794 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 20:46:04 ID:VK73UqvW0 [1/5]
「ほんとに大丈夫なんでしょうね?」
「お、おう。任せろ」

今日はクリスマス。俺と桐乃の二人で夜の渋谷に繰り出している。
俺が先日桐乃のノーパソを壊してしまい、責任取ってどっかに連れてけ、という流れになってしまったのだ。
別にクリスマスを狙ったわけじゃないんだが、桐乃に予定を訊くと今日しか空いていないという。
ならしゃあないわな。
親父達も夫婦で出掛けているし、却って好都合だろう。

「今日のためにちゃーんと調べてきたんだ。お前に絶対合格だと言わせてやる」
「ふーん? ま、期待はしてないけどね」
俺を小馬鹿にするようにニヤニヤ笑いを浮かべている桐乃。
くそう、今に見てろよ。

「まずはここだ!」
「イタリアンレストランか。あんたにしちゃまぁまぁかな?」
「ふふん、そうだろうそうだろう。」
俺だってやる時はやるんだぜ? どうだ見たか。
「……『渋谷デート』でググったら出てくるお店だよね、ここ」
そうだよチクショウ! どうせその程度だよ俺は!

あぁ……また馬鹿にされるのか俺。一発目からこれでは――
「どしたの? 早く入ろ」
「お? おう」
笑顔で俺を促す桐乃。
特に怒ったり呆れたりって様子でもないな。


その後もグーグル先生オススメのデートスポットを回ったんだが、桐乃は終始笑顔だった。
どんなダメ出しを喰らうかとビクビクしていたんだが……。
楽しんでくれてる、のか?


最後に訪れたのは夜景スポットだ。まぁ定番である。
「へー、結構良いトコじゃん」
そう言って、自然と腕を絡めてくる。
「ど、どうした急に」
「ほら、周り見て」
周囲を見回すとカップルだらけだ。当然ではあるが。
「腕ぐらい組んでないと却って目立つでしょ?」
「まぁ、そうだな」
平静を装っていたが、俺は急に落ち着かなくなっていた。
なんだよ、これじゃまるでカップルでデートしてるみたいじゃねえか。
いや確かに今日回ったのはデートコースなんだが。

795 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 20:47:45 ID:VK73UqvW0 [2/5]
「きょ、今日はどうだった?」
誤魔化すように声をかける。
「そだね。あんたにしては良かったよ。ちゃんと調べて考えてくれてたみたいだし」
「ま、まぁな」
「……嬉しかった」
な、なんだよ急にしおらしくなって……。
桐乃は俺の腕に頭をくっつけるようにして俯いていて、表情までは見えない。

「だから、99点かな」
「残りの1点は?」
「……アレ」
桐乃が指さした先を見ると、カップルがちょうど口づけを交わしているところだった。

「お、おま、あれはだって……」
「なによ、出来ないの?」
そう言いながら、俺の首に手を回してくる。
夜景の明かりのせいだろうか、桐乃の顔は真っ赤だ。

「100点じゃないと、不合格だから」
「……そりゃ困るな」
「でしょ? だから……」
目を潤ませて俺を見上げてくる桐乃。
さっきから俺の心臓はバクバクだ。

「……わかった」
周りの雰囲気にあてられたのか、今日の俺はどうかしているかもしれない。
桐乃の腰に手をやって抱き寄せる。
そしてそのまま……ゆっくりと唇を重ねた。

「んっ…………」
ほんの触れるようなキス。
時間にして数秒程度のはずだが、数分にも感じられた。

そっと唇を離すと、上気した顔の桐乃と視線が絡み合う。
気恥ずかしさから、つい目をそらして――




お袋と目が合った。





796 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/25(土) 20:48:33 ID:VK73UqvW0 [3/5]
「…………は?」
「あ、あんたたち何して……」
横を見ると親父も一緒だ。
ってさっきのカップルは親父達かよ!? 暗くて気付かなかったよ!

「……京介、桐乃、ここで何をしている?」
「ちょっと! あんたたち、今……キスしてなかった!?」
ヤベエ! なんだこの超展開は! あまりにも想定外すぎるだろ!
お、落ち着け……ここは薄暗い。よく見えていなかった可能性もある。上手く誤魔化せば……。

ふと桐乃を見やると、『任せて』といったニュアンスの頷きを返してくる。
よし名案があるんだな? お前に命を預けるぜ。
桐乃はおもむろに口を開き……。

「うん、してたよ」

ちょっと待てえええええ!?
なんで!? なんでカミングアウトしちゃうの!?

親父達はまさかの返答に絶句している。
そりゃそうだよ。俺も絶句だよ。

「ところでお父さん」
「……な、なんだ?」
これ以上何を言おうというんだ……。さすがの親父も動揺気味だ。

「さっきのお父さん達のキス、すっごい熱々だったよね。びっくりしちゃった」
「な、ば、ななな、な、何を……!」
おおすげえ。親父が押されている。初めて見るかもしれん。

「行こっ!」
親父達が怯んだ隙をついて、俺の腕を取って走り出す桐乃。
ああもう分かったよ! 付き合ってやる!

「ま、待ちなさい二人とも!」
慌てたようなお袋の声が聞こえる。こりゃ後で酷いな。
……ま、でもいっか。
なんだか嬉しそうな桐乃の顔を見てると、悪くないって思えてくる。


走りながら一瞬だけ桐乃が振り返り、満面の笑みで親父達に呼びかける。
「メリー・クリスマス!」



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最終更新:2010年12月30日 20:21