400 名前:【SS】天使VS堕天使[sage] 投稿日:2011/04/05(火) 19:03:39.19 ID:Cppe1vmdO [1/2]

 【SS】天使VS堕天使
 
 概要:原作4巻第1章の続き。
    SPメルルフィギュアを見つけてくれた黒猫と沙織に、あやせがお礼をする。
    原作の設定多少改変。
    桐乃登場無し。色恋無し。

 桐乃スレなのに桐乃の出番はありません。長文駄文です。
黒猫もあやせも大丈夫な方にしかお勧めできません。それでもよければどうぞ。
 
    
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――   


 俺は今、秋葉原のとあるカフェに来ている。
オタク要素など全くない、至って普通の喫茶店ってやつだ。
俺の隣にはあやせ、正面は沙織、その隣には黒猫という形で席に着いている。
なぜこの四人で集まっているかと言うと、話は数日前にさかのぼる。


 ――――――――――――――――――――


「お兄さん。今日はお願いがあって来ました。」

 俺はあやせにメールで呼び出されて例の公園へ来ていた。
前回もこのパターンだったな……。また面倒な事に巻き込まれるのか……。
と思いつつも、今回は『お願い』という台詞に淡い期待を抱いていた。
この間は頼まれていた桐乃へのプレゼント探し、頑張ったもんな〜俺。
結果、桐乃は大喜びしてくれたみたいだし。俺の株も急上昇したことだろう。

「おまえが俺にお願い?何の話だ?なに?俺に抱きしめて欲しい……とか、そんな話か?」

「い、いきなり、ば、馬鹿な事を言わないで下さい!何で私がお願いしてまで
 あなたに…だ、抱きしめて貰わなくてはならないんですか!?冗談もいい加減にして下さい!」

「俺は本気だぜ?」

「……………………。」

「……そんな目で俺を見ないでくれ……。」

「……お兄さんって結構軟派なんですね……。
 他の女性にもそういう事を言ってるんですか?麻奈実さん…とか。」

「麻奈実?おまえあいつの事、知ってたっけ?」

「この間お会いしたばかりじゃないですか。」

 そういえば、道でばったり会って自己紹介してたっけか。

「ないない。あいつとはそういう関係じゃねぇし。」

「……じゃあ、夏コミ…でしたっけ?桐乃の後ろにいた…黒い服を着た娘とか、眼鏡の方とか……。」

「やっぱり気が付いていたんだな。あの二人の事。」

「はい……。最近、桐乃がその娘達の話をしてくれるんです。自分のオタク趣味を話せる
 数少ない友達だとか。そういえば桐乃、怒ってましたよお兄さんの事。
 『兄貴、あいつらに色目使って超キモいんだけど。』って。」

「ま、待て待て、待てーい!!それじゃまるで俺が妹の友達を片っ端から口説いてる変態みたいじゃねぇか!」

「違うんですか?」

「ちげーよ!!」

「現に今だって私のこと、口説いていたようですけど……。」

「それは間違いない。」

 即答するとあやせは諦めたように、

「……まあ…この話は今はいいです。それより、私のお願いの件なんですけど。」

「あぁ、俺に抱きしめて貰うって話な。」

「ブチ殺しますよ。」

 おーこわ。こいつ相変わらずキレるとすぐ殺すって言うのな。

「ごめんごめん。で、お願いってのは?」

「……はい。えっと、さっきの話のお二人に会わせて貰えないでしょうか?」

「は?なんで?おまえ、あの二人に会いたいの?あいつら、おまえが嫌いなオタクだぞ?」

「……桐乃が言っていたんです…。この間、お兄さんにご相談した桐乃へのプレゼントのアドバイスをしてくれたのは、
 あのお二人じゃないかって。『あの低脳兄貴が私のドストライクなプレゼント、思いつくわけないよね。』と。」

 ……なんて酷い言い草だ……。あやせも低脳とか、言わんでもいいだろう……。

「桐乃、あのプレゼント本当に喜んでくれたんです。貰ったフィギュアもそうですけど、
 私がそういうの嫌いなのに、これを選んでくれた事を。
 ですからアドバイスをして下さったお二人に一応お礼を伝えたくて……。」

