魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM
サバイバルの基本は敵に見つからない事。
迷彩服に身を包んだ少女は身を低くし、音を立てないよう細心の注意を払いながら闇の中を移動する。
頭には、支給品である暗視ゴーグルを装着している。
迷彩服に身を包んだ少女は身を低くし、音を立てないよう細心の注意を払いながら闇の中を移動する。
頭には、支給品である暗視ゴーグルを装着している。
彼女の名はマリリン・キャリー。
幼少の頃より厳しい戦闘訓練を積み、中学生でありながら高い戦闘能力を身に付けた、美しい金髪が特徴の可憐な少女である。
幼少の頃より厳しい戦闘訓練を積み、中学生でありながら高い戦闘能力を身に付けた、美しい金髪が特徴の可憐な少女である。
月明かりが照らす林の中を移動しながら、彼女は思考する。
(殺し合い……ですか。これも神を決める戦いなんでしょうか。それとも、別のトラブルに巻き込まれたと考えるべきでしょうか……)
彼女は次の神を決めるために開かれた、中学生バトルの参加者である。
その戦いにおいて、その高い戦闘能力で仲間と共に勝ち進み、三次選考へと駒を進めたはずであった。
その戦いにおいて、その高い戦闘能力で仲間と共に勝ち進み、三次選考へと駒を進めたはずであった。
しかし、いつの間にか見知らぬ場所へ移動させられ、挙句殺し合いを強要される始末。
彼女はカプーショ戦を終え、ホテルで休息をとっていた筈である。
一体どうやって気付かれる事なくここまで移動させられたのか。
あのいい加減な神様が、突然の思いつきでワープでもさせたのだろうか。
一体どうやって気付かれる事なくここまで移動させられたのか。
あのいい加減な神様が、突然の思いつきでワープでもさせたのだろうか。
(これが三次選考、または急遽ルール変更がなされた中学生バトルの一環と考えると、その旨が伝えられないのはおかしいですわね……。
となると、これは神を決める戦いとは別の、いわゆる不測の事態に巻き込まれたと考えるのが妥当でしょうか)
となると、これは神を決める戦いとは別の、いわゆる不測の事態に巻き込まれたと考えるのが妥当でしょうか)
きっと、天界では騒ぎになっている事だろう。
他でもない神が主催した、次の神を決める戦いの参加者が消えたのである。
能力者同士のいさかいならいざ知らず、神候補によるバトルへの介入も禁止しているのだ。
明らかに外部から介入されているこの事態を神が静観するわけがない。
他でもない神が主催した、次の神を決める戦いの参加者が消えたのである。
能力者同士のいさかいならいざ知らず、神候補によるバトルへの介入も禁止しているのだ。
明らかに外部から介入されているこの事態を神が静観するわけがない。
とてもそうは見えないが、仮にも神である。
ここが発見され、自分達が救出されるのも時間の問題だろう。
ここが発見され、自分達が救出されるのも時間の問題だろう。
ここまで考察できれば、誰にも見つからないように身を隠し、救助を待つのが普通だ。
あのキース・ブラックという男が約束を守る保障はないのだ、わざわざ殺し合いに乗る必要もない。
あのキース・ブラックという男が約束を守る保障はないのだ、わざわざ殺し合いに乗る必要もない。
だが彼女、マリリン・キャリーは普通ではない。
戦闘の中でこそ生を実感できる。戦場こそが自分の生きる場所。
神を決める戦いに参加したのも、優勝商品である“空白の才”ではなく、『戦う事』事態が目的だったのだ。
戦闘の中でこそ生を実感できる。戦場こそが自分の生きる場所。
神を決める戦いに参加したのも、優勝商品である“空白の才”ではなく、『戦う事』事態が目的だったのだ。
これが中学生バトルの一環であろうとなかろうと、ここが戦場であるならば彼女の進む道は唯一つ。
(天界から能力者を誘拐するくらいです、きっと他の参加者の方々も実力者揃いなのでしょう。
……ああ、楽しみですわ。そんな方々と戦えるなんて、楽しみで仕方ありませんわ)
……ああ、楽しみですわ。そんな方々と戦えるなんて、楽しみで仕方ありませんわ)
戦う道以外にありえない。
◆ ◆ ◆
「まったく、一体何がどうなっとるんじゃ……」
漆黒のマントに身を包む老人。
かつて欧州の魔王と呼ばれたドクター・カオスは木々の中を歩いていた。
今まで様々な現象事象を目にし、体験してきた彼だが、いきなり殺し合えと言われたのは初めての経験だ。
かつて欧州の魔王と呼ばれたドクター・カオスは木々の中を歩いていた。
今まで様々な現象事象を目にし、体験してきた彼だが、いきなり殺し合えと言われたのは初めての経験だ。
渡された参加者名簿には既に目を通しているが、まさかと自分の目を疑った。
美神令子、横島忠夫、おキヌの三人は、ああいつもの三人かと思っただけであった。
誰かに恨みを買ったり何かに首を突っ込むのが日常茶飯事の連中である。
こんな異常事態に巻き込まれていても不思議ではない。
美神令子、横島忠夫、おキヌの三人は、ああいつもの三人かと思っただけであった。
誰かに恨みを買ったり何かに首を突っ込むのが日常茶飯事の連中である。
こんな異常事態に巻き込まれていても不思議ではない。
だが、アシュタロスやその配下のルシオラまで参加している事には驚きを隠せなかった。
美神令子を始めとしたゴーストスイーパーが大勢束になっても敵わず(かなわず)、小竜姫率いる妙神山を壊滅させた奴等である。
この殺し合いを主催する側ならわかるが、参加する側とは訳がわからない。
この殺し合いを主催する側ならわかるが、参加する側とは訳がわからない。
あのブラックとかいう男がアシュタロス以上の力を持っているとでもいうのだろうか。
爆弾付きの首輪で命を握る?
そんなもので死ぬような相手なら苦労はしない。
この首輪に何らかの仕掛けでも施されているのか?
そんなもので死ぬような相手なら苦労はしない。
この首輪に何らかの仕掛けでも施されているのか?
そっと、自分の首輪を指でなぞってみる。
金属製だ。が、体を動かすのに影響があるような重さはない。
表面は研磨したようにつるつるとしており、継ぎ目が感じられなかった。
金属製だ。が、体を動かすのに影響があるような重さはない。
表面は研磨したようにつるつるとしており、継ぎ目が感じられなかった。
(……継ぎ目がない……じゃと?)
ブラックは、この首輪には爆薬が仕込まれており、六時間毎に放送される禁止エリアに入ると爆発すると言っていた。
あの時の様子からして、任意での爆破も可能らしい。
あの時の様子からして、任意での爆破も可能らしい。
そんな機能を持つ首輪である。
精密機械程ではないにしろ、それなりに複雑な内部構造をしている筈だ。
継ぎ目がないとなると、その構造をどうやって中に入れたのかが気になる。
精密機械程ではないにしろ、それなりに複雑な内部構造をしている筈だ。
継ぎ目がないとなると、その構造をどうやって中に入れたのかが気になる。
まさか溶かした金属で固めたわけでもあるまい。
そんな事をすれば、電気的な機構にしろ魔術的な機構にしろ、金属を溶かす熱量で直ぐに使い物にならなくなる。
では、継ぎ目は内側に付いているのだろうか?
