たいせつなひと

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たいせつなひと  ◆gry038wOvE



「俺は――――――」

 光太郎が自分の判断を言葉にしようと、口を開く。
 カズマ、劉鳳、シャドームーン。そんな人間たちの存在を頼りに、そして恐れて巡った分岐。
 その中心にある劉鳳という男は、この世にはいないのだが、彼らがそんなこと知る由もない。
 光太郎たちはその劉鳳という男がこの殺し合いの中で生きているという前提で話しているのだから、この男の死が影響するものは大きいだろう。
 それでも、それを知らない彼は劉鳳という男に会うことがプラスとなりうることを願い──

「────行かない方がいいと思います」

 それが、南光太郎の判断であった。
 シャドームーンこと秋月信彦。その相手の恐ろしさは、光太郎が一番よく知っている。もしかしたら、それに匹敵する相手もいるかもしれない。
 それに、劉鳳を光太郎の瞳に刻んだ出来事を忘れてはならない。
 果たして彼は何をしていたのだろうか? ──そう、あれは強姦・誘拐ではなく双方合意の行為と保護。そう考えた方がいい。
 また、その男に近づいたとしてこれだけ多くの一般人を保護するだけの気概を持っているか。
 光太郎が参加者全員の保護を考えている一方、限られた参加者を護る──そういう思想で戦っている人間もいるはずだ。あの男の場合は、あの少女だったのだろうか。
 自分が邪魔となる可能性や、相手にとって迷惑となる可能性を考えると、無理に合流する必要はないのかもしれない。

「わかりました。我々はそれに従います」

 右京もLも、反対はしない。無論、この中で最も力の弱いみなみも。
 その判断の理由を問うようなことも、彼らはしなかった。

「それじゃあ、これからどうしましょうか?」
「とにかく、道路に出ましょう。山道をこれ以上車で走るのは車に対する負荷も大きいでしょうし」

 光太郎は、前に進んでいく車に体を委ねながら、少しばかりの未練をかみ締める。
 後ろを振り返ると、そこにあるのは自分たちが先ほどいた森。その先で何が起こっているのか──それを気にかけながらも、光太郎の体は車に流されていた。


─────


 それから一時間という時間が過ぎ去った。
 彼らは誰にも会うことはなく、車体に揺られてその時間を過ごしてしまった。

 始まるのは──


『おはよう、皆。夜が明けて陽も姿を出して、まず最初の定時放送の時間だよ』


 決して雑音と聞き流せない、宿敵の声。
 彼らが仇とするものの口から告げられる、禁止エリアと死亡者の名前である。
 それを、彼らは一抹の不安を拭いきれないまま耳に入れなければならない。

 Lという男にとっては、夜神月という宿敵が。
 南光太郎という男にとっては、秋月信彦という親友が。
 杉下右京という男にとっては、亀山薫という相棒が。
 岩崎みなみという女にとっては、高良みゆきという先輩が。

 それぞれ知っている名前が聞こえるのを恐れて、長い放送を聞いて行く。


『──亀山薫』


 そんな言葉には、普段冷静な杉下右京も唖然とする。


『──高良みゆき』
『──柊かがみ』


 そんな言葉には、感情を見せるのが苦手なみなみも涙ぐむ。


『──劉鳳』


 そんな言葉には、光太郎も拳を握る。

 呼ばれてはならなかった名前の群れが、ここで呼ばれてしまった。
 彼ら、四人は互いにかける言葉もなく、涙の声だけが耳を打ってくる。
 親しい人の死が呼ばれないLと光太郎には、気まずい時間だけが流れていく。

「行きましょう、皆さん。このままこうしていても仕方がありません」

 真っ先に口を開いたのは右京である。
 唾液の溜まったような台詞だった。
 目。鼻。口。それらに水分が集中するとき──それは、悲しいときだ。

「怒りを向けるのはあの少年と対面した、その時まで取っておきましょう。
 僕も辛い時につい、涙が出て、悲しいときにそれを怒りに変えてしまうときがある。
 僕の……いや、我々人間の悪い癖です」

 亀山という男は確かに、右京の「相棒」であった。
 これからどう美和子に顔向けすればいいのか……。そう思うと気が重く、彼の妻と同じくらいにその死を受け止めるのを辛く思っているのは右京だった。
 だが、死んだ人間は元には戻らない。
 それが神が作った地上の法なのだから。