 まだ桐乃のオタク趣味を完全に認めた訳ではないはずなのに、あいつらに会いたいなんて
結構義理堅い真面目なやつだ…。てゆーか俺にお礼はないの?ねぇ!?
……しかしなぁ……沙織はともかく、あやせと黒猫を会わせたら絶対修羅場になるよな……。
それに他にもなんか嫌な予感が……。

「……だめ……です……か?」

 な…なんだよおまえ、上目使いでそんな顔すんなよ!か…可愛いじゃねぇか。
そんな顔されたら俺はOKするしかなくなっちまうだろ!!てか、抱きしめてぇ!ハグしてぇ!ペロペロしてぇ!!

「よ、よし。わかった。」

「あ…ありがとうございます!」

 にっこり笑うあやせたん。マジ天使。ペロペロペロペロペロペロ(妄想)

「……。お兄さん……。顔……気持ち悪いですよ……。」

「気にするな。」

「……それで、あのお二人のお名前を伺っておきたいんですけど。」

「名前?ああ、黒猫と沙織な。」

「……黒猫?本名…ですか?」

「いや、ハンドルネームってやつだ。インターネット上で使ってる…まぁニックネームみたいなもんだな。」

「…わかりましたけど……じゃあ本名は何とおっしゃるんですか?」

「……。知らん。」

「はぁ?本当に知らないんですか?えっ、桐乃は知ってますよね?」

「んー多分…桐乃も知らないんじゃないか?」

「…じゃあ…沙織さんは?…苗字とか…。」

「沙織?苗字?……バジーナ?」

「なんですかそれ!?真面目に答えて下さい!」

「本当に知らないんだ。てゆーか『沙織』が本名かどうかもわかんねーし。」

「…まぁいいです。オタク同士っていうのは、そういうものなんですか?」

「ネットで知り合ったってのもあって、俺達ハンドルネームしか知らんのよ。
 それに出会ってからの日も浅いしな。これからって感じか?」

「わかりました。えっと…黒猫さんと沙織さんでしたよね?」

「おう。黒い服の方が黒猫で、眼鏡の方が沙織な。」

「はい。」

「じゃあ、あいつらに話通しておくよ。日取りはまた後日連絡するから。」

「はい。よろしくお願いします。」

 というやり取りを経て冒頭の日に至るわけだ…が…。


 ――――――――――――――――――――


 俺はまず、あやせを黒猫と沙織に紹介した。

「桐乃の親友の新垣あやせです。桐乃とはクラスメイトで、モデルのお仕事も一緒にしています。」

 それからあやせに二人を紹介した。

「……よろしく。」

「沙織・バジーナでござる。」

 相変わらず黒猫は初対面のやつに愛想が悪い。沙織もいきなり『バジーナでござる。』はないだろう…。
あやせもさすがに顔が引きつっている。しかし今日は二人にお礼を言いに来たのだから、意を決した様に本題に入った。

「今日は、お時間を作って頂いて申し訳ありません。私のために色々プレゼントを探して頂いたそうで…。
 本当にありがとうございました。桐乃、とっても喜んでくれました。」

「いえいえ、礼には及びませぬぞ。そもそも、あのフィギュアを手に入れるのは
 我々には無理な代物なので、あやせ氏の作戦勝ちと言ったところでしょう。」

「…そうよ。あなたにお礼など言われるような事をした憶えは無いのだけれど。
 あなたのため?フッ…。私は“桐乃”のために動いていただけよ。こちらこそお礼を言いたいわ。
 私も“親友の桐乃”の喜ぶ顔を見るのは、とても嬉しいもの。」

 うげっ……。また始まったよ、こいつの意地悪癖が。
…まあ、あやせもオタク嫌いですオーラを発しまくっているからな……。
だがあやせも負けじと、

「いいえ。やはりお礼を言わせて頂きます。私では“あんな物”絶対思い付かなかったですし。
 それで私のこと見直したって言ってくれましたし。」

「あなたのこと見直したですって?大体あの大会に出て優勝したのは、あなたのお友達でしょう?
 あなたがタナトスで出場しても十分優勝が狙えたはずなのに。」

「私が出場するよりも優勝できる可能性の高い娘がいたからです。」

「違うわね。本当に“桐乃”に何かしてあげたいと思うのなら、自分で何とかするはずよ。」

「わ、私があんな…い、いかがわしい服を着て出場できるわけないでしょう!!
 桐乃に見られたら軽蔑されるかもしれないじゃないですか!!」

 …だから桐乃は絶対大喜びすると言っているのに…。もちろん俺も大喜びしちゃうけどね!

