It's like a 自問自答 ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
僕だって人間じゃない、だなんて。
そんなこと、口に出すことはできなかった。
そんなこと、口に出すことはできなかった。
◇ ◇ ◇
「ほんっと悪いねー、シルベストリのじーちゃん!」
満面の笑みを浮かべながら、小金井薫は無造作に立てた髪をかき上げる。
殺し合いの舞台に転送されてからしばらく一人で放浪し続けていた彼は、ようやく他の参加者に出会えたというだけで表情が明るくなった。
そのシルベストリと名乗った老人がいきなり仕掛けてこなかった時点で、頬が緩んでしまって――
「剣を持っているか」と訊かれたころには、白い歯を見せながら支給されていた菊一文字という名の日本刀を取り出していた。
とはいえさすがに無償で渡すのはまずいかと躊躇しかけた小金井に、シルベストリは必要がないらしい支給品を三つ見せた。
ならばすでに他の武器がある以上は問題ないかと、小金井は一つを選んでから菊一文字を手渡した。
殺し合いの舞台に転送されてからしばらく一人で放浪し続けていた彼は、ようやく他の参加者に出会えたというだけで表情が明るくなった。
そのシルベストリと名乗った老人がいきなり仕掛けてこなかった時点で、頬が緩んでしまって――
「剣を持っているか」と訊かれたころには、白い歯を見せながら支給されていた菊一文字という名の日本刀を取り出していた。
とはいえさすがに無償で渡すのはまずいかと躊躇しかけた小金井に、シルベストリは必要がないらしい支給品を三つ見せた。
ならばすでに他の武器がある以上は問題ないかと、小金井は一つを選んでから菊一文字を手渡した。
「いっやー、しっかし風子ねーちゃんもダメだねー!
自分の武器取られちゃうなんて、ちょっと油断しすぎとしか言えないな!
あはは! ちょっとこれはないよねー! さすがに信じられないっていうか!
これを配られたのがじーちゃんで、ちょーど近くを通ったのが俺だったからよかったけどさぁー!」
自分の武器取られちゃうなんて、ちょっと油断しすぎとしか言えないな!
あはは! ちょっとこれはないよねー! さすがに信じられないっていうか!
これを配られたのがじーちゃんで、ちょーど近くを通ったのが俺だったからよかったけどさぁー!」
自分も愛用の魔道具を奪われてしまっていることを棚に上げて、小金井はケラケラと笑う。
シルベストリから渡された籠手『風神』を持つ両手を、何度も意味なく上下させながら眺めている。
小柄な体型の上に、話しながらいちいち大げさに身振り手振りを行うので、実年齢の十四歳よりも幼く見えるだろう。
シルベストリから渡された籠手『風神』を持つ両手を、何度も意味なく上下させながら眺めている。
小柄な体型の上に、話しながらいちいち大げさに身振り手振りを行うので、実年齢の十四歳よりも幼く見えるだろう。
唐突に、そんな小金井の子どもじみた動作が止まる。
背後に跳びながら下ろしたリュックサックに風神を仕舞い込み、同時に野球ボール大の球体を二つ取り出して片方をポケットに突っ込む。
着地と同時にリュックサックを背負い直して、先ほどまで自分がいた場所を見据える。
薄ら笑いの掻き消えた真剣な表情で、自分の首があった箇所にある――刃を。
月光を照り返して鈍く光る日本刀は、まさしく小金井に支給された菊一文字。
構えるのは、黒いハットにコートを纏った丸眼鏡の老人――シルベストリ。
背後に跳びながら下ろしたリュックサックに風神を仕舞い込み、同時に野球ボール大の球体を二つ取り出して片方をポケットに突っ込む。
着地と同時にリュックサックを背負い直して、先ほどまで自分がいた場所を見据える。
薄ら笑いの掻き消えた真剣な表情で、自分の首があった箇所にある――刃を。
月光を照り返して鈍く光る日本刀は、まさしく小金井に支給された菊一文字。
構えるのは、黒いハットにコートを纏った丸眼鏡の老人――シルベストリ。
「じーちゃん……悪いけど、俺けっこー強いよ。いまからでもやめるなら――」
提案を突き放すかのように、シルベストリは疾風となった。
マフラーをなびかせながら接近してくる相手にも動じず、小金井は掴んでいた球に手を突っ込む。
ただの黒いボールに見えるが、物体の質量やサイズを無視して中に収納することのできる魔道具『蔵王』だ。
内部に収納されていた巨大な鎌を取り出して、首を刈り取らんとしてきた菊一文字を受ける。
