はじめの一歩 ◆xrS1C1q/DM






「嘘……だろ……? 李崩! ……ヒデヨシッ!」

キース・ホワイトによる放送が終わり、室内を満たしていた静寂を破るのは、愕然とした表情を浮かべたテンコの半ば叫ぶような声。
しかし、テンコの悲痛な声にキース・ブルーもヴィンセント・バリーも応えることはなく、再び部屋を沈黙が包み込む。
彼らのこの反応が、否が応でも現実を突きつける。
二人の死という結果が真実であると。
テンコにはまだ楽観視している部分があった。
神を決めるために行われた戦いが結果的には無事に終わったから。
死者が出る可能性を常に孕みながらも、最後には皆が笑って終了を迎えることが出来たから。
想定しきれていなかった。
近しいものを失ってしまうという、現実を。

「すまねぇ……少し外で風浴びてくるわ……」

黒い羽を力なく動かし、今にも墜落してしまいそうなほどに弱々しい動きでフラフラと廊下へと出ていくテンコ。
その小さな背中を二人は黙って見送った。
ドアが閉まり、しばらくして遠くから咽び泣くような声が響く。
彼らの耳にも確かにその声が届いていたが、知らぬふりをし、ブルーが放送後初めて口を開いた。

「確認するが、君の知り合いで名前が呼ばれてしまったのはナゾナゾ博士という人物だけでいいんだね?」
「ああ、知り合いって言っても本当に顔見知り程度だがな」

そう言いつつ、バリーは窓から見える外の世界へと視線を向ける。
復活した千年前の魔物との戦いに向けて力を請われ、それを断った。ただそれだけの関係。
だが、今思えば彼の瞳には確かに"強さ”が宿っていた。
惜しい男を亡くしたものだと考えつつ、ブルーの元へと意識を戻す。

「ふむ。テンコの友人であった李崩と宗谷ヒデヨシ。君の知人であったナゾナゾ博士。
 そして、私の"仲間”であった巴武士。
 こちらは既に4人もの戦力を喪ってしまっているということになる」
「なのに危険だって目をつけてたやつらは誰も呼ばれてないってか」
「ああ、状況はとても芳しいと言えない」

そう、現状は最悪とも言えるもの。
6時間という短い時の中で既に全参加者の五分の一、16名が命を落としている。
しかし、彼らの瞳が宿しているのは絶望の欠片すらない強力な意志の炎。

「殺人者の人数も問題だが、彼らの中には巴武士すら倒しうるものが存在している。それも懸念すべき事実だな」

ブルーは右膝に肘をつき、体を僅かばかり前傾させた。
俯き、床へと向いている瞳に一つだけ新たな感情の色が滲む。
その感情を、真意を、ブルーという人間が抱えている物を知る者は本人以外は誰もいない。

「話で聞いただけだったが、強い奴だったんだろうな」
「ああ」

色のない声をかけたバリーに対して、同質の声で返事をする。
それに対して「なるほどな」と小さくつぶやき、しかめっ面のままで言葉を発する。

「気に食わねぇな。
 それだけの力を持ってながら、簡単にホワイトの言いなりになる奴が。
 誇りもクソもなく人を殺して回るような連中が」

バリーは握った拳から一本だけ突き出た親指を自身の胸に当て、地の底から響くような怒りを絞り出す。

「なにより"ここ”に力がねぇ癖して強者面している奴らが気に食わねぇ」

膝に体重を預けていたブルーが背筋を伸ばし、顔を上げた。
バリーが見たのは普段と変わらぬ涼し気な表情。
彼の口が僅かに笑みの形を取り、そのまま動き始める。

「君の言う通りだ、心なき力がいかに無力なものか、我々は思い知らせてやらねばならない。
 我が父の言葉などに従って殺し合いなどという愚かな行為を行なっているものに。
 そして、愚かな幻想を追い続ける我が父へと」