それならば技術的にも可能かもしれない。
だが、それならばどうやって首輪を嵌めたというのか。
この首輪が嵌められたのはあの説明の時である。
それも、誰も反応できない一瞬で、だ。
そんな事をすれば、電気的な機構にしろ魔術的な機構にしろ、金属を溶かす熱量で直ぐに使い物にならなくなる。
では、継ぎ目は内側に付いているのだろうか?
それならば技術的にも可能かもしれない。
だが、それならばどうやって首輪を嵌めたというのか。
この首輪が嵌められたのはあの説明の時である。
それも、誰も反応できない一瞬で、だ。
(あのブラックという男、どうやら空間転移の能力を持つと考えて間違いなさそうじゃ。それなら、この首輪も、わしらがどうやって移動したかも説明がつく)
自分達を、知覚する間もなくここまで連れてくる事が出来た理由。
それはキース・ブラック、又はブラックに協力する何者かが、相手を離れた場所へと一瞬で移動できる力を持っているからだ。
そうだとすれば、この首輪の謎も解ける。
まず、中に空間のある首輪を作る。そして爆弾をその内部空間に移動させれば、継ぎ目すらない美しいフォルムの首輪爆弾の完成である。
首輪を付ける際も同様だ。
相手の首に首輪を転移させれば、継ぎ目がなくとも首輪を付ける事が出来る。
それはキース・ブラック、又はブラックに協力する何者かが、相手を離れた場所へと一瞬で移動できる力を持っているからだ。
そうだとすれば、この首輪の謎も解ける。
まず、中に空間のある首輪を作る。そして爆弾をその内部空間に移動させれば、継ぎ目すらない美しいフォルムの首輪爆弾の完成である。
首輪を付ける際も同様だ。
相手の首に首輪を転移させれば、継ぎ目がなくとも首輪を付ける事が出来る。
(ふっ。まあわしにかかればこの程度の謎、朝飯前じゃわい。まだまだわしの頭脳は衰えておらんぞ!)
「がーっはっはっは!」
「がーっはっはっは!」
この殺し合いの目的や、アシュタロスやルシオラを閉じ込めた方法等、まだまだ謎は残っている。
だが、今までボケ老人だの何だのと馬鹿にされてきたドクター・カオスは、ブラックという男の持つ能力と首輪に対する考察がスムーズに進み、
上機嫌になって大きな笑い声を揚げていた。
だが、今までボケ老人だの何だのと馬鹿にされてきたドクター・カオスは、ブラックという男の持つ能力と首輪に対する考察がスムーズに進み、
上機嫌になって大きな笑い声を揚げていた。
◆ ◆ ◆
木立の中、月明かりが差し込む場所に男は立っていた。
服装は白い上着に赤いズボン。先端が尖り、上に向かって突き出ている靴を履いている。
非常に目立つ格好をしている、金髪の男だ。
服装は白い上着に赤いズボン。先端が尖り、上に向かって突き出ている靴を履いている。
非常に目立つ格好をしている、金髪の男だ。
彼の名はパルコ・フォルゴレ。
イタリアの俳優で、世界的な大スターだ。
イタリアの俳優で、世界的な大スターだ。
「キャンチョメ~。清麿~。ど、どこかにいるんだろ~? 隠れてないで出ておいで~」
闇の中、木々の向こうへ呼びかける。しかし、返ってくる声はない。
フォルゴレはがたがたと体を震わせ、涙を流している。
フォルゴレはがたがたと体を震わせ、涙を流している。
こんな状況を作り出せるのは、彼の知る限り魔物以外ありえなかった。
ルール説明の際にキース・ブラックを貫いた少年は、右腕を異形へと変えていた。
キース・ブラックという男も、体を貫かれたのに傷がすぐに治った。
それは、二人とも魔物の子だからだ。
リョウという少年は肉体変化を、キースは回復の術を遣ったに違いない。
術を唱える声は聞こえなかったが、パートナーが遠くに居たか、小さな声で術を唱えたのだろう。
ルール説明の際にキース・ブラックを貫いた少年は、右腕を異形へと変えていた。
キース・ブラックという男も、体を貫かれたのに傷がすぐに治った。
それは、二人とも魔物の子だからだ。
リョウという少年は肉体変化を、キースは回復の術を遣ったに違いない。
術を唱える声は聞こえなかったが、パートナーが遠くに居たか、小さな声で術を唱えたのだろう。
となると、今の状況は非常に拙い(まずい)。
さっきの場所では運良く清麿と会えて少し話しをしたが、状況が分かるまであまり動かない方が良いと言われただけで、それっきりだ。
今は清麿とも離れ離れで、一人林の中に立っている。
さっきの場所では運良く清麿と会えて少し話しをしたが、状況が分かるまであまり動かない方が良いと言われただけで、それっきりだ。
今は清麿とも離れ離れで、一人林の中に立っている。
キャンチョメやナゾナゾ博士達もここに居るのだろうか。
あのキースという魔物は、きっと他の魔物やそのパートナーを集め、戦わせ、弱ったところを一気に攻撃するつもりなのだ。
あのキースという魔物は、きっと他の魔物やそのパートナーを集め、戦わせ、弱ったところを一気に攻撃するつもりなのだ。
そう考えると怖くてその場を動けなかった。
もしも茂みの中や木の陰から他の魔物が突然襲い掛かってきたら、生身の人間である自分は一溜まりもない。
そうは言っても、この場を動かないのも怖かった。
周りは漆黒の闇。
いつ誰が襲い掛かってくるのかわからない。
もしも茂みの中や木の陰から他の魔物が突然襲い掛かってきたら、生身の人間である自分は一溜まりもない。
そうは言っても、この場を動かないのも怖かった。
周りは漆黒の闇。
いつ誰が襲い掛かってくるのかわからない。
フォルゴレは、ただただ震える事しかできなかった。
「あっ、そうだ! リュックに何か自分の身を守るものがあるかもしれない!」
始めの説明で、確か武器を用意したとか言っていた気がする。
フォルゴレは急いで自分のリュックを降ろし、中を確認した。
食糧や水が入っている。そして、参加者名簿。
フォルゴレは、武器よりも先に名簿を確認することにした。
清麿やガッシュ、ナゾナゾ博士の文字を見て、やはり魔物の子やそのパートナーが連れてこられていると確信した。
フォルゴレは急いで自分のリュックを降ろし、中を確認した。
食糧や水が入っている。そして、参加者名簿。
フォルゴレは、武器よりも先に名簿を確認することにした。
清麿やガッシュ、ナゾナゾ博士の文字を見て、やはり魔物の子やそのパートナーが連れてこられていると確信した。
だが、キャンチョメや、ナゾナゾ博士のパートナーであるキッドの名はどこにもない。
魔物の子が関わっているとはいえ、殺し合いなんて物騒な状況である。
彼等はこんな危険な事に巻き込まれていない。フォルゴレはほっと胸を撫で下ろした。
魔物の子が関わっているとはいえ、殺し合いなんて物騒な状況である。
