因果応報―始まりの終わり―

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因果応報―始まりの終わり―  ◆KKid85tGwY



「うぅーん…………フェ、フェルマー先生……あなたの最終定理は、足し算を間違えていますよ…………。
ハッ!! ゆ、夢か……フェルマーの最終定理を解いた時の夢を見るとは……」
「その解答は、おそらく間違っているぞ……上田次郎」
「ははは! フェルマーならともかく、私が計算を間違えるわけが無いだろう…………き、君は誰だ!?」
「私は狭間偉出夫、殺し合いには乗っていない」

気絶から眼を覚ました上田。
その傍らには、見知らぬ白衣の少年が佇んでいた。
あからさまに警戒をした上田だが、近くにヴァンやC.C.の姿が見えることから、
やがて落ち着きを取り戻す。
C.C.の(極めて雑に行った)説明によって、狭間たちがシャドームーンの戦闘中に現れて上田たちを助けたことが判る。

「……シャドームーンはどうなった?」

上田とほとんど同時に眼を覚ましたヴァンの質問。
狭間は自分の背後を指して答えた。

「シャドームーンはそこだ」

確かに狭間が指し示す先に居た。
瓦礫の上に座り、その身を休めるシャドームーンが。
ヴァンは反射的に構えを取ろうとするが、身体が言うことを聞かない。
上田は立ち上がることもままならないほどあたふたしている。

「落ち着け! シャドームーンは我々の味方になった」

『お前は何を言っているんだ?』
ヴァンと上田の浮かべた表情を、端的に表現すればそんな言葉になる。
狭間は言葉を続ける。

「疑うなら、C.C.に事情を聞けば良い」
「……私はシャドームーンと味方になった覚えは無い」
「では敵か?」
「…………事情の説明なら自分でしろ。お前の起こした事態なんだからな」

ヴァンも上田も全く事態が掴めない様子だ。
狭間は嘆息すると、徐に説明を始めた。
C.C.の言う通り今の状況の責任は、功罪を合わせても狭間にある。
少なくとも狭間はそう思っていた。

ヴァンたちの危機に、狭間が助けに入ったこと。
狭間からシャドームーンに持ち掛けた交渉。
それに異を唱える翠星石。
そして真司が翠星石に殺されたことを。

上田は神妙な表情で沈黙する。
彼らだけでなく、シャドームーン以外のその場全員を重い空気が包んでいた。
シャドームーンと一時的とはいえ休戦した。
そして真司が死んでいる。
と言うだけに尽きず“翠星石に殺された”と言う事態は、それだけ重たかった。

「……要するに、真司が死んでシャドームーンとあんたが組んだんだな?」
「極めて粗雑な纏め方だが、概ねその通りだ」

ヴァンは話そのものを理解することに苦戦していた様子だが、要点は理解したようだ。
事態に対して、どんな感想を抱いているかは読み取れない。

翠星石は未だ狭間の腕の中で、意識を失っている。
しかしその翠星石に、真司を殺された怒りを向ける者は居なかった。
全員が、それを過失だと承知しているからだろう。

ヴァンも上田も落ち着いたと判断した狭間は、ヴァンとC.C.にディアラハンを唱えた。
二人の負傷の大半は治り、体力も回復する。
しかしヴァンの右目は潰れたままである。
それでもヴァンは、特に気にした様子は見せなかった。
今すぐにシャドームーンに挑みかかるつもりもないようだ。

「……私と北岡とつかさとジェレミアとシャドームーンは、これから同行することになった」

狭間たち四人とシャドームーンは、ヴァンと上田が気絶している内に同行することで話を付けていた。
自分たちの知らない内に、シャドームーンの立場が余りにも変わっていることに、
ヴァンも上田も、言いようの無い居心地の悪さを覚える。

「君たちはこれからどうする? 我々と同行するなら、それで構わない」

ヴァンも上田も、狭間の問いにすぐには答えられない。
状況が急激に変わりすぎたため、未だに気持ちが追い付かないのだ。
ヴァンと上田が返答に窮していると、C.C.が狭間に語り掛ける。

「……ストレイト・クーガーはどうなっている?」
「……何?」
「お前らの所有しているパソコンで、参加者の動向が確認できるのだろう」

C.C.に求められるがままに、狭間はノートパソコンを開いて、
ストレイト・クーガーの動向を確認する。

「……ストレイト・クーガーは現在、総合病院に居る」
「生きていたか……後藤はどうだ?」
「……死亡している」

C.C.たちとクーガーは、総合病院を出発する際に後藤の襲撃を受けた。
その時に後藤をクーガーに任せて、C.C.たちは別れている。
クーガーの安否は、C.C.たちにとって気掛かりなことであった。
しかしこうしてクーガーの生存と後藤の死を確認することができて、微かな安堵を覚えた。
クーガーが生きて後藤が死んだと言うことは、クーガーが後藤を殺した、と言うことだろう。
C.C.は立ち上がり、狭間に背を向ける。

「……私は病院へクーガーを迎えに行く」
「……我々全員で向かった方が良いんじゃないか?」
「その必要は無い」
「そうか……」

はっきりと言葉にしないが、C.C.の声には明確な拒絶の響きが含まれていた。
狭間を、ではなくシャドームーンを拒絶しているのだろう。
それでもはっきりと拒絶を言葉にしないのは、まだC.C.にも迷いがあるからだろうか?
何れにしろ、今すぐシャドームーンと同行と言う訳にはいかないようだ。