思い浮かべたのは4人の顔。
与えられた運命を、苦難を、試練を、力を。
意志の力で乗り越え、打ち砕き、飲み込み、我が物としてきた少年少女の姿。
人間はARMSには負けない。
強い意志と心を持った者は、強大であれども意思なき力などには負けたりはしない。
彼らが教えてくれたことだ。

心の臓にあてがわれたリミッターを軽く拳で叩くブルー。
バリーの唇がほんの少しだけ弧を描いたように見えた。
それは僅かな時の出来事であり、気のせいであるとも取る方が自然なもの。
だが確かに彼は笑った。そんな気が、した。


しかし、それでもブルーに存在する懸念が一つ。
この殺し合いにおいて直面するであろう、とある事象。
それについて尋ねようとした所で――――。

「待たせちまったな! すまねぇ!」




出た行った時の力なさとは打って変わっての明るい声を出しつつテンコが教室へ乗り込む。
空元気であるのは見れば分かるのものの、危うい雰囲気を醸し出しているものではないため、触れぬこととした。
出鼻を挫かれたブルーは一瞬だけ迷うような仕草を見せたが、訪ねようと思っていたもう一つの話題を切り出すことを決める。

「バリー、君は魔界から人間界に来た。これは間違いないね?」
「ああ、そうだな」
「テンコ、君も天界から人間界へ来た。そして君は地獄界の存在も知っている、そうだね?」
「だな。どの世界も全部この目で見てきたから間違いないぜ」

二人の返事に満足したのか、ブルーは一度だけ頷き、車椅子の車輪から手を離す。
続いてスムーズに肘置きに預けた両肘を回し腕を軽く開いたようなポーズを見せ、口を開く。

「私たちは全員別の時間軸から連れてこられていたのかと思っていた。
 最初の場で我が父を攻撃した少年、高槻涼はヤツを"ブラック”と呼んだ。
 私が知っている彼は"ブラック”が"ホワイト”であったことを知っているのにも関わらずね。
 それに彼の右腕にあるARMSは発動が不可能になっていたのに、あの場では普通に行使できていたことも引っかかったんだ」
「つまり、高槻はブラックがホワイトだと知るより前から連れてこられたって事か?」

ゆっくりとしながらも、明瞭な声で語り出したブルー。
語りの姿に何となくキース・ホワイトの面影が感じられたが、バリーは触れることはしない。
口が一度止まった時、彼の話から導き出されたある可能性の真偽を確かめるだけだ。

「その通りだ。彼と酷似したクローンを用いた可能性も考慮してないわけではないが、
 彼から感じられた共振、ARMSがそれぞれに持つ固有の信号のようなものだと思ってくれ。
 とにかくそれは彼本人のものと寸分違わぬものだった。
 だからあの高槻涼は私よりも過去から連れてこられた高槻涼本人であると私は考えている」

根拠を込めた正誤判定に納得したのか、バリーはそれ以上の追求を行わない。
ブルーは彼の反応を確認してから「しかし」と否定の言葉を発し、話を続ける。

「時間を超えて集められたという考えだけでは辻褄のあわないことがある。
 まず、私達が君たちのような者達の存在を一切知らなかったことから、君達が過去から連れてこられてのではないことが分かる」
「どうしてだ?」
「簡単さ。エグリゴリの情報網に君たちの存在がかからなかった事。
 軽く話を聞いていたが、私達の間に大きな時間的は差異はないはずだ。
 学校の内装や構造。渡された懐中電灯やペットボトル、そして食料。これらに違和感を覚えるものが誰も居なかったからね。
 なのにエグリゴリが能力者や魔物の存在を把握していたという情報の欠片すら存在していないということは、少なくとも私達より未来から来たのだろう。
 手の広さという一点においては奴らに絶大な信頼を置いている」
「なるほどな」

