後に『ガチャぽんの乱』と呼ばれる事件からちょうど10年前。ランスぽんは朝から街の酒場で飲んでいた。
(くっ―――――今日も古傷が痛むな)
こういう時はよくないことが起きる前兆だ。グラスの中で氷がからりと音を立てる。
「マスター、ブレスワインをもう一杯頼む」
もう何杯飲んでいるかは覚えてはいない。
「・・・お客さん、そのくらいで止めておいたらどうです?それじゃあランポスにだってやられちまいますよ」
「構わん―――今日は狩りに行く予定はないんだ」
「そうですかい、そういうことなら・・・」
酒場のマスターは棚から新たなブレスワインを取り出しにかかった。


突然、ドタドタと階段をせわしなく降りる音が聞こえてきた。しかもどうやらこっちに向かって来ている。
(―――ふぅ)
いやな予感が的中したなとランスぽんはため息をついた。
「先輩っ!やはりここにいましたか!!」
数年前にランスぽんのパダワンだったドンちゃんという名前の男だった。
ランスぽんは億劫そうに振り返った。
「っ―――何だ、騒々しい」
「っはぁ・・はぁっ・・・それが大変なことになってしまって」
よく見たらドンちゃんは傷だらけだった。
「最近入団したばかりの二人組みが森丘へ鉱石を採掘しにいったらしいんですが、どうやら欲を出して飛竜の卵を持ち帰ろうとする途中で運悪くレイアに見つかってしまったようで・・・」
「レイアだと!?新人にはまだ倒せないな・・それでどうなった?」
「はい、古龍観測所の気球がレイアに連れ去られている二人を見かけたそうです」
「―――いつのことだ?」
「それが3日前のことらしくて・・・二人はマスターに無断で出発していたので発覚したのが今朝だったんです」
ランスぽんはそれを聞いて一気に酔いが引いていくのが分かった。
「3日前か―――まずいな」
ここから二人が捕らえられているであろうレイアの巣まで行くのに最短でも丸一日はかかる。
「急いで救出隊を編成するぞ。今は何人くらいパダワンが待機している?」
それを聞いてドンちゃんの顔が目に見えて曇った。
「すみませんっ・・・実はガチャぽんさんの歓迎パーティーでみんな出払っていまして」
「何だとっ!それでは動けるのは俺とドンちゃんだけか!?」
「そうなります」
「くっ―――仕方ない急ぐぞ!!マスター、そのブレスワインは帰ってきてからもらおうか!」
急いで荷物をまとめる作業に入るランスぽんであった。


「思ったよりも大分早く着いたな」
「はいっ、私も初めて気球ってのに乗りましたが思っていたよりずっと早くて驚きました!」
ランスぽん達は当初、徒歩とカヌーを使って行く予定であったが、途中に出会ったキャラバン一行に力を貸して貰ったのだった。
「ここからは徒歩になる。世話になったな、カシラ」
「なぁに、セブンウェポンズの手助けが出来たんならそれだけで自慢できるってもんさ」
カシラはそう言うと再び空へと旅立っていった。

そして歩くこと数時間、目的の場所に近づいてきた。この辺りまで来るとほとんど植物も生えていない。
「それにしてもあの二人・・・生きていますかね?」
「生存している確率は五分五分ってとこか―――レイアは獲物が十分弱ってから子供に生きたまま食べさせる習性があるからな」
「二人の体力次第ってことですね」
「そういうことだ。―――着いたぞ」
二人はレイアの巣がよく見渡せる断崖に到着した。ここの地形ならあちらからは見えにくいであろう。
早速、持ってきた双眼鏡を使って巣を見てみるがレイアの子供しかいない。
「―――ん、いないな。そっちはどうだ?」
同じく隣で双眼鏡を覗いているドンちゃんに話しかけてみる。
「んー・・・いないでsっ!!いました!!」
「どこだ!?」
「ほらあそこっ!東の崖を降っている・・っ!リオレウスに襲われているようです!」
それは降っているというより半ばころげ落ちているようだった。
しかし、人影は一つでもう一人の姿は見えない。
「お前は巣に行ってもう一人が残っているか確かめてきてくれっ!」
「っ!?分かりましたっ!!」
ドンちゃんはそう言うと巣へと全速力で走っていく。
(―――さて、ここから新米のところまで直線距離にして500Mってとこか)
ランスぽんは余計な荷物を捨て去り全速力で駆け出した。足場が不安定な地形とは思えないほどの速度である。
(―――――――あと300M)
ウォォォォオオオオオン!!
もう新米は体力の限界のようだ。リオレウスもそれが分かっているのであろう、挑発するように咆哮を上げる
(――――あと200M)
ついに新米はスタミナが尽きたようだ。その場に止まって息を整えている・・・しかしそれをリオレウスが見逃すはずもなく、一気に上昇して狙いを定める。
(――あと180M――限界かっ―――!)
すでにリオレウスは急降下を開始している。ランスぽんの決断は素早かった。走るのを止めずにそのまま角笛を吹く。
パ~プー♪パ~プー♪
その音にリオレウスは自分の意思とは関係なしに野生の本能からか反応してしまった。一瞬リオレウスの動きが止まる。
その刹那、ランスぽんは凄まじいスピードで走ってきたにもかかわらず右足一本でその勢いを止め、そのエネルギーを左腕一本に注ぎ込み、さらにランスぽんの恐るべき筋力が全て左腕のランスに込められた。
そのエネルギーが頂点に達した瞬間、ランスぽんは力を解き放った。
――投擲。

ギャギュギュギュギュンッ!!