彼等はこんな危険な事に巻き込まれていない。フォルゴレはほっと胸を撫で下ろした。
他にこの名簿で知っているのは、レイラとゼオンの二つの名前だけだ。
レイラはデボロ遺跡でぼろぼろだった自分達を逃がしてくれた。
後から聴いた清麿の話からも、彼女が良い魔物なのは明らかだ。
きっと今の状況でも手を貸してくれるだろう。
レイラはデボロ遺跡でぼろぼろだった自分達を逃がしてくれた。
後から聴いた清麿の話からも、彼女が良い魔物なのは明らかだ。
きっと今の状況でも手を貸してくれるだろう。
だが、ゼオンはどうだろうか。
アポロの話では、ガッシュとよく似た姿だが、ガッシュと違い残忍な性格をしているらしい。
もしも出会ってしまったら、電撃で丸焦げにされてしまうかもしれない。
そう考えると恐怖が更にこみ上げてきた。
アポロの話では、ガッシュとよく似た姿だが、ガッシュと違い残忍な性格をしているらしい。
もしも出会ってしまったら、電撃で丸焦げにされてしまうかもしれない。
そう考えると恐怖が更にこみ上げてきた。
名簿を確認し終えると、急いで武器になりそうな物を探す。
最初に手に触れたのは伸縮警棒だった。
柄の部分には『光』と書かれた玉が付いている。
最初に手に触れたのは伸縮警棒だった。
柄の部分には『光』と書かれた玉が付いている。
とりあえず、説明書きを読んでみる。
『光界玉』
火影が作りだした魔導具の一つ。
有形無形を問わず、あらゆるものを消し去る事が出来る。
但し──
火影が作りだした魔導具の一つ。
有形無形を問わず、あらゆるものを消し去る事が出来る。
但し──
ここまで読んだところで、すぐ後ろからがさりと茂みを揺らす音、同時に大きな笑い声がフォルゴレの耳に響いた。
びくうっ、と体を震わせ即座に振り返る。
びくうっ、と体を震わせ即座に振り返る。
そこに居たのは、大きな影。
大まかな姿しかわからないが、少なくとも知り合いではない。
フォルゴレはリュックの中身を確認するためにしゃがみこんでいた。
その場所から大きな影までは三メートルもない。
大まかな姿しかわからないが、少なくとも知り合いではない。
フォルゴレはリュックの中身を確認するためにしゃがみこんでいた。
その場所から大きな影までは三メートルもない。
「うわああああああああああああああああああああああ!!!!」
恐怖に駆られたフォルゴレは、立ち上がりながら持っていた光界玉を影に向かって振るう。
恐怖の元凶に向かって、消えろと念じながら。
恐怖の元凶に向かって、消えろと念じながら。
◆ ◆ ◆
マリリン・キャリーは茂みや木の陰に身を隠しながら、目標に向かって着実に進んでいた。
暗視ゴーグルのズーム機能を使い、つい数分前に参加者の一人を見つけたところである。
今は、その参加者へと接近しているのだ。
暗視ゴーグルのズーム機能を使い、つい数分前に参加者の一人を見つけたところである。
今は、その参加者へと接近しているのだ。
(どうやらあの方は、支給品を確認している最中のようでした。先程の場所からは、まだ動くことはないでしょう。
このまま迂回しながら近づき、奇襲を仕掛けますわ)
このまま迂回しながら近づき、奇襲を仕掛けますわ)
マリリンは音もなく木立の中を移動する。
彼女の能力、“一秒”を“十秒”に変える能力を遣えば、少しの距離などあっという間に移動できる。
すでに相手との距離が十五メートルの位置にまで来ていた。
あとは身を隠している木の裏から飛び出し、支給された拳銃を打ち込むだけである。
彼女の能力、“一秒”を“十秒”に変える能力を遣えば、少しの距離などあっという間に移動できる。
すでに相手との距離が十五メートルの位置にまで来ていた。
あとは身を隠している木の裏から飛び出し、支給された拳銃を打ち込むだけである。
(さあ、行きますわよ!)
銃を構え、木の陰から勢いよく飛び出す。
そして、相手の姿を視認する。
暗視ゴーグル越しに見る景色は非常に鮮明だ。
相手の姿は良く見えた。
だが、その鮮明な景色の中には、予想外の光景が広がっていた。
そして、相手の姿を視認する。
暗視ゴーグル越しに見る景色は非常に鮮明だ。
相手の姿は良く見えた。
だが、その鮮明な景色の中には、予想外の光景が広がっていた。
想定の範囲外だ。
何故こんな事になっているのか理解できない。
何故こんな事になっているのか理解できない。
気が動転してしまった彼女は大声で叫んでしまった。
「変態ですわ────!!!!」
彼女の目の前には、全裸の男と全裸の老人が互いに向き合って立っている姿があったのだ。
二人の距離は三メートル弱。
一体この状況で何をしているのか。
男の方はさっき確認した時は服を着ていた筈じゃなかったか。
この老人は何故裸なのか。
わけがわからない。
二人の距離は三メートル弱。
一体この状況で何をしているのか。
男の方はさっき確認した時は服を着ていた筈じゃなかったか。
この老人は何故裸なのか。
わけがわからない。
「え?」
叫び声に気付いた全裸の二人がこちらを向く。
もちろん、下は履いてない。
もちろん、下は履いてない。
「いや────!!!!!」
「銃うぅ────!!?」
林の中に、銃声が二回響いた。
マリリンが、照準を合わせていたフォルゴレに向かって二度発砲したのだ。
マリリンが、照準を合わせていたフォルゴレに向かって二度発砲したのだ。
相手を殺害するつもりならば最低二回以上発砲する。
今まで積み重ねてきた経験が無意識の内に働いていた。
今まで積み重ねてきた経験が無意識の内に働いていた。
一方、突然現れた老人がいきなり全裸になり、自分も同時に全裸となった事態に一瞬茫然としていたフォルゴレは、
これまた突然現れた謎の人物に驚いた。
軍服に暗視ゴーグルを見に付けたその姿から瞬時に危険人物と判断できたが、何よりその手に握られている拳銃がそれを決定的にていた。
これまた突然現れた謎の人物に驚いた。
軍服に暗視ゴーグルを見に付けたその姿から瞬時に危険人物と判断できたが、何よりその手に握られている拳銃がそれを決定的にていた。
「うわ────っ!!」
パニックに陥ったフォルゴレは、マリリンが引き金を引くのと同時に、手に持っていた光界玉を振り回した。
「待て待て待つんじゃ! わしらは武器なんぞ持っとらん!ほれ!見ての通り無防備じゃ!攻撃せんでくれ!」
ドクター・カオスがマリリンに向かって叫ぶ。右手で股間を隠しながら。
フォルゴレも光界玉を持つ手と反対の左手で股間を隠しながら叫んだ。
フォルゴレも光界玉を持つ手と反対の左手で股間を隠しながら叫んだ。
「やめて───!! 私は無敵のフォルゴレだけど、それは映画の中だけなのよ───!! 今の私は弱い人間なんだ!!
