置き手紙 ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
高槻涼と加藤鳴海の二人は、とりあえずの行動方針を定めた。
殺し合いに乗ったキース・グリーンや、先に民家を出た紅麗がどこに行ったのかは分からない。
そこで、ひとまず地図に記されている大きな施設を巡ることにしたのだ。
殺し合いに乗ったキース・グリーンや、先に民家を出た紅麗がどこに行ったのかは分からない。
そこで、ひとまず地図に記されている大きな施設を巡ることにしたのだ。
最初に訪れた銀行には、誰かが侵入した痕跡はなかった。
この状況において銀行が営業しているのは不可解だったが、彼らの目的は他者との合流である。
大して調べものをするでもなく、最寄りの施設であるビジネスホテルに向かった。
この状況において銀行が営業しているのは不可解だったが、彼らの目的は他者との合流である。
大して調べものをするでもなく、最寄りの施設であるビジネスホテルに向かった。
ほどなくしてビジネスホテルに辿り着き、二人は目を見開くことになった。
入口の自動ドアは割り砕かれ、ロビーに置かれているソファは散らばっている。
周囲のガラス窓には亀裂が入っており、壁には人が埋まりこんだような穴が開いている。
砂埃が治まっているので最近ではないだろうが、この場所でなんらかの事態があったのは疑うまでもない。
入口の自動ドアは割り砕かれ、ロビーに置かれているソファは散らばっている。
周囲のガラス窓には亀裂が入っており、壁には人が埋まりこんだような穴が開いている。
砂埃が治まっているので最近ではないだろうが、この場所でなんらかの事態があったのは疑うまでもない。
「……ちッ」
舌打ちを吐き捨てたのは、はたしてどちらであっただろうか。
それは定かではないが、吐き捨てなかったほうも同じ気持ちなのは確かだった。
気配を探るも、他の誰かの気配は感じ取れない。
それでも警戒心を緩めぬまま、二人は視線をロビー全体へと向ける。
それは定かではないが、吐き捨てなかったほうも同じ気持ちなのは確かだった。
気配を探るも、他の誰かの気配は感じ取れない。
それでも警戒心を緩めぬまま、二人は視線をロビー全体へと向ける。
そうして――二人は発見した。
奇跡的に破壊を免れたらしい受付テーブルに、数枚の紙が置かれていたのだ。
涼がペットボトルをズラして、紙を手に取る。
上に重しとしてペットボトルが置かれていたので、これは参加者が残したものであるのは間違いない。
破壊から生き延びたものの忠告か、はたまた破壊を行ったものの戦線布告か――
互いに息を呑んで一息ついてから、二人は同時にその紙に視線をやった。
涼がペットボトルをズラして、紙を手に取る。
上に重しとしてペットボトルが置かれていたので、これは参加者が残したものであるのは間違いない。
破壊から生き延びたものの忠告か、はたまた破壊を行ったものの戦線布告か――
互いに息を呑んで一息ついてから、二人は同時にその紙に視線をやった。
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「…………」
「…………」
「…………」
がたがたと崩れた文字が視界に飛び込んだ瞬間、二人は前にのけぞりそうになってしまった。
気を張っていた分だけ、衝撃は大きいのだった。
気を張っていた分だけ、衝撃は大きいのだった。
◇ ◇ ◇
ビジネスホテルから西に進んだ先にある商店街に、手紙を残した三人はいた。
すなわち、小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドンである。
彼らは夜のうちに花火が打ち上がったのだという地点で、彼らは言葉を失っていた。
街の中心部で本来賑わっているだろう商店街は、もはや廃墟と化していたのだ。
すなわち、小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドンである。
彼らは夜のうちに花火が打ち上がったのだという地点で、彼らは言葉を失っていた。
街の中心部で本来賑わっているだろう商店街は、もはや廃墟と化していたのだ。
生花店も、青果店も、肉屋も、雑貨屋も、食堂も、居酒屋も、電柱も――無差別に。
無慈悲に――焼かれ、貫かれ、斬られ、壊され、抉られ、砕かれ、叩き壊されていた。
それだけではない。
単に商店街自体が崩壊しているのではない。
無機物だけでは――断じてない。
単に商店街自体が崩壊しているのではない。
無機物だけでは――断じてない。
すでに固まった赤黒い液体が、辺りに飛び散っており――そして。
二つの死体が、転がっていた。
片方は腹を切られ、もう一方は全身が焼け焦げている。
前者はともかく、後者は見たところで何者かは特定できない。
顔面を含む全身が黒く焦げており、髪は焼け千切れており、衣服はもはやすすでしかない。
それでもその死体をしげしげと眺めて、小金井は結論を下した。
片方は腹を切られ、もう一方は全身が焼け焦げている。
前者はともかく、後者は見たところで何者かは特定できない。
顔面を含む全身が黒く焦げており、髪は焼け千切れており、衣服はもはやすすでしかない。
それでもその死体をしげしげと眺めて、小金井は結論を下した。
「……別人だね」
何者なのかは分からずとも、それがよく知る仲間とは違うのは明白だ。
