなァ。オレも人間になったらそんなことを考えるんだろうなァ。
心の中でそう結論付けるが、それは大きなミステイク。
こんな殺し合いの場でそのようなことを考えるのは横島ぐらいだろう。
人間の考えることはよくわかんねえなァ。オレも人間になったらそんなことを考えるんだろうなァ。
心の中でそう結論付けるが、それは大きなミステイク。
こんな殺し合いの場でそのようなことを考えるのは横島ぐらいだろう。
「そうかァ。でも、オレもミノルの目を治す為に。人間になる為に優勝しなきゃいけねぇんだ」
「はぁ?」
「妖のままじゃ家族になれねぇ。なら優勝して人間になればミノルとも家族になれる」
「なにいってだこいつ」
「はぁ?」
「妖のままじゃ家族になれねぇ。なら優勝して人間になればミノルとも家族になれる」
「なにいってだこいつ」
横島は怪訝そうにさとりを見るが、彼の表情は変わらない。
薬でもやってヒャッハーよろしく気が狂っている訳でもなく、心の底から大真面目。
薬でもやってヒャッハーよろしく気が狂っている訳でもなく、心の底から大真面目。
「別に妖のままでも家族になればいいんじゃないんでしょうかねぇ……」
「だって、なれねぇってバロウが……」
「いやいやいや別にいいんじゃねぇの? 誰が咎める訳でもないし」
「だって、なれねぇってバロウが……」
「いやいやいや別にいいんじゃねぇの? 誰が咎める訳でもないし」
横島は何とかしてこの闘いを終わらせようと口八丁で説得する。
命の取り合いなんてやりたい奴等が勝手にやっていればいいのだ。
それに自分のようなか弱い美少年を巻き込むのはどう考えてもおかしい。
命の取り合いなんてやりたい奴等が勝手にやっていればいいのだ。
それに自分のようなか弱い美少年を巻き込むのはどう考えてもおかしい。
「そうか……そうなのか」
横島、心の中でガッツポーズ。これで命の取り合いからはおさらばや!
後は風子ちゃんの胸を揉んで終了、と思いきや。
後は風子ちゃんの胸を揉んで終了、と思いきや。
「でも、ミノルの目を治すのに新鮮な目が必要だな……」
「えっ」
「ここで新鮮な目をたくさんとってミノルの元へと帰らないと」
「ちょ、おま」
「だから、おめえの目を寄越してくれ」
「えっ」
「ここで新鮮な目をたくさんとってミノルの元へと帰らないと」
「ちょ、おま」
「だから、おめえの目を寄越してくれ」
さとりは海月を再び持ち、横島に迫る。
横に一閃、力に任せて振りぬくが、横島は後ろにひとっ飛び。
余裕を持って躱す。
横に一閃、力に任せて振りぬくが、横島は後ろにひとっ飛び。
余裕を持って躱す。
「ミノルの目がみえるようになるには、目を集めなければいけねぇんだ!」
「そーかい。だけど、俺の目は渡せねえよ」
「そーかい。だけど、俺の目は渡せねえよ」
横島は霊波刀をさとりに突きつけて咆哮する。
「この目がなくなったらあいつを誰が見てやるってんだ! つーか目ぇ見えなくなったら女の子の裸見れねーじゃねえか!