だから、だからもう攻撃はやめて───!!」
だから、だからもう攻撃はやめて───!!」
マリリンも、動転した状態ではあるが銃を構えながら二人に向かって叫んだ。
「う、動かないでください! 手に持っている物、リュックを捨てて両手を上げ──)
ここまで言って、二人が手で股間を隠している事を思い出す。
二人の両手を上げさせれば、隠れているものが露わになるのは必然だ。
正直そんなものは見たくない。
二人の両手を上げさせれば、隠れているものが露わになるのは必然だ。
正直そんなものは見たくない。
「……いえ、上げなくて結構ですのでその場に伏せなさい!!」
「は、はいィっ!」
マリリンの言葉を聞いて、フォルゴレは即座に光界玉を放り投げ、その場にうつ伏せに倒れた。
「わかった! 言う通りにするから絶対に撃つんじゃないぞ? 良いか? 絶対じゃからな!?」
ドクター・カオスも、この状況では自分が圧倒的に不利であると判断し、急いでリュックを降ろすとフォルゴレに続いてその場に伏せる。
一方、マリリンは未だに混乱していた。
ここは殺し合いの場ではなかったのか。どうして大の大人がこんな所で全裸になって見つめ合っていたのか。
理解できない光景を目にしてしまい、どうしても頭が回らない。
ここは殺し合いの場ではなかったのか。どうして大の大人がこんな所で全裸になって見つめ合っていたのか。
理解できない光景を目にしてしまい、どうしても頭が回らない。
(い、いけない、まずは冷静になりましょう。冷静さを欠けば、それは死へと繋がりますわ。深呼吸して、落ち着きましょう)
マリリンは一旦呼吸を整え、今の状況を分析する。
まずは目の前の二人を観察してみよう。
二人の手に武器はなく、完全に無防備だ。
服どころか下着すら装備していないのだから当然だろう。
………全裸の理由については後で考えることにしよう。
二人の手に武器はなく、完全に無防備だ。
服どころか下着すら装備していないのだから当然だろう。
………全裸の理由については後で考えることにしよう。
老人の近くには降ろしたリュックが落ちている。
リュックの中に手を伸ばせる状態だが、所詮老人の動きだ、何かを取りだす前に対処できる。
老人は脅威にならないと判断して良い。
リュックの中に手を伸ばせる状態だが、所詮老人の動きだ、何かを取りだす前に対処できる。
老人は脅威にならないと判断して良い。
金髪の男は警棒を放り投げたが、男の近くにもリュックがある。
男はうつ伏せの状態で、リュックはその足元だ。
何か行動を起こしたとしても自分が銃を撃つ方が早い。
それにこの男、明らかに怯えていて体が小刻みに震えている。
銃を撃った時など滝のような涙を流していた。
映画がどうのと言っていたが、俳優なのだろうか。
だがこれが演技にも思えない。
どう見ても脅威になりそうな人物ではない。
男はうつ伏せの状態で、リュックはその足元だ。
何か行動を起こしたとしても自分が銃を撃つ方が早い。
それにこの男、明らかに怯えていて体が小刻みに震えている。
銃を撃った時など滝のような涙を流していた。
映画がどうのと言っていたが、俳優なのだろうか。
だがこれが演技にも思えない。
どう見ても脅威になりそうな人物ではない。
とても警戒する必要のない状況に思えるが、一つだけ気になる事があった。
拳銃を発砲した時の事である。
マリリンは金髪の男に向かって確かに二度発砲した。
しかし男には傷一つなく、見ての通りぴんぴんしている。
拳銃を発砲した時の事である。
マリリンは金髪の男に向かって確かに二度発砲した。
しかし男には傷一つなく、見ての通りぴんぴんしている。
(予想外の光景に驚いて銃身が逸れたのかもしれませんが、弾が外れる程大きく動いたようには感じられませんでしたし………。
そういえば、無敵のフォルゴレ、と言っていましたわね。でもそれは映画の話と……)
そういえば、無敵のフォルゴレ、と言っていましたわね。でもそれは映画の話と……)
フォルゴレが無傷でいるのが気にはなるが、このままじっとしているわけにもいかない。
マリリンは銃を腰のホルスターに仕舞うと、能力を発動させた。
マリリンの能力、“一秒”を“十秒”に変える能力だ。
現実時間の一秒を、マリリンにとっての十秒に変える能力である。
これを遣えば、現実で一秒経つ間、マリリンは十秒分の動きをすることが可能になる。
つまり、普段の十倍の速度で行動することが出来るのだ。
マリリンは銃を腰のホルスターに仕舞うと、能力を発動させた。
マリリンの能力、“一秒”を“十秒”に変える能力だ。
現実時間の一秒を、マリリンにとっての十秒に変える能力である。
これを遣えば、現実で一秒経つ間、マリリンは十秒分の動きをすることが可能になる。
つまり、普段の十倍の速度で行動することが出来るのだ。
武器を持っていると発動できないため、能力使用中の攻撃は体術のみに限定されてしまうが、訓練を積んでいるマリリンの身体能力は非常に高い。
武器がなくとも十分に戦える力を持っている。
武器がなくとも十分に戦える力を持っている。
能力を発動させたマリリンは走り出した。
狙いは落ちている二人のリュックである。
能力の発動中、マリリン以外の全ては十分の一の速度で動く。
仮にこの二人が何か能力(ちから)を隠し持っていたとしても、これならば避けることも反撃することも可能だ。
狙いは落ちている二人のリュックである。
能力の発動中、マリリン以外の全ては十分の一の速度で動く。
仮にこの二人が何か能力(ちから)を隠し持っていたとしても、これならば避けることも反撃することも可能だ。
マリリンは二つのリュックと光界玉を素早く回収すると、能力の終了と共に銃を構えなおした。
「私は今からお二人の支給品を確認します! 確認が終わるまでそのまま動かないでいてください! 確認が終わりましたら、おって指示を出します!」
「はい! わかりました!」
フォルゴレが大きく返事を返した。
体の震えはまだ続いてるようだ。
体の震えはまだ続いてるようだ。
(……すぐに殺さんところを見ると、殺し合いには乗っとらんのか? それともわしらを利用するつもりなのか……。さっき撃ったのはわしらの裸に驚いたから、と考えれば納得できるか?)
