463 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 20:59:56 ID:oSQj/gYq0 [3/6]
「で……なんでまた今年も俺が引っ張り出されてるわけ?」
「はぁ? 何言ってんのよ……フラれたあんたが可愛そうだから、イブにこうやって連れ出したげたあたしにお礼の一つも無いワケ!?」
 フラれてねぇ! ただ、向こうから「しばらく距離を置いた方が良いようね」って言われただけだ!
「それって『休刊のお知らせ』と同じだよね」
「薄々分かってるんだから言うなよ!」
 畜生……クリスマス前に彼女に振られた兄に投げる言葉がそれって酷くね!?  そりゃ、まあ家にこもってるよりはマシだけどよ……
おふくろなんか「浮気者には当然の天罰ね」なんてゲラゲラ笑ってやがるし……。 秋が別れの季節って決めたヤツとクリスマス
を恋人の日に決めたヤツはこの世から絶滅しろ! 
「……負け犬の表情やめてよ」
「今俺を負け犬扱いしたのおまえだよね!?」
 泣きたいよ! これだったらまだ家でエロゲやってた方がマシだ! 今から帰ってみやびちゃんとパーティだ畜生!
「……ほら、こうすればいーじゃん」
「え、ちょオイ……」
 桐乃が俺の手を取って歩き出す……まるで恋人のように。
「ほら、みんな見てるでしょ?」
「う……ま、まあな」
 わが妹ながら……外見だけは素晴らしく魅力的……というか、道行くカップルの男だけでなく、女の方までも振り向く程に
目を引く容姿は、着飾った恋人たちで溢れる中でも一際輝いていた。
「どう、ちょっとは自信出た? ……あたしが時間作ってあげたんだから、感謝しなさいよね」
「あ、ああ……やっぱお前って凄いな」
「キョロキョロしないでよ、堂々としたら? ……その……あんたも……京介も意外と悪く無いわよ」
「そか、やっぱ俺って磨けば光る原石だったんだな」
「磨いたのがあたしだから、石ころでも玉になるのね」
「もとは石ころなのかよ!」
「河原の丸いヤツかな」
「ちょっとはフォローしろよ!」
 『京介』ね……また恋人の振りかな? こんなくだらない会話していても……周りから見たら、やっぱりカップルに見えるんだろうな。
なんだかんだ言って、こいつと話していたら元気が出てくるから不思議なものだ。しかし……ダメ出しされっ放しってのもシャクにさわる……
と、ちょっぴり悪戯心が芽生える。
「ほら、行くよ」
「おう……危ないぞ」
 ひょい、と車道側の桐乃を抱き寄せて位置を入れ替える。……コイツの事だから真っ赤になって怒り出すだろうな。
「……!?  ……っ ……! あ、ありががと……」
 ……アレー?
「お、おう……気をつけろよな……ど、どうかしたのか?」
 ……? 怒らない……さ、さっきより距離が近い……というか密着……真っ赤だし……。
「ん……その……えっと、風邪気味なだけ、薬飲んでるし平気」
 うわ、調子悪かったのか。
「帰るか?」
「ううん、大丈夫……でも、ちょっと寒いかな」
 ……軽そうなショート丈のダウンジャケットを羽織ってはいるが……いつものように足を出し、薄手の生地ばかりの格好ではちょっと寒いかもしれない。
「どっかでちょっと温まっていくか」
「あっ……あたた、暖まってっ!? ……あ……」
 手を解き、脱いだコートを背中からかけてやる。中に着てるセーターが分厚いので、こっちはそう寒くないし。
……何をそんなに噛んでるんだ、俺のコート、クリーニングから返ってきたばかりだから、汚くなんかねーぞ。
「あっことかどうだ?」
「……ええ……っ!? ちょっ……! 待って、それ、そこはまだムリ! ムリだから!」
 どこ見てんのおまえ? ガキじゃねーんだから、今時そのくらいでうろたえんなよ……てかみんな普通にしてるっての……ほら、行くぞ。
「ほら、行くぞ」
「う……こ、こうなったらやってやるわよ! 覚悟しなさいよねっ!」
 ……何をだ?

468 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 21:16:44 ID:oSQj/gYq0 [4/6]
(続き)

「……」
「……何これ?」
「何って……鍋だけど? いやー、空いててよかったなー」
「フグ……よね」
「おう、フグだ。今日は奢ってやるから気にせず食え」
 コース料理だから値段変わらないけどな。またたかられるかもと思って、ちょっと多めに軍資金持ってきてたし。
でも、ウーロン茶とは言え、冬に鍋なんてちょっと大人の階段登った感じがするぜ……ケンタッキーで過ごしたあの日の俺よさらば!
「フツー、クリスマスにフグって無いよね」
 何が言いたいのか知らんが、あったまるし高いんだぞフグ……養殖だけど、雑炊とかは風邪にも良いし。
「勘違いしたあたしもアレだけど……せめてショットバーとか」
「冗談じゃねえ、おまえに酒なんか飲ませたのがバレたら親父に殺される」
 そういうのは、おまえが書いたケータイ小説の中だけにしてくれ。最近、やっと親父に認められて今日だって門限も伸びたというのに。
……それだって、日付変わるまでに帰らないとギリギリだぞ。あの2人、例年通りなら深夜過ぎだろうけど……。
「いいけどね、所詮あんたじゃこんなもんでしょ」
 京介呼びサービス終了ですか……メイド喫茶よりサービス短いな……ん?
「なあ」
「何よ」
「勘違いって何? ショットバーの酒って、多分冷たいのしかないよな?」
「…… ……あっ、あるわよっ! 色々っ! た、多分!」
 知ってるのか知らないのかどっちだよ。どーでもいいけど……あ、野菜は後から入れるんだ……。
「そう言うなよ、クリスマスに空いてるおしゃれな店なんて、渋谷に無いだろ……去年だって……」
 やべえ……また思い出しちまった……。
「何考えてんのよ……あんたまさか……へ、部屋とかとってないでしょうねっ……!?」
「ないない! おまえこそバカじゃねーの!?」
 有り得ないから! 妹となんて! ……いや、な、ないから! ……またくだらないことで喧嘩するなんてアレだな……
なんだかんだ言って、こいつなりに俺を元気付けようとしてくれた訳だし。
「ま、まぁとにかく食えよ……煮えてるぞ」
「……ニンジンいらない」

