Blood bath(後編)

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

Blood bath(後編)  ◆KKid85tGwY



「…………ってことは、もうあのシャドームーンとかいう奴から逃げることもできないんですか!?」
「信じないなら、試してみるといい。君がここから逃げ出そうとした途端、あいつの光線に撃ち抜かれるぞ!
全世界でベストセラーになった『どんと来い! 超常現象』や『なぜベストを尽くさないのか』の著作者でもある
日本科学技術大学教授の私が言うんだから間違いない!」
「それあんまり、関係ないんじゃないですか…………?」

 亀山は上田からこれまでの経緯を聞く。
 それは驚くべき、そして恐るべき内容だった。
 すでに北条沙都子というう少女を、東條とミハエルが殺害している。
 そしてシャドームーン。
 異常な戦力で仮面ライダーと呼ばれる存在2人を圧倒し、上田たちの逃走を2度も阻んだという。
 普段の亀山ならにわかには、信じがたい話だ。
 だが実際にシャドームーンがその異常な強さを発揮して、戦っているのを見れば信じるほかはない。

(クソッ!! せっかく来たのに、あんな化け物が相手にどうしろって言うんだ!)

 危険を冒して公園まで来ても、亀山は自分の無力に歯噛みするしかなかった。
 戦うことも逃げることもできない絶対的な存在、シャドームーン。
 シャドームーンが殴り飛ばしたギガゼールが、亀山たちの近くまで飛んできて爆発した。
 それだけでシャドームーンとの戦いが、次元の違うものだと理解できる。
 ふと見ると瑞穂は、亀山たちより近くでシャドームーンの戦いを
 何かに取り付かれたように眺めていた。

 明らかに人にあらざる銀色の体躯。
 それから発せられる禍々しい気配。
 たった1人で多数を圧倒し、公園を破壊する戦力。
 最初に橋から島の上空で目撃した時から予感が働いていた。
 だからこそ危険を覚悟の上で公園まで来たのだ。
 そして実際に目撃し、上田の話を聞いて確信に変わる。
 街の占い屋さんで、いずれ自分が地球のために悪と戦うとメッセージを受けた。
 瑞穂自身はそのことを疑っていたわけではない。
 ただ、地球のために戦う相手である悪がどんなものか、漠然とすら想像もできなかったのは確かだ。
 プログラムで桐山を見た時、アフラ・マズダ様は悪魔だと言っていた。
 それに異論は無い。だが『地球を脅かす悪』かと言われると、疑問に思う。
 しかし、今、現実となって『地球を脅かす悪』そのものが目の前に居る。
 ゴルゴムのシャドームーン。
 間違いない、こいつこそ宇宙の戦士である自分が倒すべき悪だ。
 だが同時に理解できる。
 今の自分では、どうしたって絶対あいつには敵わない。
 地球を脅かす絶対的な悪とは、これほど途方もない存在だとは。

 光の戦士プリーシア・ディキアン・ミズホは、初めて対峙する巨悪に戦慄を覚えた。

「瑞穂ちゃん、危ないから! もっと離れよう、な!!」

 亀山は瑞穂の手を掴み、無理やりシャドームーンから離そうとする。
 瑞穂もそれに抵抗することなく引かれていく。

「上田さん、俺たちももう少し離れましょう」
「だから、逃げようとすると撃たれるんだ!」
「でも、こんな近くじゃ巻き込まれるかも知れませんよ!」

 そして相変わらず立ち上がれない上田を肩に乗せ、亀山はシャドームーンから更に離れようとする。
 瞬間、シャドームーンがシャドービームの照準を亀山たちに向けた

(げ、これだけで本当に撃ってくるのか!?)

 放たれるシャドービーム。
 その射線上にナイトが上空から滑り込んできた。
 ナイトはウィングランサーを盾にする形で構えていた。
 それでもシャドービームの威力は殺しきれず
 15mは地面を転がり、亀山たちの足下まで到達した。
 もしナイトが割って入っていなかったら、間違いなく亀山たちは死んでいた。
 恐ろしいまでの攻撃の威力と精度。何よりシャドームーンの隙のなさ。
 しかし上田はそれよりも気になることがあった。

「…………な、なぜ君が私達を助ける?」
「……今、上田さんに死なれたら困るかも」

 いつの間にか近づいていた、タイガが上田の疑問に答える。

「お、お前たちが北条沙都子って少女を殺したって言うのは本当か!?」
「殺したんじゃなくて救ったんです。でもその話は後にして下さい」
「その話は後だ~? 人を殺しておいてなんだと思ってるんだ!!」
「今はそれで議論している場合じゃないですよね? 上田さん、なぜライダーに変身しないんですか?」