ざっけんな! 可愛い女の子を焼き付ける横島アイは簡単には渡さん!」
ざっけんな! 可愛い女の子を焼き付ける横島アイは簡単には渡さん!」
再び、刃が衝突する。横島は、できれば闘いなんてやめたいと思っているが、もう避けられない所まで来ているのだ。
輝かしい未来を掴む為にはこの闘いを勝つしかない。
横島は覚悟を決めて、さとりに向き直る。
輝かしい未来を掴む為にはこの闘いを勝つしかない。
横島は覚悟を決めて、さとりに向き直る。
「待ってる人がいるのはお前だけじゃねえ!」
「オレはミノルに笑っていて欲しいんだァ!」
「オレはミノルに笑っていて欲しいんだァ!」
互いに譲れない思いがあるのだ。思いがぶつかり合えば激突は当然。
思いを貫き通す為に闘うしかないのだから。
思いを貫き通す為に闘うしかないのだから。
「おい、大丈夫か?」
「俺ハ大丈夫ダ。ソレヨリモ」
「ああ、わかってる……」
「俺ハ大丈夫ダ。ソレヨリモ」
「ああ、わかってる……」
後方で二人を抱き起こしていた清麿は焦っていた。
マシン番長は正直良くわからない。機会の人間の体調などわかるはずもなく本人の自己申告に頼るしかない。
彼自身、大丈夫だと言っているので一応の所は安全ラインに入れてはいるは油断は禁物。
何かあったら早急に対応しなければいけない。
それよりも、問題は土門だ。
マシン番長は正直良くわからない。機会の人間の体調などわかるはずもなく本人の自己申告に頼るしかない。
彼自身、大丈夫だと言っているので一応の所は安全ラインに入れてはいるは油断は禁物。
何かあったら早急に対応しなければいけない。
それよりも、問題は土門だ。
「クソッ、どうすればいいんだよ!」
流れだす血が止まらない。そもそも、血を止めたとしても贓物が飛び出ている以上は意味が無いのかもしれない。
それでも、諦めるという考えは清麿の頭の中には最初から存在しなかった。
魔物の王を決める闘いで自分は諦めたか? 否、最後まで足掻いたじゃないか。
ならば、闘いのラインが変わったとしても自分は変わらない。
それでも、諦めるという考えは清麿の頭の中には最初から存在しなかった。
魔物の王を決める闘いで自分は諦めたか? 否、最後まで足掻いたじゃないか。
ならば、闘いのラインが変わったとしても自分は変わらない。
「絶対、助けてみせる」
何かあるはずだ、この男を救う手段が。
清麿はマシン番長、土門、風子が投げ捨てたデイバック急いで漁り、支給品を確認していく。
そして。
清麿はマシン番長、土門、風子が投げ捨てたデイバック急いで漁り、支給品を確認していく。
そして。
「これなら……もしかすると」
「アッタノカ!」
「アッタノカ!」
見つけた。ほんの少しの希望を。
「だけど……これはっ! これを使うと……」
ただし、ほんの少しの希望は絶望も一緒に孕んでいた。
それは横島が何の価値もないと判断した謎の玉。
彼が同梱されていた説明書に気づかなかったのは幸か不幸か。
それは横島が何の価値もないと判断した謎の玉。
彼が同梱されていた説明書に気づかなかったのは幸か不幸か。
「人じゃなくなるかもしれない」
アドバンスドARMS――グリフォン。
かつて、キース・レッドに移植されたはずだったものである。
これを土門に移植すればARMSの高い再生力により瀕死から蘇るかもしれない。
だが、そんなアドバンテージばかりのうまい話があるはずもない。
かつて、キース・レッドに移植されたはずだったものである。
これを土門に移植すればARMSの高い再生力により瀕死から蘇るかもしれない。
だが、そんなアドバンテージばかりのうまい話があるはずもない。
「俺の一存で、勝手にこの人に使っていいのか? 人のまま死なせるべきじゃないのか?」
説明書には適用されない者は死に至ると書かれていた。
これについては清麿はさほど重要視していない。
土門はこのまま放っておいても死んでしまうのだ、ならばほんの少しの希望にかけてもいいだろう。
それよりも、清麿を困惑させる事実はARMSを使うことで人という領域を捨て去ることだった。
これについては清麿はさほど重要視していない。
土門はこのまま放っておいても死んでしまうのだ、ならばほんの少しの希望にかけてもいいだろう。
それよりも、清麿を困惑させる事実はARMSを使うことで人という領域を捨て去ることだった。
「俺ハ生キテホシイト願ウ。コノ男ハソンナ些細ナ事ヲ気ニスルタマデハナイ」
「それでも、考えてしまうんだ。望んでもいないのにどうして埋め込んだって言われちまうのが。
