流と耕助 ◆c8fjjCyRkM
植木耕助は、歩き続けていた。
溢れる涙によって視界がにじみ、足元さえかすんで見える。
いかに十つ星天界人といえど、前が見えなければ足取りは覚束なくなってしまう。
だというのに、植木は涙を拭こうともしなかった。
それをするためには、抱えているものを手放さねばならないからだ。
少しずつ冷たくなっていく老人、ナゾナゾ博士をもう放置することはできない。
植木が彼を置いて行った為に、彼は死んでしまったのだ。
もう二度と仲間から目を離さないと、植木は誓った。
ほとんど霞がかった視界のまま、ひたすら歩く。
溢れる涙によって視界がにじみ、足元さえかすんで見える。
いかに十つ星天界人といえど、前が見えなければ足取りは覚束なくなってしまう。
だというのに、植木は涙を拭こうともしなかった。
それをするためには、抱えているものを手放さねばならないからだ。
少しずつ冷たくなっていく老人、ナゾナゾ博士をもう放置することはできない。
植木が彼を置いて行った為に、彼は死んでしまったのだ。
もう二度と仲間から目を離さないと、植木は誓った。
ほとんど霞がかった視界のまま、ひたすら歩く。
「そこの緑髪ボウズ」
不意に声を浴びせられ、植木はそちらを振り向いた。
ぼんやりと見えたのは、人影が二つ。
一人は短い茶髪で、もう一人は長い金髪。
体型からしてどちらも大人のようだ。
その程度しか、植木には分からなかった。
返事をしようとして、声をかけてきた茶髪の方が続ける。
声から察するに、声の主は男性らしい。
ぼんやりと見えたのは、人影が二つ。
一人は短い茶髪で、もう一人は長い金髪。
体型からしてどちらも大人のようだ。
その程度しか、植木には分からなかった。
返事をしようとして、声をかけてきた茶髪の方が続ける。
声から察するに、声の主は男性らしい。
「なんつうもんを背負ってんだ。その爺さん、死んじまってるぜ」
「知ってる。分かってるよ……」
「ならどうして背負ってんだよ。死んだってのに、まだ引き連れられてくなんて可哀想だろ。いい加減に休ませてやるのが道理ってもんだぜ。……それとも、死体を使って何かやろうと企んでやがんのか?」
「……ち、違えよっ!」
思わぬ容疑をかけられ、植木は咄嗟に否定した。
すると、それまで飄々としていた声色が、急に低くなる。
曖昧な視界であったが、相手の目付きまでも鋭くなったような感覚があった。
すると、それまで飄々としていた声色が、急に低くなる。
曖昧な視界であったが、相手の目付きまでも鋭くなったような感覚があった。
「だったら、何考えてんだ」
言って、男は何か輝く物を取り出した。おそらくは武器だ。
答え次第では、これを振り下ろすことになる。
動作だけで、雄弁に語っていた。
なので、植木は慌てて答える。
答え次第では、これを振り下ろすことになる。
動作だけで、雄弁に語っていた。
なので、植木は慌てて答える。
「ナゾナゾ博士は、俺のせいで殺されちまったんだ! 俺が、安全な場所に避難させたつもりで戦ってたから! そのせいで! だから、もう置いてけねえよ!」
怒鳴るような口調に最も驚いたのは、他ならぬ植木自身であった。
落ち着いて説明せねばならないはずなのに、不思議と声を張り上げていた。
落ち着いて説明せねばならないはずなのに、不思議と声を張り上げていた。
「だが死んでる」
「さっきから分かってるって言ってんだろ! もう放っておいてくれよ!」
「いや、放っちゃおけねえな」
「なんで……! いちいち何なんだよ、あんたは!」
「なんでっつわれてもなぁ、こっちも分かんねーんだけどよ。お前みたいなガキ見てると、ついちょっかいかけたくなっちまうんだよ。俺ってのは」
相手の考えがまったく分からず、黙り込む植木。
どう返すか迷っているうちに、男は武器を仕舞って歩み寄ってくる。
まるで子どもに言い聞かせるかのように、耳元で口を開いた。
どう返すか迷っているうちに、男は武器を仕舞って歩み寄ってくる。
まるで子どもに言い聞かせるかのように、耳元で口を開いた。
「お前が悪い奴じゃねえってのはよぅく分かったし、言ってることだって別に間違ってるってわけじゃない。けどな、やっぱ死体背負うなんざやめとけ」