リオレウス目掛けて大気を切り裂きながら凄まじい勢いでランスが飛翔する
コンマ数秒で目標に到達し、爆発的な運動エネルギーと衝撃波で内部から破壊を撒き散らしてレウスを貫いた。

――ドドォン!

凄まじい音と土煙をあげながらその巨体が地上へと落下していった。


九死に一生を得た新人――――名をヒロノリと言う。彼は呆然とランスぽんを眺めていた。
彼はスタミナが尽きた時点で自分の死を悟っていた。相棒は巣に運ばれたときにはすでに事切れていた。レイアの幼体に食べられているのをぼんやり眺めながら自分もいずれこうなる運命だと感じていた。
レイアが新たな獲物を探しに行くのを見計らって最後の力を振り絞って脱出したのはいいものの、上空で縄張りを監視していたリオレウスに見つかってしまったのだ。

「―――大丈夫か新人君?」
「・・・・・・・・っ!?あのっ、あなたが助けてくれたんですか?」
「ああ、危ないところだったな」
「それにしても一撃でリオレウスを倒すなんて・・・・ハッ!?まさか貴方は!!」
「―――巷ではランスぽんって呼ばれている」
「貴方があの有名な・・・」
「―――もう一人はどうした?」
「・・・彼はもう骨も残っていないでしょう・・・」
「―――――――そうか」
助かったと分かって安心したのかヒロノリは座り込んで泣き出してしまった。
「うぇっうぇっ・・・・ボクが卵を持ち帰ろうって言わなければ!!」
「どうして持ち帰ろうとしたんだ?」
ヒロノリはポツポツと語りだした。
「実はボクの家は貧しくて・・・それが嫌でハンターになろうって両親の静止も聞かずに家を飛び出してきたんです・・・。だから飛竜の卵を持ち帰れば少しは見直してくれるかと思って・・・」
「―――――そうか」
「でも・・・もうハンターは辞めて・・・・村に帰ろうと思います」
うつむきながら・・しかしハッキリとそう述べた。
「また元の生活に戻るがいいのか?」
「もう貧乏はいやだけど・・・死んだら何にもならないから・・・」
「――――手を出してみろ」
ヒロノリは訳の分からないまま手をおずおずと差し出すと、手のひらに見たことのない・・だが伝説を感じさせるモノが置かれた。
「・・・これは?」
「リオレウスの逆鱗だ」
「!?」
「それを持って帰り両親を喜ばすといい。そしてまたハンターに成りたいと思ったら俺の所まで来い。パダワンとして鍛えてやる。」
「・・でも、いいんですか?こんなに高価な素材」
「構わん、今日は狩りをする予定はなかったからな。貰っておけ」
ヒロノリはしばらく思案しているようであったがやがて立ち上がった。
「あ、あの!」
「どうした?遠慮しなくていいんだぞ」
「・・・これはありがたく受け取ります。でも、いつか何十倍にして返しますからっ!い、いつかランスぽんさんみたいになってみせますからっ!それまで待ってて下さいっ!!」
「フッ―――分かった、楽しみにして待っているぞ」
「は、はい!!」

後日、ドンちゃんから聞いた話ではヒロノリは故郷の村に帰って元の生活に戻ったらしい。ただし、少し裕福になったようだが・・・。


―――――――時が流れること5年後。

ランスぽんは酒場で飲んでいた。
「うぃーひっくやってられるかーー!」
昨日のことである。
ランスぽんは金と銀の飛竜が暴れているとの報告を受け討伐に行ったのだが、到着した頃には尻尾の切断された死体しかなかった。
徒労に終わった事より、久々に戦いがいのある敵を奪われたことのほうが頭にきていた。

何やら聞き覚えのある階段を降りる音が聞こえてきた。
「センパ~~イ!」
ドンちゃんである。
「何やらデジャブが―――何の用だ?」
「はぁっ・・はぁっ・・それがすごい新人が入団したらしくて、しかも先輩のパダワンになりたいとかで」
―――古傷が痛んだ。しかしこれは良いことがおきる前兆だ。
「もうすぐココにくるらしいです!」

誰かが階段を降りてくる、なにか重いものを担いでいるようだ。

―――――ドドォォン!!

酒場の床に二本の光り輝く飛竜の尻尾が置かれ、その持ち主であろうハンターはこう言った。

「貴方のパダワンになりに来ました!!」



後の2代目ランスぽんである。

|