ははっ、情けない……人の命がかかってるのに考えるのは自分の保身かよ!」
「それでも、考えてしまうんだ。望んでもいないのにどうして埋め込んだって言われちまうのが。
ははっ、情けない……人の命がかかってるのに考えるのは自分の保身かよ!」
地面に拳を突き立てて、清麿は涙を目尻に貯める。
覚悟はあるのか。一人の人間を変えてしまう覚悟が。
自問自答しても答えは見つからない。
アンサートーカーを使ったとしてもきっと見つからないだろう。
これは自分の気持ち、在り様を問うものなのだから。
覚悟はあるのか。一人の人間を変えてしまう覚悟が。
自問自答しても答えは見つからない。
アンサートーカーを使ったとしてもきっと見つからないだろう。
これは自分の気持ち、在り様を問うものなのだから。
「助けなきゃって思ってるのに! 俺は背負うのが怖いんだ……この人を変えちまうことが!」
「ナラバ、俺モ背負エバイイノデハナイダロウカ。一人ヨリハ二人デ背負ッタ方ガ楽ナノダロウ」
「アンタ……」
「俺ハ助ケタイ。コノ男ハ『火影』ニ誘ッテクレタ。今ハ自分ガリーダーダッテ言ッテイタ。
リーダーガ死ヌノハ駄目ダ」
「ナラバ、俺モ背負エバイイノデハナイダロウカ。一人ヨリハ二人デ背負ッタ方ガ楽ナノダロウ」
「アンタ……」
「俺ハ助ケタイ。コノ男ハ『火影』ニ誘ッテクレタ。今ハ自分ガリーダーダッテ言ッテイタ。
リーダーガ死ヌノハ駄目ダ」
マシン番長がふらつきながらも立ち上がる。
「言ワレタカラジャナイ。俺ノ意思デ、俺ノ頭デ、俺ガヤリタイコトヲ選ブ。
ナラバ、俺ハドンナコトニナッテモ……コノ男ハ自分ヲ保チ続ケルト信ジル」
「そうだな……俺も覚悟、決めるよ。助けるさ、絶対に」
ナラバ、俺ハドンナコトニナッテモ……コノ男ハ自分ヲ保チ続ケルト信ジル」
「そうだな……俺も覚悟、決めるよ。助けるさ、絶対に」
清麿は涙を服の袖で拭い、グリフォンのコアを強く握る。
このコアを使うことで後悔するかもしれない。罵られるかもしれない。
それでも、受け止めよう。信じよう。
土門を助けたいという気持ちは決して、間違いなんかじゃないと。
このコアを使うことで後悔するかもしれない。罵られるかもしれない。
それでも、受け止めよう。信じよう。
土門を助けたいという気持ちは決して、間違いなんかじゃないと。
「ああん? 俺が通ってる学校だよな、ここ?」
俺の記憶が確かだったなら。
殺し合いに巻き込まれて。打ち上がった花火の元へ行く途中で変な侍とドンパチかまして。
で、変な侍を適当にあしらって辿り着いたら花菱が死にかけだった。あの殺しても死なないこと間違いなしの花菱がだ。
それで、花菱背負って逃げる途中でよくわかんねぇ威圧感持った奴に出くわした。
思い出しても身震いするぜ。紅麗と同格、いやそれ以上かもしれねぇな。
殺し合いに巻き込まれて。打ち上がった花火の元へ行く途中で変な侍とドンパチかまして。
で、変な侍を適当にあしらって辿り着いたら花菱が死にかけだった。あの殺しても死なないこと間違いなしの花菱がだ。
それで、花菱背負って逃げる途中でよくわかんねぇ威圧感持った奴に出くわした。
思い出しても身震いするぜ。紅麗と同格、いやそれ以上かもしれねぇな。
「頬を抓っても景色は変わらねぇしよォ……」
そいつを食い止める為に花菱は……一人で残った。
俺を助ける為に。
ふざけんな、って叫びたかった。
お前、そんな自己犠牲なんて嫌いなタチだろうが。
柳護るっつー誓いはどうした。
本当に護りたいのは、助けたいのは……俺じゃねぇだろ!
俺を助ける為に。
ふざけんな、って叫びたかった。
お前、そんな自己犠牲なんて嫌いなタチだろうが。
柳護るっつー誓いはどうした。
本当に護りたいのは、助けたいのは……俺じゃねぇだろ!
「畜生。訳わかんねぇんだよ! 殺し合いに巻き込まれて! 花菱も水鏡も死んじまって!」
死んじまったら――終わりじゃねえか!
柳どうすんだよ、お姫様一人残してよォ。あいつにどう説明すりゃあいいんだよ……。
お前はたった一人の王子様だろうが!
柳どうすんだよ、お姫様一人残してよォ。あいつにどう説明すりゃあいいんだよ……。
お前はたった一人の王子様だろうが!
「ふざけんなっ! クソ野郎が! テメェら馬鹿だろ!」
「うるせええええええええ! 一番お前には言われたくないわ!」
「同感だな。まさか、土門に馬鹿にされるとは」
「うるせええええええええ! 一番お前には言われたくないわ!」
「同感だな。まさか、土門に馬鹿にされるとは」
叫んだと同時に背中に衝撃が走る。痛っ! 超痛っ!