 詰め寄る亀山を冷静に往なして、ナイトは上田に問いかける。
 亀山も感情的には納得いかないが、たしかに今は議論をしている場合ではないと理性では理解しているため
 渋々だが矛を収めた。

「すまないミハエルくん……私がこんな身体ではなかったら…………」

 そう言って、何故か上田はわざとらしく咳き込む。

「質問を変えましょう、なぜライダーに変身しなかったんですか?」
「……わ…………私はね、日本の最高頭脳にして知的財産なんだ! そして私の頭脳は非常~にデリケートにできているんだ!
ライダーに変身なんかして戦って万が一にもそれが失われたら、地球的規模の損失を生むことになるんだぞ!」

 どこまで本気か分からない上田の弁明に、その場にいる全員が冷ややかな視線を送る。

「……その、ライダーデッキですか? 使わないなら、俺に貸してください!
俺は刑事ですから、俺がそのライダーってやつになって戦います!」
「そうね、戦士であるマウンテンカメールが使ったほうがいいわね」
「……マウンテンカメール?」
「いや……それはまあ、置いておいて……」

 上田が駄目ならと、亀山がデッキを使うと名乗り出た。
 しかしタイガがそれに制止をかける。

「いや、まだ上田さんが使っていたほうがいい……」
「なんでだよ!? 変身したほうが戦力は増すんだろ?」
「上田さんには、これまでモンスターを操ってきた慣れがある。
それで、作戦があるんだ」

 作戦。その言葉に場は色めきだつ。

「作戦、ってなんだよそれ!?」
「これまでの戦いから、あいつにはこっちの攻撃はほとんど通用しないのが分かった。
あいつを倒せる可能性があるとすれば、きっとファイナルベントくらいだ。
……でも、簡単にそれを喰らってくれるやつじゃない……。だからあいつの動きを止める。
そのために僕とミハエルくんと上田さんで連携する……」
「そ、そんな上手い作戦があるのか?」
「……とにかく、今は作戦の是非を議論してる時間は無いかも……。それと上田さん」
「what!?」

 タイガが彼にしてはらしくもなく言葉を強めたため、呼びかけられた上田に緊張が走る。

「次に裏切ったら、全員死ぬことになるよ……?」
「ハッハッハ! わ、私は……別に…………ルラギッタワケデハ…………」

 とにかく反対する者もなく、タイガの作戦が決行される運びになった。



 突如シャドームーンの背後の木から、破壊音が聞こえてくる。
 デストワイルダーとゼール種数匹が、木を切り倒す。
 背後から倒れてくる木を、シャドームーンはなんなく払い除ける。

――TRICK VENT――

 再びモンスターに周囲を囲まれる形になったシャドームーン。
 そのモンスターの群れの中にナイトの姿が見えた。
 しかも1人ではない。6人7人と姿を現す。
 そのナイトが一斉に、シャドームーンへ走りよる。

(数を増やしただと? いや、虚像か)

 複数のナイトは虚像による分身だと当たりをつけ、シャドームーンはマイティアイで解析をする。
 どれも外見上に実体との相違点は見られない。
 それでもナイトの足下。足を運んでいる地面に目を向けた。
 そこは砂利だったが、出来上がるべき足跡がない。
 やはり質量のない虚像だった。
 しかし全てが虚像で、実体を捜しても存在しない。
 虚像の1人がが飛びかかってきた。叩き落そうとするが掻き消える。
 次々と虚像が飛び掛ってくるが、何もできずに掻き消えていく。
 不審に思うシャドームーンは気づかない。
 マイティアイは透視能力を有する。だが、任意に選択しないと発動しない。
 だから次々にただ飛び掛ってくるナイトに視界を奪われたシャドームーンは、気づかなかった。
 ゼール種の方位が縮まっていることを。
 全てのナイトが消えるのと同時に、何体ものゼール種たちがシャドームーンへ一斉に飛びかかる。
 ゼール種の優れた脚力に不意を衝かれたこともあって
 シャドームーンは両手、両脚、胴体、頭部と全身を覆われるような形でゼール種たちに取り付かれる。

――FREEZE VENT――

 ゼール種たちがシャドームーンに取り付くのと、タイガがフリーズベントをベントインしたのはほぼ同時。
 もし一瞬でもベントインが遅れていれば、ゼール種たちは軽々と振り払われていただろう。
 ゼール種たちはシャドームーンに取り付いたまま、瞬時に絶対零度の冷気で凍結した。
 ちなみに他のゼール種たちは、ミラーワールドに避難していた。そちらはフリーズベントの効果を受けていないらしい。