疑問の声を出したバリーへと返ってきたのは絶大な確信の込められた物。
元実験体であったから。
ブルーメンの長として生きてきたから。
エグリゴリという組織の中で生きてきたことがあるから。
長い月日をエグリゴリとの戦いに費やしてきたから。
だからこそ理解している。かの組織の強大さを。驚くほどの有能さを。
重みが篭ったブルーの言葉に、短くも理解したという念が十分に分かる返事をする。

「しかし、君たちが未来から来たのだとしても、私の世界で起こった大事件を知らないはずがない。
 人間界の自称に疎いとしても、あれだけ大規模だった事件の存在を知らないとは考えがたい。
 それに、それぞれ互いの時代で起こった大事件を把握していないということもね。
 ファウードなる突如現れた超巨大建造物の存在、NYで起こった巨大な怪物の出現、能力者の戦闘による破壊。
 これらをお互いに知らないというのは考え難い。
 じゃあ、どうすれば納得がいくのかと考えると?」
「ブルーやバリーがいた人間界は、コースケの住んでたのとは別の人間界ってことか?」

問いかけに対し、得心のいったようにテンコが答える。
複数の世界が存在していることは既に知っている上、最初の質問で何となく察しがついた。
ブルーが満足したように小さく笑みを見せた。

「ああ、そうだ。異世界の存在は証明されているし、世界間を渡る方法も存在しているからこれはほぼ確定といってもいいだろう。
 他に幾つかの可能性も考慮していないわけがないが、説得力で言えばこれが一番高いと私は考えている。
 だが、問題はこれからだ。
 だとすれば、時系列の合わない知人達は一体どうなのだろうか?
 一、あくまでも同一世界の別時間軸から連れてこられた。
 二、同じ人物が同じ歴史を辿っている別世界が複数存在し、知人同士もそれぞれ別の世界から連れてこられた」
「一だとすれば、過去が変われば未来にも影響が出るんじゃないか? 一応だけど心当たりはあるぜ?」

咄嗟に口を挟んでしまったテンコ。
彼が思い出すのは植木達と同様にこの殺し合いに呼ばれてしまったバロウ・エシャロットという少年の姿。
その記憶が浮かび、思わず口を出さずには居られなかったのだ。
当然、ブルーはその話に食いつかないわけがない。

「君の知ってるケースについて聞かせてもらってもいいかい?」
「ここに呼ばれてるバロウってやつが『過去の映像を現実に変える力』ってのを持ってるんだけど、
 その能力で実体化させた過去の自分が攻撃を食らうと、現在の自分にもダメージが入るんだ。
 他にも詳しいことはあるかもしれねぇけど、俺が知ってるのはそれだけだな」
「なるほど、しかし、その説明のみでは不明瞭な部分も多い。
 彼に会って話を聞いてみたいものだな。幸いにもまだ放送では名前を呼ばれていない。
 もしかすれば他にも時空に関する者がいるかもしれない。そんな者たちにも話を聞いてみたいところだ」

ディバッグから名簿を取り出し、バロウ・エシャロットの名をボールペンで丸く囲む。

「ただ、テンコの世界と我々の世界でまたタイムパラドックスが与える異なる可能性もあるな。
 実際どうなるかが分からないが、複数のパターンが考えられる。
 例として私より過去から来てた高槻涼が亡くなった場合を仮定しよう。
 元の世界でもう一人の高槻涼が生まれ。"本来の”歴史をたどる可能性。
 もしくは高槻涼が消えたことによって世界がそのズレを修正し、高槻涼なしに本来の歴史に限りなく近いものにしようとする可能性」
「そして、一番厄介なのは高槻涼が消えたことによって私達の世界が分岐してしまう可能性。
 世界の変遷による影響が出るのは恐らく生還後になるだろう。
 どうなるかは分からないが私の記憶から高槻涼の存在が抜け落ちることや、最悪では私の存在が消えてしまうということまでありえるかもしれない」
「なるほど……せっかく勝ったのに帰ったら死ぬって可能性もあるのか」