だけど。何故か、その痛みと声が懐かしくて。
仕方ないなと思いながら後ろを振り返った。
だけど。何故か、その痛みと声が懐かしくて。
仕方ないなと思いながら後ろを振り返った。
「よっ、土門」
「まだ、死んでないらしいな」
「うるせー。土門ちゃんは頑丈なんですぅー、お前等みたいなやわな身体はしてないんですぅー」
「まだ、死んでないらしいな」
「うるせー。土門ちゃんは頑丈なんですぅー、お前等みたいなやわな身体はしてないんですぅー」
花菱と水鏡がニヤついた笑みを浮かべながらそこに立っていた。
おい、死んだんじゃねえのかよ。普通に生きているじゃねェか! 心配して損したわ!
とりあえず、積もる話もあるし中に入ろうということになって校門をくぐる。
何故か、人は俺達以外いなかった。マイスイートハニーである風子がいないことがとても不満です、まる。
いつも通りの軽口を交わしながら、玄関に入って階段を登る。その間も、こいつらはやっぱり馬鹿だった。
おい、死んだんじゃねえのかよ。普通に生きているじゃねェか! 心配して損したわ!
とりあえず、積もる話もあるし中に入ろうということになって校門をくぐる。
何故か、人は俺達以外いなかった。マイスイートハニーである風子がいないことがとても不満です、まる。
いつも通りの軽口を交わしながら、玄関に入って階段を登る。その間も、こいつらはやっぱり馬鹿だった。
「誰も人がいねえ、騒ぎ放題だァ!」
「馬鹿が移る、おとなしくしていろ。せっかく、もう一人の馬鹿がおとなしいんだから」
「馬鹿馬鹿言うなよ!? お前はもっと俺に優しくすべきだ!」
「「それはありえない」」
「ハモるなよ!」
「馬鹿が移る、おとなしくしていろ。せっかく、もう一人の馬鹿がおとなしいんだから」
「馬鹿馬鹿言うなよ!? お前はもっと俺に優しくすべきだ!」
「「それはありえない」」
「ハモるなよ!」
殴りたいくらい馬鹿なのに。どうして、殴れないんだろう。俺の拳があいつらに届かないのだろう。
はっ、わかってるさ。今、俺が見ているのは夢で……こいつらはもう死んじまったんだって。
現実の俺はもう死ぬ寸前で。
最後に見た景色は風子が涙を浮かべてこっちに来るっつう漫画のようなもんだ。
随分とドラマチックに演出してくれんじゃねえか、おい。
はっ、わかってるさ。今、俺が見ているのは夢で……こいつらはもう死んじまったんだって。
現実の俺はもう死ぬ寸前で。
最後に見た景色は風子が涙を浮かべてこっちに来るっつう漫画のようなもんだ。
随分とドラマチックに演出してくれんじゃねえか、おい。
「屋上到着っ!」
「言わんでもわかる、いちいち喧しいんだ、お前は」
「言わんでもわかる、いちいち喧しいんだ、お前は」
屋上のドアを開けると、ちょうどいい具合に吹き抜ける風と曇一つない青空が出迎えてくれた。
俺の気分とは真逆の天気に自然と口が緩んでしまう。
ここまであからさまだとさすがに笑っちまうわ。
俺の気分とは真逆の天気に自然と口が緩んでしまう。
ここまであからさまだとさすがに笑っちまうわ。
「さてと、土門。お前さ……どうすんだ?」
「何がだよ?」
「このまま黙って死んじまう訳?」
「バーカ、お前らと違ってお姫様残して死ぬかよ。俺には風子とイチャコラするという崇高な使命がのこっているんだからよ」
「風子がそれに答えるかどうかは別問題なんだけどな……」
「やめておけ。馬鹿に言っても無駄だ」
「何がだよ?」
「このまま黙って死んじまう訳?」
「バーカ、お前らと違ってお姫様残して死ぬかよ。俺には風子とイチャコラするという崇高な使命がのこっているんだからよ」
「風子がそれに答えるかどうかは別問題なんだけどな……」
「やめておけ。馬鹿に言っても無駄だ」
聞こえてんぞ、おい。
「例え、生き返ることができたとして、だ。その代償にまともな人間じゃなくなっても……お前は生きることを望めるか?」
「はっ、やけに脅かすじゃねぇかよ、みーちゃん!」
「答えろ、土門。それでも、お前は生きることを望むのか!」
「はっ、やけに脅かすじゃねぇかよ、みーちゃん!」