「私はあなたみたいなタイプが嫌いなの。自分の事しか考えていないような女は。
 “桐乃”がどう思うかより、自分がどう思われるかの方が大事なようだし。」

「うっ……ぐっ……。」

 痛い所を突かれたな、あやせ。だが…そろそろ止めてやらないとな。

「おい黒猫もうその辺にしとけよ。ちょっと言いすぎだぞ。」

「話に割り込まないで頂戴、この人間風情が。殺されたいの?」

 うぉ…、目が本気だよこいつ。何故か熱くなってやがる。…やっぱりこうなっちまったか…。しょうがねぇ。
沙織も心配いらないと言いたそうな顔をしているから、もう少し様子を見守るとするか……。

「憶えているかしら?あなたと私達は一度会っているのを。」

「夏…コミ…でしたよね?あの時…桐乃の後ろにいた……。」

「そうよ。あの時、私達は“あの女”と夏コミに行った帰りだったのよ。
 そして偶然会ったあなたにあの女は私達のことを『知んないよ、あんなキモい連中』と言ったのよ。」

 ……やっぱり聞こえていたんだな……。ごめんな……。

「それは桐乃が私にオタク趣味を知られて嫌われたくないと思ったから言った台詞ですよね?
 親友なら嫌われたくないと思うのは当然じゃないですか。」

「だからあなた達の友情は薄っぺらいのよ。実際その一件で、あなたは絶交したのでしょう?
 それでも本当の親友と言えるのかしら?」

 あやせは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「あなたは見たところ、お友達関係には困っていなさそうね。最近の言葉で言えば『リア充』とでも言うのかしら?
 それに比べて私は不器用で、あなたみたいにうまく立ち回るのは苦手なの。でもね、沙織とあの女は、
 自分のありのままの姿を受け入れてくれた、初めてできた友達なのよ。」

 …黒猫…。こいつ、頭に血が上り過ぎて俺と沙織がいることを忘れてやがるな。
『初めてできた友達』……か。なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど、
改めてカミングアウトされると、胸の奥が締め付けられるように苦しい……。
ふと沙織を見ると、呆然と正面を向いて抜け殻のようになっていた。
黒猫はさらに続ける。

「あの女はね、私の好きなアニメ『マスケラ』のDVDを全話視聴してくれたのよ。
 自分の嫌いなアニメにも拘らず…。あと…私の書いた小説と漫画も―――。」

 と言った所で黒猫は話すのをやめてしまった。そして驚いた様子であやせの方を見ながら

「あなた……。」と呟いた。

俺は何事かと思いあやせの方に目をやると、あやせは大粒の涙を流して泣いていたのだ。

「あ…、あやせ?」

 俺は動揺しながらもあやせを慰めようとしたが、事情が分からないのでかける言葉が見当たらない。
沙織も俺と同じようにオロオロしている。しかし、恐らく泣かせたであろう黒猫は
意外にも冷静にあやせの顔を見つめている。あやせが口を開くのを待っているようだった。