「だから」
「いいから聞けよ。その爺さんだって、お前がそんだけ気にするってことは良い人だったんだろ。殺し合えって言われても、すんなり言うこと聞いたりしねえような」
「ナゾナゾ博士は、こっから皆で脱出する方法を探してた」
「やっぱな。話したことねえ俺でさえ想像ついたんだぜ。一緒にいたお前なら分かんだろ、そんな爺さんがお前に後悔して欲しいなんて思ってるわけねえって」
「……」
「皆で逃げる方法探してたんだろ? なのに、死んじまった自分をずっと引きずってる仲間なんて、見たいわけねえよ。出会ったのが俺たちだからよかったけど、人殺しだったら死んじまってたぜ? 両手塞がってちゃあよ」
「だけど、俺のせいで」
「お前の考えなしで死んだってのは否定しねえよ、当事者が言うんならそうなんだろうよ。だけど、悔やむばっかじゃダメだってんだよ。後悔してるからって隙だらけの状態で歩いてておっ死んじまったら、それこそ爺さんが無駄死にじゃねえか。そうじゃねえだろ」
植木は、はっと目を見開いた。
男は一度息を吐いてから、強い口調で言い切る。
男は一度息を吐いてから、強い口調で言い切る。
「爺さんのことを悔やむんなら、死体なんてひきずってんじゃねえ。そんな重てえもん背負ってふらふらしてる間に、人は殺されてくぜ。爺さんの目指してた皆で脱出から、どんどん離れてく。それくらい分かんだろ。体じゃねえ、持ってくべきなのは意思だ」
落ち着いてきていた植木の涙腺が、再び刺激された。
涙が溢れ出して、顔中を伝っていく。
ほのかに塩味を感じながら、植木は前に倒れ込んだ。
その体は地面に激突することなく、男の手に受け止められた。
ナゾナゾ博士と合わせて二人分の体重がかかっているというのに、男はびくともしない。
ようやく手で涙を拭って、植木は顔を上げた。
男の顔が、今になって初めて明らかになった。
短い茶髪を後ろに流した太眉の彼は、植木の顔を見てにやりと笑っていた。
涙が溢れ出して、顔中を伝っていく。
ほのかに塩味を感じながら、植木は前に倒れ込んだ。
その体は地面に激突することなく、男の手に受け止められた。
ナゾナゾ博士と合わせて二人分の体重がかかっているというのに、男はびくともしない。
ようやく手で涙を拭って、植木は顔を上げた。
男の顔が、今になって初めて明らかになった。
短い茶髪を後ろに流した太眉の彼は、植木の顔を見てにやりと笑っていた。
「納得したんなら、いろいろ聞かせてもらうぜ。まずは名前からだ。俺は秋葉流ってのよ。お前は?」
◇ ◆ ◇ ◆
「じゃあユーゴー、耕助を頼むぜ」
秋葉流は植木耕助を親指で差して、同行者のユーゴー・ギルバートに笑いかけた。
平静を取り戻した植木によれば、ナゾナゾ博士を殺した男がはたしてどうなったのかは確認していないという。
ぶっ飛ばしたとは聞いたし、それに使った神器という技の一つ『鉄』の威力を見せてもらったが、流は安心することはできなかった。
植木の口から告げられた言葉によれば、殺人者は人の悲鳴を好むという外道である。
そんなものがぶっ飛ばされた程度で、改心などするはずがない。生きていれば、また人を殺すだろう。
ゆえに、流は確認しに向かうことにした。
ことのついでに、どうやっても穴一つ開かなかったという結界についても調べてくるつもりである。
平静を取り戻した植木によれば、ナゾナゾ博士を殺した男がはたしてどうなったのかは確認していないという。
ぶっ飛ばしたとは聞いたし、それに使った神器という技の一つ『鉄』の威力を見せてもらったが、流は安心することはできなかった。
植木の口から告げられた言葉によれば、殺人者は人の悲鳴を好むという外道である。
そんなものがぶっ飛ばされた程度で、改心などするはずがない。生きていれば、また人を殺すだろう。
ゆえに、流は確認しに向かうことにした。
ことのついでに、どうやっても穴一つ開かなかったという結界についても調べてくるつもりである。
「でも流さん、一人で大丈夫ですか」
「日本番長の時と一緒で、危なくなったら逃げるさ」
微笑みながらの返答にも、ユーゴーは暗い表情のままだ。
これは、流のことが心配だからではない。