「答えろ、土門。それでも、お前は生きることを望むのか!」
やけにマジな水鏡の顔に思わず黙っちまう。烈火は我関せずといった感じでそっぽ向いてやがるしよ。
まあ、返す答えは決まってる。だから、迷うことなく水鏡の眼を見れる。
まあ、返す答えは決まってる。だから、迷うことなく水鏡の眼を見れる。
「関係ねーって。まともな人間じゃない? そんな問いかけ今更じゃ、ボケ! ここまで来たら突っ走るだけだろ!」
「その可能性が限りなく低いとしてもか!」
「低いなら上げりゃあいいだろうが!」
「戻った現実が辛くてもか!」
「くどいぜ! 俺は俺で在り続ける為に――前に進む」
「その可能性が限りなく低いとしてもか!」
「低いなら上げりゃあいいだろうが!」
「戻った現実が辛くてもか!」
「くどいぜ! 俺は俺で在り続ける為に――前に進む」
ここで倒れる訳にはいかねぇんだ。こいつらの分まで柳を助けるマラソン走らないといけねぇしな。
あー、よく考えると腹立ってきた。何で俺がお前らの分まで走らなきゃならんのだ。
最低限のノルマ走ってから逝けよ、バーカ!
あー、よく考えると腹立ってきた。何で俺がお前らの分まで走らなきゃならんのだ。
最低限のノルマ走ってから逝けよ、バーカ!
「言ったろ、こいつはこの程度じゃ止まらないって。なんていったって火影一の馬鹿なんだからよ」
「はぁ……馬鹿は死んでも治らないとは本当だったな」
「はぁ……馬鹿は死んでも治らないとは本当だったな」
畜生、この野郎他人事だと思ってにししと歯を見せて馬鹿笑いしやがる。あの世に行ったら絶対一発殴る。
あ、水鏡は二発な。ジョークにしては笑えないんだよ、死んでも治らないって!
あ、水鏡は二発な。ジョークにしては笑えないんだよ、死んでも治らないって!
「もういいや。さっさとじゃじゃ馬お姫様助けに行ってこい」
「悔しいことに僕達はもう何も出来ないからな」
「言われなくても。風子を助けんのは勿論だけどよ。
お前等の分までキースブラックぶん殴ってくるからさ、土産話を期待して待ってな」
「悔しいことに僕達はもう何も出来ないからな」
「言われなくても。風子を助けんのは勿論だけどよ。
お前等の分までキースブラックぶん殴ってくるからさ、土産話を期待して待ってな」
ここを去ると、こいつらとは二度と話せないことはわかってる。
今のは夢、ちょっとした奇跡みたいなもんだろう。
だけど、それでいい。いや、そうじゃなくちゃいけないんだ。
死んだらおわり。だからこそ、こいつらは俺に大切なもんを託してくれたんだからよ。
だったら! その分、俺が柳を助けるのも頑張らねぇとなぁ!
柳にとってご希望の王子様でないっつーことはわかってもらうしかねぇけど。
今のは夢、ちょっとした奇跡みたいなもんだろう。
だけど、それでいい。いや、そうじゃなくちゃいけないんだ。
死んだらおわり。だからこそ、こいつらは俺に大切なもんを託してくれたんだからよ。
だったら! その分、俺が柳を助けるのも頑張らねぇとなぁ!
柳にとってご希望の王子様でないっつーことはわかってもらうしかねぇけど。
「花菱、水鏡。俺、行ってくるわ」
「フン、精々頑張ってこい」
「ああ……それとさ。火影、任せたぞ。お前がリーダーやっとけ」
「いいのかよ、俺で」
「だって俺死んじまったしな。風子はしょっちゅう無茶するし、小金井はガキだし。しょうがなくだ、しょうがなくだかんな!」
「はいはい、わかりましたー。ったく、重いもん押し付けやがる」
「全く、お前達はいつも大事なことを軽く決める……」
「フン、精々頑張ってこい」
「ああ……それとさ。火影、任せたぞ。お前がリーダーやっとけ」
「いいのかよ、俺で」
「だって俺死んじまったしな。風子はしょっちゅう無茶するし、小金井はガキだし。しょうがなくだ、しょうがなくだかんな!」
「はいはい、わかりましたー。ったく、重いもん押し付けやがる」
「全く、お前達はいつも大事なことを軽く決める……」
言われなくても、やってやるさ。
火影は終わらせない。
負けてなんかやらねぇよ、キース・ブラックの箱庭遊びなんかになぁ!