軍服の人物が二度目の攻撃をしないのを見て、ドクター・カオスは少しだけ安堵した。
認識できない動きで支給品が全て奪われたのは痛いが、まだ話し合いの余地はありそうだ。
認識できない動きで支給品が全て奪われたのは痛いが、まだ話し合いの余地はありそうだ。
(そもそも、なんでわしは裸になっとるんじゃ……)
ドクター・カオスは考え事をしながら歩いていたせいで、フォルゴレの存在に気づくことができなかた。
いきなり下から男が立ち上り、叫びながら警棒を振り回したかと思うと、急に体がすーすーしだした。
自分が裸になっていることに気付くと同時に、フォルゴレの服も消え失せた。
二人とも、突然全裸になってしまった状況に理解が追い付かず、ぽかーんとしてしまった。
結果、全裸の二人が林の中で見つめ合うという奇妙な状態になっていたのである。
いきなり下から男が立ち上り、叫びながら警棒を振り回したかと思うと、急に体がすーすーしだした。
自分が裸になっていることに気付くと同時に、フォルゴレの服も消え失せた。
二人とも、突然全裸になってしまった状況に理解が追い付かず、ぽかーんとしてしまった。
結果、全裸の二人が林の中で見つめ合うという奇妙な状態になっていたのである。
そして間髪いれずに銃を持った何者かの登場だ。
謎の人物は叫び声を揚げながら発砲したが、幸いにも弾はそれたらしい。
声からして女性のようである。
飛び出した先に全裸の男が二人居たのだ。
そりゃあ驚くのも無理はない。
謎の人物は叫び声を揚げながら発砲したが、幸いにも弾はそれたらしい。
声からして女性のようである。
飛び出した先に全裸の男が二人居たのだ。
そりゃあ驚くのも無理はない。
(どうしてこうなったのかのう……)
老人の溜息が、闇の中に小さく消えた。
◆ ◆ ◆
二人の支給品一式を確認し終えたマリリンは、とりあえず二人と話をすることに決めた。
戦いたいという気持ちはまだ残っているが、老人や一般人相手に戦うのは彼女の趣味ではない。
無力な一般人を相手にする事は、戦いではなく虐殺である。
そんなものはマリリンの求めるものではない。
戦いたいという気持ちはまだ残っているが、老人や一般人相手に戦うのは彼女の趣味ではない。
無力な一般人を相手にする事は、戦いではなく虐殺である。
そんなものはマリリンの求めるものではない。
老人はドクター・カオスといい、ヨーロッパの魔王と呼ばれる天才錬金術師。
金髪の男はパルコ・フォルゴレ。世界的大スターでイタリアの英雄らしい。
金髪の男はパルコ・フォルゴレ。世界的大スターでイタリアの英雄らしい。
マリリンが来るまでの二人の行動を聴く事で、二人が全裸になった理由、そしてフォルゴレが無傷の謎も解明した。
光界玉。
この支給品が原因だ。
フォルゴレは途中までしか読んでいないが、光界玉の説明書にはこう書いてあった。
この支給品が原因だ。
フォルゴレは途中までしか読んでいないが、光界玉の説明書にはこう書いてあった。
『光界玉』
火影が作りだした魔導具の一つ。
形のあるなしに関わらず、あらゆるものを消し去る事が出来る。
但し、反作用として使用者の大切なものも消えてしまう。
反作用で消えるものは、消したものの価値に比例する。
有効範囲は半径十メートル。
参加者自体を消すことはできない。
火影が作りだした魔導具の一つ。
形のあるなしに関わらず、あらゆるものを消し去る事が出来る。
但し、反作用として使用者の大切なものも消えてしまう。
反作用で消えるものは、消したものの価値に比例する。
有効範囲は半径十メートル。
参加者自体を消すことはできない。
この説明書きと二人の話から推察するに、フォルゴレはカオスに向かって光界玉を使用したのだ。
だが、参加者を消すことはできないため、ドクター・カオスの身に付けていた衣服だけが消えた、ということなのだろう。
その後、ドクター・カオスの衣服を消した反作用が起こり、使用者であるフォルゴレの衣服も消失したという訳だ。
だが、参加者を消すことはできないため、ドクター・カオスの身に付けていた衣服だけが消えた、ということなのだろう。
その後、ドクター・カオスの衣服を消した反作用が起こり、使用者であるフォルゴレの衣服も消失したという訳だ。
マリリンが銃を撃った時もフォルゴレは光界玉を振り回していた。
フォルゴレが無傷なのは、光界玉が銃弾を消したからと考えれば説明がつく。
この時の反作用で何が消えたのかはわからないが、もしかしたら体の一部が消えたのかもしれんとドクター・カオスが言った。
その言葉を聴いて、フォルゴレは酷く青ざめた。
フォルゴレが無傷なのは、光界玉が銃弾を消したからと考えれば説明がつく。
この時の反作用で何が消えたのかはわからないが、もしかしたら体の一部が消えたのかもしれんとドクター・カオスが言った。
その言葉を聴いて、フォルゴレは酷く青ざめた。
光界玉の力を試してみたい気もしたが、これは使用者の大切なものも消してしまう諸刃の剣である。
光界玉の試用はせず、危険物と判断しマリリンが預かることにした。
この支給品を使うことは、もうこの先ないだろう。
光界玉の試用はせず、危険物と判断しマリリンが預かることにした。
この支給品を使うことは、もうこの先ないだろう。
他にもこれまでの経緯や、知っている名前はあるか等の情報を交換する。
その中で、フォルゴレから聴かされた魔界の王を決める戦いにマリリンは驚いた。
百人の魔物の子が魔界の王を決めるために、最後の一人になるまで戦い合う。
自分が参加する、百人の中学生が次の神を決めるために戦う中学生バトルとそっくりではないか。
百人の魔物の子が魔界の王を決めるために、最後の一人になるまで戦い合う。
自分が参加する、百人の中学生が次の神を決めるために戦う中学生バトルとそっくりではないか。
これを聴いた時は、フォルゴレにも何らかの能力が授けられたのかと訊いたが、キャンチョメという魔物の子の本が読めるだけで、彼自身には特別な力はないらしい。
次にドクター・カオスだが、彼は千五十一歳の天才錬金術師で、数々の悪霊や怪物を倒したり、人造人間を作ることに成功したことを自慢げに話した。
しかし、マリリンは幽霊やそういったオカルトの類を信じない人物である。
この老人は、きっとこんな事態に巻き込まれて混乱しているのだろうと彼女は判断した。
しかし、マリリンは幽霊やそういったオカルトの類を信じない人物である。
この老人は、きっとこんな事態に巻き込まれて混乱しているのだろうと彼女は判断した。
「いいですかカオスさん、幽霊や妖怪なんてものはこの世に存在しませんわよ。こんな状況です、混乱するのも無理ありませんわ。
ですが安心してください、もう私に攻撃する意思はありません。老人をいたぶるなんて、戦士のすることではないですもの。ほら、気をしっかりもってください」
ですが安心してください、もう私に攻撃する意思はありません。老人をいたぶるなんて、戦士のすることではないですもの。ほら、気をしっかりもってください」
「わしは混乱なんぞしとらんわ! 魔界の王を決める戦いは信じたのに、どうしてわしの話は信じんのじゃ!」