浮かんだのは最悪の可能性。
三者共にプログラムの打破に命を捧ぐ覚悟はある。
だが、それでも勝利の直後に訪れる死は許容出来るのだろうか?
至極落ち着いた様子で現状を理解したバリーであったが、その心中を窺うことは出来ない。
片方のケースにおいて提示された最悪の可能性。
だが、もう一つにケースならば100%安全であるという希望はあるのだろうか?
ブルーがなんの躊躇いもなく語り出した話の中身に。

「しかし、二の方であったとしてもそちらの方でも問題が出てしまう。
 この場合。ホワイトは複数存在しており、このプログラムの主催をしているホワイトを倒しても次なるものが志を受け継ぐ可能性がある」
「確かにそれは厄介だな」

幾つあるかも分からないブルー達の世界とよく似た平行世界の数だけ存在するキース・ホワイト。
楽観的に考えれば、平行世界の自分たちが何とかしてくれるかもしれない。
だが、それは勝利なのだろうか?
本当にそれでいいのだろうか?
話を続けるブルー。

「だからこそ、この殺し合いへの完全なる打破を目指すのならば、このことは留意しておくべきだろう」
「完全なる……か」

そう、答えは否だ。
確かに、このプログラムの打破とは勝利の一つだ。
しかし、それは完全なる勝利ではない。
バリーの呟き、そして握り直された拳。
勝つ。
完全に、完膚なきまでに。
死人が出てしまった時点でそれは潰えてしまった望みであるとは分かっている。
だが、そうだとしても。
改めて意志を固め直す三人。
そしてブルーが話を終わりを告げる。

「さて、この話は一旦終わりとしよう。続きは情報が増えてからだな。
 私にもしものことがあったら、後は頼むよ。
 もちろん私の考えが全くの的はずれである可能性も踏まえて、ね」

長い間話していて少しだけ疲れたのか一息つき、車椅子へと背中を預けた。
ディバッグから取り出したペットボトルの中身に口をつけ、喉が鳴ること数回。
蓋を閉め、再び仕舞い直し、もう一息。
僅かに天を仰ぎ、そして再び元の体勢へと戻る。

「さて、そろそろ、我々も打って出るべきだと考えているのだが、異論はあるだろうか?」
「俺は構わないぜ」
「おお、俺も賛成だ!」

ブルーの提案に対して二人は即座に賛同し、職員室から玄関へと向かって移動を始める。
唯一の戦力であるバリーの手を塞ぐことを防ぐため、平地では自らの手で、段差はテンコの手を借りて移動することにしたブルー。
テンコの小さな体では車椅子を支え切れないのではないかという懸念も無いわけではなかったが、結果としてそれは杞憂と終わる。
……彼の表情が相当苦しそうなものであることを除けばであるが。
「大丈夫かい?」とブルーが気遣うも「こ、これくらいでへばるわけねーだろ」と意地を張る。
自分も何か力になりたい。その気持を察したブルーはそれ以上の追求を行わない。
もっとも、完全にへばってしまい、落とされてしまいそうになった時は流石に止めるつもりであるが。
巨大化すれば車椅子などは楽に運搬できるのだが、むやみに目立ってしまうのは自殺行為であるので、テンコはマスコット形態であることを余儀なくされている。
元からさして広いわけでも迷路のように複雑な構造をしているわけでもない普通の学校。
外との繋がりである扉はあっけなく見つかり、三人は吹き込んでくる風を肌で感じた。
昇りゆく太陽と爽やかな風。テンコは思わず目を細めた。
だが、殺し合いの場という異様な空気が、確かに感じられるそれが安息を許さない。
不意にブルーがその唇を動かした。

「そういえば君達に尋ねなければならないことがあるのだが、構わないかい?
 歩きながらでいい。少しだけ私の話を聞いてくれないだろうか?」
「いいぜ、言ってみな」
「おう、俺にも遠慮なく聞いてくれ!」