「彼の言うとおり、辛いでしょうがここは他の人を捜しましょう。
 私としても、我々の力になれる参加者が減ってしまったのは悲しいことですから」

 次に口を開いたのはLである。
 彼が失ったものは何も無い。そのためか、彼の表情には感情がないし、言葉も淡々としていた。
 いや、彼は普段からこうなのだ。──みんな、最低でも一時間以上彼と行動している。知っているはずだった。

 それでも、彼の無感情がこのときだけは、際立って見えた。


「──ッ!!」


 ただ、無言でLを殴る拳。
 それは光太郎のものでも、右京のものでもない。
 親友と、先輩を失った女子高生のものであった。

「気持ちはわかります。しかし、落ち着いてください」

 そんな右京の静止も虚しく、車体を揺らして次の一撃がLの頬を殴ろうと振り翳された。
 その右腕を止める、もうひとつの右腕。
 光太郎の腕である。

 ただ、涙で言葉も出ないままにみなみはその手を振り解こうとする。
 その先にある、淡々とした表情の男へと向かう右手を光太郎の右手が放してはくれない。
 それでも、怒りと嫉妬の感情がLを殴ろうと必死に体を前に出してしまう。
 改造人間の男の右手は、彼女の腕に痕をつける。

 流石に光太郎に抗うことはできないと理解したみなみは、その場に力なく崩れ落ちる。
 手跡のついた右手が、自分の涙を拭っている。
 涙の滴に親しい先輩や、親しい友達の笑顔が映っているような錯覚を覚えながらも、それは全て地面に落ち、弾けて消えていく。
 より強まった悲しみに、再び場は硬直した。

「しばらくは……我々も立ち止まる必要がありそうです」

 右京の言葉に誰も返事をすることはなかったが、それに従うように彼らは力を抜いて、それぞれの思考を巡らせていく。


─────


(亀山くん……特命係の名にかけて、君の仇は僕が逮捕します)

 これだけ多くの人間たちが死んだ。
 それは警察として、確かに嘆くべき事実であるが、彼の悲しみの中心は亀山という男にある。
 何度も言うが、彼は右京の良き「相棒」なのである。
 彼の隣を歩いてきた右京は、これからどうすればいいのだろうか。

(しかし……人はいつかお別れが来るとは知りながらも、どこか君を『死なない人間』だと思っていたようです。君が死んだという実感は、あまり沸かない……
 それでも君は、もういないんでしょうねぇ……。嘘の情報をバラす必要はありませんから)

 亀山という男はそういう人間だった。
 勘も鋭く、無鉄砲でありながら、どこか憎めない男で、「変人」とされてきた右京と慣れ親しむことができた人間。
 何かあっても、必ず生きて右京の隣にいた理解者。

(これでも君が願ったことはわかっているつもりです。君に代わって、僕があの少年を逮捕してみせましょう)


─────


(俺は、なんて無力なんだ……)

 放送で呼ばれた名前の数は十六。
 自分の周りで、六時間で失われる命。そう考えると、その数は異常だった。

 参加者詳細によれば、まだ年端もいかない女の子までその死者の一部となっている。
 北条沙都子、ルイズ、園崎魅音、真紅──それに、みなみの友達である高良みゆきと柊かがみ。
 大人の男なら死んでいいとはいわない。だが、小さい女の子たちがこれだけ殺人、自殺──それを主体とする死因でいなくなっていったのは受け入れたくない現実であった。

(鬼め……外道め……っ!! ゆるさんっ!!)

 再び握られる拳。
 そして、それらの死をも越える印象的な死──

(劉鳳さん……俺があの時、もっと別の決断をしていれば……っ!!)

 何よりも呪うのは自分の決断ミス。
 あの時、劉鳳の居場所に向かっていたなら…? 彼を救えたかもしれない。
 いや、彼の力になれただろうし、彼を倒した敵を撃退することもできただろう。

 仮面ライダーでありながら、人の生死に関わる判断ミスをしてしまった彼は、自分の無力さを殴りたくなった。


─────


(やはり、私はなるべく口を開かないほうがよさそうですね) 

 Lは自らの失言がみなみに余計な怒りを与えてしまったことを少しばかり後悔する。
 この場にいる誰よりも感情を表すのが苦手なのは、他ならぬLだ。
 いや、彼にとってはどの名前も他人なのだから、感情の含みようが無い。
 だから、どう頑張っても他の人間には冷淡に見えてしまうのだ。

(あの時捜索に向かって、早々にチームを分散しておくべきでしたか。劉鳳や橘あすかのように、力を持つ参加者まで結構な数が脱落しているようです)