空になった蔵王は、地面に落としてしまう。
マフラーをなびかせながら接近してくる相手にも動じず、小金井は掴んでいた球に手を突っ込む。
ただの黒いボールに見えるが、物体の質量やサイズを無視して中に収納することのできる魔道具『蔵王』だ。
内部に収納されていた巨大な鎌を取り出して、首を刈り取らんとしてきた菊一文字を受ける。
空になった蔵王は、地面に落としてしまう。
「くっ!?」
二つの刃が拮抗していた時間は、コンマ一秒にも満たなかった。
接触した途端に、鎌が砕け散ってしまったのだ。
一つ一つが凶器である欠片が降り注ぐも、シルベストリは臆することなく返しの二閃目を放つ。
小金井は残った柄を放り投げて、もう一つの蔵王から中身を取り出す。
出現したのは、やはり鎌。
それも、先ほどとまったく変わらない外見をしている。
相手が得物を構えようと、シルベストリの剣速は緩まらない。
先ほどと同じことがまた起きるだけ、とでも思っているのだろう。
接触した途端に、鎌が砕け散ってしまったのだ。
一つ一つが凶器である欠片が降り注ぐも、シルベストリは臆することなく返しの二閃目を放つ。
小金井は残った柄を放り投げて、もう一つの蔵王から中身を取り出す。
出現したのは、やはり鎌。
それも、先ほどとまったく変わらない外見をしている。
相手が得物を構えようと、シルベストリの剣速は緩まらない。
先ほどと同じことがまた起きるだけ、とでも思っているのだろう。
「――なんて、ね」
響いたのは、物体が弾ける破砕音ではない。
刃と刃が接触した鈍い音ののち、金属同士が擦れあう不快な音。
目を見張ったシルベストリは、反応が遅れてしまう。
その隙に小金井は、左足に体重を乗せて菊一文字の柄を蹴りあげる。
想定していなかった方向からの衝撃に、刀は手放されてしまい宙を舞う。
刃と刃が接触した鈍い音ののち、金属同士が擦れあう不快な音。
目を見張ったシルベストリは、反応が遅れてしまう。
その隙に小金井は、左足に体重を乗せて菊一文字の柄を蹴りあげる。
想定していなかった方向からの衝撃に、刀は手放されてしまい宙を舞う。
「同じもんってワケじゃあないんだな、それがっ。
さっきのは劣化版コピーで……こっちが正真正銘本家本元オリジナル!」
さっきのは劣化版コピーで……こっちが正真正銘本家本元オリジナル!」
わざわざ説明しながら、小金井は『エレザールの鎌』を振るう。
相手をおちょくっているのではなく、遊ぶように戦うのが小金井薫の戦闘スタイルなのだ。
小動物のようにすばしっこい動きで背後に回り、鎌でシルベストリの足を切り裂く。
斬り落としてしまわぬように、腱だけを斬った。
状況が状況だ。
本来は殺し合いを肯定するような性格でないのに、このような行動を取ってしまった可能性もある。
かつて兄と慕った男や、友人の中性的な顔をした剣士には「甘い」と言われてしまいそうだが、だとしても。
一度くらいは話を聞こうと、小金井は考えたのだ。
相手をおちょくっているのではなく、遊ぶように戦うのが小金井薫の戦闘スタイルなのだ。
小動物のようにすばしっこい動きで背後に回り、鎌でシルベストリの足を切り裂く。
斬り落としてしまわぬように、腱だけを斬った。
状況が状況だ。
本来は殺し合いを肯定するような性格でないのに、このような行動を取ってしまった可能性もある。
かつて兄と慕った男や、友人の中性的な顔をした剣士には「甘い」と言われてしまいそうだが、だとしても。
一度くらいは話を聞こうと、小金井は考えたのだ。
「……なっ!?」
一度倒れこんだシルベストリが勢いよく立ち上がって、小金井を組み伏せる。
突然の衝撃に、持ちなれていない鎌を手放してしまう。
腱を斬ったというのに、なぜ何もなかったかのように動けるのか。
そんな小金井の疑問は、すぐに解消されることになる。
仰向けの小金井を右肘だけで抑え、シルベストリは左手で――右掌から先を外したのだ。
いや、違う。
掌、ではない。
半壊してしまっているが、それは掌が柄となっている――奇妙な剣。
それを見て、小金井は察した。
シルベストリはただの老人ではなく機械なのだと。
かつてサイボーグと戦ったことがあったので、すんなりと理解することができた。
にもかかわらず、シルベストリに対して警戒していなかったのには理由がある。
小金井の知るサイボーグは一見しただけで機械であると分かったが、シルベストリは違ったのだ。
まるで、ただの人間のような容姿と雰囲気をしていた。