 ――――重い沈黙が流れる――――。


 しばらくするとあやせは心の整理を付けたのか、ひとつ大きく息を吸い話し始めた。

「ご…ごめんなさい……。いきなり泣き出したりして……。実は…私も初めての友達が桐乃なんです。
 私は小学校の頃から人と話すのが苦手で、いつも一人で本を読んだりしていました。
 中学に入ってもクラスに馴染めず、皆の輪に入れませんでした……。
 ……友達が欲しくない訳じゃない……。
 ……友達と楽しくお喋りとかしたい……。
 いつもそう思っていました。でも誰でも良いと言うわけではなく、そうなりたい相手がいたんです。
 ――それが桐乃でした――。
 桐乃はクラスでも特に輝いていました。眩しいくらい。成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。
 男女問わず人気者で、先生達にも一目置かれていて、いつもクラスの中心でした。
 いつも一人でいる私に話し掛けてくれたのは桐乃だけでした。
 でも…、人気者の桐乃にとって私は、その他大勢でしかなかったんです……。
 もっと仲良くなりたい…。
 桐乃にとって一番になりたい…。
 でもきっかけが掴めない…。
 それで私はモデルの仕事をしようと思ったんです。桐乃がモデルをしていたので、
 一緒に仕事をすればもっと仲良くなれる…と。
 …私がモデル……。もちろん抵抗はありました。自信なんて全然無かったですし……。
 でも桐乃がいつか私に、『“新垣さん”って肌綺麗だよね。髪も黒くて艶々だし。
 少し髪型変えて表情の作り方とか覚えたら、すっ……ごく可愛くなると思うよ。』
 と言ってくれたのを思い出し、勇気を振り絞って桐乃に仕事の紹介をして貰えないかとお願いしたんです。
 すると桐乃はなぜか嬉しそうに『あたしのコーチは厳しいケド?』と言い
 オーディションへ向けて特訓が始まったんです。
 桐乃のアドバイスで髪型を変え、鏡に向かって笑顔を作るとそこには今までとは別人の自分がいました。
 込み上げる高揚感。これから変わるんだという期待。
 そして何より毎日桐乃と一緒にいられる嬉しさでいっぱいでした。
 桐乃は笑顔の作り方、姿勢、歩き方等――。一生懸命教えてくれました。そしてオーディション前日…、
 『よしっ完璧。これで合格しなかったらあたしのせいだから』
 桐乃の最後の一言が、私に自信と勇気もくれたんです。
 その言葉を胸にオーディションに挑み、無事合格することができました。更に
 『“あやせ”は奥手だから、どっかに所属したほうがいいカモ。』
 と、事務所まで紹介してくれたんです。そして今、こうして変わることができた自分がいる……。
 あの頃桐乃に出会っていなければ今、どうなっているのか分かりません。
 さっきの黒猫さんの話を聞いて昔の自分を思い出し、取り乱してしまいました。すみません……。
 黒猫さんと私って似ていますね。何だか親近感がわいてきました。」

 あやせは泣き顔から穏やかな笑顔に変わっていた。

「な、何を言っているのかしら?言っておくけれど、私とあなたは住む世界が違うのよ。
 親近感とか…おこがましいにもほどがあるわ……。」

 明らかに照れている黒猫を見て、俺と沙織は

「「ぷっ…。くっくっ…。」」と、思わず噴き出してしまった。

「…また…この莫迦二人はくだらない妄想をしているようね……。」

 捨て台詞を吐いた後、赤い顔で下を向き、口を尖らせてジュースを飲む黒猫が妙に可愛かった。

 …それにしても、あやせと黒猫にそんな過去があったなんてな……。そりゃあやせが桐乃のこと大好きな訳だよ。
なんだか俺は桐乃を誇らしく思ってしまった。

 あやせの告白で重くなっていた空気が軽くなったところで沙織が

「本日拙者、あやせ氏にプレゼントを用意していたのでござる。」

 リュックから封筒を取り出すと、あやせに手渡した。
あやせは驚いていた。俺も驚いた。お礼される方がプレゼントを用意するって……、
まぁ…沙織はそういうやつだよな。

「あ…ありがとうございます。えっと…、今見てもいいですか?」

 あやせは不思議そうな顔をしたまま聞いた。

「もちろんでござる。」

 むむっ!今、口元がω←こんなふうになったぞ。怪しい…。何か企んでいるな…。黒猫も怪訝そうな顔をしている。
あやせが封筒を開けると、数十枚の写真が出てきた。俺は黒猫の方を見やり、