 劉鳳という男の捜索に向かっていれば、こんなことにはならなかっただろう。
 こんな風に分裂の兆しを見せ始めたのは、すべてチームの人数が多すぎたためだ。
 これから誰かに会うとすれば、そのときはすぐにでもチームの解散をした方がいい。

(────こういう状況は苦手です。普通なら怨まれるだけでも、今回は殺される心配もありますから)

 改めて、Lは自らのプライドにかけた主催者の逮捕を誓った。


─────


 どうして……どうして……
 知り合いが誰も死んでいない人間がいる中、自分だけが三人も友達を失わなければならないのか。
 そんな理不尽に、みなみは嫉妬を覚えずにはいられない。

 今のみなみに、冷静な判断をしろというのも無理な話であった。
 何故なら、

(みゆきさん……)

 高良みゆき。
 その名前は、彼女が幼い頃から親しくしてきた──いわば本当の姉のような先輩の名前なのだから。
 名前を呼ぶ。
 たったそれだけの行為が、この場では人を傷つける。
 長い長い思い出に終止符を打ったのは、たった六音の言葉なのだから。

 ゆたかの死で痛んだ少女の心を、放送はさらに傷つける。
 そして、迷いを生ませる。

 友人たちの死を受け止めるほどに、V.V.の言葉に甘えたいという気持ちが強まっていくのだ。
 確かに彼を怨む気持ちは強い。復讐したいという怒りもある。
 それでも、大切な人に戻ってきてほしいという気持ちが何よりも勝ってしまうのだ。

 そして、その気持ちが嫉妬に繋がっていく。
 相棒を失った右京という刑事。
 親友と戦う光太郎という改造人間。
 好敵手を失ったカズマというアルター使い。
 そんな人々には共感を覚える。何故か、信頼感まで強まっていくほどに。

 それでも、その場でひとり、淡々としている男・Lだけは許せない。
 彼に明確な罪はない。それはわかっている。
 だが、その苦しみをわかっていない──それだけが、警察でも歴戦の勇者でもない、か弱いひとりの少女にとって充分な罪である。

 それでいて、彼の言葉は自分の利害しか考えていないような節がある。
 我々の力になれる人間が減った、という自分の事しか考えていないような表現を思い返すと、腸も煮えくり返る。
 そんな人間が何故生きて、ゆたかやみゆきは何故死んだ?
 苛立ちが溜め込まれていく。



 それぞれの強い思いと、弱い思いが車の中で交錯する。
 よりいっそう強くなる心。そして、負の感情を見せる少女。
 彼等は長い休養とともに、心を休めることができたのだろうか……?



【一日目朝/E-4 道路】
※車はとりあえず、警察署を目指す予定です


【L@デスノート(漫画)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に
[状態]健康、頭部に軽い衝撃
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いをとめ、V.V.を逮捕する。
2:人数が増えてきたため、チームを二つにわけて自由に行動したい。
3:もう一人戦闘要員をつかまえて、右京たちと行動を別にする。


【杉下右京@相棒(実写)】
[装備]君島の車@スクライド
[支給品]支給品一式、S&W M10(6/6)、S&W M10の弾薬(24/24)@バトル・ロワイアル
[状態]健康 亀山の死に対する悲しみと、強い決意
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いをとめ、V.V.を逮捕する。
2:亀山を殺害した人間を見つけ、逮捕する。


【岩崎みなみ@らき☆すた(漫画)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式
[状態]健康、知り合い(特にみゆきとゆたか)を失ったことに深い悲しみ。カズマ、光太郎を信頼。親友に関して光太郎、右京に共感。
[思考・行動]
1:L、右京、光太郎と共に行動。
2:ゆたかの仇をとりたい?
3:Lに対する強い嫉妬
4:他の知り合いが心配
5:カズマともう一度会いたい
6:V.V.の言葉も頭の片隅に留めておく



【南光太郎@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式 未確認(1~3)
[状態]健康 自らの無力を痛感し、強い怒り 
[思考・行動]
1:この殺し合いを潰し、主催の野望を阻止する。
2:劉鳳を探しに行かなかったことへの後悔。
3:主催とゴルゴムがつながっていないか、確かめる。
4:信彦(シャドームーン)とは出来れば闘いたくない……。
5:みなみを守る。
※みなみを秋月杏子と重ねています。
※本編五十話、採石場に移動直前からの参戦となります。


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073:みなみ × 南 L 103:緊張
杉下右京
岩崎みなみ
南光太郎



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