身のこなしこそ人間の域を飛び越えてしまっていたが、化物じみた強さの強者を小金井は何人も知っていた。
知識があったことが災いし、小金井はシルベストリがサイボーグであるなどと疑いもしなかったのだ。
突然の衝撃に、持ちなれていない鎌を手放してしまう。
腱を斬ったというのに、なぜ何もなかったかのように動けるのか。
そんな小金井の疑問は、すぐに解消されることになる。
仰向けの小金井を右肘だけで抑え、シルベストリは左手で――右掌から先を外したのだ。
いや、違う。
掌、ではない。
半壊してしまっているが、それは掌が柄となっている――奇妙な剣。
それを見て、小金井は察した。
シルベストリはただの老人ではなく機械なのだと。
かつてサイボーグと戦ったことがあったので、すんなりと理解することができた。
にもかかわらず、シルベストリに対して警戒していなかったのには理由がある。
小金井の知るサイボーグは一見しただけで機械であると分かったが、シルベストリは違ったのだ。
まるで、ただの人間のような容姿と雰囲気をしていた。
身のこなしこそ人間の域を飛び越えてしまっていたが、化物じみた強さの強者を小金井は何人も知っていた。
知識があったことが災いし、小金井はシルベストリがサイボーグであるなどと疑いもしなかったのだ。
「君のような幼すぎる人間には、本来答えることなどできないだろうが……
この一人しか生き残ることができぬ状況で、他者を気遣う君にならば尋ねてもよいだろう」
この一人しか生き残ることができぬ状況で、他者を気遣う君にならば尋ねてもよいだろう」
小金井の首筋に刃を添えながら、シルベストリは問いかけた。
その内容に小金井はしばし困惑してから、ゆっくりと答える。
一人きりだったとき、誰も自分に優しさを向けてくれないのならばと命を絶とうとした過去を持つからこそ。
小金井は、ある解答を見出した。
その言葉にさしたる反応を返すこともなく、シルベストリは無表情で告げる。
その内容に小金井はしばし困惑してから、ゆっくりと答える。
一人きりだったとき、誰も自分に優しさを向けてくれないのならばと命を絶とうとした過去を持つからこそ。
小金井は、ある解答を見出した。
その言葉にさしたる反応を返すこともなく、シルベストリは無表情で告げる。
「さらばだ」
首筋に僅かな刺激が走り、小金井は目を閉じる。
仲間たちと合流することもなく、こんなにもあっさり自分が死んでしまうとは思っていなかった。
殺し合いに巻き込まれる前にさらわれた少女を救うどころか、この場から脱出することさえできない。
ただただ悔しくて、顎に力を籠める。
軋む歯の根元から、鉄のような味がしみ出してくる。
しかし待てども待てども、小金井の思考が止まってしまうことはなかった。
首に当たっていた刃の冷たさも、自分を抑えつける力も、気付けばなくなっている。
少しずつ目を開けると、心配そうに覗き込む銀髪銀眼の女性が小金井の視界に入った。
仲間たちと合流することもなく、こんなにもあっさり自分が死んでしまうとは思っていなかった。
殺し合いに巻き込まれる前にさらわれた少女を救うどころか、この場から脱出することさえできない。
ただただ悔しくて、顎に力を籠める。
軋む歯の根元から、鉄のような味がしみ出してくる。
しかし待てども待てども、小金井の思考が止まってしまうことはなかった。
首に当たっていた刃の冷たさも、自分を抑えつける力も、気付けばなくなっている。
少しずつ目を開けると、心配そうに覗き込む銀髪銀眼の女性が小金井の視界に入った。
「大丈夫でしたか!? 自動人形(オートマータ)……ッ!」
「また人形破壊者(しろがね)か」
「また人形破壊者(しろがね)か」
小金井が動いたことに安堵の溜息を吐いてから、女性は踵を返す。
彼女の視線の先では、シルベストリが回収したらしい菊一文字を構えて腰を低く落としていた。
彼女の視線の先では、シルベストリが回収したらしい菊一文字を構えて腰を低く落としていた。
「マリオネットがないようだが」
「だとしても、自動人形を放っておくことなどできるものか!」
「だとしても、自動人形を放っておくことなどできるものか!」
力強く言い放って、女性は顔だけを後ろに向ける。
「ロベルト、少年はあなたに任せます!」
「いや、僕が出よう」
「いや、僕が出よう」
背後からの声を捉え、ようやく小金井は女性の同行者らしい金髪の少年の存在に気付く。