「……君たちはどうする?」
「すまないが、俺もクーガーを迎えに行くわ」

ヴァンも立ち上がり、狭間に背を向ける。
ヴァンはシャドームーンから拷問を受けた張本人だ。
その上この成り行きでは、無理も無いと狭間も考える。

「……すまない狭間くん。C.C.もヴァンくんも、君が助けてくれたことは判っているんだろうが……」
「構わん……それで君は?」
「私は、C.C.やヴァンくんを見捨てる訳にはいかないからな。決してシャドームーンが怖い訳では無いぞ!
ただ……彼らは私が居ないと何にもできないからな」

上田は単純にシャドームーンが怖いのだろう。
ある意味、判り易い人間だと狭間は思った。

C.C.もヴァンも上田も、狭間から離れていく。
当初は三人と接触した後は、そのまま合流する予定だったが、それも破綻した。
しかし三人を止める権利は自分に無いことを、狭間は了解していた。

「待て。まだ話は終わっていない」

それでもまだ狭間は、三人の背中に話を続ける。
C.C.は背を向けたまま、
ヴァンは立ち止まりもせず、歩き去って行き、
上田だけが狭間の方へ振り返る。
狭間はそれに構わず、上田に向かって探知機を投げ渡した。

「これはなんだ?」
「それは参加者の位置情報を得られる探知機だ。我々と合流したくなったら、それで我々の位置を確認できる。
これは判っていることと思うが、雪代縁には気を付けろ。あの男は未だ殺し合いに乗っている。
それと、雪代縁は殺し合いの脱出に繋がる物を所有しているらしい。奴と接触することになったら気を止めて置け」
「殺し合いを脱出できるのは、翠星石だけじゃなかったのか?」

狭間の背後からシャドームーンが口を挟む。
シャドームーンの声が響いただけで、場の空気が明らかに重くなった。
上田などシャドームーンの声が聞こえただけで、身体を震わせている。本当に判り易い人間だ。
狭間はシャドームーンを見向きもせずに返答する。

「あの時点で確認できた限り、脱出方法を有していたのは翠星石だけだった。
……だが、今は違うな。貴様もnのフィールドへの入り口を開けることを確認できた」
「…………フッ、まあいい。魔人皇なら大過なく契約を履行してくれると、期待しているぞ?」

あっさりと引き下がるシャドームーン。
気を取り直して、狭間は上田たちに話し掛ける。

「その探知機は私からの餞別だ。代わり言っては何だが、貴様たちに……提案と頼みたいことがある」

上田たちに頼みごとをする狭間。
何かを頼むのを狭間は慣れていないのが、出会ったばかりの上田やC.C.にも伝わって来る。
それだからこそ、あえて頼みごとを行う狭間の背負った物の重さが伝わってきた。

「君は恩人だ。私が聞けることならば、何でも言ってくれ」
「C.C.も構わないな?」
「早く言え」

C.C.の高慢な、しかしどこか力の無い返答。
ヴァンはさっさと立ち去ったが上田とC.C.は、未だに聞く姿勢を見せている。
ならば問題は無い。

「提案は翠星石のことだ。彼女は私が預かる。貴様たちでは、再び薔薇水晶が来た際に対処できまい」

C.C.は背を向けたまま、狭間に鋭い視線を向ける。

「……お前たちなら安全を保障できるのか?」
「我々の方から翠星石に危害を加えるつもりは無い」
「…………眼を覚ましてシャドームーンが居た方が不味いと思うがな」
「他にどうすれば良い? 翠星石をその辺に放置しておけと?」
「…………では好きにしろ」

自分たちから危害を加えるつもりは無いと言う、狭間の返答。
それは即ち、翠星石から仕掛ければ安全の保証はできないと言うこと。
しかしそのことを指摘したところで、どうしようもない。
C.C.がそれ以上異論がないことを確認した狭間は、話を続ける。

「頼みごとの方は言伝だ。クーガーとヴァンに伝えてくれ。城戸真司の死の責任は私にあると考えて貰って構わん。
それでも易々と命をくれてやるつもりは無い。それがシャドームーンの物であってもだ」

それはクーガーとヴァンのみならず上田とC.C.に対しても訴えた伝言。
シャドームーンは一人の味方も居ない状況で、正に満身創痍となり片腕を失って、尚もただ一人で戦い抜こうとした。
それでも自らの誇りを守るためにあえて主催に反旗を翻してまで、敵と契約を結んだのだ。
誰一人味方など居ない、孤高の王のままにだ。
それがどれほどの強固な意思を必要とするか、かつての魔神皇であり今は魔人皇である狭間にはよく判る。
無論、シャドームーンはいずれ討ち果たすべき敵であり、そうなった非はシャドームーンにある。
しかしそれだからこそ、狭間にとってこの契約は必ず守らなければならない。

「判った、そう伝えよう。そして、なるべくそうはならないように尽力する」
「……頼む」

狭間は再び慣れない頼みごとを口にする。
上田はそのような事情を知らないが、狭間が戦いを望んでいないことはよく伝わってきた。
そしてそれでも避けられない戦いならば、覚悟を決めていることも。

「……では私の方からも、君に餞別の言葉を送ろう」

上田はそう言って、デイパックから一体の人形取り出した。
ローゼンメイデンとは似ても似つかない、むさ苦しい印象を与えるその人形は、
明らかに上田を模している。
それこそ、世に僅かしか存在しない上田次郎人形である。