火影は終わらせない。
負けてなんかやらねぇよ、キース・ブラックの箱庭遊びなんかになぁ!
「くっ……神器が効かない!」
最初は余裕のある闘いだったはずだ。
死にかけ二人を殺すだけの楽な消化試合。
それがどうしてこうなった。
バロウは焦燥感を無理矢理押し込めて、再び神器を形成する。
死にかけ二人を殺すだけの楽な消化試合。
それがどうしてこうなった。
バロウは焦燥感を無理矢理押し込めて、再び神器を形成する。
「鉄!」
四方向からの攻撃。隙間などありはしない。
上に飛ぶならばそれこそ絶好の的、確実に命を仕留めることができる百鬼夜行で狙えばいい。
上に飛ぶならばそれこそ絶好の的、確実に命を仕留めることができる百鬼夜行で狙えばいい。
「邪魔」
その言葉一つで鉄は全て砕け散る。
全方向に押し出した風の風圧が鉄を轢き潰したのだ。
全方向に押し出した風の風圧が鉄を轢き潰したのだ。
「風玉」
「ッ! 電光石火!」
「ッ! 電光石火!」
バロウの足にローラースケートのようなものが装着される。
電光石火の恩恵により加速を利用し、バロウは風玉を躱しながら後退する。
最初は威風堂堂による防御も考えたが、防ぎきれないと判断。
よって電光石火による回避も兼ねた速度上昇を選択したのだ。
電光石火の恩恵により加速を利用し、バロウは風玉を躱しながら後退する。
最初は威風堂堂による防御も考えたが、防ぎきれないと判断。
よって電光石火による回避も兼ねた速度上昇を選択したのだ。
(これで一旦距離をとるっ! まずは落ち着いて戦略を立て直さないと……!?)
風が、耳元で鳴いた。そして、ニマァと笑みを浮かべる風子の姿がバロウの横を通り過ぎる。
そして、通り過ぎざまの斬撃に気づいたのは少し遅れてからだった。
痛みに悶絶し、思わず電光石火を解除してしまう。
そして、通り過ぎざまの斬撃に気づいたのは少し遅れてからだった。
痛みに悶絶し、思わず電光石火を解除してしまう。
「捕まえた」
バロウは地面に倒れながら考える。
この女は何故、電光石火の速さについていけたのだと。
彼が知る由もないが、風子が持つ風神剣は風を自在に操ることを可能とさせる魔剣だ。
その能力により、風を身に纏って電光石火以上の速度を出したのだ。
日頃から、魔導具である風神を使い、風を武器に使っている風子にとってその程度は鼻歌交じりに行うことができる。
つまるところ、バロウは風神剣を甘く見過ぎたのだ。
この女は何故、電光石火の速さについていけたのだと。
彼が知る由もないが、風子が持つ風神剣は風を自在に操ることを可能とさせる魔剣だ。
その能力により、風を身に纏って電光石火以上の速度を出したのだ。
日頃から、魔導具である風神を使い、風を武器に使っている風子にとってその程度は鼻歌交じりに行うことができる。
つまるところ、バロウは風神剣を甘く見過ぎたのだ。
「ひっ」
一歩ずつ着実に迫ってくる風子に思わずバロウは後ずさる。
これが、恐怖というものなのか。
足が震える。眼の焦点が定まらない。
これが、恐怖というものなのか。
足が震える。眼の焦点が定まらない。
「あ、ああっ! 百鬼夜行ッ!」
これ以上近寄るなと言わんばかりに手から百鬼夜行を突き出した。
八角錐の柱が風子に向かって射出される。
だが、軽く横に跳躍することで百鬼夜行は空を切る。
八角錐の柱が風子に向かって射出される。