「よし、今度こそ逃げるぞ!!」
「ちょっと待って! まだ終わってませんて! それにかなみって子が、まだどこかで生きてるかもしれないんでしょ!?」

 シャドームーンを捕縛したと見るや、上田はすぐに逃げるよう亀山に指示を出す。しかし亀山はそれを拒否。
 その様子を見てタイガは深い溜息をつくが、すぐに気を取り直してナイトに話しかける。

「ミハエルくん、今の内に君はファイナルベントを使って。
僕のファイナルベントは、あの状態の相手には使いづらいかも……」
「分かりました。…………心配しないでシャドームーン。あなたもこれからは私の胸の中……同志の夢の中に生きていけます」

 東條もミハエルも、この機に逃げるつもりはない。

 かれらの目的はあくまで全ての参加者の救済。
 無論、それで自分たちが志半ばで死んでしまえば本末転倒なのだから必要ならば逃走という手段も使う。
 しかし、最後には全ての参加者を『救う』ことが目的なのだから
 『救う』機があれば、多少の無理をしてもそれを為す覚悟だ。

――FINAL VENT――

 ナイトがウイングウォールを使い天高く飛行した。
 そして自分の身体を軸にキリモミ回転して、ウイングウォールを巻き込んでいく。
 突き出したウィングランサーを先端に、ドリルのような状態となる。
 ナイト最高の攻撃力を誇る技、飛翔斬の体勢が整った。
 高速回転したまま、シャドームーンへ向け急降下していく。
 タイガもまたデストバイザーでシャドームーンに向かっていった。
 同時攻撃で必ず仕留める。2人のライダーの覚悟が重なった。

 瞬間、シャドームーンの胴体に取り付いていたオメガゼールが陶器のように爆砕し
 内側から、雷のごとくうねりを上げるシャドービームが飛び出してきた。
 そして両腕のゼール種も電撃状のシャドービームで破砕された。

「伏せて!!」

 瑞穂の叫び声に反応して、亀山が地に伏せる。
 その上をシャドービームが通り過ぎていった。
 瑞穂の判断の早さがなければ、3人は直撃を受け死んでいただろう。上田は最初から立てなかったが。
 しかし攻撃態勢に入っていたタイガとナイトはそうもいかない。
 シャドーチャージャーからのシャドービームは幾つにも枝別れしており
 それぞれ、タイガとナイトを捉えた。
 その威力に負け、タイガはあえなく吹き飛ばされる。
 しかしそれも一瞬のこと、シャドービームはすぐに見当違いの方向に行き
 公園遊具や木々を無意味に破壊していった。

 シャドームーンが、シャドーチャージャーと両手からシャドービームを放った理由は2つ。
 1つは自分を拘束するモンスターを破壊するため。
 もう1つは拘束されてすぐにくるであろう、敵の攻撃を迎撃するため。
 しかし頭部の感覚器官を防がれていたシャドームーンは、いつどこから攻撃が来るか正確には分からない。
 だからシャドービームを可能な限り拡散し、全方位に放ったのだ。
 従って威力も拡散する。重装甲であるタイガの受けたダメージは、見た目の印象よりも小さい。
 さらにナイトの場合は飛翔斬を放っていた。
 飛翔斬はその技の性質から、突撃貫徹能力に極めて秀でている。
 ゆえにシャドービームを受けても、なお押し負けずに
 逆に突き抜けることができた。
 そして飛翔斬は――ナイトがそれを知らないので偶然ではあるが――シャドームーンの数少ない弱点部分である
 シャドーチャージャーに直撃した。
 両手のシャドービームで、足を拘束するモンスターを破壊していたため
 シャドームーンは10mほど地面と垂直に飛んだ後、半壊したジャングルジムに突き刺さった。

(ミハエルくん……)

 飛翔斬を打ち終わったナイトは、地に落ちたまま倒れて動かない。
 突き抜けたとはいえ、シャドービームとの相打ちだったのだ。
 実はタイガ以上にダメージは大きい。
 タイガはナイトを心配するが、まだすべきことは残っている。

「…………やったのか?」
「まだ浅い……。あれくらいで、倒せる相手じゃないよ」

 様子を窺う亀山に、タイガは起き上がりながらはシャドームーンの存命を予測する。
 はたしてその通り、シャドームーンは纏わりつくジャングルジムをシャドービームで弾き飛ばし起き上がる。
 しかしその動きはどこか重い。
 つまり、まだ好機は続いている。