「俺達も見ていいか?」と沙織に聞いた。

「もちろんでござる!」

 さっきよりも口元がはっきりとω←こんなふうになっている。…やっぱり何か企んでいるようだ。
あやせが見ている写真を俺と黒猫が覗き込んだ。写っていたのは俺達の見覚えのあるものだった。

 “ギャーギャー騒ぎながらPSPをしている桐乃と黒猫”

 “黒猫の手を引っ張りながら大はしゃぎしている桐乃”

 “黒猫の服装を手際よく整えている桐乃”

 “シスカリの限定ディスクを黒猫から受け取っている桐乃”

 “コスプレイヤー達を眺めながら歓喜している桐乃”等――。

 いつもはあやせに見せないであろう顔をしている桐乃の写真だった。…いや、あやせはこの顔を知っている。
この夏コミの件で怒ったあやせに、自分の趣味について熱く語ったあの時の桐乃の顔がそれに近いかもしれない。
……ところで沙織のやつ、カメラなんて持って来てたっけ?黒猫も同じ事を思った様で、

「隠し撮りなんて、あなたも趣味が悪いわね……。」

 なんて事を言いながらも、桐乃と“楽しそう”にしている写真にまんざらでもない様子だった。
一方のあやせは、また少し表情を曇らせながら、

「…桐乃…とても楽しそうですね……。それなのに……あんな酷い事を言って……。
 私、桐乃のことを全部知ってるつもりでいたのに、本当の桐乃のことは何も知らなかったんですね……。
 何だか…桐乃が遠くへ行ってしまったみたいです……。」

「いや、あやせ。それは違うな。あいつは、おまえのこともオタク趣味もどっちも凄く大事で大切で必要なものだって
 言っていたじゃないか。おまえも聞いただろ?『どっちが欠けても、あたしがあたしでなくなる。』って。
 逆に言えば、どっちも本当の桐乃って意味じゃないか。」

「……そう…ですよね。私もっと桐乃のこと知りたくなりました。私の知ってる桐乃は、まだ半分だから……。」

「そこであやせ氏にお願いがござる。」

 沙織が唐突に言った。

「夏コミのようなイベントは、いきなりでは少々ハードルが高いと思いますゆえ、
 拙者もう少しソフトなイベントを画策中でござる。もっともまだ何をするかも決まっていないのですが、
 もし開催することになりましたら、あやせ氏にもご参加して頂きたいと思っておりますが…いかがですかな?」

「はい!是非。よろしくお願いします。」

「では連絡先を教えて頂きたいのでござるが…折角なので、皆でアドレス交換いたしましょうぞ。
 ほら、黒猫氏も携帯出してくだされ。」

「べ…別に……。私はいいわよ……。」

 すると、あやせが、

「お願いします。私の知らない桐乃のこと、もっと教えて欲しいですから……。
 それに、黒猫さんともお友達になりたいですし…。」

 黒猫は“友達”という言葉に反応したのか、

「…そこまで…言うのなら…。し、仕方ないわね……。」

 本当、素直じゃねーよな。
そして皆が携帯を出し、重ね合わせて赤外線通信を始めた。
赤外線通信って何かほのぼのするよな。これから友達スタートですって感じで。
それぞれの受信が終わると、

「有り難うでござる。」

「ありがとうございます。」

「…………。」

 …黒猫もお礼くらい言っとけっつーの。本当は嬉しいくせに。

 皆が携帯をしまうと、あやせが俺に、

「…じ、実は、今日…、お兄さんにもお、お話があるんです……。」と、

 何だか照れ臭そうにモジモジしながら言った。やっぱりあやせは男心をくすぐる何かを持っている。

「この間はありがとうございました。桐乃と仲直りできたあの日のお兄さんの話、
 全部ウソだって桐乃から聞きました。私も引っ込みがつかなくて……。
 きっかけを作ってくれたお兄さんには感謝しています。」

「そっか……。まぁ、とにかく仲直りできて良かったな。これからも桐乃のことよろしくな。」

「はい!」

 あやせは満面の笑顔で答えた。

「何故鼻の下を伸ばしてデレデレしているのかしら?」

「な、な、何を言うんだ!?そんな訳ないだろ!」

「あなた今、この男のことを『お兄さん』と呼んでいた様だけれど、気を付けなさい。
 この男、重度のシスコンだから、『お兄さん』なんて呼ばれたら興奮してしまうわよ。」