振り返りもせずにぶっきらぼうな様子でバリーが、威勢のいい元気な声でテンコが同意を意を示す。
それを受け、ブルーは話を続ける。

「君は、このプログラムに従って人を殺すのは悪だと思うかい?」
「ひ、人を殺すのが正義なわけがねぇだろ!!」
「まぁ、同感だな」

二人の答えは当然ながら否。テンコは勢い良く叫び、それに一応の賛同を見せるバリー。
そよ風が彼の髪を揺らす中、「だとしたら」と言い、次なる問い掛けを。

「大切な相手が巻き込まれてしまっており、その者を優勝させるために自身の死を織り込み済みで殺し合いに乗った者。
 "神”でもないと叶えられぬような願い。それも誰もが納得できてしまうような願いを抱えて我が父の言葉に従う者。
 のっぴきならぬ事情。例えば自身が生還せねばその者の世界が滅びてしまう様な事態になってしまっており、やむを得ずに人を殺す者。
 そして、ただ死にたくないから。生きていたいから、その欲求のために行動している者
 君達は、そんな者達を悪と呼べるのかい?」
「つまり、俺にそいつらが倒せるかって聞いてんのか?」

回りくどい言い方をしていたブルーに対し、バリーがその意図を汲み要約する。
ブルーは残念そうに首を振り、車椅子を押す手を止めた。

「倒せるかじゃない、殺せるかを問うているんだ」

テンコが思わず息を呑む。
無言を決め込んだバリーに対し、ブルーは「質問を変えよう」と前置きをしてから尋ねる。

「まず、君は快楽のために人を殺める様な外道を殺すことが出きるかい?」
「ああ」

僅かな間も開けずに返される強い肯定の言葉。
テンコは思わず噛み付こうとし、止める。
16人。
友人の死。
もはや不殺を貫くなどと言える段階がとうに過ぎ去ってしまったことは分かっている。
だが、この質問に対して絶対に首を縦に振らないであろう相棒の姿がどうしても頭の隅にちらつく。
そんなテンコの気持ちを知ってか知らずか、ブルーは話を続ける。

「ならば強い王を目指すと言ったヴィンセント・バリーに問う。
 君は殺せるのか? 切り捨てられるのか?
 それとも同情心で生かしてしまうのか?
 "弱い”と断じてしまうのか? 彼らの"正義”を認めるのか?
 さぁ、ここで君の考えを教えてくれ」
「まずは……お前がどうするつもりなのかから聞かせてもらおうか?」
「私かい? 私はね――――」

質問に答えず、逆にブルーへと問いかけるバリー。
喋ろうとしたブルーが息を吸い直す。

何かを切り裂くような、吸い込まれるような、そんな音がした。

「殺せるさ。殺すだけの力が足りれば、の話だがね。
 彼らの心を、夢を、命を、想いを、全てを踏みにじってでも前に進む覚悟は……ある」



風が吹く。
強い風が、激しい風が。
彼らの体を叩く、押す、ぶつかる。
怒りも、同意も見せずにただ静かにバリーは尋ねる。

「それが、ホワイトの野郎に従う行為だとわかっていてもか?」

ブルーが瞼を下げ、小さく息を吐く。
そして再び目を開き、迷いの欠片すらない強い声でゆっくりと言い放つ。

「ああ、例え父の意に沿うこととなってしまえども、最後にヤツのプログラムを破壊できるのなら」

長々と吹いていた風が止んだ。
バリーは振り返り、移動を開始してから初めてブルーの元へと向け、彼の瞳を見据える。
一点の曇りもない、真っ直ぐな瞳。
それを見たバリーが口を開こうとした所でテンコが割り込む。

「け、けどよぉ。そういうやつだったら説得できれば仲間になってくれるかもしれねーだろ!?
 コースケと戦った奴にもそんなヤツが何人もいたんだしよぉ!」
「確かにそれも一理ある。だが、説得にはリスクが伴う。その事は分かっているね?
 こちらが逆に殺されてしまうというリスクを考えれば――――」
「やってやろうじゃねぇか」