『なぜベストをつくさないのか』

上田次郎人形それ自体が言葉を発した。

「この言葉は魔法の言葉でな。私はこの言葉を聞けば、不思議な力が沸いて来るんだ。君への餞別として受け取ってくれ」

そう言って上田はC.C.の後を追って行く。
狭間は陰を負った表情で、その後姿を見詰める。

(『なぜベストをつくさないのか』……か)

確かに狭間は狭間なりにベストを尽くした。
それが万人にとってベストの結果に繋がるとは限らない。ある意味、当然の話だ。
狭間の交渉は、シャドームーンがあそこまで追い詰められていなければ成立しなかっただろう。
そしてシャドームーンをあそこまで追い詰めたのは、状況から推測して真司の功績が大きい。
その真司をあんな形で死なせてしまった。
狭間にとって、これは翠星石を制御できなかった自分の失態。
自分の認識の甘さがこの惨状を生んでしまった。
それが狭間に重く圧し掛かる。

魔神皇であった頃には、こんな重責は無かった。
ただ自分の欲望のままに行動して、何を犠牲にしても思い煩う必要は無かった。
しかし魔人皇となった今は、失態の一つ一つが重く圧し掛かる。
人の命を背負うと言うことは、これほどままならないことだったのか。

(レナは……今の私を見て、どう思うだろうな……)

それでも、ベストを尽くすことを止める訳にはいかない。
だからこそ、上田の餞別が何よりも重かった。



「……よかったな。ご主人様の所へ行けるぜ」

停めてあったバトルホッパーの元に行ったヴァンは、車体を撫でながら呟く。
シャドームーンと休戦したからには、戦いの前に交わした約束により、
バトルホッパーはシャドームーンに譲るのが筋だろう。
バトルホッパーは何の反応も示さない。
ヴァンはバトルホッパーを置いて、真司の亡骸に向かう。
先ほど北岡と話し合って、蛮刀をジェレミアから譲って貰った代わり、と言う訳ではないが、
真司の遺体はヴァンたちが病院まで運んで弔うことになった。
真司の遺体と荷物を抱えて、ヴァンは上田が運転して来た車に乗る。

遅れてC.C.も車に乗り込む。
C.C.が狭間たちと同行しなかったのは、シャドームーンと離れたかったため。
C.C.にとって真司を殺したのも、それに至るまで翠星石を追い詰めたのもシャドームーンだ。
理屈では判っている。
真司の死の全責任をシャドームーンに負わせるのは無理があることを。
それでも、真司が死に至ったまでの経緯を即座に水に流してシャドームーンと同行できるほど割り切ることはできない。
人の数倍以上もの生を送ってきたC.C.でも、そこまで悟ることはできなかった。

更に遅れて、上田が運転席に乗り込む。
シャドームーンとの戦いを生き延びた三人と、命を落とした一人。
そして水銀燈の遺体も乗っている。
五人を乗せて、車は病院へ向けて発進した。

後部座席には真司の遺体、ヴァン、C.C.の順番に並んで座っていた。
重たい沈黙を破るようにヴァンはC.C.へ、不躾に質問する。
シャドームーンとの戦い以来、気に掛かっていた疑問を解消するために。

「…………護衛はもういいって、本気か?」
「冗談に聞こえたか?」

改めて確認しても間違いは無い。
狭間とシャドームーンの契約が始まったのと対照的に、ヴァンとC.C.の契約は終わった。
ヴァンもC.C.もこれから何を目的として、どのような行動を取るかは定かでは無い。
しかし確かなのは、ヴァンもC.C.もこれからはお互いを行動の理由にできないことだ。
ヴァンもC.C.も自分だけを根拠にこれからの行動を決めなければならない。
ヴァンは更に不躾な質問をする。

「死にたいってのも本気か?」
「さあな……」

ヴァンは他人の情緒には鈍感、と言うより関心の低い人間である。
それでもC.C.とは殺し合いの当初から付き合っている。
それゆえか、C.C.の“死にたい”も虚仮では無いと察することができた。
本来、C.C.が自殺志願者であろうとヴァンにとっては関心のない話である。
そもそもヴァンはエレナ以外の女性に極端に関心が薄いのだ。
しかしC.C.はヴァンと契約していた。
確かにヴァンは殺し合いの間は護衛すると約束している。
しかし本人に生きる意志が無いと言うのなら話は別だ。
自殺志願者を護衛するほど馬鹿馬鹿しい話は無い。
ヴァンの方には何としても生きて為すべきことがあるのだから。
だからヴァンは不躾な質問を続ける。

「死にたい奴が、何で護衛頼んだり首輪外したりしたんだよ?」
「……………………」

ヴァンの問いにC.C.は答えない。
C.C.は黙ったまま、デイバックから取り出した白梅香を自分に掛ける。
そしてデイバックへ白梅香を仕舞うと、寝返りを打つようにヴァンから背を向けた。

「…………私は寝る。起こすなよ」

C.C.の背中からは全てを拒絶するような空気を放っていた。
答えを得られないと悟ったヴァンも、それ以上を追求することは無かった。



世界の全てを拒絶するように硬く目を瞑るC.C.。
眠気は無い。だが、これ以上ヴァンの質問攻めに付き合える心境ではなかった。
それはC.C.にとって、あまりにも重い問いだったからだ。

もっと早くに気付くべきだった。気付く機会は幾らでもあった。
殺し合いの中ならば死ぬことができる可能性。
その可能性は本来、C.C.にとってこれ以上ない福音だったはずだ。
人の数十倍にも達する、長過ぎる人生をやっと終わらせられる。
そのはずなのに、C.C.の気持ちはこの上なく落ちたままだ。
おそらく、彼女の長過ぎる人生においても最も重く。