ここまで接近されていたというのに認識できていなかった事実に、小金井は息を呑んだ。
それほどまでに焦ってしまっていたのか。
はたまた、ロベルトと呼ばれた少年が気配を完全に絶っていたのか。
後者ではないように、思えた。
ゆっくりと前に出るロベルトは、外見的には小金井と年齢がさして変わらないようだったが――
ただ歩いているだけだというのに、そこにいるだけだというのに、奇妙な違和感を放っていた。
サイボーグであったシルベストリよりも、銀髪銀眼にチャイナドレスというなかなかお目にかかれない姿の女性よりも、どこか浮いている。
ここまで接近されていたというのに認識できていなかった事実に、小金井は息を呑んだ。
それほどまでに焦ってしまっていたのか。
はたまた、ロベルトと呼ばれた少年が気配を完全に絶っていたのか。
後者ではないように、思えた。
ゆっくりと前に出るロベルトは、外見的には小金井と年齢がさして変わらないようだったが――
ただ歩いているだけだというのに、そこにいるだけだというのに、奇妙な違和感を放っていた。
サイボーグであったシルベストリよりも、銀髪銀眼にチャイナドレスというなかなかお目にかかれない姿の女性よりも、どこか浮いている。
「ですが、自動人形はっ!」
「道中で、一度聞かせてもらったよ。あれが『最古の四人』かい?」
「違いますが、それでも人間を超える力を持つことに変わりはありま――」
「『百鬼夜行(ピック)』」
「道中で、一度聞かせてもらったよ。あれが『最古の四人』かい?」
「違いますが、それでも人間を超える力を持つことに変わりはありま――」
「『百鬼夜行(ピック)』」
会話の途中で何らかを呟くと、ロベルトの右手に巨大な杭が出現した。
その杭は凄まじい速度で伸びていき、女性のすぐ横を通って地面に突き刺さる。
小金井がそちらに視線を飛ばすと、攻撃を仕掛けようとしていたらしいシルベストリが横に跳びギリギリのところで回避していた。
その杭は凄まじい速度で伸びていき、女性のすぐ横を通って地面に突き刺さる。
小金井がそちらに視線を飛ばすと、攻撃を仕掛けようとしていたらしいシルベストリが横に跳びギリギリのところで回避していた。
「マリオネットとやらはないけれど、僕は武器がなんて必要ないからね。
戦うことができるものが残ることに、なにかおかしいことがあるのかい?」
「で、ですが――」
「それに、その少年を戦闘に巻き込んでしまうつもりかい?」
戦うことができるものが残ることに、なにかおかしいことがあるのかい?」
「で、ですが――」
「それに、その少年を戦闘に巻き込んでしまうつもりかい?」
反論しようとした女性の言葉を遮って、ロベルトは言い切る。
しろがねと呼ばれた女性はしばし悩んだのち、深く頭を下げてから小金井を抱え上げた。
しろがねと呼ばれた女性はしばし悩んだのち、深く頭を下げてから小金井を抱え上げた。
「すみません、ロベルト」
「すぐ南に行けばビジネスホテルがある。適当な部屋にいてくれればいい」
「すぐ南に行けばビジネスホテルがある。適当な部屋にいてくれればいい」
再びお辞儀をして、しろがねは地面を蹴る。
小金井はなにも言わずに、抱えられたままで去っていく。
女性に抱かれたままだなんて恥ずかしかったし、おそらくロベルトたちが考えているような無力な子どもではないけれど。
それでも、おとなしく離れていく。
ロベルトがなぜしろがねを遠ざけたのか、理解できたような気がしたから。
たぶん巻き込んでしまいたくなかったのだろう、と。
先日すぐ近くにいた気に入っている少女をさらわれ、自分たちの戦いに巻き込んでしまったから。
小金井は、そう考えたのだ。
そのように思ってしまった以上は、しろがねと呼ばれた女性を戦場に残すワケにはいかない。
ゆえにとても自分が情けなくなりながらも、小金井は無力な少年を演じることにした。
小金井はなにも言わずに、抱えられたままで去っていく。
女性に抱かれたままだなんて恥ずかしかったし、おそらくロベルトたちが考えているような無力な子どもではないけれど。
それでも、おとなしく離れていく。
ロベルトがなぜしろがねを遠ざけたのか、理解できたような気がしたから。
たぶん巻き込んでしまいたくなかったのだろう、と。
先日すぐ近くにいた気に入っている少女をさらわれ、自分たちの戦いに巻き込んでしまったから。
小金井は、そう考えたのだ。
そのように思ってしまった以上は、しろがねと呼ばれた女性を戦場に残すワケにはいかない。