バリーが牙を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべる。
テンコもバリーの言葉を聞き、パッと嬉しそうな表情を見せた。

「だが、しかしだ。彼らの中にも強い意志を持ち、臨む者がいる。
 命すら厭わずに目標のために戦い続ける強い者もだ」
「そんな奴らにも負けないからこそ、強い王だ」
「……そうか」

ブルーは小さく嘆息し、額に手を当てて頭を下げた。
しかし、その顔が見せているのは確かな微笑み。

「彼らもきっと、同じ事を言うんだろうな」

思わずこぼれ出た独り言、無意識のうちから生まれ落ちた一言。
ハッと顔を上げたものの、バリーもテンコにも聞こえていなかったようで、内心で安堵の息を吐く。
彼らの、特に亡くしてしまった巴武士への感傷に浸りかけたことを必死で堪える。
この感情は表に出してはならない。それはブルーが己に定めた掟。
だからだろう。バリーが声をかけてくれたことに、気を逸らしてくれたこのに感謝した。
しかし、それも次のバリーの言葉に驚愕する事となる。

「だが、どうしてもとお前が判断した時は、その時はしょうがねぇかもな」

今までの意見を唐突に覆したバリー。
その意図を何となく察することが出来たが、あえて聞き返す。

「もし、私と君の判断基準がどうしても合わない時は、どうするんだい?」
「多少は我慢してやるぜ。"パートナー”のやることなんだからな。
 俺の堪忍袋の緒が何処で切れるかは、自分自身でも分からねぇけどな」

きっと、先ほどの微笑みを見られてしまったのだろう。
切り捨てることはできるが、それは最後の手段。
自身の望みも読み取られていたことを悟り、ブルーは思わず苦笑する。
そして同時に出てきた一つの疑問。
急に出てきた一つのワード。

「パートナー……かい?」
「暫定的なって話だがな」
「手厳しいね」

大げさに肩をすくめ、困ったような表情を浮かべる。
バリーはブルーのオーバーリアクションなどは気にも留めない。
威圧するような、挑発するような笑みを見せながら突き放すだけだ。

「そう思うんなら俺を納得させてみせるんだな」
「難しそうだが……及第点も貰えたことだし頑張ってみるとしようか。
 君の本来のパートナーにも負けないくらいにね」
「グスタフに勝つ……か」

彼の言葉から、そんなことは不可能であるという意図が言外に含まれていることは用意に察することが出来た。
それでも。逃げる訳にはいかない。
このプログラムを打破するためには、彼に本来の力を出してもらわねばならない。
決意を込め、肯定の言葉を送る。

「ああ、そのつもりだ」
「できるといいがな」

バリーの小さな呟きが風に溶けて消えた。
ブルーがそれを聞いたのかどうかは分からない。
ただ、バリーより手渡された物を。
ようやく勝ち得た一つの信頼の形を。
戦い抜く力を持たぬ彼がようやく手に入れた象徴を。
自身のカラーネームと同じ色をした魔本の表紙を軽く撫で、力強く握りしめた。






【C-2 中学校校庭/一日目 朝】

【ヴィンセント・バリー】
[時間軸]:エルザドル戦後、ナゾナゾ博士からファウード戦への協力を求められる前
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品0~2、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。ブルーと協力する。


【キース・ブルー】
[時間軸]:単行本20巻、ブルーメンの鐙沢実験場襲撃前
[状態]:健康
[装備]:車椅子@現地調達、伝言板@スプリガン(ポケット)、テンコ@うえきの法則(勝手に飛んでる)
[道具]:ランダム支給品0~1(車椅子、杖に代わる物は無し)、基本支給品一式、魔本
[基本方針]:オリジナルARMSの子供達(涼、隼人、恵)を守る。バリーと協力する。バロウに会う






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キャラを追って読む

072:神をも恐れぬ父 ヴィンセント・バリー 121:「お前は弱いな」
キース・ブルー






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