(私は何をやっていた…………)

V.V.が何故自分を殺し合いに参加させたのかなど、疑問視している場合ではなかった。
そもそも殺し合いが始まった時点で、さっさと自分の首輪を爆破して死ねるかどうか確かめれば良かったのだ。
自分の不死身をよく知っているはずのV.V.が、わざわざ殺し合いに参加させたのだから、
試すだけの価値は充分に有ったはずである。
そうすれば永遠に思えるほど長い人生において、あれほど望んだ死が得られたかも知れないのに。

しかしもう首輪を外してしまった。
あるいは首輪の爆破こそが、自分の不死身を破って殺すことができる唯一の方法かも知れなかったのに。
それを捨てて今も、殺し合いの脱出を図る集団の尻馬に乗っている。
多くの屍の上を踏み越えてだ。

例えば竜宮レナ。
レナはC.C.よりも平和な世界を生きて来た学生だ。
当然、元の平和な世界ではその世界なりの生活があり、共に生活をしてきた家族や友人が居たはずだ。
レナ自身にも何か元の世界に心残りがあったのかも知れない。
しかし、殺し合いの中で死んで行った。
レナだけではない。
この殺し合いに参加した者は皆、帰るべき世界がある。
しかしその大半は望まぬままこの場に召喚され、首輪で殺し合いを強いられ、無念の内に死んで行った。

そして誰よりも死を望んだ自分がさっさと首輪を外して、半ば殺し合いから脱落してしまっている。

この上なく理不尽な話だった。
それは余りにも滑稽で、
余りにも愚かで、
余りにも無様で、
余りにも皮肉な話だった。

(……私は…………何をやっていたんだ……………………)

重苦しい心地を抱え、C.C.は胸中で一人ごちる。
応える者は居ない。
隣に居るヴァンとは、契約という名の繋がりを失った。
そのこともまた、C.C.の気持ちを重くしていた。
白梅香を掛けたのも、C.C.がその香りを密かに気に入っていたことも有るが、
何より少しでも自分の気を紛らわせるため。
白梅香に縋りたくなるほど、今のC.C.は孤独だった。



ヴァンはシャドームーンを倒すことを諦めたわけではない。
狭間の回復魔法でもヴァンの右目は治っていないままだ。
シャドームーンにはまだ借りがある。
狭間とどんな契約を交わそうが、それを水に流すつもりは無い。
だからV.V.に借りを返した後、必ずシャドームーンを殺すつもりだ。

ヴァンは単純な人間だ。
それゆえに最終的な目的を決して見失うことは無い。
いかに恨みがあっても、所詮ヴァンにとってシャドームーンはカギ爪に辿り着くための通過点に過ぎない。
シャドームーンと今決着を付けようがV.V.の後で決着を付けようが、通過点の順番の問題に過ぎないのだ。
守るべき物も無くなったヴァンは、一人静かに牙を磨く。



運転席には上田と水銀燈
上田は運転席に設置した探知機を見ながら運転していた。

幾ら休戦したと言われても、上田にはシャドームーンへの恐怖は未だに存在する。
上田もすぐにシャドームーンと同行すると言うわけにはいかなかった。
しかしシャドームーンと狭間と共闘している以上、いつまでも避けて通る訳には行かない。
何れ自分もシャドームーンと共同戦線を張るのかと思うと、上田の武者震いは収まらなかった。

(…………そう言えば……)

上田は不意に、Lから授かった餞別を思い出す。

(……Lさんからの餞別を、翠星石に渡したままだったな)

【一日目/真夜中/F-8 市街地】

【ヴァン@ガン×ソード】
[装備]:薄刃乃太刀@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(先端部欠損)、ヴァンの蛮刀@ガン×ソード
[所持品]:支給品一式、調味料一式@ガン×ソード、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不能)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
[状態]:右目欠損
[思考・行動]
0:カギ爪の男に復讐を果たすためさっさと脱出する。
1:V.V.を倒した後シャドームーンを殺す
[備考]
※まだ竜宮レナの名前を覚えていません。
※C.C.の名前を覚えました。

【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュ R2】
[装備]:ファサリナの三節棍@ガン×ソード、S&W M10(6/6)、黒の騎士団の制服@コードギアス 反逆のルルーシュ
[所持品]:支給品一式×4、エアドロップ×2@ヴィオラートのアトリエ、ゼロの仮面@コードギアス、ピザ@コードギアス 反逆のルルーシュ R2、
     カギ爪@ガン×ソード、レイ・ラングレンの銃の予備弾倉(60/60)@ガン×ソード、白梅香@-明治剣客浪漫譚-、確認済み支給品(0~1)
S&W M10の弾薬(17/24)@バトル・ロワイアル
[状態]:健康、首輪解除済み
[思考・行動]
0:???
[備考]
※不死でなくなっている可能性に気付きました。その公算は大きいと考えています。