ゆえにとても自分が情けなくなりながらも、小金井は無力な少年を演じることにした。
◇ ◇ ◇
「わざわざ待ってくれたのかい? 話に聞いたよりも紳士だね、自動人形……ええと」
「シルベストリだ」
「シルベストリだ」
しろがねの姿が完全に見えなくなるまで、刀を抜こうとしなかった。
そのことにロベルトが疑問を抱いたと分かっているのか、シルベストリは口を開く。
そのことにロベルトが疑問を抱いたと分かっているのか、シルベストリは口を開く。
「ただの人形破壊者(しろがね)と人間だったのなら、すみやかに殺害するつもりだったのだがな。
あれほどの能力を持ちながら他者を庇って一人残る……そんな人間じみた不可解なことをする君ならば答えられるかもしれないと思ってな」
あれほどの能力を持ちながら他者を庇って一人残る……そんな人間じみた不可解なことをする君ならば答えられるかもしれないと思ってな」
ふうんと相槌を打ってから、ロベルトは返す。
「しろがね、ね。
なぜエレオノールという名があるというのにそう名乗るのかは不思議に思っていたが、人形が彼女の名を知っているのかも気がかりだな」
「しろがね、とは個人の名ではない」
「……どういうことだ」
「自動人形を破壊する。そのプログラムにだけ従い続けている『人形殺しの人形』、それを総称して人形破壊者と呼ぶ」
「人形、か。君は勘違いしているよ、シルベストリ」
なぜエレオノールという名があるというのにそう名乗るのかは不思議に思っていたが、人形が彼女の名を知っているのかも気がかりだな」
「しろがね、とは個人の名ではない」
「……どういうことだ」
「自動人形を破壊する。そのプログラムにだけ従い続けている『人形殺しの人形』、それを総称して人形破壊者と呼ぶ」
「人形、か。君は勘違いしているよ、シルベストリ」
訝しむシルベストリの前で、ロベルトの右腕を巨大な砲台が覆う。
天界人の持つ能力『神器』が一つ、『鉄(くろがね)』である。
発砲される前に仕掛けようとしたらしく、シルベストリは地面を蹴るも――ほんの数センチくらいしか跳躍できずに終わる。
原因は、彼の左足に付着している赤いシャボン玉だ。
そのシャボン玉は『触れているものの重力を変える』ことができる。赤いものは接触している物体を重く、青いものは逆に軽くする。
シルベストリがしろがねが遠ざかるのを待っているうちに、ロベルトはすでに仕掛けていたのだ。
ゆっくりと余裕を持って照準を合わせてから、鉄の弾丸を放つ。
天界人の持つ能力『神器』が一つ、『鉄(くろがね)』である。
発砲される前に仕掛けようとしたらしく、シルベストリは地面を蹴るも――ほんの数センチくらいしか跳躍できずに終わる。
原因は、彼の左足に付着している赤いシャボン玉だ。
そのシャボン玉は『触れているものの重力を変える』ことができる。赤いものは接触している物体を重く、青いものは逆に軽くする。
シルベストリがしろがねが遠ざかるのを待っているうちに、ロベルトはすでに仕掛けていたのだ。
ゆっくりと余裕を持って照準を合わせてから、鉄の弾丸を放つ。
「不可解なことをしたと言ったが、それは僕じゃない。
少年を守ろうとしたのは、君が人形と言ったしろがねさんのほうだよ」
少年を守ろうとしたのは、君が人形と言ったしろがねさんのほうだよ」
吸い込まれてしまいそうな闇色の弾丸が、ロベルトの右腕から生える砲台から放たれる。
接触と同時にシャボン玉が弾けて、シルベストリの重量が元に戻った。
弾丸の速度にあっさりと吹き飛ばされて、民家へと突っ込んでしまう。
接触と同時にシャボン玉が弾けて、シルベストリの重量が元に戻った。
弾丸の速度にあっさりと吹き飛ばされて、民家へと突っ込んでしまう。
「しかし『人間じみている』ね……
植木くんや佐野くんならば同意するんだろうが、僕にはむしろ人間らしくないと思えてしまうな。
攻撃用の神器を見てもなお恐れることなく、申し訳なさそうに礼を言うなんてね。やはり、彼女は少し不思議だな」
植木くんや佐野くんならば同意するんだろうが、僕にはむしろ人間らしくないと思えてしまうな。
攻撃用の神器を見てもなお恐れることなく、申し訳なさそうに礼を言うなんてね。やはり、彼女は少し不思議だな」
だからこそ気になっているだけど――と、ロベルトは一人ごちる。
才賀勝という名の『守るべきお坊ちゃま』以外に、初対面の少年まで助けようとする。
ロベルトの知る人間ならば、そのような行動は取らない。