「あら、だって天界があるんですよ? 魔界があっても不思議じゃありませんわ」
「おじいさん、怖いのはわかる。だが安心したまえ。私は絶世に美男子、イタリアの英雄パルコ・フォルゴレさ! この私がおじいさんを必ずお家に帰してあげよう!」
「全裸で何を言っとるんじゃ! さっきまで怯えて情けない姿を見せとったくせに、敵じゃなくなった途端に調子付きおって!」
「あ、あれは……そう! 相手を油断させるための演技で──」
「なあにが演技じゃ! 世界的大スターとかぬかしとったが、わしゃパルコ・フォルゴレなんて名前、今まで一度も聴いた事ないぞ!」
「なっ!? 私が嘘をついてるって言うのかい!? おじいさんこそ、千歳を越えてるなんておかしいじゃないか! ひょっとしてボケてるんじゃないのか?」
「何をっ!? わしの頭脳はまだまだ現役じゃい!!」
「じゃあ私の出す問題に答えてみたまえ! ボケてないならわかるはずだ!」
「ああ良いとも! どんな問題だろうとたちどころに解いてやろうじゃないか!」
「それじゃあいくぞ! 2×2は!?」
「5じゃ!!」
勢いよく答えたカオスの言葉に二人は絶句した。
嫌な空気を感じ取ったカオスは、慌てて答えを訂正する。
嫌な空気を感じ取ったカオスは、慌てて答えを訂正する。
「いや、6じゃったかな? ……違う7……8? ……ににんが……ににんが………思い出したぞ! ににんが3.8じゃ!!」
どうやらこの老人は本当にボケてしまっているようだ。
知り合いと言っていた美神令子や横島忠夫らは介護人だろうか。
知り合いと言っていた美神令子や横島忠夫らは介護人だろうか。
「………もう、いいですわ。とにかくこれからの事についての話しをしましょう。まずお二方の着るものについてですが……」
そう言うと、マリリンは二人をちらりと見た。
二人はまだうつ伏せの状態である。
何かを仕掛けてくることもないだろうが、二人とも全裸だ。
体を起こせば隠しているものが見えてしまう。
なので、二人にはうつ伏せのままで話しをしてもらうことにしてもらったのだ。
二人はまだうつ伏せの状態である。
何かを仕掛けてくることもないだろうが、二人とも全裸だ。
体を起こせば隠しているものが見えてしまう。
なので、二人にはうつ伏せのままで話しをしてもらうことにしてもらったのだ。
「幸いなことに、私が先程プールで手に入れた水着と、フォルゴレさんの支給品にあったものがありますわ。これで体を隠してください」
「プールに水着があったのかい?」
「ええ、一着だけでしたけど見つけました。何かに使えないかと持ってきたのですが、意外と早く使う機会が訪れましたわね」
そう言うと、彼女はフォルゴレのリュックから蔵王を取り出し、中から支給品を取り出した。
蔵王の中から出てきたのは、小面と呼ばれる能面を付けた、人間大の大きさの人形。
魅虚斗(みこと)と呼ばれる人型魔導具だ。
蔵王の中から出てきたのは、小面と呼ばれる能面を付けた、人間大の大きさの人形。
魅虚斗(みこと)と呼ばれる人型魔導具だ。
「説明書によると、この中に入る事ができるそうですわ。フォルゴレさんのリュックに入っていましたし、これはフォルゴレさんが使ってください」
次に、マリリンは自分のリュックに手を入れる。
「女性用ですけれど、この非常時です。我慢していただけますね?」
「……まあ、仕方あるまい」
ドクター・カオスは、女性用でも下を隠せれば良いだろうと渋々承知した。
マリリンはリュックから水着を取り出す。
マリリンはリュックから水着を取り出す。
「多分競泳用のものですわ。よく伸びる素材でできているみたいなので、着る事はできると思います」
出てきた水着を見て、ドクター・カオスの表情が絶望の色に染まる。
マリリンの手にあるものは、確かに競泳用の水着に似ている。
上下一体の、紺色の水着だ。
胸には『3-B』と書かれた布が刺繍されている。
日本人ならば一度は見た事があるだろう。
学校で使用される水着。スクール水着である。
マリリンの手にあるものは、確かに競泳用の水着に似ている。
上下一体の、紺色の水着だ。
胸には『3-B』と書かれた布が刺繍されている。
日本人ならば一度は見た事があるだろう。
学校で使用される水着。スクール水着である。
◆ ◆ ◆
フォルゴレが魅虚斗の中に、ドクター・カオスがスクール水着に着替えると、マリリンはこれからの方針を二人に伝えた。
まず、フォルゴレやドクター・カオスの知り合い、その他の参加者を捜索する。
一般人ならば保護、襲い掛かってくるようならばマリリンの指示通りに動き迎撃。
一般人ならば保護、襲い掛かってくるようならばマリリンの指示通りに動き迎撃。
要注意人物は、キースと名のつく参加者。
名前からしてキース・ブラックの関係者だろう。
名前からしてキース・ブラックの関係者だろう。
次に植木耕助、佐野清一郎、宗屋ヒデヨシ、バロウ・エシャロット、ロベルト・ハイドン、李崩ら中学生バトルの参加者達。
能力者である点は勿論の事、マリリンにとっては敵対していた者達だ。
協力できるかはわからない。
能力者である点は勿論の事、マリリンにとっては敵対していた者達だ。
協力できるかはわからない。
次はゼオン・ベルという魔物の子。
フォルゴレの話しによると、ガッシュ・ベルと似た容姿を持ち、同じく電撃の呪文を遣うらしい。
ロップスという魔物の子を圧倒的な力でもって倒し、残忍な性格をしているという。
姓が同じ事については、フォルゴレは何もしらないそうだ。
容姿が似ているということは、兄弟なのかもしれない。
フォルゴレの話しによると、ガッシュ・ベルと似た容姿を持ち、同じく電撃の呪文を遣うらしい。
ロップスという魔物の子を圧倒的な力でもって倒し、残忍な性格をしているという。
姓が同じ事については、フォルゴレは何もしらないそうだ。
容姿が似ているということは、兄弟なのかもしれない。
他に、ルシオラとアシュタロス。
神族と魔族の混成チームでも太刀打ちできないほどの強大な力を持ち、美神令子を狙っているという。
だが、これはドクター・カオスの言ったことである。
信用できない情報ではあるが、警戒するに越したことはない。
神族と魔族の混成チームでも太刀打ちできないほどの強大な力を持ち、美神令子を狙っているという。
だが、これはドクター・カオスの言ったことである。
信用できない情報ではあるが、警戒するに越したことはない。
そしてもう二人。
金剛晄と高槻涼だ。
彼等は最初の時に目の前で知り合いを殺された。
その殺された人物を蘇らせるために、殺し合いに乗っている可能性がある。
金剛晄と高槻涼だ。
彼等は最初の時に目の前で知り合いを殺された。
その殺された人物を蘇らせるために、殺し合いに乗っている可能性がある。
三人の話し合いの中で、この十一人を特に警戒することを決める。
マリリンが確認した三人の支給品についてだが、食糧や地図といった基本的な物とリュックはそれぞれに返し、残りはマリリンが預かることになった。
当初二人は抗議したが、銃を持っているマリリンに逆らえるはずもなく、従うことになったのだ。
当初二人は抗議したが、銃を持っているマリリンに逆らえるはずもなく、従うことになったのだ。
戦闘になった際はマリリンが指示を出し、それぞれの役割に徹して行動することになっている。
ちなみにドクター・カオスは戦力に数えていない。
というか、正直老人は足手まといと言う他ない。
ここは戦場である。
弱い者は置いていくのが鉄則だが、何故かマリリンはこの老人を見捨てることができなかった。
ちなみにドクター・カオスは戦力に数えていない。
というか、正直老人は足手まといと言う他ない。
ここは戦場である。
弱い者は置いていくのが鉄則だが、何故かマリリンはこの老人を見捨てることができなかった。
それでは、三人の支給品を確認していこう。
フォルゴレに支給されていたのは三つだ。
光界玉、魅虚斗、『自衛ジョー』の生き人形部隊。
光界玉はマリリンが持ち、魅虚斗の中にはフォルゴレが入っている。
『自衛ジョー』の生き人形部隊は、見た目はおもちゃの人形部隊だが、不思議なことにこれらの人形達は自分で動き、考え喋るようなのだ。
おそらく中に高性能な機械が組み込まれているのだろう。
最近のおもちゃは凄い。
ドクター・カオスがこれには魂が入っているとか説明していたがスルーした。
フォルゴレに支給されていたのは三つだ。
光界玉、魅虚斗、『自衛ジョー』の生き人形部隊。
光界玉はマリリンが持ち、魅虚斗の中にはフォルゴレが入っている。
『自衛ジョー』の生き人形部隊は、見た目はおもちゃの人形部隊だが、不思議なことにこれらの人形達は自分で動き、考え喋るようなのだ。
おそらく中に高性能な機械が組み込まれているのだろう。
最近のおもちゃは凄い。
ドクター・カオスがこれには魂が入っているとか説明していたがスルーした。
ドクター・カオスに支給されたのは二つ。
オリンピアとファイティングナイフだ。
オリンピアは巨大な操り人形で、天使のような四枚の翼をもっている。
糸を動かすことで操れるらしいが、三人の誰もまともに動かすことができなかった。
今は蔵王に仕舞い、マリリンが持っている。
オリンピアとファイティングナイフだ。
オリンピアは巨大な操り人形で、天使のような四枚の翼をもっている。
糸を動かすことで操れるらしいが、三人の誰もまともに動かすことができなかった。
今は蔵王に仕舞い、マリリンが持っている。
ファイティングナイフはオリハルコンという精神感応金属製のものらしい。
説明書にはダイヤモンドの三倍以上の高度を持つと書かれていた。
ナックルガードもついているが、武器を持った状態の能力発動ができないマリリンにはこれが邪魔だった。
ナックルガードに手を入れてしまえば、素早くナイフを捨て能力を遣うといった戦い方ができなくなる。
このナイフはドクター・カオスに自衛用の武器として渡した。
説明書にはダイヤモンドの三倍以上の高度を持つと書かれていた。
ナックルガードもついているが、武器を持った状態の能力発動ができないマリリンにはこれが邪魔だった。
ナックルガードに手を入れてしまえば、素早くナイフを捨て能力を遣うといった戦い方ができなくなる。
このナイフはドクター・カオスに自衛用の武器として渡した。
マリリンの支給品は暗視ゴーグル、SIG-P220、石板の三つ。
暗視ゴーグルは、装着すれば闇の中でも昼間のような視界を得る事が出来る。
さらに八倍までのズーム機能付きだ。
暗視ゴーグルは、装着すれば闇の中でも昼間のような視界を得る事が出来る。
さらに八倍までのズーム機能付きだ。
SIG-P220は九発装弾可能な自動拳銃。
残弾は七発。
予備弾薬は9mmパラベラム弾が九発。
これらはマリリンが現在も所持している。
残弾は七発。
予備弾薬は9mmパラベラム弾が九発。
これらはマリリンが現在も所持している。
最後に石板だが、フォルゴレの話しではこれは呪いで石にされた魔物の子だという。
本当かどうかはわからないが、この石板からは魔力が感じられるとドクター・カオスが言っていた。
月の石の光によって呪いが解けるらしいが、これが本物かはまだわからない。
仮に本物だとしても、この魔物の本の持ち主は千年前に死んでいる。
ゾフィスという千年前の魔物達を支配している魔物のように、心を操る術を持たない以上、この魔物が自分達に協力してくれるかはわからないのだ。
本当かどうかはわからないが、この石板からは魔力が感じられるとドクター・カオスが言っていた。
月の石の光によって呪いが解けるらしいが、これが本物かはまだわからない。
仮に本物だとしても、この魔物の本の持ち主は千年前に死んでいる。
ゾフィスという千年前の魔物達を支配している魔物のように、心を操る術を持たない以上、この魔物が自分達に協力してくれるかはわからないのだ。
オリンピアのように、使い道のない支給品である。
だが、状況次第では罠や何かに使えるかもしれない
これもマリリンが持つことになった。
だが、状況次第では罠や何かに使えるかもしれない
これもマリリンが持つことになった。
確認することを全て終え、マリリンは二人を見る。
フォルゴレが入っている魅虚斗は、手に巨大な扇を持ち、水平にして頭上に掲げている。
その上には『自衛ジョー』の生き人形部隊が居り、暗視ゴーグルを複数人で持っていた。
マリリンが自衛ジョーに、暗視ゴーグルを使った周囲の警戒を指示したのだ。
その上には『自衛ジョー』の生き人形部隊が居り、暗視ゴーグルを複数人で持っていた。
マリリンが自衛ジョーに、暗視ゴーグルを使った周囲の警戒を指示したのだ。
ドクター・カオスは見るからに元気がない。
スクール水着は問題なく着ることができたが、精神的ダメージが大きいらしい。
手にはファイティングナイフが握られている。
スクール水着は問題なく着ることができたが、精神的ダメージが大きいらしい。
手にはファイティングナイフが握られている。
「それでは最終確認をいたします。気を付け(アッテンション)────!!!」
「はっ!」
マリリンが叫ぶと、自衛ジョー達が敬礼の姿勢でマリリンに向いた。
「自衛ジョーさん達は周囲を常に警戒。異常を発見したら直ちに報告してください」
「はっ! 了解であります隊長殿!」
「フォルゴレさんは扇の上の自衛ジョーを落とさないように気を付けてください」
「了解しましたマリリン隊長!」
「カオスさんは迷子にならないよう、ちゃんと私達についてきてくださいね」
「人をボケ老人扱いするんじゃないわい!」
「ああっ! 隊長になんてことを言うんだ!」
「おぬしは小僧のような変わり身の早さじゃのう。 ……はぁ、わしはいつもボケ老人扱いか……それにこんな格好で………」
ドクター・カオスは深く項垂れる。
そんなカオスにマリリンは優しく声をかけた。
そんなカオスにマリリンは優しく声をかけた。
「……そうですわ! これから町のデパートに向かいましょう。プールに水着があったんです、デパートの売り場にも何か服があるかもしれませんもの。
フォルゴレさんも服を着ていない状態ですし、そこでまともな服を手に入れましょう。それに、途中でお知り合いに会えるかもしれませんわ」