テレパシストであるユーゴーには、流の胸中に吹く風が見えてしまっている。
だからこそ彼を引き留めたいのだが、上手くいかなかった。
テレパシストであると明かしてしまえば止まってくれるだろうが、そんなことをすればもう終わりだ。
思考を読まれたと知れば、流は口封じを行うだろう。
そうなってしまえば、もはや流の考えを知るものが一人もいなくなってしまう。
それだけは、避けねばならない。
かといって、流に同行するわけにもいかないのだ。
これは、流のことが心配だからではない。
テレパシストであるユーゴーには、流の胸中に吹く風が見えてしまっている。
だからこそ彼を引き留めたいのだが、上手くいかなかった。
テレパシストであると明かしてしまえば止まってくれるだろうが、そんなことをすればもう終わりだ。
思考を読まれたと知れば、流は口封じを行うだろう。
そうなってしまえば、もはや流の考えを知るものが一人もいなくなってしまう。
それだけは、避けねばならない。
かといって、流に同行するわけにもいかないのだ。
「ま、心配しなさんな。逃げを選べる俺より、耕助の奴が一人で走り出さねえか見といてやってくれ」
流が視線を向けた植木耕助。
今は落ち着いており、民家から持ってきたスコップでナゾナゾ博士を埋葬する穴を掘っている。
しかし、放送の時刻は近い。
また、先ほどのように抱え込んでしまいかねない。
そうなったときにいち早く異変に勘付けるのは、テレパシストであるユーゴーだけなのだ。
今は落ち着いており、民家から持ってきたスコップでナゾナゾ博士を埋葬する穴を掘っている。
しかし、放送の時刻は近い。
また、先ほどのように抱え込んでしまいかねない。
そうなったときにいち早く異変に勘付けるのは、テレパシストであるユーゴーだけなのだ。
「……分かりました。任せてください」
こくりと頷く以外、ユーゴーに選択肢はなかった。
【A-5 東部/一日目 早朝】
【植木耕介】
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。ナゾナゾ博士を埋葬し、流を待つ。
[時間軸]:十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:協力者を探して首輪を外すというナゾナゾ博士の考えを無碍にしない。ナゾナゾ博士を埋葬し、流を待つ。
【ユーゴー・ギルバート】
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。うえきとともに、流を待つ。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません
[時間軸]:カリヨンタワーのキース・シルバー戦直後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:カマキリジョーの着ぐるみ@金色のガッシュ、ヒーローババーンの着ぐるみ@うしおととら、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。どうにかして秋葉流を説得する。うえきとともに、流を待つ。
※制限によりテレパシー能力は相手の所在が分かる場合のみにしか発動できません
【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか@現実
[道具]:ランダム支給品0~1、基本支給品一式
[基本方針]:本気を出せるような強者と戦う。そのための武器を探す。木蓮を確認しに向かう。
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか@現実
[道具]:ランダム支給品0~1、基本支給品一式
[基本方針]:本気を出せるような強者と戦う。そのための武器を探す。木蓮を確認しに向かう。
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037:ヘルダイバー | 秋葉流 | 074:鉄風鋭くなって |
ユーゴー・ギルバート | 079:不止 | |
065:最強候補の一角、植木耕介 | 植木耕助 |