「だから!違うと言ってるだろうが!!」

「ほほう。然様でござるか京介氏。では拙者も呼び方を変えた方がよろしい様ですな?」

 うっ…何か寒気が……。

「兄上!!」

「やめろ!!」

「むぅ……。おかしいですなぁ……。兄者の方がよろしかったですかな?」

「そういう意味じゃねぇ!!」

「ほらね。」

「…はい…。凄く…嬉しそうです……。」

 ……もうどうでもいいや……。勝手に言ってろ。
俺がため息を付いていると、黒猫が思い出した様に、

「ところで沙織、さっきの写真のデータが入ったメモリーカードを寄こしなさい。
 人間界での私の行動が、世間に公表されたら困るのよ。」

「おっと、失礼致したでござる。黒猫氏もあの写真が欲しいのでござるな?」

「な、何を訳のわからない事を言っているのかしら?は、早くメモリーカードを寄こしなさいと言っているでしょう?」

「もちろん黒猫氏の分も用意してあるでござる。」

 全然人の話を聞いていないな沙織。まぁ確かに黒猫も写真が欲しいと言っている様なものだが。
沙織はカバンの中から封筒を出し、黒猫に手渡した。

「…人の話を全く聞いていないようね。…まぁいいわ……。」

 むすっとしている様だが、どうやらご期待に添えたらしい。

「あら?さっきの封筒よりも、厚みがある様だけれど……。」

「黒猫氏の分は、先程の写真に加えて特別に少し枚数が多く入っているのでござる。」

「あら…そう……。」

 “特別”という言葉に少し顔が緩んだ気がした。

「開けるわよ。」

 ガサゴソと中身を取り出すと、みるみるうちに黒猫の顔が赤く染まっていく。
そのまま硬直しバラバラと写真をテーブルの上へ落とした。

「!!!!やべぇ!!すげぇ!!ありえねぇ!!」

 写っていたのは―――。

 “前を歩く桐乃と沙織を、後ろから見ながら微笑んでいる黒猫”

 “これ以上無いといった超嬉しそうな笑顔で、大量のマスケラ同人誌を抱えている黒猫”等――。

 と・に・か・く、黒猫の笑っている写真ばかりが集められたものだった。同人誌を抱えている黒猫は、マジでヤバい。
プロのモデルである桐乃やあやせの笑顔に匹敵するくらいに、めちゃくちゃ可愛い。
…黒猫…。あの時、皆と別行動だったから油断してたな。

「ハッ!!」

 我に返った黒猫は、テーブルの上に覆い被さる様に写真達を隠そうとした。

「……や…やめて……。見…ない…で……。」

 羞恥に震える黒猫――。顔を紅潮させ、赤色の瞳が潤んでいる。

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!なんて顔しやがる!!抱きしめて頭をよしよしとかしてぇ!!
これが“ギャップ萌え”ってやつか!!そうなのか!?
俺はギャップをこよなく愛する男だったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!

 ハァハァハァハァ…………。

「……お兄さん…。喜びすぎじゃないですか?」

「べ、別に喜んでねぇよ。す、少しびっくりしただけだ。」

 するとテーブルの上に突っ伏していた黒猫は、バラ撒かれた写真を集めてこう言った。

「速やかにカードを渡しなさい。あんな忌まわしいものは、私の手で闇に葬ってあげるわ……。」

 と、その時俺はさっきの写真に違和感を覚えた。
そういえば沙織が写っていたような……。
黒猫の要求に対して、沙織は残念そうに、

「申し訳ない黒猫氏。実はあの写真は皆、拙者が撮影したものではないのです。
 あの日、拙者の知り合いが大勢参加していると申したでござろう?
 その方達に我々を見かけたら撮影しておいてくだされとお願いしていた次第でござる。
 夏の想い出に……と。」