フォルゴレさんも服を着ていない状態ですし、そこでまともな服を手に入れましょう。それに、途中でお知り合いに会えるかもしれませんわ」
「それは嫌じゃ!」
これからの目標は決まった。
目的地はD-5にあるモチノキデパート。
そこで衣類を調達する。
目的地はD-5にあるモチノキデパート。
そこで衣類を調達する。
隊長はマリリン・キャリー。
その後ろからイタリアの能役者パルコ・フォルゴレとヨーロッパのスク水老人ドクター・カオスが続く。
傍から(はたから)見ればサーカスか何かの劇団員に見えてしまう、奇妙な三人組が目的地へ向かって歩き始めた。
その後ろからイタリアの能役者パルコ・フォルゴレとヨーロッパのスク水老人ドクター・カオスが続く。
傍から(はたから)見ればサーカスか何かの劇団員に見えてしまう、奇妙な三人組が目的地へ向かって歩き始めた。
【B-3 林・一日目 黎明】
【マリリン・キャリー】
[時間軸]:三次選考カプーショ戦後、植木戦前。
[状態]:健康
[装備]:軍服@うえきの法則、SIG-P220(7/9)@現実
[道具]:基本支給品一式、光界玉@烈火の炎、オリンピア@カラクリサーカス、石板@金色のガッシュ!!、SIG-P220の予備弾薬(9/9)@現実
[基本方針]:デパートに向かう。襲ってくる敵とは戦う。
[時間軸]:三次選考カプーショ戦後、植木戦前。
[状態]:健康
[装備]:軍服@うえきの法則、SIG-P220(7/9)@現実
[道具]:基本支給品一式、光界玉@烈火の炎、オリンピア@カラクリサーカス、石板@金色のガッシュ!!、SIG-P220の予備弾薬(9/9)@現実
[基本方針]:デパートに向かう。襲ってくる敵とは戦う。
【ドクター・カオス】
[時間軸]:妙神山壊滅以降、南極での決戦前。
[状態]:健康。精神的に少し落ち込んでる。
[装備]:スクール水着@現地調達、ファイティングナイフ@スプリガン
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:早くまともな服を着たい。知り合いには会いたくない。
[時間軸]:妙神山壊滅以降、南極での決戦前。
[状態]:健康。精神的に少し落ち込んでる。
[装備]:スクール水着@現地調達、ファイティングナイフ@スプリガン
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:早くまともな服を着たい。知り合いには会いたくない。
【パルコ・フォルゴレ】
[時間軸]:アポロと出会った後、デボロ遺跡再突入前
[状態]:健康、全裸
[装備]:魅虚斗@烈火の炎、自衛ジョーの生き人形部隊@GS美神極楽大作戦!!、暗視ゴーグル@現実(自衛ジョーが所持)
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:マリリン隊長についていく。清麿達を探す。
[時間軸]:アポロと出会った後、デボロ遺跡再突入前
[状態]:健康、全裸
[装備]:魅虚斗@烈火の炎、自衛ジョーの生き人形部隊@GS美神極楽大作戦!!、暗視ゴーグル@現実(自衛ジョーが所持)
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:マリリン隊長についていく。清麿達を探す。
【暗視ゴーグル@現実】
暗闇でも昼間と同じ視界を得ることができる。
八倍ズーム機能付き。
暗闇でも昼間と同じ視界を得ることができる。
八倍ズーム機能付き。
【SIG-P220@現実】
自動拳銃。
装弾数九発。
弾は9mmパラベラム弾。
自動拳銃。
装弾数九発。
弾は9mmパラベラム弾。
【光界玉@烈火の炎】
火影が作りだした魔導具の一つ。
形のあるなしに関わらず、あらゆるものを消し去る事が出来る。
但し、反作用として使用者の大切なものも消えてしまう。
反作用で消えるものは、消したものの価値に比例する。
有効範囲は半径十メートル。
参加者自体を消すことはできない。
火影が作りだした魔導具の一つ。
形のあるなしに関わらず、あらゆるものを消し去る事が出来る。
但し、反作用として使用者の大切なものも消えてしまう。
反作用で消えるものは、消したものの価値に比例する。
有効範囲は半径十メートル。
参加者自体を消すことはできない。
【魅虚斗@烈火の炎】
火影の作りだした魔導具の一つ。
人型をしており、中に人が入ることができる。
使用者の意思で動き、少しの距離ならば離れていても操作可能。
巨大な扇を二つ持ち、この扇で攻撃や防御を行える。
火影の作りだした魔導具の一つ。
人型をしており、中に人が入ることができる。
使用者の意思で動き、少しの距離ならば離れていても操作可能。
巨大な扇を二つ持ち、この扇で攻撃や防御を行える。
【オリンピア@からくりサーカス】
ギイ・クリストフ・レッシュの懸糸傀儡(マリオネット)。
胴体に4本と翼の付け根に2本の腕を持つ。
指先に注射針、肘に刃物、ヒールに拍車、背中に翼と多数のギミックが搭載されている。
ギィ専用に調整されており、ギィ以外が扱うのは難しい。
ギイ・クリストフ・レッシュの懸糸傀儡(マリオネット)。
胴体に4本と翼の付け根に2本の腕を持つ。
指先に注射針、肘に刃物、ヒールに拍車、背中に翼と多数のギミックが搭載されている。
ギィ専用に調整されており、ギィ以外が扱うのは難しい。
【ファイティングナイフ@スプリガン】
オリハルコン製。
刃の硬度はダイヤモンドの三倍以上。
柄にはナックルガードが付いている。
オリハルコン製。
刃の硬度はダイヤモンドの三倍以上。
柄にはナックルガードが付いている。
【『自衛ジョー』の生き人形部隊】
魂が宿っている、手に握れる大きさの人形の軍隊。
総勢二十名。
全員軍服に身を包み、部隊司令が指揮している。
戦車や無線機も付いてるよ。
魂が宿っている、手に握れる大きさの人形の軍隊。
総勢二十名。
全員軍服に身を包み、部隊司令が指揮している。
戦車や無線機も付いてるよ。
【石板@金色のガシュ!!】
千年前の魔物がゴーゴンの術によって姿を変えたもの。
本物かどうかはわからないが、石板からは魔力を感じ取ることができる。
千年前の魔物がゴーゴンの術によって姿を変えたもの。
本物かどうかはわからないが、石板からは魔力を感じ取ることができる。
【スクール水着@現地調達】
B-3のプールで見つけた水着。
よく伸びる素材でできており、成人男性でも着ることが可能。
胸には3-Bの文字がある。
B-3のプールで見つけた水着。
よく伸びる素材でできており、成人男性でも着ることが可能。
胸には3-Bの文字がある。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
GAME START | マリリン・キャリー | 071:ドクター・カオスとオリンピア |
GAME START | パルコ・フォルゴレ | |
GAME START | ドクター・カオス |