自分の保身だけを考える弱い存在。それこそが人間だと思っていた。
自分が弱いばっかりに、圧倒的な力を前にすると恐怖で迫害しようとする。それこそが人間の本質のはずだった。
ゆえに、しろがねの行動が理解できない。
武器であるらしい操り人形も所持していないというのに、自動人形に組み伏せられている少年を庇って前に出る。
そんなことをしてしまうのは、ロベルトの知る人間ではない。
ゆえに、ロベルトは彼女に代わってこの場に残ったのだ。
人間という種を見極めるにおいて興味深い存在だと考え、ならば人形などに傷付けさせるワケにはいかなかった。
才賀勝という名の『守るべきお坊ちゃま』以外に、初対面の少年まで助けようとする。
ロベルトの知る人間ならば、そのような行動は取らない。
自分の保身だけを考える弱い存在。それこそが人間だと思っていた。
自分が弱いばっかりに、圧倒的な力を前にすると恐怖で迫害しようとする。それこそが人間の本質のはずだった。
ゆえに、しろがねの行動が理解できない。
武器であるらしい操り人形も所持していないというのに、自動人形に組み伏せられている少年を庇って前に出る。
そんなことをしてしまうのは、ロベルトの知る人間ではない。
ゆえに、ロベルトは彼女に代わってこの場に残ったのだ。
人間という種を見極めるにおいて興味深い存在だと考え、ならば人形などに傷付けさせるワケにはいかなかった。
「さて破壊させてもらうよ、人形」
鉄を発現させたまま、ロベルトは少し前まで民家であった瓦礫の元に向かっていく。
シルベストリは瓦礫の中心部に埋まりこんでいる。
大きく損傷してしまっているようではなかったが、足を挟まれてしまっており動くことができないらしかった。
迫ってくる足音から離れることもできず、ついに巨大な銃口を胸元に当てられてしまう。
少しも動じた様子を見せずに、シルベストリは静かに口を開いた。
シルベストリは瓦礫の中心部に埋まりこんでいる。
大きく損傷してしまっているようではなかったが、足を挟まれてしまっており動くことができないらしかった。
迫ってくる足音から離れることもできず、ついに巨大な銃口を胸元に当てられてしまう。
少しも動じた様子を見せずに、シルベストリは静かに口を開いた。
「終わり、か」
「ああ。人形を破壊することに躊躇などしない」
「最期に尋ねたいことがある。この私がかねてより抱え込んできた疑問だ」
「……言ってみろ」
「『人間はなぜ群れるのか』――」
「ああ。人形を破壊することに躊躇などしない」
「最期に尋ねたいことがある。この私がかねてより抱え込んできた疑問だ」
「……言ってみろ」
「『人間はなぜ群れるのか』――」
◇ ◇ ◇
「大丈夫! もう大丈夫だって! ほんとに! ほんとに気にしないでって!」
ビジネスホテルの一室にて、小金井薫は声を激しくした。
首筋の微かな傷痕を消毒して絆創膏を貼ったあと、しろがねは小金井に服を脱ぐようと指示したのだ。
自動人形に馬乗りになられた衝撃で、血は出ていなくとも傷を負ってしまっているかもしれない。
その発想自体は非常に真っ当だと思ったが、しかし多少の打撃など受け慣れているのだ。
放っておいても問題ないと小金井の経験は言っているのだが、無力な少年だと思っているしろがねはなかなか退かない。
ロベルトの気持ちを思えば『実は何度も死線を掻い潜っています』などと言うこともできず、となれば納得のいく説明もできない。
首筋の微かな傷痕を消毒して絆創膏を貼ったあと、しろがねは小金井に服を脱ぐようと指示したのだ。
自動人形に馬乗りになられた衝撃で、血は出ていなくとも傷を負ってしまっているかもしれない。
その発想自体は非常に真っ当だと思ったが、しかし多少の打撃など受け慣れているのだ。
放っておいても問題ないと小金井の経験は言っているのだが、無力な少年だと思っているしろがねはなかなか退かない。
ロベルトの気持ちを思えば『実は何度も死線を掻い潜っています』などと言うこともできず、となれば納得のいく説明もできない。
「そんなに恥ずかしがらなくても――」
「別に、恥ずかしいからじゃないよ!!」
「別に、恥ずかしいからじゃないよ!!」
いや、本当はそうなんだけど。恥ずかしいんだけどさ。
そんな考えを小金井は口に出したりはしないが、顔が真っ赤になってしまっていれば隠せるものも隠せない。
ホテルの備品であった救急箱を片手に持ったしろがねに、じりじりと追い詰められていく。
床に転がっているドアに足を取られて、背後を確認せずに後退していた小金井は倒れこんでしまう。
どうやら向かい部屋に一度何者かが入室していたようで、その男はドアをぶち破って出たらしかった。
小金井としろがねがいる部屋には、ドアが二つ転がっていたのだ。
こんな物が転がっている場所はイヤだと小金井は思ったのだが、しろがねがロベルトが来た際に分かりやすいと主張したので従った。
そんな考えを小金井は口に出したりはしないが、顔が真っ赤になってしまっていれば隠せるものも隠せない。
ホテルの備品であった救急箱を片手に持ったしろがねに、じりじりと追い詰められていく。
床に転がっているドアに足を取られて、背後を確認せずに後退していた小金井は倒れこんでしまう。
どうやら向かい部屋に一度何者かが入室していたようで、その男はドアをぶち破って出たらしかった。
小金井としろがねがいる部屋には、ドアが二つ転がっていたのだ。
こんな物が転がっている場所はイヤだと小金井は思ったのだが、しろがねがロベルトが来た際に分かりやすいと主張したので従った。
(誰だよ、前にいたヤツ! ふざけんな! 会ったら文句言ってやる!)
――――よもやその『前にいたヤツ』が自分の仲間であるなど、小金井が知るはずもない。
しろがねが心配そうな顔をした瞬間、足音がホテル内に響いた。
ゆっくりとだが規則的に、少しずつ近づいてきている。
小金井は目つきを鋭くして、コンパクトに畳み込んでいたエレザールの鎌を組み立てる。
もしも殺し合いに乗り気の人間が現れた場合、無力な少年を演じることを諦めてしろがねを守らねばならない。
そう考えた小金井の視界が捉えたのは、額に包帯を巻いた金髪の少年――ロベルトであった。
大きく息を吐いて、臨戦態勢を解く。
再び鎌を畳む小金井の横を通って、しろがねがロベルトの元へと駆け寄る。
ゆっくりとだが規則的に、少しずつ近づいてきている。
小金井は目つきを鋭くして、コンパクトに畳み込んでいたエレザールの鎌を組み立てる。
もしも殺し合いに乗り気の人間が現れた場合、無力な少年を演じることを諦めてしろがねを守らねばならない。
そう考えた小金井の視界が捉えたのは、額に包帯を巻いた金髪の少年――ロベルトであった。
大きく息を吐いて、臨戦態勢を解く。
再び鎌を畳む小金井の横を通って、しろがねがロベルトの元へと駆け寄る。
「ロベルト、よく無事で……っ」
「あ、ああ…………」
「あ、ああ…………」
しろがねがロベルトの手を握って、部屋に引き入れる。
すぐ近くまで来てようやく、小金井はロベルトが冴えない表情をしていることに気付いた。
浮かないというか、何かを思い悩んでいるような。
視線を他人と合わせようともせず、僅かに俯いてどこかを見ているのだ。
そんな素振りを意に介さず、あるいは気付かずに、しろがねは胸を撫で下ろした様子で告げる。
すぐ近くまで来てようやく、小金井はロベルトが冴えない表情をしていることに気付いた。
浮かないというか、何かを思い悩んでいるような。
視線を他人と合わせようともせず、僅かに俯いてどこかを見ているのだ。
そんな素振りを意に介さず、あるいは気付かずに、しろがねは胸を撫で下ろした様子で告げる。
「おかえりなさい」
その言葉を受け、ロベルトは戸惑ったように目を丸くした。
結構な時間そのまま呆然としてから、ぎこちなく笑みを作る。
そのままゆっくりと口を開いた。
結構な時間そのまま呆然としてから、ぎこちなく笑みを作る。
そのままゆっくりと口を開いた。
「ただいま」
【E-4 ビジネスホテル/一日目 黎明】
【ロベルト・ハイドン】
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと同行し、人が集まりそうな街へ向かう。
[時間軸]:9巻85話『アノン』にてアノンの父親に悩みを打ち明ける寸前。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済、人形はない)
[基本方針]:人間を見極める。ひとまずしろがねと同行し、人が集まりそうな街へ向かう。
【才賀エレオノール】
[時間軸]:28巻『幕間Ⅰ~「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、残り支給品0~2(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
[時間軸]:28巻『幕間Ⅰ~「帰れない」』にて才賀勝と再開する直前。
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、自転車@出典不明、残り支給品0~2(確認済、人形はない)
[基本方針]:とにもかくにもお坊ちゃまを捜索し、発見次第守る。ナルミにも会いたい。
※名簿は『才賀勝』までしか確認していません。
【小金井薫】
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。
[時間軸]:24巻236話『-要塞都市-SODOM』にてSODOMに突入する寸前。
[状態]:首に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エレザールの鎌@うしおととら、風神@烈火の炎
[基本方針]:仲間たちと合流し、プログラムを破壊する。
◇ ◇ ◇
「『人間はなぜ群れるのか』。
現状、多くの人間が最小限の人間関係さえあれば生きていける。
なぜ人間たちは友人や集団を求めて、何かに属することを求めるのか。
その結果として人間同士のいざこざで争いが起こるというのに、どうして群れようとするのか」
現状、多くの人間が最小限の人間関係さえあれば生きていける。
なぜ人間たちは友人や集団を求めて、何かに属することを求めるのか。
その結果として人間同士のいざこざで争いが起こるというのに、どうして群れようとするのか」
「…………」
「君は、分かるのか」
「…………弱いからだ」
「君も、小金井薫という少年と同じことを言うのだな」
「かつての僕は、そう考えていた」
「ならば、いまはどのように――」
「……分からない。僕もまた、その答えを求めている。
この僕を前に言い切った彼の言葉が正しかったのか、それを知るために」
この僕を前に言い切った彼の言葉が正しかったのか、それを知るために」
「その言葉とは、いったい……?」
「僕からは言えない。あれは彼の言葉であって、未だ理解しきれていない僕が軽々しく口にしていいものではない」
「そうか……機能が停止する前に、一度聞きたかったものだな」
「――植木耕助」
「なに?」
「名簿にも記載されていただろう。植木耕助、それが僕に答えを叩き付けた男の名だ」
「どうして、それを私に言う」
「彼に会い、そして問え。植木くんならば、間違いなく答えられるはずだ」
「私を破壊しないのか」
「僕の目的は人間を見極めることだ。
人殺しを許さないだとか、そういうことを言うつもりはない」
人殺しを許さないだとか、そういうことを言うつもりはない」
「……なるほど。君はどこか、私に似ているのだな」
「ただ、一つだけ訊かせてもらう。
破壊されかけても狼狽えずに疑問の答えを求めるお前が、なぜ参加者を殺そうとしている」
破壊されかけても狼狽えずに疑問の答えを求めるお前が、なぜ参加者を殺そうとしている」
「簡単なことだ。この殺し合いに、造物主様が呼ばれてしまっている」
「造物主……親、か」
「造物主様がいる以上、あの方の優勝をサポートする以外にないのだよ」
「…………子は、親の言うことに従わねばならないのか。
無条件に信じ込むだけで、過ちである可能性などと考えてはいけないのか……?」
無条件に信じ込むだけで、過ちである可能性などと考えてはいけないのか……?」
「私は人形だ。君のような人間ならば違うのだろうがな」
【E-4 路上/一日目 黎明】
【シルベストリ】
[時間軸]:本編34巻 勝戦直前
[状態]:健康
[装備]:菊一文字@YAIBA
[道具]:ランダム支給品2(刀剣類なし、確認済み)、基本支給品一式
[基本方針]:フェイスレスの優勝をサポートしつつ、人間が群れる理由を解き明かす。植木耕助に会う。
[時間軸]:本編34巻 勝戦直前
[状態]:健康
[装備]:菊一文字@YAIBA
[道具]:ランダム支給品2(刀剣類なし、確認済み)、基本支給品一式
[基本方針]:フェイスレスの優勝をサポートしつつ、人間が群れる理由を解き明かす。植木耕助に会う。
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007:こうしてはいられない | 才賀エレオノール | 055:境遇――孤独だった三人 |
ロベルト・ハイドン | ||
GAME START | 小金井薫 | |
009:リング | シルベストリ | 048:造花 |