「上田さん、もう1つの作戦でいこう……」

 シャドームーンは自分の怪我の状態を探る。
 どうやらシャドーチャージャーの損壊は、軽いものらしい。
 いかに飛翔斬といえど、シャドービームを受けての攻撃だったのだ。
 しかもシャドーチャージャーとて、決して脆い物ではない。
 与えられたダメージは小さい。シャドームーンの修復能力なら、さほど時間も掛からずに完治する程度だ。
 それでも全身へのエネルギーの供給には、僅かに支障は出ている。
 しかしその間を見過ごされるはずもなく、ゼール種の群れが押し寄せてきた。
 多少の負傷をしていても、今さら群れに頼んだ単調な攻撃はシャドームーンに通じない。
 多少動きは悪くとも、仕掛けてくるゼール種を確実に仕留めていく。

――FINAL VENT――

 その水たまりは、ちょうどシャドームーンの足元の少し後方、つまりマイティアイの死角にあった。
 そして『水面』からのミラーモンスターの現出自体には、何の発音も生じない。
 ゆえに今度こそ、シャドームーンに対する完璧な奇襲と化した。
 水たまりの水面から現れたデストワイルダーは、シャドームーンを背中から押し倒す。
 そしてシャドームーンを地面に引きずりながら、タイガの下に駆けていく。
 デストクローで待ち構えるタイガ。
 タイガ最大の攻撃力を有するファイナルベント、クリスタルブレイクの態勢。
 これで引きずられてくるシャドームーンを、デストクローで刺せば結晶爆発で倒せる。
 それでもクリスタルブレイクは破られやすい技だ。現に王蛇とゾルダに破られている。
 しかしタイガには、シャドームーンにクリスタルブレイクを決められる自信があった。
 何故なら、シャドームーンはうつ伏せで引きずられているためだ。
 王蛇やゾルダの時は仰向けにしていたから、デストワイルダーが反撃を喰らって破られた。
 うつ伏せの体勢なら、そうは反撃がこない。
 それにこのうつ伏せにしてのクリスタルブレイクは、恩師の香川を倒した技でもある。
 そんな由縁ゆえに、タイガは絶対の自信を持っていた。

 引きずられ火花を散らしながらシャドームーンはエルボートリガーを振るうが、デストワイルダーには当たらない。
 シャドームーンの抵抗にも関係なく、デストワイルダーはタイガとの距離を縮める。
 後1mでタイガと接触する。というところで、シャドームーンの手から電撃状のシャドービームが放たれた。
 捕縛され動きを止めるデストワイルダー。
 さらにデストワイルダーは軽々と持ち上げられ、タイガに投げつけられた。
 280kgあるデストワイルダーの巨体を叩きつけられ、押し潰される形で倒れるタイガ。
 デストワイルダーを押し退けて立ち上がる。まだシャドームーンにあれだけの力が残っていたのかと、驚く余裕もない。
 シャドーパンチが打ち込まれる。
 デストクローで防御が間に合ったのは、最後の余力。
 弾き飛ばされ、倒れていたスベリ台の残骸に叩き込まれる。
 そのスベリ台の残骸をも吹き飛ばし、10mは地面に転がった。
 もはや立ち上がる余力さえなく、地面に倒れたまま動かないタイガ。
 そのタイガの変身が解け、東條悟に戻る。
 見ればナイトの変身も解けて、ミハエルに戻っていた。
 ついに2人の変身時間が終わったのだ。

 強い。途轍もなく強い。
 ライダーの強さがどの程度のものか知らない亀山でも分かる。
 シャドームーンはただ力があるというだけに尽きない。
 技術がセンスが発想が、何よりどれだけ攻められても揺るぎない闘争心が
 とにかく戦闘に関するあらゆる点でずば抜けている。付け入る隙がまるでない。
 亀山の身体が震える。恐怖によって。
 まだインペラーのデッキはある。だが、それがシャドームーン相手にどれほどの足しになるというのだ。
 もはやどう足掻いても、シャドームーンに殺されるしかないように思える。
 警察官になった時から死は覚悟していたつもりだった。
 そもそも警察の仕事が、身を挺して人々を守ることの連続だ。
 だが、こんな想像を絶する化け物を前にしては絶望感しかない
 亀山は単純な死ではなく、シャドームーンという存在そのものに恐怖していた。

 その恐怖の中である気づき。
 コンクリート製のスベリ台の破片が散乱している場所に小さな人影が倒れている。
 長い髪を後に括った、まだ幼い子供だ。

(……あれは上田さんの言っていた、かなみちゃんじゃ!)