だが、軽く横に跳躍することで百鬼夜行は空を切る。
「あ、ああああああっ!!! 鉄ッ! 鉄ッ! 鉄エエエエエエエッッッ!!」
百鬼夜行を解除し、鉄を連発するが全ては風神剣の前に粉々に砕け散る。
能力を使ったとて、躱され、砕かれるだけだ。
バロウは必死に繰り出すがもはや悪あがきにしか見えない。
能力を使ったとて、躱され、砕かれるだけだ。
バロウは必死に繰り出すがもはや悪あがきにしか見えない。
「死ね」
振り上げられる風神剣にバロウはそっと目を閉じ――。
「何、らしくないことやってんだよ」
「ど、もん?」
「ったく、世話のかかるお姫様だぜ」
「ど、もん?」
「ったく、世話のかかるお姫様だぜ」
軽く口を緩めながら土門は風神剣を蹴りで弾き返す。
風子は少し後退し、風神剣を再び構える。
風子は少し後退し、風神剣を再び構える。
「どうして……」
「ん?」
「どうしてっ! 僕を助けたっ! 僕は君を殺そうとしたんだぞ!」
「ごちゃごちゃうっせーな。本命はお前じゃねえんだよ。助けたのはよ、ついでみたいなもんだ」
「ん?」
「どうしてっ! 僕を助けたっ! 僕は君を殺そうとしたんだぞ!」
「ごちゃごちゃうっせーな。本命はお前じゃねえんだよ。助けたのはよ、ついでみたいなもんだ」
面倒くさそうに土門はバロウの頭をガシガシと撫でる。
思わぬ行為にバロウはきょとんと顔を固まらせた。
思わぬ行為にバロウはきょとんと顔を固まらせた。
「とりあえず、そこに座ってろ。後でテメェの話も聞いてやるから」
「ぼ、僕は!」
「はいはい、黙って考え纏めとけ。俺は逃げねえからよ」
「ぼ、僕は!」
「はいはい、黙って考え纏めとけ。俺は逃げねえからよ」
そして、土門は風子の方へと向き直りニカリと笑う。
まるで、友達に挨拶するかのように気軽に風子の間合いへと踏み入れた。
まるで、友達に挨拶するかのように気軽に風子の間合いへと踏み入れた。
「よっ、風子。久しぶり」
「……生きてたんだ」
「当たり前だろ、そう簡単に死んでたまるかよ」
「そう、よかった。じゃあ、どいて。どかないと、そいつ殺せない」
「どかねぇ」
「ど・い・て」
「ど・か・ね・ぇ」
「どうして? そいつ、土門を殺そうとしたんだよ? じゃあ殺さないと」
「おいおいおい。『火影』のルールを忘れたのかよ。殺しはNGだろうが」
「私も最初はそう思っていた。だけど、殺さないと仲間が殺されるんだ。
なら……護る為に。殺される前に殺すしかない」
「……生きてたんだ」
「当たり前だろ、そう簡単に死んでたまるかよ」
「そう、よかった。じゃあ、どいて。どかないと、そいつ殺せない」
「どかねぇ」
「ど・い・て」
「ど・か・ね・ぇ」
「どうして? そいつ、土門を殺そうとしたんだよ? じゃあ殺さないと」
「おいおいおい。『火影』のルールを忘れたのかよ。殺しはNGだろうが」
「私も最初はそう思っていた。だけど、殺さないと仲間が殺されるんだ。
なら……護る為に。殺される前に殺すしかない」
風子が風神剣を構えて周囲に鎌鼬を形成する。
いつでも戦闘に移行できるように。
加えて、バロウが下手な真似をしない為の牽制である。
いつでも戦闘に移行できるように。
加えて、バロウが下手な真似をしない為の牽制である。
「やったらやり返す、それだったらいつまでも終わらねぇじゃねぇか!