 じやあ大根と春菊でも食え。


474 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/24(金) 21:32:31 ID:oSQj/gYq0 [5/6]
(続き)

「ふいー、美味かったな!」
「……美味しかったけど……センスが最悪……」
「悪かったな、あんま慣れてなくてよ」
「去年、あんだけ言ったのに全然成長してない」
 しつこいなぁ……だいたいこの時期にそーいう店の予約なんて取れる訳ないだろうが。
「そういうおまえだって、まともなデートしたことも無いくせによく言うぜ」
「……ハァ?」
 あやせからも、ちゃんと聞いてるんだからな……おまえに彼氏が居たこと無い事ぐらいお見通しだっての。
だいたい、御鏡の事だって出まかせだったじゃないか。
「偉そうに言ってるけど、おまえ彼氏居たこと無いだろ? 俺の方がまだデートしたことある分マシだな」
 麻奈実だけどまぁ、一応ギリギリデートに勘定してもいいよな……こいつもそう言ってたし。
「あるわよ」

 ……んなっ……いやまて落ち着け、嘘に決まってるのに動揺してどうする……
ふ~っ………………ま、また、強がりか嘘か? いい加減俺の前でまで見栄を張るのをやめろっての。
「へえ……どんなヤツ?」
「そうね、あんたより優しくて、あんたより頼りになって、あんたより……あたしの事をメチャクチャ好きでいてくれる人」
 ……なっ……なんか具体的だな、まさかとは思うがおい……。
「ふふ、ふーん? すげーじゃん、まぁ、おまえと付き合えるようなそんなバカ、ドコにもいないだろうけどなー?」
「あっそ……居たらどうするの?」

 ……。
「居るわけないだろ」
 前にも言っただろ、今おまえを誰かに渡す気は無いんだよ。
「だから……もし、あたしに好きな人が居て、その人が……そんな素敵な人だったら」
 ぜってーいねーね、居たとしても俺と親父を足したよりも凄いヤツじゃなきゃ……たとえそうだったとしても認めてやるもんか
……反対だっつーの。今だって、明日だって、10年先だって……変える気がない決意をまた語るだけだ。あとついでにぶっ飛ばす。

「ぶっ飛ばす」
「ふーん、どんな奴でも?」
「ああ、絶対にぶっ飛ばす」
「『殴れないような相手』かもよ?」
「くどい、俺は一度言ったことは必ず守る」
「…… ……ウソ付き」
 くどいし……ウソって何の話だよ。てーか今度は機嫌よくなってるし……今の会話のどこに、こいつが調子づくような要素があったのか
皆目分からん。……女ってーのはつくづく意味不明な生き物だな。
「嘘じゃねえ、絶対に殴る」
「それも困るけど……まぁいいか……それで 『痛い目に遭うのは京介』 だしね~」
 おまえが困ろうが俺が痛い目に遭おうが、ぜってーぶん殴る……それが誰であろうとな。
「そうだ、これ……もういらないからあげる」
 にやにやと笑いながら、桐乃が小さな包みを投げてきた。ぽす、と受け取った紙袋を開けると、シルバーのストラップが出てきた。
「……わりぃ、俺……プレゼント用意して無い……」
「いいわよ、 『その人』 に渡すつもりだったけど、あんたに上げる」
「あ、ああ……じゃあ、今からでもおまえへのプレゼント、買いに行くか?」
「当ったり前でしょ……ほら、早くしないと今日中に帰れないよ?」

 振り返る桐乃の耳に、あのピアスが光っていて…… 「気に入ってくれたんだな……」 と、少しだけ弾む心と……今の話が
せめぎあって心がざわつく。……昔の話なのか? いや、だけど……今の口ぶりじゃ進行形……!?
差し出された妹の手を握りながら、よぎる不安を打ち払う。こいつにそんな男がいたら……
……構うものか、とりあえず誰であろうとぶっ飛ばすだけだ……こいつを他の男になんか渡せるかって……
こいつのそばに居ていいのは俺だけなんだって、そう言ってやるよ。
……なんてったって、俺は頭がおかしいくらいのシスコンなんだからな……簡単に納得してやるなんて思うなよ?
 まだ見ぬ敵役の顔を思い浮かべて、自由な方の拳にギュッと力を込め……そして、ショーウィンドーに映る姿に向かってその拳を突き出す。

「おめーなんか、一発だぜ」

(おわり)



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最終更新:2010年12月30日 20:16