 震えが止まり、別の意味での戦慄の襲われる。
 かなみの位置は、この場の誰よりも――――シャドームーンから最も近いのだ。

「上田さん、カードデッキを貸してください!」
「ひ、1人で逃げるつもりか、刑事のくせに!」
「違いますよ! ほら、あそこにかなみちゃんんが居るでしょ! 助けないと!!」
「……おう、本当だ! だがミラーモンスターを向ければいいのではないか?」
「それじゃどうにもならないのは、散々試したじゃないですか!
……ライダーなら、まだどうにかできるかもしれないでしょう」
「多分、できるのは時間稼ぎくらいだぞ。それができたとしても、稼いだ者は……」

 言葉を濁す上田。しかし言いたいことは、亀山にも充分に伝わっていた。
 再び震えが襲った。怖くないといえば嘘になる。
 だがここで逃げるわけにはいかない。
 ここで逃げたら、自分が警察になろうとした理由を、瑞穂に言った言葉を裏切ることになる。

「…………だからこそ、俺が行くんです! 警察官の――――特命係の俺が!」



 かなみの頭上を覆っていたスベリ台の瓦礫が吹き飛び、外の喧騒が止んだ。
 戦闘が止んだのだろうか? 
 かなみは痛む上体を起こし、周囲をうかがう。
 そしてそこにはシャドームーンが居た。
 目と鼻の先。互いが確実に認識できる距離だ。
 かなみに再び、最初にシャドームーンを見た時の恐怖が蘇る。

 純粋な悪意、純粋な殺意、純粋な蔑み――――。
 ――――それだけではない。

 かなみはこの時初めて、シャドームーンの深層に闇。いや、虚無があるのを知った。
 それは例えるなら小さな喪失ではなく、心の中の大事な基盤を失ってしまって人では無くなってしまったような。
 かなみの直感は精確を得ていた。
 シャドームーンは脳改造を受けた、完全な改造人間だ。
 つまりブラックサンなどとは根本的に異なる。
 人間の頃の記憶はあれど、その心は強制的に排除された存在だ。
 だから世紀王の自我の奥には、底知れない虚無がある。

 かなみはシャドームーンが可愛そうに思えてならなかった。
 おそらくシャドームーンは、自分が哀れで孤独であることさえ気づいていないのだ。
 かなみは恐怖も忘れ、哀れみを込めた視線をシャドームーンに送る。

 その哀れみのこもった視線を受け、シャドームーンは
 先ほどまでの戦いにも感じなかった、微かな苛立ちを覚えた。
 理由は分からないが、愚かな人間が自分を哀れんでいる。
 それもこれから殺されようという時にだ。
 シャドームーンは独特の足音を立てかなみに歩み寄り、見下ろしながら言い放った。

「他の人間を呼べ。そうすれば命は助けてやる」

 シャドームーンは試し、とも言えぬ戯れを試みる。
 他の人間を呼んだところで、助けてやるつもりなどない。
 ただ、自分を哀れんだ人間が命乞いするさまを見て溜飲を下げたいだけだ。
 それに他の人間を呼ばせれば、手間も省ける。
 しかし、かなみは一言も発さない。
 声を発せないのか? ならばそれを確かめる。
 シャドームーンは、かなみの左腕を軽く踏む。
 それで左腕の骨は容易く折れた。
 しかし、かなみは声を発さない。
 その目を瞑り耐える表情を見れば分かる。
 かなみは声を発せないのではない、必死に耐えているのだ。
 シャドームーンの苛立ちは、さらに強まる。
 そう言っても人間に例えれば、戯れに弄んでいる虫が思い通りに動かない程度の苛立ちだが。
 しかし虫けらを踏み潰す理由には充分だ。
 シャドームーンは、かなみの頭の上に足を置き地面に押し付ける。

「他の人間を呼べ。楽にしてやる」

 そう言って、徐々に踏む力を強くしていく。
 鈍い激痛がかなみの頭を襲う。
 それでも声を発さない。

「苦しんで死にたいらしいな」

――SPIN VENT――

「うおおおおおぉぉぉっ!!!」

 気勢を上げインペラーが右手に装備した2本のドリル状態の角、ガゼルスタップで殴りかかる。

しかしシャドームーンに、あっさり払い飛ばされた。

「まだ居たか。どこまでも懲りない人間どもだ」

 インペラーはさらに2度3度と、ガゼルスタップを繰り出していく。
 シャドームーンがエルボートリガーを振るった。
 ガゼルスタップの角は、呆気なく切り落とされる。
 しかしその隙にかなみの頭に乗る、シャドームーンの足を蹴り飛ばす。
 さらに左の拳で殴り飛ばした。
 インペラーにタイガやナイトほどの洗練された技量はない。
 ただ、後を省みない気迫があるだけだ。
 しかし命を賭けた実戦では、それは時としてどんな巧みな技術よりも効果を上げる。