 黒猫は一転、青ざめた表情で、

「…あなた、ファンネルは飛ばしていないと言っていたくせに、仲間をあちこちに散りばめて、
 私達を狙っていたのね……。な、なんて……恐ろしい……。」

 …マジで恐ろしいやつだ……。が、しかし、“夏の想い出”に……か。沙織らしいじゃねーか。
桐乃も黒猫も沙織も、スゲェ輝いてるよ。大好きな事を、大好きな仲間とできるなんて最高じゃん。
羨まし過ぎるぜ、おまえら。

 と、少し和んだのも束の間、沙織は更なる爆弾を投下してきた。

「こちらが京介氏の分でござる。」

 俺にくれたのは、やはり封筒だった……。
うっ……。み、見たくねぇ……。こんなにも禍々しく見える封筒は初めてだ……。
が……。しかたねぇ。黒猫だけって訳にもいかんだろう。……よし。さぁ!いくぞ!!
俺は覚悟を決めて写真を取り出した。うっ……お……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ…………。

 写っていたのは―――。

 “オタク達に交ざって狂喜しながら写真を撮りまくる俺。(正面から撮られているので被写体は見えない)”

 “メイドさんの格好をした可愛い女性に見つめられて、顔を真っ赤にしている俺”

 “そのメイドさんにそっくりな女の子が、エッチな事をされている同人誌を買っている俺”

 “そしたら妹から飛び蹴りを喰らい地べたに転がり、その勢いで降ってきたエロ同人誌まみれになっている俺”

 “なのに妹達の大量な荷物をを持たされて汗だくになっているのに、妹に怒鳴られてもヘラヘラ笑っている俺”

 …………写真っていうものは、ちゃんと時系列順に並べないと、もの凄い捏造ストーリーが生まれるんだな……。
俺は頭がおかしくなったのか、ツッコミ所がズレてきている。
そんなグロッキーな俺を畳み掛ける様に、あやせが冷たい瞳で、

「……やっぱり、お兄さんは変態だったんですね……。見直したつもりでしたが、考え方をもう一度改めさせて頂きます。」

 ……くそっ……沙織め……。折角あやせの評価が上がったと思ったのに……。

「さっきも言ったでしょう?この男は重度のシスコン変態鬼畜マゾ兄貴だって。」

 ついさっきまで涙目だった黒猫が、俺の雲行きが怪しくなってきたとみて復活してきた。
どんだけ意地悪なんだよ……。てか単語増えてるし……。

「だから妹の頼み事なら何でもしてくれるそうよ。」

 黒猫はあやせと沙織に目配せをしてテーブルの中央へと集めた。

「ほうほう。ナイスアイディアですなぁ。黒猫氏。」

「面白そうですね。不本意ですけど。」

 何を企んでいるんだ?てか…俺は仲間外れかよ……。すると三人は俺の方を向き、甘ったるい声で囁いた。

「……兄さん……。」

「……お兄さん……。」

「……兄上……。」

 俺は胸の鼓動が早くなるのを感じた。が…掻き消す様に言った。

「な、なんだよ!おまえら!いきなり変な声出しやがって……。」

 艶かしい顔で俺を見つめる三人……。

「……わ、わーったよ!何でも好きな物、注文しやがれ!!」

「あら兄さん。珍しく察しがいいわね。それじゃあ…モンブランとレモンティーをよろしく。」

「ありがとうございます。お兄さん。私は苺のショートケーキとミルクティーを。」

「兄上、かたじけないでござる。拙者、チーズケーキとカプチーノをお願い致しまする。」


 ――――――――――――――――――――


 やれやれ……。年下の女の子達にからかわれて…奢らされて……。あの時感じた嫌な予感はこの事だったのか――?
いや…そうじゃないだろ。あやせの過去や、黒猫の意外な一面を見たり……。俺にとっては貴重な一日になった。
そして何よりも、桐乃がどれだけ友達に想われているかも知った。俺の予感もあてにならないな……。

 今、目の前で“俺の妹達”が楽しそうにお喋りしながらケーキを食べているのを見ていたら、
桐乃だったら何を注文するだろう?……と、ふと思った。別に…桐乃に会いたくなったとか、そんなんじゃねーからな。

〜終〜



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最終更新:2011年04月06日 00:13