だとすれば、おかしい。
花菱烈火の名は放送で呼ばれており、彼以外にこの状況で花火を打ち上げる輩がいるとは思えない。
にもかかわらず、この場にある死体は二つだ。
ならば、花菱烈火の死体はどこにいったのか。
思考を巡らす小金井に、少し離れた場所から声が届く。
だとすれば、おかしい。
花菱烈火の名は放送で呼ばれており、彼以外にこの状況で花火を打ち上げる輩がいるとは思えない。
にもかかわらず、この場にある死体は二つだ。
ならば、花菱烈火の死体はどこにいったのか。
思考を巡らす小金井に、少し離れた場所から声が届く。
「小金井くん、死体とは言い難いが……とにかくもう一人見つかった」
どうにも判断し難い言葉を怪訝に思いながら、小金井はロベルトの元に向かい――目を見張った。
人体の手首から先が二つ、つまり両手が無造作に転がっていたのだ。
いくら仲間であろうとも、手を見ただけで誰のものかなど特定はできない。
しかし、小金井には分かる。
花菱烈火が自身の体内に宿している『八竜』を解放するには、火竜一匹一匹に対応する漢字を記さねばならない。
それを封じるには、文字を記せぬようにすればよい。
となれば、この手は――
人体の手首から先が二つ、つまり両手が無造作に転がっていたのだ。
いくら仲間であろうとも、手を見ただけで誰のものかなど特定はできない。
しかし、小金井には分かる。
花菱烈火が自身の体内に宿している『八竜』を解放するには、火竜一匹一匹に対応する漢字を記さねばならない。
それを封じるには、文字を記せぬようにすればよい。
となれば、この手は――
「烈火、兄ちゃん……」
意図せず、小金井は手の持ち主の名を呼んでいた。
大した時間を要さずに、花菱烈火の埋葬は終わった。
何せ、手首から先しか残っていないのだ。時間がかかるはずもない。
そうしているうちに、死体以外にも残された痕跡を発見した。
やけに強い力で踏み込んだらしい足跡が、北西へと続いているのだ。
烈火の死体が両手しか残っていない以上、彼の肉体を運んだものがいる――のかもしれなかった。
何せ、手首から先しか残っていないのだ。時間がかかるはずもない。
そうしているうちに、死体以外にも残された痕跡を発見した。
やけに強い力で踏み込んだらしい足跡が、北西へと続いているのだ。
烈火の死体が両手しか残っていない以上、彼の肉体を運んだものがいる――のかもしれなかった。
「二人とも、あっち行ってもいいかな?
烈火兄ちゃんを助けようと頑張ったのか、弱らせたのをゆっくりトドメ刺そうとしたのか知らないけどさ。
どちらにせよ、『お礼』はしなきゃいけないと思うんだよね」
烈火兄ちゃんを助けようと頑張ったのか、弱らせたのをゆっくりトドメ刺そうとしたのか知らないけどさ。
どちらにせよ、『お礼』はしなきゃいけないと思うんだよね」
この提案に反対をするものはいなかった。
「…………それにしても、私は大変なことをしてしまいました」
北西へと移動を開始してすぐに、エレオノールがそう零した。
その理由を小金井が問うと、俯いたままでぶつぶつと答える。
その理由を小金井が問うと、俯いたままでぶつぶつと答える。
「あのような惨状が広がっていることは予想できたというのに、あのような置き手紙を残してきてしまいました」
小金井とロベルトは目を見合わせ、二人して冷や汗を垂らす。
彼女が自信を持って残した置き手紙だったが、その字は凄まじかった。
いや、銀髪銀目という明らかに外国人である彼女が、日本語を書けるというのは素晴らしいと思うべきだ。
それにしてもである。
あの震えた文字は、とても置き手紙として残すものではなかった。
というか、エレオノールはカタカナしか書けないらしいのだ。
仮に字が上手かったところで、それではかなり伝わりづらい。
彼女に悟られぬようこっそりと小金井が書き直して、ロベルトが密かにすり替えた。
エレオノールが書いたものを一番上に置いてカモフラージュとしておいたおかげで、どうやら気付かれていなかったらしい。
彼女が自信を持って残した置き手紙だったが、その字は凄まじかった。
いや、銀髪銀目という明らかに外国人である彼女が、日本語を書けるというのは素晴らしいと思うべきだ。
それにしてもである。
あの震えた文字は、とても置き手紙として残すものではなかった。
というか、エレオノールはカタカナしか書けないらしいのだ。
仮に字が上手かったところで、それではかなり伝わりづらい。
彼女に悟られぬようこっそりと小金井が書き直して、ロベルトが密かにすり替えた。
エレオノールが書いたものを一番上に置いてカモフラージュとしておいたおかげで、どうやら気付かれていなかったらしい。
◇ ◇ ◇
二枚目以降は別人が書いたように(その通りなのだが)読みやすい字で記されており、鳴海と涼の二人は手紙の内容を理解できた。
理解できたが、納得はいかなかった。
理解できたが、納得はいかなかった。
「おい涼、それは本当なのか?」
「ああ。俺の知ってるコウ・カルナギはさっき言ったように、大人しくしているようなヤツじゃない」
「そんなヤツと一緒にいるのが、よりによってジョージの野郎とはな……」
「その人は、カルナギを説得できるような人なのか」
「いや……いやぁ……」
「ああ。俺の知ってるコウ・カルナギはさっき言ったように、大人しくしているようなヤツじゃない」
「そんなヤツと一緒にいるのが、よりによってジョージの野郎とはな……」