「へっ! ざまあねえな、何とかムーンさんよ!!」
「貴様っ!!」

 シャドームーンが伸びきっていたインペラーの左腕を掴み、力任せに叩き折った。
 インペラーに激痛が襲う。しかしそれに耐えながら、インペラーはカードをベントイン。

――FINAL VENT――

 インペラーの契約モンスター、ゼール種の群れ。と言っても、もう10体も残っていないが。
 それが一斉にシャドームーンに飛び掛っていく。
 既にゼール種の攻撃は完全に見切っているシャドームーンは、全て捌いていく。
 しかし、最後のインペラーの膝蹴りだけは見切れなかった。
 仮面ライダーが瞬間的にでも、最大の力を発揮できる技、それがファイナルベントである。
 その膝蹴りがシャドームーンの顔面に直撃。
 シャドームーンは頭部に受けた衝撃で身体ごと空中に舞い、放物線を描いて海に着水した。

「大丈夫か!? しっかりしろ!!」

 かなみはインペラーに抱き起こされる。
 インペラーの姿。しかし上田ではない、聞いたことのない声。
 しかし、安心できる相手だとは分かった。

「…………ありがとう……ございます」
「ははは、そんなに丁寧な返事ができるんなら大丈夫だ!」

 インペラーの脚力は、かなみを抱えて一足飛びで上田たちのところへ行けた。
 ようやく立ち上がることができた上田に、インペラーはかなみを預ける。

「……マウンテンカメール」
「そんなに心配するなよ瑞穂ちゃん。それとさすがに締まらないから、その呼び方は止めてくれ。
上田さん。あいつは俺が引き受けたから、瑞穂ちゃんとかなみちゃんを頼みます。
…………そして、皆で杉下右京って人のところへ行ってください!
右京さんなら…………右京さんなら必ず、この事件も解決してくれます!」
「君がそれだけ言うんなら、よっぽどの人物なんだろうな」
「ええ。俺が世界一信頼している、たった1人の相棒です」

 水音がした。振り返れば、シャドームーンが悠然と地上に上がろうとしている。
 やはり与えたダメージ自体は小さい。足止めする者が必要だ。

「さあ、早く行って! …………早く!!」

 上田と瑞穂はただ黙って首肯し、走り去っていく。
 亀山としてはあのメンバーに不安がないわけではないが、今となっては無事を祈るほかない。
 3人の姿が遠ざかるのを確認し、シャドームーンに立ち向かう。

【一日目早朝/F-5 橋の上】
【上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]:無し
[支給品]:支給品一式、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に
[状態]:額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲
[思考・行動]
0:シャドームーンから逃げる。
※ 龍騎のライダーバトルについてだいたい知りました。カードデッキが殺し合いの道具であったことについても知りましたが、構造などに興味はあるかもしれません。
※ 東條が一度死んだことを信用してません。

【由詑かなみ@スクライド(アニメ)】
[装備]:無し
[支給品]:支給品一式、ランダムアイテム(1~3確認済み)
[状態]:左腕骨折、頭部に損傷、全身打撲
[思考・行動]
1:シャドームーンから逃げる。
2:カズマに会いたい。
3:アルターが弱まっている事、知らない人物がいる事に疑問。
※彼女のアルター能力(ハート・トゥ・ハーツ)は制限されており
 相手が強く思っている事しか読む事が出来ず、大まかにしか把握できません。
 又、相手に自分の思考を伝える事もできません
※本編終了後のため、自分のアルター能力を理解しています。

【稲田瑞穂@バトルロワイアル(小説)】
[装備]:模擬刀@現実
[支給品]:シアン化カリウム@バトル・ロワイアル、本人確認済み支給品×2、支給品一式
[状態]:疲労(小)、アフラ・マズダ様のお声が聞けないため若干落ち着かない(´・ω・`)
[思考・行動]
1:シャドームーンから逃げる
2:神秘の水晶を奪還し、アフラ・マズダ様と再び交信する。
3:悪は討つ。
4:右京と言う人間は……?
※シャドームーンを『地球を脅かす悪』だと思っています。
 シャドームーンが独特の足音を立てながら、亀山に近づいていく。
 その向こうでミハエルと東條が逃げていくのが、見える。
 しかも、いつの間にかフライングボードに乗って。

(あいつら、いつの間に! …………まあ、瑞穂ちゃんたちとは逆方向だから鉢会うことは無いか……)