【上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]君島の車@スクライド、ベレッタM92F(10/15)@バトルロワイアル(小説)、ニンテンドーDS型探知機
[支給品]支給品一式×4(水を一本紛失)、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、デスノート(偽物)@DEATH NOTE、予備マガジン3本(45発)、
    上田次郎人形@TRICK、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に、情報が記されたメモ、浅倉のデイパックから散乱した確認済み支給品(1~3)、
    銭型の不明支給品(0~1)
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲
[思考・行動]
0:ヴァン達に協力する。
※水銀燈の遺体と真司の遺体が車内に置かれています。
※水銀燈のデイパック(支給品一式×10(食料以外)、しんせい(煙草)@ルパン三世、手錠@相棒、双眼鏡@現実、首輪×3(咲世子、劉鳳、剣心)、
 着替え各種(現地調達)、シェリスのHOLY隊員制服@スクライド、農作業用の鎌@バトルロワイアル、前原圭一のメモ@ひぐらしのなく頃に、
 カツラ@TRICK、カードキー、知り合い順名簿、剣心の不明支給品(0~1)、ロロの不明支給品(0~1)、
 三村信史特性爆弾セット(滑車、タコ糸、ガムテープ、ゴミ袋、ボイスコンバーター、ロープ三百メートル)@バトルロワイアル)、
 Lのデイパック(支給品一式×4(水と食事を一つずつ消費)、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、角砂糖@デスノート、
 情報が記されたメモ、首輪(魅音)、シアン化カリウム@バトルロワイアル、
 イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に、女神の剣@ヴィオラートのアトリエ、DS系アイテムの拡張パーツ(GBA)、
 才人の不明支給品(0~1)、ゼロの剣@コードギアス)、真司の確認済み支給品(0~2) 、劉鳳の不明支給品(0~2)、発信機の受信機@DEATH NOTE
 カードキー、神崎優衣の絵@仮面ライダー龍騎がデイパックにまとめられ車内に置かれています。

「あんまり気負ってもしょうがないよ? やっちゃったことは、戻らないんだからさ。
気持ちを切り替えて、これからのことを考えないと」
「…………そうだな」

いつの間にか狭間の下に、北岡とつかさとジェレミアがやって来ていた。

北岡に言われた通り、狭間がここで何時までも逡巡していてもしようがない。
自分の行いを無闇に卑下するのは愚者のすることだ。
狭間の行った交渉が、ヴァンとC.C.と翠星石から危険を遠ざけたことは事実である。
その上で翠星石が、契約を不服としてシャドームーンに危害を加えようとするならば、
狭間自身が翠星石を敵として戦うだけだ。
シャドームーンと共に地獄に落ちる覚悟とは、即ちそう言う覚悟だ。
狭間は自ら契約を破るつもりは無い。
詭弁を弄して契約を汚すつもりも。
その先にいかなる地獄が待ち受けていようと、人と向き合い地を這ってでも進んで行く魔人皇としてあるだけだ。

「……しかし、これは私の責任だ。それを認めなければ、先に進むことはできん……」
「ホント生真面目だねぇ。そんなんだから、魔神皇なんて恥ずかしい名前自称しちゃうのよ」
「スーパー弁護士に、そんなことを言われるとはな」
「……どこで知ったのよ?」
「プロフィールに書いてあったぞ」
「……しょうがないでしょ、本当にスーパーな弁護士なんだから」

北岡の軽口に狭間は軽口で返し、やがてつかさまで巻き込んで笑い合った。
まだ笑い合うことができるほど、仲間との信頼関係は在る。
そう思えただけで、狭間の気持ちは軽くなった。

「……でも、俺は直接怨みがある訳じゃないけど……あれと仲間ってのはやっぱり馴染めないよねぇ」

北岡がごちる。と同時に全員の視線がシャドームーンに向かう。
シャドームーンは周囲の誰を省みることなく、相変わらず瓦礫の上で身体を休めている。
変わらぬ威圧感を身に纏って。
つかさなど、あからさまに怖がっている。

「……あの人、ちょっと怖いね」
「人じゃない。人と相容れぬ存在に作り変えられた物だ。それでも、仲魔であることに違いは無い」

人でない悪魔を、仲魔にする。
狭間以外の者には、やはり抵抗があるのだろう。

「まあ、そっちは一応仲間ってことで良いんだけど……あっちと仲間になった覚えは無いよ?」

そう言って北岡が冷たい視線を向けた先に居るのは、鞄の中で眠る翠星石。
水銀燈が入っていた鞄だが、今は翠星石の身を休めるため使っている。
北岡は翠星石に良い感情を持っていない。
散々場を荒らした挙句、真司を殺したのだから無理もない。

「あの人形を生かしておく理由は無くなったな」

ジェレミアも、北岡ほどの敵意はないが翠星石を危険視しているようだ。
事実として目下、最も危険な存在であることには違いは無い。
ことここに至って、シャドームーンと翠星石の和解は至難だろう。

「……C.C.にも言ったことだが、こちらから仕掛ける訳にはいくまい。そうなれば、C.C.とヴァンとクーガーまで敵に回しかねないぞ」

しかし狭間の言葉通り、翠星石に対して自分たちの方から仕掛けられる状況ではなくなった。
隠そうとしてもホームページの動向を見れば、翠星石を殺害したことは露見してしまう。
そうなれば、本当にC.C.とヴァンとクーガーを敵に回すことになりかねない。
狭間たちは爆弾を抱えたまま、先へ進む以外に無いのだ。
シャドームーンと翠星石と言う、二つの爆弾を。

「翠星石は私が何とかする。命に代えてもな」

狭間はそう言って、翠星石の眠る鞄の所まで足を運ぶと、
鞄の中、翠星石の傍らに自分が持っていた庭師の鋏を置いた。

「何やってるのよ!?」
「あの鋏は蒼星石の物だ。持ち主が亡くなった今、翠星石に返すのが妥当だ」
「……今の翠星石に武器を与える意味が判っているのか?」
「今更、翠星石の武器が一つ増えた所で何も変わらん……」