「その人は、カルナギを説得できるような人なのか」
「いや……いやぁ……」
鳴海は口籠ってしまう。
それほどまでに、手紙に記された内容は衝撃的だった。
それほどまでに、手紙に記された内容は衝撃的だった。
『小金井薫と才賀エレオノールとロベルト・ハイドンの三人は、キース・ブラックに従う気はない。三人で商店街に向かう』
そちらはいい。
三人とも知らない人間なので、別に疑わしくはない。
だが、他に記された情報が問題だった。
三人とも知らない人間なので、別に疑わしくはない。
だが、他に記された情報が問題だった。
『コウ・カルナギとジョージ・ラローシュの二人も殺し合いに乗り気ではなく、動物園へと向かった』
こちらは、その二人を知る鳴海と涼には信じ難いものだった。
とはいえ、疑っているばかりというワケにもいかない。
とはいえ、疑っているばかりというワケにもいかない。
「仕方ねえ。俺が動物園まで行ってくるから、涼は商店街に向かってくれよ」
「なッ!? いや、それはまずい。コウ・カルナギは――」
「喧嘩っ早いのは知ってるけどよ、それ以上にお前を狙ってんだろ?
だったら、お前が行くワケにいかねえだろ。余計に話がこじれちまうだけじゃねえか」
「なッ!? いや、それはまずい。コウ・カルナギは――」
「喧嘩っ早いのは知ってるけどよ、それ以上にお前を狙ってんだろ?
だったら、お前が行くワケにいかねえだろ。余計に話がこじれちまうだけじゃねえか」
涼の肩をぽんと叩いて、鳴海はビジネスホテルのロビーから出て行く。
「かといって、三人組を無視するワケにもいかねえしな。
ない、俺も手紙に書かれてるのが本当かどうか確かめたら、そのうちそっちに向かうからよ」
ない、俺も手紙に書かれてるのが本当かどうか確かめたら、そのうちそっちに向かうからよ」
そう言って微笑む鳴海に、涼は迷いながらも頷くのだった。
【E-4 ビジネスホテル周辺/一日目 昼】
【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(処置済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。商店街に向かう。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
※高速移動を習得しました(原作16巻で使えるようになったもの)。
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(処置済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。商店街に向かう。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
※高速移動を習得しました(原作16巻で使えるようになったもの)。
【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。動物園に向かう。
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。動物園に向かう。
【D-4 商店街/一日目 昼】
【ロベルト・ハイドン】
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと小金井と同行。残された足跡を追う。
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと小金井と同行。残された足跡を追う。
【才賀エレオノール】
[時間軸]:28巻『幕間Ⅰ~「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、アコースティックギター@からくりサーカス、残り支給品0~1(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。残された足跡を追う。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
[時間軸]:28巻『幕間Ⅰ~「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、アコースティックギター@からくりサーカス、残り支給品0~1(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。残された足跡を追う。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
【小金井薫】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。残された足跡を追う。
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。残された足跡を追う。
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111:若者のすべて | 加藤鳴海 | 118:檻の外のヒト |
高槻涼 | :[[]] | |
095:明け方の演奏会 | 小金井薫 | :[[]] |
才賀エレオノール | ||
ロベルト・ハイドン |