信じろよっ! 俺が支えてやるよっ!」
「……っ」
「一生、支えてやる! なァ、お姫様っ! 後は俺の手を取るだけだぜ!」
「もう、私は戻れないとしてもか!?」
「そんなの誰が決めたっ! 誰もわかんねえだろっ! どこにそんな証明はある!」
信じろよっ! 俺が支えてやるよっ!」
「……っ」
「一生、支えてやる! なァ、お姫様っ! 後は俺の手を取るだけだぜ!」
「もう、私は戻れないとしてもか!?」
「そんなの誰が決めたっ! 誰もわかんねえだろっ! どこにそんな証明はある!」
風子は頭部に浮きだした二つの角を顕にさせる。
それは、鬼の証拠。仲間を護る為に血塗れの修羅になる道を決めたのだ。
風神剣の影響があるとはいえ、風子にとってはそれ程までに『火影』とは大切なものだから。
それは、鬼の証拠。仲間を護る為に血塗れの修羅になる道を決めたのだ。
風神剣の影響があるとはいえ、風子にとってはそれ程までに『火影』とは大切なものだから。
「だから、意地でもどかねぇ! 俺は絶対に!」
「どいてよ! 私は……戻れねぇことを望んでんだよ!」
「どいてよ! 私は……戻れねぇことを望んでんだよ!」
火影を護りたいという意志は同じではあるが、行動が違いすぎる。
一人は護ることを選び、一人は殺すことを選んだ。
どちらが正しいかなんて誰にもわからない。
ただ一つだけ明らかなことは――立っていた者が勝者。
生き残れなければ、言葉を届けることなんて出来ないのだから。
一人は護ることを選び、一人は殺すことを選んだ。
どちらが正しいかなんて誰にもわからない。
ただ一つだけ明らかなことは――立っていた者が勝者。
生き残れなければ、言葉を届けることなんて出来ないのだから。
【C-3 北西部路上/一日目 午前】
【石島土門】
[時間軸]:SODOM突入前
[状態]:全身にダメージ、グリフォンの核を埋め込んでいる
[装備]:御神苗優のAMスーツ@スプリガン、アドバンスドARMSグリフォン@ARMS
[道具]:基本支給品一式×2、支給品1~5(0~2:本人確認済み、使えるものと使えないもの? 1~3:烈火確認済み、花火以外)
[基本方針]:自分で在り続ける為に走り続ける、
※御神苗優のAMスーツ@スプリガンは、胸部を抉られ、胴部を突き破られてます。
[時間軸]:SODOM突入前
[状態]:全身にダメージ、グリフォンの核を埋め込んでいる
[装備]:御神苗優のAMスーツ@スプリガン、アドバンスドARMSグリフォン@ARMS
[道具]:基本支給品一式×2、支給品1~5(0~2:本人確認済み、使えるものと使えないもの? 1~3:烈火確認済み、花火以外)
[基本方針]:自分で在り続ける為に走り続ける、
※御神苗優のAMスーツ@スプリガンは、胸部を抉られ、胴部を突き破られてます。
【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:全身ダメージ極大、エネルギー消費大、自己修復&エネルギー回復中
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:月美を笑顔にするために動く。誰も殺さない。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:全身ダメージ極大、エネルギー消費大、自己修復&エネルギー回復中
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式
[基本方針]:月美を笑顔にするために動く。誰も殺さない。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。
【高嶺清麿】
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実
醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。
[時間軸]:最終回後
[状態]:健康
[装備]:式紙@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実
醤油差し@現実、わさび@現実
[基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。
【霧沢風子】
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:鬼化
[装備]:風神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0~2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:――――――――殺す。
[時間軸]:SODOM突入前。
[状態]:鬼化
[装備]:風神剣@YAIBA
[道具]:基本支給品一式、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0~2(風子確認済み)、水一本消費)
[基本方針]:――――――――殺す。
【横島忠夫】
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×1、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。
[装備]:文殊『剣』
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。いいとこ見せて胸揉みたい。
[時間軸]:文珠を出せる時期。
[状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×1、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。
[装備]:文殊『剣』
[道具]:
[基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。いいとこ見せて胸揉みたい。
【さとり】
[時間軸]:紫暮&うしお戦直後
[状態]:万全
[装備]:海月@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1~5
[基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して人間となり一緒に暮らす。
[時間軸]:紫暮&うしお戦直後
[状態]:万全
[装備]:海月@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1~5
[基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して人間となり一緒に暮らす。
【バロウ・エシャロット】
[時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。
[状態]:右斜めに斬られた傷
[装備]:H&K MARK23(8/12)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品0~3(確認済み)
[基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。
※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。
[時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。
[状態]:右斜めに斬られた傷
[装備]:H&K MARK23(8/12)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品0~3(確認済み)
[基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。
※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。
【アドバンスドARMSグリフォン@ARMS】
キース・レッドに移植されたARMS。
両腕がARMS化しており、最終形態の姿は巨大なブレードを両腕に持った人型。
キース・レッドに移植されたARMS。
両腕がARMS化しており、最終形態の姿は巨大なブレードを両腕に持った人型。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
105:死んだらおわり | 霧沢風子 | 117:殺したらおわり(前編) |
横島忠夫 | ||
高嶺清麿 | ||
石島土門 | ||
マシン番長 | ||
バロウ・エシャロット | ||
さとり |