 ミハエルと東條が向かっていったのは西の方角。
 ならば瑞穂たちとは距離を置いた形になる。
 ともかく、これで公園――もはや元公園というべきか――亀山以外の全員が逃げたことになる。
 これで何の気兼ねも無く戦うことができる。
 どうしたって、絶望的な戦いだが。

「どうだ? 皆、逃げちまったぞ! 本当にざまあねえな!」
「…………見事だ」
「はあ?」
「見事だ。たかが人間が、ここまで私を手こずらせるとは……」

 惰弱な人間がたった1人で、自らの命を賭して世紀王に立ち向かうつもりらしい。
 勝ち目がないことは、理解しているだろうに。
 その亀山の姿にブラックサン、南光太郎の姿が重なる。
 シャドームーンは思い返した。
 ブラックサンは脳改造を逃れ、人間の精神を保っているからこそ
 強大なゴルゴムを敵に回し、戦い抜いてきたのだと。

「…………いいだろう人間、認めてやる。これは茶番ではなく戦い、殺し合いだということを。
貴様らがブラックサンのついでに片付ける塵ではなく、倒すべき我が敵だということを」
「……何を偉そうに、訳わかんねえこと言ってんだ! お前こそ、降服するなら今の内だぞ!!」

 残ったカードは少ない。
 何れにせよ小細工の通じる相手じゃない。
 ならば真っ向勝負で行くだけだ。
 インペラーの脚力で全力の踏み込み。
 その勢いを乗せ、右の拳を繰り出す。
 それをシャドームーンは緑に光る左の拳で迎え撃った。
 真っ向からの拳の打ち合い。
 勝ったのはシャドームーン。
 そして負けたインペラーの拳は、粉々に砕け散った。

「うああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 激痛という言葉が陳腐に思える異常な痛みに、インペラーはのたうち回る。
 そのインペラーの身体が、サッカーボールのように蹴り飛ばされた。
 インペラーは地面と平行に、20mほど飛んで木にぶつかった。
 仮面の下で血を吐く、どうやらあばら骨が折れて、内臓までやられたらしい。
 何より恐ろしい、事実に気づいた。
 シャドームーンはまだ全力を出していなかったのだ。

「図に乗るな人間! 私は世紀王シャドームーン! 用意された王座、玉座に座るだけの人間の統治者と同じに思うな!!
力でもって全てを支配するこの世界唯一絶対の真の王、創世王となる存在なのだ!!
我が敵と定まった以上、貴様らの死は絶対だ!!」

 シャドービームが放たれる。
 それはインペラーの胴体を紙のごとくに貫いた。

 シャドームーンはインペラーの胴体を貫通したのを確認する。
 あれでは生きてはいまい。
 インペラーの死を確認し、東を向く。
 マイティアイは未だ、瑞穂たちの姿を捉えている。
 そしてシャドービームの射程内。
 シャドームーンは、ゆっくりと瑞穂たちに手を向けた。
 そこに、横から来ないはずの蹴りが飛んできた。
 シャドームーンはそれを余裕で避わし
 しかしさすがに驚きをもって、インペラーを見つめた。

「人間が胴体を貫通して生きているのか?」
「…………創世王だか……ソーセージだか知らねえがな…………警察を……舐めるなよ!
特に……俺たち特命係はな……………………どんなきつい事件からも逃げたことはねーんだよ!!」

 間違いない胴に大きく穴が開いている。
 全身に受けたダメージは、確実に致死量に至っている。
 それでもなお、インペラーは戦うことを止めない。

 何がインペラーを支えている?
 いや、何であろうと構わない。
 相手が敵である以上、こちらも全力を持って葬るまで戦うのみ

「…………フッ、掛かって来い我が敵よ」

     ◇     ◇     ◇

 ミハエルがフライングボードを手に入れたのは偶然だ。
 変身が解けて倒れていたミハエルの頭上に、どういう具合かフライングボードが飛んできたのだ。
 ミハエルはシャドームーンが海に落ちた隙に、それに乗り
 そして東條を拾って、逃げ出した。

 亀山たちを救って上げたかったが、デッキが使えない上
 本人たちの状態もとても戦えるものではないため、逃げることに専念した。
 だが、それが悔しくないわけではない。
 自分たちがもっと上手く立ち回れば、あるいはもっと多くを救えたかもしれない。
 正義の、あるいは大儀のために生きる者は、その崇高な理想ゆえ常に自責と戦う。
 ミハエルと東條とて例外ではない。

