672 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/02/21(月) 20:00:36.91 ID:tuKWP/uy0 [2/2]

SS『家族との日々』



「ただいま。今帰った。」

仕事を追え、家に帰り着くと、透き通った、天使達の声が迎えてくれる。

「おかえりなさい、京介さん。」
「パパ、おかえりなさい!」

玄関で靴を脱いでいる俺の前に現れたのは、マイラブリーエンジェル。あやせたんだ。
初めて会った時から、もう十数年も経っているのに、今だに瑞々しく、美しい。

それに、俺の娘―――綾乃だ。
いまは、まだ5歳になったばかりで、本当に可愛らしい。
あやせの子供の頃もこんな感じだったんじゃないかと思わせる、綺麗な黒髪に元気な笑顔。
目に入れても痛くないとは、このことなんだな、と実感できる。

名前に俺の名前の文字が入ってない?まあ、仕方ねーだろ。
妻の、たっての望みだし、俺の文字との組み合わせじゃ良い名前が思いつかなかったのさ。

「綾乃。ちゃんと言う事聞いて良い子にしてたか〜?」
「うん!きょうはね!ふたりでかんじのれんしゅうしてたんだよっ!」
「おっ、すごいな〜。どんな文字を練習したのかな?」
「あたしのなまえ、かんじでかいてみたの!」
「えらいぞ〜。綾乃はママみたいな立派な人になれるぞ〜」
「えへへ〜」

うん、さすがはあやせ。さっそく英才教育を行っているようだ。

「それにねっ!ふたりでメルルみてたんだよっ!」
「………あやせ………さん?娘に、何………教えてやがりますか?」
「そ、そのっ、桐乃がどうしてもって言うから………」

まったく、あいつは………こっちの方面まで英才教育になってしまうじゃないか?

「ま、まあ、仕方ないな。メルルはとりあえず子供向けアニメだしな………」
「す、すみません。」
「いや、謝る事はないさ。桐乃だって、そういうものを見て育って、
 今じゃモデルから執筆活動まで、色々な事で活躍できてるからな。」
「そうですね。ほんと、桐乃がうらやましいです………。」

そういうと、あやせはちょっと寂しそうな目をした。

「おいおい、おまえだって、事務所から続けないかって引き止められてたんだろ?」
「ええ。でも、私は桐乃と一緒に居たかったんです。
 私の事務所、私を海外で売り出そうとしてましたから………」
「お、俺とは?一緒に居たくないの?」
「なっ!?ま、またセクハラですか?………まったく、いつまでたっても変わらないですね?」
「ちょっ!?む、娘の前なんだから。」
「ねえねえ、パパたちなんのおはなし〜?」
「パ、パパたちの、昔の思い出話だよ。」
「そうよ〜。パパは昔からかっこよかったねってお話よ」
「うんっ!パパかっこいいもん!だいすきっ!」

ま、まあ、さすがに娘に触れ合ってる時間が長いだけあって、ごまかし方は手馴れたもんだな………
昔のあやせからは、ちょっと想像も出来ない気がするなあ。
昔は………潔癖で、嘘なんて絶対ダメ!とか、そんな所があったからな。

「ところで、夕食はもう出来てますけど、どうしますか?」
「パパ、あたしおなかぺこぺこ〜」
「うーん。確か、今日は桐乃の仕事は長引かないはずだから………
 綾乃。もうちょっとだけ待てるかな?」
「うん。もうちょっとだけがまんする。」
「綾乃はいい子だな〜」
「えへ〜」

そんな暖かい空気に包まれていると、外から慌しい音が聞こえてきた。
―――ガチャッ

「ただいま〜。綾乃ー、あやせー、京介ー。おまたせ〜」
「ママ!おかえりなさいっ!」
「おかえり、桐乃。もう、ご飯も出来てるよ。」
「桐乃、お仕事お疲れ様。」
「あやせ。今日も綾乃の事、ありがとね!それに、夕食もっ!」
「ううん、気にしないで。だって、これが私の仕事だもの。
 それに私、桐乃の幸せそうな様子を見るのが大好きなんだもん。」
「ママ、あたしもママのことだいすきっ!」
「お、俺も大好きだぞ?」
「うん。ありがと………それじゃ、みんなで食べよっか!」



楽しい声がリビングに響いている。
俺、妹の桐乃、俺達の娘、それに、今は家政婦をしてくれているあやせ。

普通の家族とは、ちょっと違った所もある俺達だけれども、
みんなの楽しそうな顔をみて、俺はいつもこう思うのさ。

俺の家族がこんなに愛しいわけがない。ってね。



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最終更新:2011年02月22日 00:52