狭間の翠星石に対する懸念は、鋏一つで左右される物ではない。
翠星石がシャドームーンと対峙した時に見せた、異常な力。
それは狭間やシャドームーンに匹敵する物だった。
もし魔力が回復する前に、それが自分たちへ向けられればどうなるか。

今や翠星石は、狭間たちにとって真に爆弾と化していた。



(…………回復をしない)

未だ満身創痍のシャドームーン。
全身を覆う傷は、シャドーチャージャーにまで達している。
シャドームーンは自分の回復力が発揮しないことに気付いた。
理由は不明。
あるいはシャドーチャージャーが破損したためかも知れない。

世紀王である自分が、実力で龍騎に敗れた。
そして人間と手を組まざるを得ない状況にまで追い込まれた。
回復すらままならない。
シャドームーンは自らの限界が近いと感じていた。

(これが世紀王の限界だと言うのなら……超えてみせるまでだ。創世王を、全ての人間を制するまでな)

それでもシャドームーンの、王としての威信は揺ぎ無い。
シャドームーンにとって殺し合いを優勝してから、創世王を殺すことが、
創世王を殺してから、殺し合いの参加者を皆殺しにすることに変わっただけの話だ。
世紀王の威信は未だ失われていない。
ただ、シャドームーンには気掛かりがあった。
それは翠星石があの時見せた赤い輝き。
それは自分の知る物に、余りにも似ていた。

(…………まさか、な)

あの王の輝石が、翠星石の中に宿っているはずが無い。
それでも、シャドームーンの疑念は尽きなかった。



翠星石は鞄の中で眠り続ける。

真司は劉鳳を殺した因果応報と言う形で殺された。
では真司を殺した翠星石に、因果はどんな報いで応えるのか?
それを知る者は居ない。
翠星石は何も知らず鞄の中で眠り続ける。
その中では、四つのローザミスティカ、
そしてキングストーンの力が眠っていた。

【一日目/真夜中/F-8 市街地】

【北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]:レイの靴@ガン×ソード、ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎
[所持品]:支給品一式×3(水×2とランタンを消費)、CONTRACTのカード@仮面ライダー龍騎、CONFINE VENTのカード@仮面ライダー龍騎
     FNブローニング・ハイパワー@現実(12/13) 、RPG-7(0/1)@ひぐらしのなく頃に、榴弾×1、
     デルフリンガーの残骸@ゼロの使い魔、確認済み支給品(0~1)(刀剣類がある場合は一つだけ)
[状態]健康
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:つかさに対する罪悪感。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。
※レナ、狭間と情報交換をしました。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。
※ミニクーパー@ルパン三世は近くの民家に駐車してあります。

【柊つかさ@らき☆すた】
[装備]なし
[支給品]支給品一式×2(水のみ3つ)、確認済み支給品(0~1) 、レシピ『錬金術メモ』、陵桜学園の制服、かがみの下着、食材@現実(一部使用)、
    パルトネール@相棒(開封済み)、こなたのスク水@らき☆すた
[状態]健康
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:錬金術でみんなに協力したい。
[備考]
※錬金術の基本を習得しました。他にも発想と素材次第で何か作れるかもしれません。
※アイゼルがレシピに何か書き足しました。内容は後続の書き手氏にお任せします。
※会場に連れ去られた際の記憶が戻りました。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。

【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]無限刃@るろうに剣心、贄殿遮那@灼眼のシャナ
[所持品]支給品一式×2(鉛筆一本と食糧の1/3を消費)、咲世子の煙球×1@コードギアス 反逆のルルーシュ、USB型データカード@現実、ノートパソコン@現実、
    琥珀湯×1、フラム×1、リフュールポット×2、不明支給品(0~1)、薬材料(買い物袋一つ分程度)、エンドオブワールドの不発弾(小型ミサイル数個分)、
    メタルゲラスの装甲板、メタルゲラスの角と爪
[状態]疲労(小)、精神磨耗、両腕の剣が折れたため使用不能
[思考・行動]
0:殺し合いから脱出する。
1:V.V.を殺す。
2:他の参加者に協力する。クーガーとの約束は守る。
3:全て終えてからルルーシュの後を追う。
[備考]
※病院にて情報交換をしました。
※制限により、ギアスキャンセラーを使用すると疲労が増大します。他にも制限があるかも知れません。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。

【狭間偉出夫@真・女神転生if...】
[装備]:斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]:支給品一式×2、インスタントカメラ(数枚消費)@現実、真紅の下半身@ローゼンメイデン、空飛ぶホウキ@ヴィオラートのアトリエ、
     Kフロストマント@真・女神転生if…、ブラフマーストラ@真・女神転生if…、鉈@ひぐらしのなく頃に
[状態]:人間形態、疲労(中)、魔力消費(極大)
[思考・行動]
0:殺し合いから他の者達と一緒に脱出する。
1:シャドームーンとの契約を遵守する。
2:翠星石を保護する。
[備考]
※参加時期はレイコ編ラストバトル中。
※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧しました。

※『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページのユーザ名はtakano、パスワードは123です。
またこれらを入手したことにより、以下の情報を手に入れました。
全参加者の詳細プロフィール
全参加者のこれまでの動向。
現時点での死者の一覧。
各参加者の世界観区分。
nのフィールドの詳細及び危険性。
「彼」が使用したギアスの一覧。
※目的の欄を閲覧することはできませんでした。

【シャドームーン@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]:サタンサーベル@仮面ライダーBLACK
[支給品]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み)
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極大)、全身に負傷、全身に火傷、右腕欠損、シャドーチャージャーに負傷
[思考・行動]
0:創世王を殺す。
1:創世王を殺した後、他の参加者を皆殺しにする。
2:狭間との契約は守る。
3:キングストーン(太陽の石)を回収する。
【備考】
※本編50話途中からの参戦です。
※殺し合いの主催者の裏に、創世王が居ると考えています。
※会場の端には空間の歪みがあると考えています。
※空間に干渉する能力が増大しました。
※nのフィールドの入り口を開ける能力を得ました。
※回復が始まっていません。回復するかどうかは後続の書き手に任せます。
※バトルホッパーは近くに停まっています。

※狭間偉出夫とシャドームーンは契約を交わしました。内容は以下の通りです。
  • シャドームーンは主催者を倒すまで他の参加者を殺害しない。(但し正当防衛の場合は例外とする)
  • 狭間はシャドームーンの首輪を解除する。
  • 狭間はシャドームーンが首輪を解除するまで護衛する。
  • シャドームーンは首輪を解除できれば他の参加者と協力して主催者と戦う。(シャドームーンは会場脱出や主催者の拠点へ侵攻する際は他の参加者と足並みを揃える)
  • 主催者(の黒幕)の殺害はシャドームーンに一任する。
  • 主催者を倒した後はシャドームーンと他に生き残った全ての参加者で決着を付ける。
  • 主催者を倒すまでにシャドームーンが誰かに殺害された場合、狭間は必ずその報復を行う。

【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]庭師の如雨露@ローゼンメイデン、真紅と蒼星石と水銀燈のローザミスティカ@ローゼンメイデン、キングストーン(太陽の石)@仮面ライダーBLACK(実写)
   ローゼンメイデンの鞄@ローゼンメイデン、庭師の鋏@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0~1)
[状態]首輪解除済み 気絶中
[思考・行動]
0:???
[備考]
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※ローザミスティカを複数取り込んだことで、それぞれの姉妹の能力を会得しました。
※キングストーンを取り込んだことで、能力が上がっています。

一枚のカードが宙を舞っていた。
主の下を離れ、自らの意志など無く、ただ風に運ばれるままカードが飛ぶ。
カードはやがて水面に着いた。
エリアにしてG-7。
既に禁止エリアと指定された場所の、南西の一角を流れる河川の水面にである。
寄る辺も無く、ただ無為に浮かび続けるカード。
誰ももう触れることすらなくなったはずのカード。
そのカードが何者かの手に捉まれた。
水中、ではなく“水面”から出現したその手は、
カードと共に水面へ消えて行った。


     ◇


壁一面が大量のモニターで埋め尽くされた、異様な部屋。
その中でも一際大きなモニターの前に置かれた座椅子。
その座椅子に座る長い髪を巻いた少年・V.V.は、ヘッドホンに耳を貸しながらほくそ笑んでいた。
モニターにはV.V.にとって旧知の女性・C.C.の沈んだ姿が、大写しになっている。

「フフフ……君もようやく気付いてくれたんだね。そう。君が人生を掛けて求めていた物が、既にその手中にあったんだよ。“死”がね」

自らの死の可能性に気付いたC.C.。
その姿にV.V.は喜びを禁じ得ない。
V.V.はC.C.を古くからよく知っている。死を望んでいたことも。
死の前に立たされた人々の姿は、大いにV.V.の興味を引いたが、
その中でもC.C.のそれは、V.V.にとって興味深い。

「C.C.、君は僕が嘘が嫌いだと知っていただろう? その僕が『君を殺し合いに参加させた』と言った以上、それは本当のことに決まっているよ。
君は殺し合うことが最初から可能だったんだ。もっと早く、そのことに気付くべきだったね」

C.C.の様子をモニター越しに観察し続けるV.V.。
その背後の壁に掛けてあった、大きな鏡から人形が姿を現す。
薔薇水晶の姿が。

「僕の指示通り、カードを回収してくれたんだね。ご苦労様」

V.V.は振り返りもせず、薔薇水晶に労いの言葉を掛ける。
V.V.が薔薇水晶に与えていた指示。
それは参加者の元を離れ、禁止エリアの水面に着いたため、
もう参加者の手に拠る回収は不可能と判断した、あるアドベントカードの回収である。

「翠星石は……構わなかったのですか?」

薔薇水晶は翠星石を放置した件を、V.V.に問い質す。
翠星石は確かに脱出条件を満たしていた。
しかし、何故V.V.が翠星石を放置するのか?
それが判らない。

「薔薇水晶、君はあくまで案内役だ。脱出は、翠星石本人の意思によって選択されなければならない」

V.V.はようやく薔薇水晶の方へと振り向く。
V.V.からも薔薇水晶からも、何の感情も読み取れない。

「もし翠星石が眼を覚ましても、あくまで脱出するか否かは彼女自身の意思に任せることだ」
「……判りました」

再びV.V.はモニターに向き直る。

「回収したカードは……どうしますか?」
「……それは僕たちには使い道が無い物だ。使うことができる人に渡しておいてよ。脱出を果たした褒章としてね」

それきり振り返りもしないV.V.を置いて、薔薇水晶は鏡の中へ消えて行った。
V.V.はまた愉悦を含んだ笑みを、モニター越しのC.C.に向けた。

「C.C.。この殺し合いは、君への贈り物だと考えてくれて構わないよ。
でも僕に贈ることができるのは、選択肢だけ。死を選択するのは、あくまで君の決断だけだ。
君が自分に嘘をつかない決断をすることを祈っているよ」


     ◇


壁にコンピューターが幾つも並ぶ、無愛想な部屋。
各コンピューターに向かって白衣を着込んだ者たちが作業を行っている。
その背後に立ち、作業の様子を見守る二人の男。
一人は包帯を全身に巻いた着流しの男、志々雄真実。
志々雄はもう一人の男から、この部屋の説明を聞いていた。

「成る程。こんぴゅうたあってので、この施設や殺し合いを管理しているって訳か」

志々雄は元々知能が高い上、コンピューターについての基本的な知識を三村から得ていたため、
この部屋がコンピューターに拠る管制室であると言う説明を、すんなりと理解することができた。

「まあ、かく言う私もこんぴゅうたあを知ったのは、つい最近のことでしてねェ」

この部屋の説明をしたもう一人の男は、面長に小ぶりの眼鏡を掛けたいかにも神経質そうな男。
話では、男も志々雄同様に明治の人間だったらしい。

「それでも人を使って操れる立場となれば、実に愉快な物ですよ。
椅子に座って指示を出すだけで、殺し合いに興じている人たちの運命を左右することができるのですから」

しかし今や、支配者としての傲岸さを剥き出しにして、
コンピューターに向かって作業に励む者たちと、
そしてディスプレイに映る、殺し合いの参加者を睥睨している。

目前に在る全てを支配する男へ向かい、志々雄は薄く笑い掛ける。

「しかし……まさかあんたみたいなのが黒幕だったとはな――――武田観柳」

志々雄に黒幕と呼ばれた男、武田観柳もまた薄く笑った。

「冗談が過ぎますねェ。今の私はぶいつぅの下に付いているだけのものですよ」
「何だ……ただの使い走りとは、拍子抜けだな」
「これは手厳しいですねェ」

大袈裟に肩を竦める志々雄だが、本気で観柳が黒幕だと考えていた訳ではない。
観柳をからかっただけだ。
志々雄から見れば、観柳は小物に過ぎない。
少なくとも、これだけの規模の殺し合いを統括するだけの器量は無い人物だ。

実際、V.V.に勧誘された観柳は、現在この管制室の管理を任されているだけである。
そもそも明治の人間である観柳を、何故V.V.がコンピューターの管理者に据えたのかは不明。
V.V.ならば、もっと文明の進んだ世界からもっとコンピューターに通じた人材を幾らでも調達できたはずなのだ。
しかし志々雄には関係の無い話。
志々雄に重要なのは“自分にとって”利用価値が有るか否か、だ。

「しかし『今の私は』、ね。野心が隠しきれてないぜ」
「おっと、それは失言でした。どうか、ぶいつぅには内密に」

観柳と会話をしながら、志々雄は観柳が主催陣営の中でどれほどの立場にいるか、どれほどの情報を有しているか、
そして観柳自身がどんな人物かを探って行く。
どうやら観柳はV.V.の真意も知らされず働かされている、使い走りのような存在だ。
それでも観柳がV.V.に付いているのは、V.V.から与えられる未知の情報や技術に眼が眩んだからだろう。
それらを明治の時代に持って帰れば、富も権力も思いのままにできる。
即ち観柳は欲望で動く人間である。志々雄はそう踏んだ。
欲望で動く人間を信用はできない。しかし利用するのは簡単だ。

そして観柳もまた、志々雄を値踏みしているようだ。
おそらくその心中には、V.V.に取って代わる欲望が渦巻いているらしい。

野心家二人の水面下での探り合い。
しかし志々雄はそれを唐突に打ち切る。
観柳の口を手で制した志々雄は、ディスプレイに鋭い視線を向けた。
ディスプレイが突如として混色に濁り、中から人形が姿を現した。
狼狽する白衣の男を無視して、人形は志々雄の前に降り立つ。

「薔薇水晶、だったか? 俺に何のようだ?」

薔薇水晶は志々雄へ一枚のカードを差し出した。

「これを……脱出の褒章です」
「……ほう」

薔薇水晶から手渡されたカードを見て、志々雄は再び薄く笑みを浮かべる。
それは鳥の羽のような物が描かれたアドベントカード。
そこには、SURVIVE―烈火―と書かれてあった。

【一日目夜中/???】
【志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(漫画)】
[装備]:サバイバルナイフ@現実、ヒノカグツチ@真・女神転生if...、サバイブ(烈火)@仮面ライダー龍騎
[所持品]:支給品一式×3、リュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎、確認済み支給品0~3(武器ではない)、林檎×8@DEATH NOTE、鉄の棒@寄生獣
     マハブフストーン×4@真・女神転生if…、本を数冊(種類はお任せ)、工具@現実(現地調達)、首輪の残骸(銭形のもの)、首輪解除に関するメモ
[状態]:各部に軽度の裂傷、疲労(小)、首輪解除済み
[思考・行動]
1:ぶいつぅの掌の上にいる。(飽きるまで)
2:気が向いたらガリア王国のジョゼフを持て成す。
3:可能なら武田観柳を利用する。
[備考]
※クーガー、C.C.、真司らと情報交換をしました。ギアスとコードについて情報を得ました。


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160:因果応報―薔薇乙女 翠星石が1体出た!― ヴァン 162:永すぎた悲劇に結末を――Please hold on to small children.
C.C.
上田次郎
翠星石 163:聖少女領域/贖罪か、断罪か
シャドームーン
狭間偉出雄
北岡秀一
柊つかさ
ジェレミア・ゴットバルト
V.V. 161:第四回放送
薔薇水晶
154:世界を支配する者 志々雄真実
GAME START 武田観柳



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