「インペラーに変身した人の名前は聞けなかった……」

 東條は島を振り返り、悔しさを滲ませて呟く。
 インペラーはおそらく、自分たちが逃げる足止めのために戦い
 そして死んだのだろう。

「東條さん。たとえ、名前を知らなくてもあの人は私たちの胸に生きています。
そして、それは同志と同じ夢をみることと同じことです」
「……そうなのかな」

 その東條を、ミハエルは優しく諭す。
 ミハエルと東條は出あって間もない。
 それでも2人は深い友愛の情で結ばれていた。

「ええ、そして私たちは、彼の行いを無駄にするわけにはいきません。
一刻も早く、多くの人たちを救い出しましょう」
「……そうだね、そうでないと英雄にはなれないかも……」

 自らを奮い立たせながら、ミハエルと東條は進む。
 正義の、あるいは大儀のために生きる者は多くの障害に遭う。
 それでも、その崇高な理想ゆえ必ず立ち上がるだろう。
 その身が果てるか、理想を果たすまで。

【一日目早朝/F-4 西部】
【ミハエル・ギャレット@ガンソード】
[装備]:フライングボード@ヴィオラートのアトリエ
[所持品]:支給品一式、カギ爪@ガンソード、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎、仕込み杖@るろうに剣心
[状態]:疲労(大)、全身打撲
[思考・行動]
0:同志の下に帰る。
1:東條と共に1人でも多くの人を『救う』、だが無茶はしない。

【東條悟@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]:無し
[支給品]:支給品一式×2(一つは沙都子の物)、タイガのデッキ@仮面ライダー龍騎、レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、予備弾倉、ランダム支給品(確認済み)(1~3)
[状態]:疲労(大)、全身打撲
[思考・行動]
0:全ての人を『救う』ことにベストを尽くして英雄になる。
※TV本編死亡後よりの参戦です




 シャドームーンは亀山の死体の前、崩れたブランコの柵の上に座っていた。
 死体といっても、シャドームーンの一撃でほとんど原型を留めていないほどバラバラになった亀山の
 比較的形を残している、胴体部分だが。
 ちなみにその時亀山のデイパックと中身とインペラーのデッキは破壊されている。

 当のシャドームーンは死体には何の感慨も示さず、自分の身体の状態を内省していた。
 負傷の修復は問題なく行われている。
 ふと倒れた時計があったので見ると、6時が近いことが分かる。
 V.V.の説明にあった放送が近い。
 他の人間どもも見失ったことだ。
 多少は消耗もあったことなので、それまではこの場で休むことにする。
 放送までには負傷と消耗からも回復していることだろう。

 それにしても自分に休息をとらせるほど、人間が手こずらせるとは予想外だ。
 あのデッキで装甲を纏えば、ゴルゴムの怪人かあるいはそれ以上の力を持てるようだ。
 武器を配っているといったが、更に強力な力を持つ者が存在する可能性もある。
 何より、愚かな人間どもが世紀王を恐れずに立ち向かってきた。
 どうやらこれが、世紀王すらただ1人の参加者とする殺し合いであることは
 あながち戯言だとばかりに、切り捨てられるものではないらしい。
 認めるほかない。
 世紀王には到底届かない、しかし有象無象と切り捨てられぬ――――我が敵だと。

 ならば、世紀王の真価で殺し合いに当たるまで。

 創世王がどんな意図で殺し合いを始め、世紀王を参加させたのかは知らない。
 世紀王を人間どもと一纏めにした、創世王を許すつもりもない。
 だがこの殺し合いは世紀王の矜持にかけて、完遂してみせる。
 ブラックサンも含め全ての参加者を皆殺しにして、勝利を手にしてみせる。
 もう、一々ブラックサンやサタンサーベルを探すこともない。
 殺し合いを進めていけば、いずれどちらにも行き当たるのだ。

 影の王子は今、この時になってようやくだが
 ――――殺し合いに乗る真の決意を固めた。

【仮面ライダーインペラー&ギガゼール 破壊】
【亀山薫@相棒(実写) 死亡】

【一日目早朝/F-5 公園】
【シャドームーン@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]:無し
[支給品]:支給品一式、不明支給品1~3(確認済み)
[状態]:シャドーチャージャーに軽傷(修復中)、疲労(小)
[思考・行動]
1:殺し合いに優勝する。
2:元の世界に帰り、創世王を殺す。
【備考】
※本編50話途中からの参戦です。
※殺し合いの主催者の裏に、創世王が居ると考えています。
※公園を含むF-5の小島の大部分は破壊されました。


時系列順で読む


投下順で読む


070:Blood bath(前編) 亀山薫 GAME OVER
稲田瑞穂 093:上田次郎は二人の狂人を前に気絶する
上田次郎
由詑かなみ
東條悟 077:命の価値
ミハエル・ギャレット
シャドームーン 094:MOON PHASE



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー